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黒田総裁(第92回信託大会)(挨拶) 企業のインフレ予想形成に関する新事実:Part I ―粘着情報モデル再考
http://www.asyura2.com/17/hasan121/msg/188.html
投稿者 軽毛 日時 2017 年 4 月 17 日 23:20:28: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

黒田総裁(第92回信託大会)【挨拶】
第92回信託大会における挨拶

日本銀行総裁 黒田 東彦
2017年4月17日

全文 [PDF 221KB]
目次

はじめに
経済・物価情勢と金融政策運営
信託業界への期待
おわりに
はじめに

本日は、第92回信託大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。皆様におかれましては、常日頃より、信託の機能を活かした金融商品やサービスを提供されることで、日本経済の発展に貢献されています。こうしたご努力に対し、日本銀行を代表して改めて敬意を表したいと思います。また、皆様には、平素から、日本銀行の政策や業務運営に多大なご協力を頂いております。この場をお借りしてお礼申し上げます。

経済・物価情勢と金融政策運営

私からは、まず、経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてお話しします。

振り返りますと、わが国の経済は、昨年前半にかけて、新興国経済の減速や国際金融市場の不安定化といった海外の動向に大きく影響されました。もっとも、昨年後半以降、世界経済の潮目は変わりつつあります。すなわち、先進国・新興国双方において、製造業や貿易面の改善が明確になっており、グローバルに成長モメンタムの高まりがみられています。

そうしたもとで、わが国の経済は、緩やかな回復基調を続けています。企業部門では、IT関連需要の堅調さや新興国経済の回復を背景に、輸出・生産が持ち直しています。設備投資は、企業収益が高水準で推移するなかで、緩やかな増加基調にあります。また、家計部門でも、今春の賃金改定交渉において4年連続となるベースアップが多くの企業で実現する見通しにあるなど、雇用・所得環境が着実な改善を続けています。そうした動きに支えられ、ひと頃は一部に弱めの動きがみられていた個人消費も持ち直しています。

物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、このところ0%程度となっています。先行きについては、エネルギー価格の動きを反映して0%程度から小幅のプラスに転じたあと、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想物価上昇率も高まるにつれて、2%に向けて上昇率を高めていくとみています。2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていますが、なお力強さに欠けていますので、引き続き注意深く点検していく必要があると考えています。

金融政策運営面では、日本銀行は、昨年9月に、「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果について総括的な検証を行い、その結果を踏まえ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。この枠組みのもとで、日本銀行は、経済・物価・金融情勢を踏まえ、2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムを維持するために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促しています。新たな枠組みの導入後、7か月ほど経過しましたが、この間、わが国のイールドカーブは、日本銀行の「金融市場調節方針」と整合的な形で円滑に形成されています。

現在、世界経済が好転するもとで、わが国の景気回復の足取りもよりしっかりとしたものになってきています。しかしながら、2%の「物価安定の目標」までにはなお距離があり、これをできるだけ早期に実現するためには、現在の「金融市場調節方針」のもとで、強力な金融緩和を推進していくことが適切であると考えています。

信託業界への期待

次に、信託業界の皆様方に期待する役割について申し上げます。

信託業界では、これまで、専門機関による高度な資産管理機能やリスク遮断機能といった信託ならではの特長を活かし、幅広い商品やサービスを提供してこられました。特に、最近では、少子高齢化の進行を踏まえ、教育資金贈与信託や、結婚・子育て支援信託など、世代間の財産移転に資するサービスの普及を進めてきておられます。また、後見制度支援信託など、財産保全にサポートを必要とする方々向けのサービスにも積極的に取り組んでこられています。さらに、企業経営者に対する業績連動型株式報酬制度における信託スキームの活用など、コーポレート・ガバナンス強化の流れの中で、信託の機能が発揮される場面も増えてきています。今後も、変化する経済・社会のニーズを的確にとらえ、より良いサービス提供に向けた創意工夫を進めていただくことを期待しています。

わが国家計の金融資産は、引き続き預金が中心ですが、長い目で見れば、リスク性資産の比重が高まる傾向にあります。こうした家計による資産ポートフォリオの多様化は、企業に対するリスクマネーの供給を通じてわが国経済の成長力を高めていくうえでも極めて重要です。この点、2014年に導入された「日本版スチュワードシップ・コード」をきっかけに、企業価値の向上と顧客の投資リターン拡大を図る観点から、機関投資家と投資先企業との対話が深められてきたことを心強く感じております。また、最近では、各金融機関において、従来以上に顧客の利益を重視した業務運営が進められていると承知しています。こうした動きを通じて、信託が、家計による資産運用の多様化に向けても、一段と大きな役割を果たしていかれることを期待しています。

おわりに

最後に、皆様方のますますのご発展を祈念し、私のご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。

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4/17(月)
被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション等の実施結果 [PDF 43KB]
4/17(月)
【挨拶】黒田総裁(第92回信託大会)
4/14(金)
FSBが市中協議文書「G20金融規制改革の実施後の影響の評価のための枠組み案」を公表
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2017/ko170417a.htm/

