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景気の予想屋は、どうやって景気を予想するのか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9391
2017年4月17日 塚崎公義 (久留米大学商学部教授) WEDGE Infinity
景気が良いか悪いかで、多くの人が影響を受けます。そこで、景気に関するニュースは溢れていますし、日常会話でも景気に言及することもあるでしょう。しかし、景気について真剣に考えた事のある人は意外と少ないようです。そこで今回は、景気というものが、どのように変動するのか、それをどうやって予想するのか、考えてみましょう。
■教科書には「キチンの波(キチン循環)」等々
経済学の教科書には、「キチンの波(キチン循環)」「ジュグラーの波(ジュグラー循環)」などが載っています。在庫循環、設備投資循環などで景気が変動する、循環する、というわけです。たとえば「在庫が増えすぎると企業は生産を減らし、次第に在庫が減ってくると企業は再び生産を増やし、再び在庫が過剰になるまで40ヶ月程度を要する場合が多い」「10年前に設備投資ブームがあったので、10年経過して設備機械が古くなり、一斉に新しい機械に取り替えられるので、設備投資が増加して景気が回復する」ということでしょうか。
そうしたことが絶対に起きないと言うつもりはありませんが、それが景気を動かす主な要因だとは決して思いません。在庫投資は最近のサービス化した先進国経済に於いて、ウエイトが低いですし、設備投資もコンピューター関連のものはサイクルが遥かに短いなど、業種等によりサイクルに差があるので、景気全体を動かすサイクルがはっきりしているか否かも疑問です。
まして、リーマン・ショックのような出来事があると、在庫循環も設備投資循環も過去と断絶しますので、過去のサイクルでそれ以降を説明する事は不可能でしょう。
■景気は自分では方向を変えない
景気変動の基本は、景気は自分では方向を変えない、ということです。景気が上を向いている時は、外から力が加わらない限り、そのまま回復・拡大を続けるのです。「売上が増えると企業は生産を増やすために雇用を増やす。すると給料をもらった元失業者が物を買うので、物が一層よく売れるようになる」、といった好循環が働くからです。企業は、物が売れるので、新工場を建設するかもしれません。銀行も、景気が良い時には借り手企業が黒字なので、喜んで融資するでしょう。もしかすると、不況期には貸し倒れが増えて自己資本が減っていた銀行が、景気回復で自己資本が増え、自己資本比率規制を気にせず融資が出来るようになるかもしれません。
地方公共団体も、景気回復で税収が増えると歳出を増やせるようになるかも知れません。サラリーマンも、景気が回復するとリストラされる心配が減るので財布の紐が緩んだり、住宅ローンを借りて家を建てようと思うかも知れません。
景気が悪化している時は、全く反対のことが起きるはずです。物が売れないから企業が物を作らない、従って人を雇わないから失業が増え、失業者は物を買わないから、一層物が売れなくなる、といった具合です。
そうした景気に対して、方向を変えるのは政府・日銀の財政金融政策と外的ショックです。バブルが関係する場合もあります。
■財政金融政策で不況からの回復を目指す
不況期には、政府が公共投資を増やすことで、失業者が雇われます。雇われた元失業者が受け取った給料でテレビを買うと、テレビメーカーの売上が増えるので、テレビを増産するために別の失業者を雇います。テレビメーカーに雇われた元失業者が……と続くことで、景気が回復していきます。
減税も、景気対策として採られる事があります。代表的なのは、サラリーマンへの所得税減税です。企業が支払う給料が同じでも、所得税が減税されればサラリーマンの手取りが増えるので、消費が増えて景気が回復するだろう、というわけです。
これについては、「サラリーマンが減税分を貯金してしまえば、景気対策の効果が薄れる」という問題がありますから、公共投資の方が景気を回復させる効果は大きいのですが、一方で、公共投資は無駄な道路が作られたりしかねないという問題があります。所得税減税であれば、減税されたサラリーマンが無駄な物を買うことは考えにくいので、その点では公共投資より優れているとも言えるでしょう。
