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著者:古賀茂明(こが・しげあき)1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。...
古賀茂明「電通事件でわかる労基法のザルぶり 連合は“経団連労務部”」〈dot.〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170423-00000026-sasahi-soci
dot. 4/24(月) 7:00配信
4月20日、厚生労働省が電通の山本敏博社長から任意で事情聴取したというニュースが報じられた。
これだけ見ると、「ついに電通社長まで捜査の手が伸びた、当局は本気だな」と思ってしまった方も多いだろう。しかし、それは、まったくの間違いだ。2016年10月、電通の女性社員、高橋まつりさんの過労自殺が日本中の話題となった。文字通りの「殺人的」残業が原因で、才能のある一人の若者が犠牲になったのだ。
その後、電通本社やその支社などに、立て続けに厚労省が立ち入り調査を行ったが、驚いたことに、電通では、これまで何回も労働基準法違反が繰り返されており、当局もそれを再三問題としていたということが明るみに出た。実は、電通は法律違反の常習犯だったのだ。
こうした勤務実態を会社の上層部が知らなかったかというと、とてもそんなことはありえない。世の中の人々は、会社の社長以下幹部に責任があるのは当然だと受け止めた。その見方は決して間違ってはいない。
是正勧告を立て続けに受けたのだから、社長もこの問題を深刻に受け止めたはず。そうであれば、その後の社員の勤務実態について強い関心を持っていたに違いない。深夜まで働く社員がいたことに気づきませんでした、などという言い訳が通用するわけがない。
●労基法は天下のザル法
では、そんな悪質な会社の社長には、どんな罰が下されるのであろう。
まず労働基準法では、会社が労働組合との協定(三六協定と呼ばれる)に書いてある上限を超えてはたらかせることはできない。もし、これを超える労働をさせたら、労基法32条(労働時間)または、35条(休日)違反となって、使用者(上司)が罰せられることになる。ただし、その場合でも、1度目からいきなり刑事罰が科されることはほとんどないというのが、日本の労基法がザル法といわれる所以だ。まずは労働基準監督署から是正勧告が出され、それにしたがって改善措置を取ればよいという、ほとんど意味のない処分で終わる。
しかし、高橋まつりさんの場合は、過去に同様の案件で是正勧告を受けたばかりの事件、しかも尊い若者の命までが奪われている。社長が10年くらい牢屋に入るべきだとご遺族が思ったとしても、不思議ではない。
そう思って労基法を見ると、この違反に対しては、119条で「六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」と書いてある。つまり、一番重くても半年の牢屋入りで終わりだ。会社が黙認していたら罰金が会社に科されるが、それも30万円。残業時間を偽って報告するなどの罪が加わっても数十万円罰金が増えるだけ。電通にとっては、下っ端社員が一晩に使う接待費と変わらず、痛くもかゆくもない。
本件では、2017年1月に、高橋さんの当時の上司だった幹部社員が書類送検されたが、冒頭に紹介した4月20日の報道によれば、東京本社の幹部の追加の立件は捜査が難航しているという。
電通の社長を聴取したと言っても、それは、法人である電通に罰金を科すかどうかの判断のための確認に過ぎないようだ。つまり、当時の責任者である前社長を牢屋に入れることは難しそうだ。 当初は、派手に、「電通を告発」とメディアでも大きく報じられたが、結局はこの程度で幕引きである。
やはり、日本は変われないのか。
そんな気がしてならない。
●先進国になれない残念な自民党の成長戦略
「過労死させる企業、電通」の問題は、ひとり電通だけの問題とは言えない。実は、この原因は、元をたどれば、自民党の政策の誤りによる部分も大きい。
自民党は、ずっと昔から、常に「成長戦略」を掲げ、それを実現するために「改革」の必要性を強調してきた。
しかし、これまでどうしてもうまくいかなかった。原因はいくつかあるが、収入を増やすための主役となる企業が変わるための長期的な条件整備を自民党政権が怠ったからだ。労働条件もその重要な一部である。
どの国も、先進国になる過程で出生率が下がり、少子化が進む。少子化が進むと、当然、人手不足が生じる。欧州諸国では、「人が足りないのだから、人は貴重な存在。つまり、人件費は高くて当たり前だ」という考え方に基づき、労働条件の引き上げなどの変革を進めた。経済的に豊かになったことで、より個人の尊厳を重視しようと考えるゆとりが、社会に生まれたという面もある。