 


 
企業のインフレ予想形成に関する新事実:Part I―粘着情報モデル再考―
2017年4月14日
宇野洋輔*1
永沼早央梨*2
原尚子*3
• 全文 [PDF 700KB]
要旨
本稿では、「短観」の個票データを用いて、企業のインフレ予想形成に関する分析を行う。企業のインフレ予想に関するデータは世界的にも限られるため、本稿は、現時点では、もっとも包括的な企業のインフレ予想に関する分析となる。事実整理の結果、次の四点を指摘できる。第一に、企業のインフレ予想には下方硬直性がある。第二に、企業のインフレ予想は業種間より企業規模間での差異が大きい。第三に、企業のインフレ予想の期間構造をみると、3年後以降はほぼ不変である。第四に、企業のインフレ予想は、年限が長いほど予想改定頻度が高い。そして、本データを用いた実証分析では、企業のインフレ予想形成にはMankiw and Reis(2002)のシンプルな粘着情報モデルと整合的な面があることを示す。特に、本稿が初めて報告する企業のインフレ予想の改定頻度は、先行研究が報告してきたエコノミストや家計の予想改定頻度に比べてずっと低く、Mankiw et al.(2004)が想定していた値にかなり近い。
JELコード:E31、E37、E52、E58
キーワード:インフレ予想、予想改定頻度、粘着情報モデル、金融政策
本稿の作成にあたっては、久野遼平氏(東京大学)、青木浩介氏(東京大学)、堀雅博氏(内閣府)、桑原茂裕氏(以下、日本銀行)、関根敏隆氏、中村康治氏、一上響氏、開発壮平氏、伊藤智氏、稲村晃希氏、武藤一郎氏、吉羽要直氏、黒住卓司氏、加藤涼氏から有益なコメントを頂いた。ここに記して感謝したい。ただし、ありうべき誤りはすべて筆者たちの責任である。また、本稿に示されている意見は、筆者たち個人に属し、日本銀行の公式見解を示すものではない。

1. *1日本銀行調査統計局 E-mail: yousuke.uno@boj.or.jp
2. *2日本銀行調査統計局 E-mail: saori.naganuma@boj.or.jp
3. *3日本銀行調査統計局 E-mail: naoko.hara@boj.or.jp
日本銀行から
日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局(post.prd8@boj.or.jp)までご相談下さい。転載・複製を行う場合は、出所を明記して下さい。

ニュース
• 4/14(金)(論文)企業のインフレ予想形成に関する新事実:Part I ―粘着情報モデル再考―
• 4/13(木)(論文)構造改革、イノベーションと経済成長
• 4/12(水)金融システムレポート別冊「地域金融機関における貸倒引当金算定方法の見直し状況」
関連リンク
FAQ
• 日本銀行ではどのような論文・レポート類を公表していますか?
• 統計の作成、調査・研究
その他
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/wp17j03.htm/