景気対策と言えば、日銀の金融緩和も重要です。ただ、不況期に金融を緩和しても、効果がそれほど期待出来ないのが普通です。不況期には、工場の稼働率が下がっているので、「金利が下がったから、借金をして今ひとつ工場を建てよう」と考える企業は少ないからです。まして、ゼロ金利になってしまってから金融を更に緩和しても、効果はほとんど無いはずです。その意味では、今回の黒田緩和は、実に珍しいことが起きたわけです。筆者は、本来効くはずのない政策に効果があったという意味で、「偽薬効果」と呼んでいますが。
バブルが崩壊して以降、一度もありませんが、財政金融政策は景気が過熱してインフレが懸念される時に、景気をわざと悪化させる場合にも使います。この時は、金融政策の効果が抜群です。金利を上げれば、借金して工場を建てる企業が減るからです。一方で、財政の方は公共投資を減らすべきなのですが、景気拡大で税収が増えている時に計画済みの公共投資を中止するのは、政治的に難しい場合が多いでしょう。まして「インフレ対策で景気を悪化させるため、増税する」というのは、ほぼ不可能でしょう。
■海外の景気変動が国内景気に影響する
リーマン・ショックで国内景気が深刻な不況に陥った事は、記憶にあたらしいでしょう。反対に、外国の景気が拡大すれば、輸出が増えて日本の景気も回復する、という力も働きます。
特に重要なのは、米国の景気です。日本から中国等に輸出された部品が組み立てられて中国から米国に輸出されている、といった場合が多い、というのが一つですが、それ以上に重要なのは、米国が好況だとドル高円安になりやすく、日本の世界向け輸出が増えやすいからです。
■バブルが関係する場合もある
バブルになると、資産価格が上昇して利益を得る人が出ますので、彼等の消費が活発になります。加えて、バブルの時には「我が国の将来はバラ色だ」といった楽観ムードが広がりますから、人々のサイフの紐も緩みますし、企業の設備投資も活発化します。
バブルが崩壊すると、一転して景気が悪化します。人々は既に高級な自動車等を持っていますから、新しく自動車等を買う人はいません。悪くすると、銀行が不良債権を抱えて自己資本が減少し、自己資本比率規制によって「貸し渋り」をするかもしれません。
バブルが景気を動かす事は稀だと考えている人もいるでしょうが、過去30年の間に日本の平成バブル、米国のITバブル、米国の住宅バブル(リーマン・ショックの源)があり、それが崩壊していますから、決して例外的な事では無いのです。
■景気の予想は、今の方向を見て、財政金融政策と海外景気を予想する
以上の事から、景気の予想の基本は、今の景気の方向を正しく認識し、財政金融政策や海外景気がその方向を変える可能性があるか否かを考える、ということになります。
通常は、景気の方向を見定めるのは難しく有りませんが、アベノミクス以降は景気が横這いか少し上向き、といった所なので、景気の方向の見極めにも工夫が必要です。
財政金融政策については、当分は景気刺激策が採られるでしょうから、上を向いている景気の方向を下向かせる事は無いでしょう。もっとも、金融政策で景気回復を加速させることは難しいでしょうし、公共投資も建設労働者不足だと効果が出にくいので、過大な期待は禁物でしょう。
そうなると、海外経済を予測している人々に、聞いて回るのが景気の予想屋の重要な仕事だという事になります。特に重要なのは、上述のように、米国の景気です。
あとは、今回のように、トランプ氏が米国の大統領になったり、ルペン氏がフランスの大統領選挙で勝つ可能性が出てきたりした時に、国際政治が混乱して日本経済に影響が出ないか否かを考える、ということでしょう。
最も困難なのは、バブル時です。バブルであるか否かは、その時はわからないものです(拙稿「東京のマンション価格高騰はバブルなのか?」御参照)。しかも、仮にバブルだと思っても、それがいつ崩壊するのかを予想することは、不可能だからです。
景気の予想屋は、おのおの自分なりの手法で予想しますので、皆が上記の方法を採っているわけではありませんが、上記を基本として、各人が様々なバリエーションを試みている、と考えて良いでしょう。
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