実は、この考え方こそ、「先進国」の証(あか)しだ。日本にも「先進国への転換」のチャンスはあったのではないかと思う。それは、日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた1980年代から90年代である。
●25年前に提出された「時短」報告書
実は25年前、私は旧・通商産業省(現在の経済産業省)で、労働時間短縮のための政策提言を行った。長時間労働は女性のキャリア形成や男性の家庭参画を阻み、仕事と子育ての両立を難しくし、少子化の一因となるので、「時短」は日本にとって喫緊の課題だと、強く指摘する報告書を出したのだ。
この政策提言は1992年2月4日の衆議院予算委員会総括質疑で、共産党の不破哲三委員長(当時)によって好意的に取り上げられた。不破氏は「通産省でさえ、労働時間の短縮を提言している。日本政府は長時間労働の是正に着手すべきだ」「通産省(の報告書)がいっているような恒常的残業を抜きにした生産システムを組むためには、残業の上限を法で決める」べきだと政府、特に労働相に迫った。
25年も前に、経団連を所管する通産省でさえ深刻な問題だと指摘していたのに、この問題は、その後25年間も放置されたのである。自民党の罪は非常に大きい。
単純比較は難しいが、統計では、ドイツの年間の労働時間が1370時間程度。日本の1730時間より350時間以上短い。1日8時間労働で計算すれば、年間で40日以上短いということになる。
日本は、途上国の追い上げから逃れるために、「人件費を下げる改革」を進めた。派遣や請負を使いやすくし、その結果、企業は何とか生き延びたが、非正規社員がどんどん増えた。それでも途上国の追い上げが続くと、万策尽きて、安倍政権は、円安政策(1ドル80円から120円へ)を発動した。世界で競争する時、賃金が3割以上下がった効果が生まれ、企業は一息ついた。
しかし、今も、120円が110円になっただけで「円高」だと大騒ぎするくらい、日本企業は昔と同じ、コスト競争の能力しかないという状況が続いている。
●経団連の御用聞きでしかない安倍総理
安倍政権の働き方改革案の柱は、「残業時間の上限を月平均60時間とする」、つまり、年間720時間残業。国際標準から見ると先進国とはとても言えないひどい水準だ。
しかも、繁忙期には、「月100時間未満」まで残業可。100時間といえば、過労死ライン。過労死ギリギリまでは認めましょうと国がお墨付きを与えるというのだ。欧州では当たり前になった、勤務間インターバル規制(前日の退社時間から翌日の出社時間までの間に一定の時間を空けることを義務付ける規制。過労死を防止するために最も重要なもののひとつ)に至っては、義務化は最初からあきらめて、罰則なしの努力義務にしかならない。
労働時間を短縮するためにも、賃金を上げるためにも、生産性向上が必要なのは確かだ。しかし、政府はそのために、もっぱら労働者に「ペイが欲しければ、もっと働け」と強要している。政府・経団連にとって、「改革」の真の狙いは、実は残業代ゼロ法案などの労働強化策の方にあり、政府はその実現を狙っている。
ここまで来ると、安倍内閣の働き方改革の焦点は、最初からずれていたということに気づく。労働者の働き方を変えれば問題が解決されるという発想の「方向」が逆なのだ。
労働時間の短縮や最低賃金の引き上げなどは正しい政策だが、上述した企業経営の変革、そして、その結果としての企業の淘汰こそが成長戦略のカギを握るという本質が、理解されていない。安倍総理は、経団連の御用聞きをやめるべきだ。
そして、「働き方改革」の本丸は、労働条件がよくても儲かるビジネスを築き上げる「経営者たちの自己変革」、そして、それができない「無能な経営者の淘汰」にあることを、しっかりと認識してもらいたい。
ところで、こんなにひどい労働条件が、先進国である日本で許され続けた理由については、連合という労働組合の存在抜きには語れない。
ここでは詳述しないが、連合が基本的に、大企業正社員の既得権保護団体であること、また、労働コストカットでしか生き残れないという経営者の言い訳をそのまま受け入れる御用組合であり続けたことなどが大きな影響を与え続けたことは明確にしておかなければならない。
連合の正式名称は、「日本労働組合総連合会」。しかし、もはや、「組合」ではなく、「経団連労務部」と改称した方がよいのではないだろうか。
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