企業のインフレ予想形成に関する新事実 : Part I
—粘着情報モデル再考—∗
宇野洋輔 † ‡ 永沼早央梨 † 原尚子 †
平成 29 年 4 月 12 日

JEL コード : E31、E37、E52、E58
キーワード : インフレ予想、予想改定頻度、粘着情報モデル、金融政策
∗本稿の作成にあたっては、久野遼平氏 (東京大学)、青木浩介氏 (東京大学)、堀雅博氏 (内閣府)、桑原茂
裕氏 (以下、日本銀行)、関根敏隆氏、中村康治氏、一上響氏、開発壮平氏、伊藤智氏、稲村晃希氏、武藤一
郎氏、吉羽要直氏、黒住卓司氏、加藤涼氏から有益なコメントを頂いた。ここに記して感謝したい。ただし、
ありうべき誤りはすべて筆者たちの責任である。また、本稿に示されている意見は、筆者たち個人に属し、日
本銀行の公式見解を示すものではない。
†日本銀行調査統計局経済調査課経済分析グループ
‡連絡先 : yousuke.uno@boj.or.jp
1. はじめに 1
1 はじめに
将来のインフレ率に関する予想は、現在のインフレ率を決定する重要な要素のひとつ
であると考えられている。特に、価格を実際に設定する主体が企業であることを踏まえる
と、企業がどのような予想形成を行うかは、インフレ率のダイナミクスを理解するうえで
決定的に重要である。言うまでもなく、インフレ率の動向を制御する役割を担う中央銀行
にとっては、特に関心を払うべき事項のひとつである。もっとも、このように重要なテーマ
であるにもかかわらず、企業のインフレ予想の形成メカニズムに関する知見は、これまで
のところ必ずしも十分に蓄積されていない。これには、明らかにデータの制約が大きく影
響している。家計やエコノミストのインフレ予想については比較的多くのデータが入手可
能である一方、企業のインフレ予想に関するデータは、世界的にみても、いくつかのサー
ベイが存在するにとどまってきた1。
こうしたなか、近年、企業のインフレ予想に関する大規模なサーベイを研究者自らが関
与して行い、その個票データを詳細に分析した研究 (Coibion et al. [13]、Kumar et al. [18])
や、企業の名目 GDP 予想と実質 GDP 予想から逆算される GDP デフレータの予想を企業
のインフレ予想とみなした分析 (開発 · 白木 [1]) など、データの制約を克服しようとする
意欲的な研究がみられ始めている。本稿は、こうした状況をさらに一歩前へ進めることを
試みる。本稿では、企業のインフレ予想に関する大規模データ、具体的には、日本銀行調
査統計局が四半期ごとに作成 · 公表する「全国企業短期経済観測調査 (以下、短観)」の個
票データを扱う。短観は、1 万社を超える規模のわが国を代表するサーベイであり、企業
のインフレ予想について、「上がる」「下がる」といった質的な情報ではなく、「1%」「2%」
といった量的な情報を備えている。この規模の企業のインフレ予想に関する量的な情報を
備えたパネルデータは、世界的にも他に類をみない。本稿は、この有用なデータを用いて、
企業のインフレ予想の形成に関する包括的な事実整理を行う。そのうえで、Mankiw and
Reis [21] と Reis [25] が提示したシンプルな粘着情報 (sticky information) モデルの主たる
含意をテストする。
本稿の貢献は、次のふたつである。ひとつは、企業のインフレ予想に関するいくつか
の重要な事実を発見したこと、もうひとつは、企業のインフレ予想形成に、Mankiw and
Reis [21] と Reis [25] のシンプルな粘着情報モデルと整合的な面があるとの実証結果を得
たことである。ひとつめの貢献として、本稿は、企業のインフレ予想に関する重要な事実
を四点報告する。第一に、企業のインフレ予想には、下方硬直性がある。これは、鎌田 [3]
がわが国家計のインフレ予想について指摘した事実でもある。こうした下方硬直性は、こ
1片岡 · 白鳥 [2] を参照。
1. はじめに 2
こ数年のインフレ予想の低下局面において、インフレ予想の改定頻度を低下させる方向に
作用してきた。第二に、企業のインフレ予想は、業種間より企業規模間での差異が大きい
ことを指摘する。これは、価格設定に関しては、むしろ業種間で差異が大きいことと対照
的である。このことは、企業のインフレ予想の形成と価格設定の関係がシンプルなもので
はないことを示唆している。第三に、企業のインフレ予想の期間構造をみると、3 年後以
降はほぼ不変である。短観では、1 年後、3 年後、5 年後という三つの年限についてのイン
フレ予想を回答させているが、3 年後と 5 年後を同じ伸び率で回答する先は 70%を上回っ
ている。このことは、ほとんどの企業が、3 年後には消費者物価指数の伸び率が一定にな
り、その後しばらく安定すると予想していることを意味している。第四に、企業のインフ
レ予想は、企業規模や業種を問わず、年限が長いほど予想改定頻度が高い。この事実は、
Yellen [28] に代表されるような長期のインフレ予想がインフレ率のトレンドを決めるとの
見方と必ずしも整合的でなく、長期のインフレ予想についてどう考えるかという、とりわ
け中央銀行にとって重要な論点を提示している。
ふたつめの貢献として、本稿は、企業のインフレ予想形成が、Mankiw and Reis [21]
と Reis [25] のシンプルな粘着情報モデルと、以下の点において整合的であることを報告
する。第一に、予想を改定しない企業が相応に存在している。シンプルな粘着情報モデル
では、予想の改定にコストがかかると仮定するため、企業はしばしば予想を改定しない。
こうした理論的予測は、Sims [27] らのシンプルなノイズ情報 (noisy information) モデル
の含意と対照的である2。第二に、理論モデルと整合的に計測した予想改定頻度は、時間
を通じてほぼ一定である。これも、毎期一定割合の企業が予想を改定するとする、シンプ
ルな粘着情報モデルと整合的である。ただし、本稿のサンプルが時系列方向に十分長くな
いことには留意が必要である。第三に、本稿が報告する予想改定頻度は、これまでに先行
研究が報告してきた推定値よりずっと小さく (予想の改定頻度が低く)、当初、Mankiw et
al. [22] らがモデルのカリブレーションで想定していた値にかなり近い。こうした違いは、
多くの先行研究がエコノミストや家計のインフレ予想のデータを用いてきたことと対照的
に、本稿が初めて企業のインフレ予想のデータを用いたことにも起因すると考えられる。
本稿の構成は、以下のとおりである。2 節では、関連する先行研究を整理し、本稿の立
ち位置を確認する。3 節では、本稿で用いるデータの特徴を確認し、続く 4 節と 5 節で、
企業のインフレ予想形成にかかる基本的な事実整理を行う。6 節では、シンプルな粘着情
報モデルの主たる含意をテストしたうえで、得られた分析結果が有する金融政策に対する
含意について議論する。最後の 7 節は結論である。
2シンプルなノイズ情報モデルでは、企業は、予想を改定するか否かではなく、どの程度予想を改定するか
という問題に直面する。
2. 関連研究 3
2 関連研究
インフレ予想に関する研究には、大別して、ふたつの領域がある。ひとつは、インフ
レ率に限らず、広く何らかの事象に関する経済主体の予想形成メカニズムに焦点をあてる
研究、もうひとつは、企業の価格設定行動を説明する重要な要素として、インフレ予想そ
のものに焦点をあてる研究である3。いずれの領域においても、ベンチマークとなるのは、
予想が利用可能な情報をすべて使ってモデルと整合的に形成されるとの仮説 (「完全情報
下の合理的予想形成仮説」) であろう。この完全情報下の合理的予想形成仮説は、インフ
レ予想の予測誤差にバイアスや予測可能性があることなどから、ほぼ完全に否定されてい
る (たとえば、Coibion and Gorodnichenko [12])。後者の領域においては、こうした結果
を踏まえ、予測誤差のバイアスや予測可能性をうまく説明できるような予想形成および価
格設定のモデルが提案されてきた。
よく知られているように、そうしたこれまでの取り組みは、大きくふたつのモデルに
分類できる。ひとつは、Mankiw and Reis [21] と Reis [25] による粘着情報モデルである。
このモデルでは、情報の獲得にコストがかかると仮定するため、企業は、しばしば予想を
改定しないことが合理的になる4。ある時点で予想を改定していない企業は、過去の情報
にもとづいて予想を形成しているため、その時点の情報を反映していない。したがって、
同企業の予想から生じる予測誤差は、その時点の情報を用いると予測可能であると考えら
れる。このように、粘着情報モデルでは、予想改定をしない企業が存在することによって、
経済全体のインフレ予想の予測誤差に予測可能性が残ることを説明しようとする。もうひ
とつは、Sims [27] らによって提示されたノイズ情報モデルである。ノイズ情報モデルで
は、企業が情報を獲得 · 処理するキャパシティには限りがあると考える。このことは、企
業が利用可能なすべての情報を使って予想を形成することが不可能であるため、現時点の
情報にもとづくと、企業のインフレ予想が予測できることを示唆している。このように、
ノイズ情報モデルでは、各企業がすべての情報を使いきれないことによって、経済全体の
インフレ予想の予測誤差に予測可能性が残ることを説明しようとする。
これらふたつのモデルの重要な違いは、予想を改定しない企業が存在するか否かであ
る。この点は、集計データでは観察できないが、個票データを用いることで直接的に観察
することができる。個票データへのアクセスが比較的容易なエコノミストのインフレ予想
について、Andrade and Le Bihan [9] と Dovern et al. [14] は、予想を改定するエコノミス
トの割合 (予想改定頻度) を個票データから直接計測している。そこでは、予想を改定しな
3前者の分野は、Pesaran and Weale [23] が包括的に整理している。
4Zbaracki et al. [29] は、米国のある大企業を対象として、粘着情報モデルが想定するコストを実際に計
測するというケーススタディを行っている。
2. 関連研究 4
いエコノミストは確かに存在するものの、予想の改定が、Mankiw et al. [22] や Reis [25]
がモデルのカリブレーションで想定したよりはるかに頻繁であることが報告されている。
家計についても、Pfajfar and Santoro [24] と Hori and Kawagoe [20] が、個票データの
分析にもとづいて、エコノミスト予想と同様に頻繁な予想の改定がみられることを報告
している。このように、先行研究は、予想を改定しない企業が存在するという意味では、
Mankiw and Reis [21] と Reis [25] の粘着情報モデルを支持するものの、同モデルの定量
的な説明力にはかなり懐疑的である。同時に、予想改定とは別の角度から、大きなショッ
クに対してインフレ予想がより迅速に反応するなど、ノイズ情報モデルを支持する報告も
なされてきた (Coibion and Gorodnichenko [12])。
企業のインフレ予想については、1 節でも述べたように、世界的にもデータが限られて
おり、エコノミストや家計のインフレ予想に比べて研究の蓄積が少ない。具体的には、企
業については、インフレ予想の改定行動についての分析が存在していない。したがって、
エコノミストや家計のインフレ予想で計測されてきた予想改定頻度は、企業についてはな
お不明である。それでも、限られたデータのなかで、いくつかの研究は、企業のインフレ
予想の予測誤差の特徴や属性別の差異などを指摘してきた。Coibion et al. [13] と Kumar
et al. [18] は、2013 年から 15 年にかけてニュージーランド企業を対象とした大規模なサー
ベイを行い5、そこで得られた個票データを用いて、企業のインフレ予想の予測誤差に粘
着性が観察されることなどを報告している。Richards and Verstraete [26] は、横断面方向
のサンプルサイズは 100 社程度と小さいものの、2001 年以降と比較的長い期間のデータ
が四半期頻度で確保できるカナダ中央銀行によるサーベイの個票データを用いて、企業の
予想形成が合理的ではないが、単純に適合的でもないことを指摘している。開発 · 白木 [1]
は、内閣府「企業行動アンケート調査」の実質 GDP と名目 GDP の予想から逆算される
GDP デフレータの予想を企業のインフレ予想とみなして分析を行っている。彼らは、企
業の属性ごとにインフレ予想の分布形状やショックに対する反応が異なることを報告して
いる。また、Inamura et al. [17] は、本稿と同じく短観の個票データを用いて、企業のイ
ンフレ予想には企業規模間で差異があることなどを指摘している6。
本稿は、まず、企業のインフレ予想について、エコノミストや家計について行われてき
たような基本的な事実整理を包括的に行う。これには、これまでデータ制約によってアプ
ローチできなかった企業のインフレ予想の改定についての分析も含まれる。そのうえで、
Mankiw and Reis [21] と Reis [25] のシンプルな粘着情報モデルのいくつか含意をテスト
5サンプル数は、2013 年 9 月から 2014 年 1 月にかけて実施された第一回が 3,153 社、2014 年 2 月から 4
月の第二回が 714 社、2014 年 8 月から 9 月の第三回が 1,607 社、2014 年 12 月から 2015 年 1 月の第四回が
1,257 社、2015 年 8 月の第五回が 50 社。
6このほか、予想の形成メカニズムを直接の分析対象としたものではないが、Bryan et al. [10] と Cloyne
et al. [11] も企業のインフレ予想に関する個票データを用いた分析を行っている。
3. データ 5
する。これらの分析の結果は、粘着情報モデルの定量的な説明力に懐疑的だったこれまで
の議論に新たな材料を提供する。なお、本稿で用いるパネルデータは、企業のインフレ予
想について、「上がる」「下がる」といった質的な情報ではなく、「1%」「2%」といった量的
な情報を備えており、また、これまでに先行研究で用いられてきた、上記のいずれのデー
タより横断面方向のサンプルサイズが大きい。加えて、時系列方向にも、四半期の頻度で
11 四半期分のデータの蓄積がある。そうした点を踏まえると、本稿は、現時点では、企業
のインフレ予想に関するもっとも包括的な実証分析であるといえる。
3 データ
本稿で分析に用いるデータは、日本銀行調査統計局が四半期ごとに作成 · 公表する短観
の個票データである。本節では、短観におけるインフレ予想データの特徴について整理し
たあと、関連研究で用いられてきたインフレ予想データとの相違点についても確認する。
3.1 短観のインフレ予想データ
短観には、大きく分けて三種類の情報がある。第一は、業況や需給バランスなどの主
観的な判断を三つの選択肢から選んで回答させる質的データ、第二は、設備投資や売上な
どの事業計画を実数で回答させる量的データ、最後の第三は、1 年後、3 年後、5 年後の物
価見通しを複数の選択肢のなかから回答させる量的データである。最後の第三が、本稿が
分析対象とする企業のインフレ予想データである。
短観におけるインフレ予想には、「物価全般の見通し」と「自社の販売価格見通し」の
二種類がある。「物価全般の見通し」について、調査票には、「物価全般 (消費者物価指数を
イメージしてください) の前年比に関して、1 年後、3 年後、5 年後はそれぞれ何%になると
考えますか。貴社のイメージに最も近いものを、以下の選択肢 (1∼10) の中から選んで太
枠内にご記入下さい」とあり7、「物価全般」が消費者物価指数を指すことを明示している。
選択肢は、(1) 前年比+6%程度以上 (+5.5%以上)、(2) 前年比+5%程度 (+4.5%∼+5.4%)、
以下 1%刻みで、(10) 前年比-3%程度以下 (-2.6%以下) までの 10 個で8、記入要領および記
入例には、「参考:消費者物価指数とは?」として、消費者物価についての説明がある。な
7短 観 の 調 査 票 の 見 本 は 、以 下 の ウェブ サ イ ト か ら ダ ウ ン ロ ー ド す る こ と が で き る 。
http://www.boj.or.jp/statistics/outline/exp/tk/extk01.htm/
8物価全般について、イメージをもっていない場合には、(11) 先行きについては不確実性が大きいから、
(12) 変動したとしても経営にほとんど影響がないため意識していないから、(13) その他、三つの選択肢のい
ずれかを選択することが求められている。
3. データ 6
お、調査票や記入要領では、「消費税など制度の変更の影響を除いて」回答することを求
めている。
「自社の販売価格見通し」については、調査票には「貴社の主要製商品の国内向け販
売価格または主要サービスの国内向け提供価格に関して、現在の水準と比べた 1 年後、3
年後、5 年後の価格の見通しに最も近いものを、以下の選択肢 (1∼10) の中から選んで太枠
内にご記入ください」とあり、選択肢は、(1) 現在の水準と比べ+20%程度以上 (+17.5%以
上)、(2) 現在の水準と比べ+15%程度 (+12.5%∼+17.4%)、以下 5%刻みで、(9) 現在の水
準と比べ-20%程度以下 (-17.6%以下)、(10) 分からない、の 10 個である。3 年後と 5 年後
については、「物価全般」と異なり、現在の水準と比べた累積変化を聞いている点には、留
意が必要である。なお、記入要領および記入例には「貴社の実情に応じて、「客単価」、「坪
単価」、「受注単価」なども念頭にご回答ください。貴社の主要製商品または主要サービス
を 1 つに絞り込むことが難しい場合は、複数の主要製商品 · サービスの加重平均価格や貴
社全体の販売価格についてご回答ください。販売 · 提供価格を国内向けに限定することが
難しい場合は、為替レート等の影響をできる限り排除したうえで、海外向けを含む販売単
価についてご回答ください」との記述がある。
短観の調査対象は、資本金が 2,000 万円以上の企業で、一定精度の母集団推計値が得
られるように抽出された 11,126 社である (2015 年 3 月時点)。短観におけるインフレ予想
に関する調査は、2014 年 3 月調査から実施されているため、本稿のサンプルは、2014 年
3 月調査から 2016 年 9 月調査までの 11 四半期分である。
3.2 主要な関連研究のインフレ予想データとの相違点
Hori and Kawagoe [20] が家計のインフレ予想の分析に用いた、内閣府が月次で作成 ·
公表する「消費動向調査」は、短観と同じように、いくつかの選択肢から回答を求めてい
る。具体的には、「あなたの世帯で日ごろよく購入する品物の価格について、1 年後どの程
度になると思いますか」との質問に対して、(1)-10%以上、(2)-10%未満 ∼-5%以上、(3)-
5%未満 ∼-2%以上、(4)-2%未満、(5)0%程度、(6)2%未満、(7)2%以上 ∼5%未満、(8)5%以
上 ∼10%未満、(9)10%以上、(10) 分からない、という 10 個の選択肢が用意されている。
これと対照的に、Coibion et al. [13] と Kumar et al. [18] がニュージーランドで実施し
たサーベイは、「During the next twelve months, by how much do you think prices will
change overall in the economy?」との質問に対して自由に回答することを求めている。ま
た、Andrade and Le Bihan [9] が分析した、欧州中央銀行が約 90 社のエコノミストを対象
に実施しているサーベイ (Quarterly Survey of Professional Forecast) も、「Year-on-year
4. 事実 1: インフレ予想の水準 7
change in the HICP」と明示したうえで、ユーロ圏のインフレ率についての予想を自由に
回答させる。
Pfajfar and Santoro [24] が分析した、ミシガン大学が月次で作成 · 公表するサーベイ
(Survey of Consumers) は、選択式と自由に回答させる方式の両方の要素をもっている。
すなわち、「During the next 12 months, do you think that prices in general will go up,
or go down, or stay where they are now?」との質問に対して、(1)Go up、(2)Stay the
same、(3)Go down、(4)Don’t know、という四つの選択肢が用意され、(1) と (3) を選ん
だ場合に限り、何%という具体的な回答を記入することを求めている9。
こうした回答方式の違いは、予想の改定について議論する際には、特に気をつける必要
がある。すなわち、選択肢に示されている範囲のなかで予想が改定された場合、短観や消
費動向調査では、回答が変更されない。このため、こうした選択式のサーベイは、自由に
回答させる形式のサーベイに比べて予想改定の有無を過小に評価してしまうことになる10。
4 事実 1: インフレ予想の水準
本節と次節では、企業のインフレ予想についての事実整理を行う。本節では、まず、イ
ンフレ予想の水準についての事実を確認する。
4.1 基本統計量
表 1 は、本稿のデータのサンプル数と基本統計量の時系列推移である。まず、「物価全
般」予想について、基本統計量の特徴点を確認する。平均と標準偏差は、いずれの年限で
みても、サンプル期間中、ほぼ一貫して低下してきた。予測誤差は、2015 年 3 月以降し
か計算できないが、明らかにバイアスがある。また、歪度は、いずれの年限でみてもプラ
スで、度数分布を描くと、分布のピークはすべての期間で左側に寄っている (分布の裾野
は右側に長くなっている)。この間、1 年後予想では、歪度が大幅に上昇している様子が見
てとれる。こうした歪度の上昇は、調査回ごとの分布を描くと、より明確になる。図 1 か
ら明らかなように、回を追うごとにプラス領域の回答が減少している一方で、マイナス領
域の回答はさほど増加しておらず、ゼロと回答する企業の割合が増加している。これは、
下限をゼロとする下方硬直性の存在を示唆している。残念ながら、短観のインフレ予想は
2014 年以降しかデータが存在しないため、この下方硬直性が 2014 年以降に生じたものな
9同サーベイには、5 年から 10 年先の物価についての質問もあるが、回答の求め方は同じである。
10この点について、日本銀行調査統計局 [7] は、より細かな刻み幅で調査を行うと、調査対象企業の「回答
負担が増すことになり、結果として回答率低下などの問題が生じることが予想されます」としている。
4. 事実 1: インフレ予想の水準 8
のか、あるいはそれ以前から備わっている特徴なのかを判別することはできない。それで
も、鎌田 [3] が指摘するように、わが国では、家計のインフレ予想にも下方硬直性がある
ことが知られているため、もし、企業と家計の予想形成に共通する特徴があるのであれば、
企業の予想の下方硬直性についても、家計と同様に、2014 年以前から備わっている特徴で
あると考えられるかもしれない。
「自社の販売価格」予想についても、平均と標準偏差は、サンプル期間中、ほぼ一貫
して低下してきた。また、「物価全般」と異なり、「自社の販売価格」については、予測誤
差を計測することができない。ここでは、ひとつの試みとして、消費者物価指数の対象業
種である、小売業、個人向けサービス業、宿泊飲食サービス業に属する企業の「自社の販
売価格」1 年後予想の平均を計算し、それを消費者物価指数の実績と比較することで、「自
社の販売価格」の予測誤差を評価してみたい。図 2 は、小売業、個人向けサービス業、宿
泊飲食サービス業に属する企業の「自社の販売価格」予想から作成した「物価全般」予想
を、本来の「物価全般」予想と比較している。2014 年から 2015 年前半にかけて「自社の
販売価格」予想が「物価全般」予想を下回っているのは、個人向けサービス業の「自社の
販売価格」予想が低いためである。表 2 は、「自社の販売価格」予想から作成した「物価
全般」予想の予測誤差である。これをみると、「自社の販売価格」の予測誤差も、「物価全
般」と同様に、明らかにバイアスがある。また、一部の期間では、「自社の販売価格」か
ら作成した「物価全般」は、予測誤差が相対的に小さくなっているところもみられる。歪
度に着目すると、3 年後予想と 5 年後予想でマイナスとなっており、分布のピークが右側
に寄っている点が特徴的である。これは、「自社の販売価格」が長期的に大きく伸びると
予想している先が相対的に少ないことを意味している。
4.2 属性別の特徴 : 企業規模と業種
企業規模別の特徴 Inamura et al. [17] でも指摘されているとおり、インフレ予想には、
企業規模による差異がみられる11。すなわち、大企業のインフレ予想は、「物価全般」「自
社の販売価格」のいずれでみても、中堅 · 中小企業に比べて平均が低く、また、標準偏差
も小さい (表 3)。消費者物価指数 (総合) の実績がゼロ近傍にあったことを踏まえると、大
企業の「物価全般」予想の平均が相対的に低いという事実は、大企業の予測誤差が相対的
に小さいことを意味している。この点、Coibion et al. [13] は、ここでの結果と逆に、大
企業の予測誤差が中小企業より大きいことを報告している。もっとも、彼ら自身も指摘し
ているように、彼らのニュージーランド企業を対象としたサンプルでは、最大規模の企業
11短観では、資本金を基準に、大企業 (資本金 10 億円以上)、中堅企業 (同 1 億円以上 10 億円未満)、中小
企業 (同 2 千万円以上 1 億円未満) に区分している。
5. 事実 2: インフレ予想の改定 9
でさえ従業者数が 698 人であり、本稿のサンプルにおける大企業とは質が大きく異なって
いる可能性が高い。
歪度に着目すると、「物価全般」予想では、大企業と中堅 · 中小企業の間で差異はない
ものの、「自社の販売価格」予想では、中堅 · 中小がプラスとなっている一方、大企業はほ
ぼゼロ近傍にある。これは、一部の中堅 · 中小企業が、「自社の販売価格」の大幅な伸びを
予想していることを意味している。
業種別の特徴 業種別にみると、「物価全般」予想には、企業規模間で観察されるような
明確な差異は認められない (表 3)。他方、「自社の販売価格」予想では、製造業うち素材業
種と非製造業の間では大きな違いはないものの、製造業うち加工業種において、平均が相
対的に低く、歪度もゼロ近傍となっている。
4.3 期間構造
表 4 は、企業のインフレ予想について、1 年後、3 年後、5 年後の大小関係を比べてい
る。これは、企業のインフレ予想の期間構造を端的に捉えたものと考えることができる。
これをみると、短観におけるインフレ予想は、1 年後、3 年後、5 年後とも同一の伸び率で
回答する企業がもっとも多い。この傾向は、大企業においていっそう顕著で、「物価全般」
で 37.8%、「自社の販売価格」で 45.1%の大企業が 1 年後、3 年後、5 年後を同一の伸び率
で予想している。さらに、3 年後と 5 年後に絞ってみると、「物価全般」を同じ伸び率で回
答する先は、中小企業まで含めて 70.6%ときわめて多い。このことは、中小企業まで含め
てほとんどの企業が、3 年後には消費者物価指数の伸び率が一定になり、その後しばらく
安定すると予想していることを意味している。
5 事実 2: インフレ予想の改定
本節では、インフレ予想の改定についての事実整理を行う。
5.1 ふたつの予想改定の定義
理論モデルにおける予想の改定とは、一般に、t + s 期の事象に関する t − 1 期から t 期
にかけての予想の変化を指す (図 3)。すなわち、予想するターゲットの時期は固定されて
いなければならない。短観は、3.1 節で確認したとおり、四半期ごとに 1 年後、3 年後、5
5. 事実 2: インフレ予想の改定 10
年後の物価見通しを回答させる「ローリング · ホライゾン」方式であるため、予想の改定
は、本来であれば、たとえば、現在の 1 年後予想と 2 年前の 3 年後予想を比較することに
よって定義される。短観では、2014 年 3 月調査からインフレ予想の調査を開始しているた
め、2014 年 3 月調査における 3 年後ないし 5 年後予想 (予想のターゲットは 2017 年 3 月
ないし 2019 年 3 月) と、2 年後の 2016 年 3 月調査における 1 年後ないし 3 年後予想 (予想
のターゲットは同様に 2017 年 3 月ないし 2019 年 3 月) との間の変化が初めて計測される
理論モデルと整合的な予想改定となる。時間の単位 t を四半期とすると、以下のとおりで
ある。
rt,T = Et
[πT ] − Et−8[πT ]
rt,T は、予想のターゲットを T 時点 (2017 年 3 月、6 月、9 月、2019 年 3 月、6 月、9
月) とした場合の t − 8 時点 (2014 年 3 月、6 月、9 月) から t 時点 (2016 年 3 月、6 月、9
月) にかけての予想の改定、Et
[·] は t 時点の期待値で、πT は T 時点のインフレ率である。
本稿のサンプル終期は、2016 年 9 月調査であるため、rt,T は、1 年後予想と 3 年後予想の
間で 3 回、3 年後予想と 5 年後予想の間で 3 回、合計 6 回計測することができる。なお、
この理論モデルと整合的な予想改定は、8 四半期の間に予想を何度改定しても一度の改定
とみなすことから12、予想の改定回数を過小に評価するバイアスがある。
3.1 節で確認したように、「自社の販売価格」の 3 年後予想と 5 年後予想は、累積の伸び
率を回答させているため、rt,T を計測することができない。たとえば、2014 年 3 月時点で、
先行き 3 年間の「自社の販売価格」について、毎年+3.5%ずつ一定の伸び率で上昇すると
予想している企業があるとする。この企業は、2014 年 3 月調査で「自社の販売価格」3 年
後予想を+10%程度と回答する。仮に、2014 年 3 月以降の 2 年間の販売価格がこの企業の
予想どおりに上昇した場合、2016 年 3 月調査で 1 年後予想を+5%程度 (+2.5%∼+7.4%)
と回答すれば、この企業は予想を改定していないとみなすことができる。もっとも、当初
の予想に反して、2014 年 3 月以降の 2 年間で販売価格が上昇しなかった場合には、2016
年 3 月調査での 1 年後予想+5%程度という回答は、2014 年 3 月調査の 3 年後予想を下方
改定したとみなすべきである。この例からわかるように、「自社の販売価格」予想の改定
は、当初の 3 年後ないし 5 年後予想がどのような経路を想定していたのか、そして、それ
が実際に実現したか否かに依存している。これらが明らかでないため、「自社の販売価格」
について、rt,T を計測することはできない。よって、「物価全般」についてのみ、rt,T を計
測する。
予想の改定に関して、もうひとつの代替的な定義は、以下のように、1 四半期前の前回
12正確には、たとえば 8 四半期の間に複数回予想を改定し、インフレ予想の水準が元に戻ってしまうと、予
想を複数回改定したにもかかわらず、改定していないとみなしてしまうこともあり得る。
5. 事実 2: インフレ予想の改定 11
調査時点からのインフレ予想の変化を予想改定とするものである。
rˆt = Et
[πt+s] − Et−1[πt+s−1]
s は 4、12、20 をとるとする。このため、t + s 時点は、各調査時点からの 1 年後、3 年
後、5 年後を意味する。この代替的な定義 rˆt には、rt,T に比べてより多くの時点で予想改
定を計測することができること、「自社の販売価格」についても予想改定を計測できるこ
と、三つの年限ごとにそれぞれ予想改定を計測できること、などの利点がある。ただし、
予想のターゲットが 1 四半期ずれるため、理論モデルと整合的でないという欠点も同時に
ある。
これらふたつは、どの程度同じ企業を捕捉できているだろうか。2016 年 3 月、6 月、9
月の三時点の累計でみると、rt,T ̸= 0 なる企業は、1 年後予想で 10,178 社、3 年後予想で
9,640 社、rˆt ̸= 0 なる企業は、1 年後予想で 5,935 社、3 年後予想で 6,662 社、rt,T ̸= 0 か
つ rˆt ̸= 0 なる企業は、1 年後予想で 3,475 社、3 年後予想で 3,747 社となっている。この
ことは、代替的な定義を用いた予想改定の 60%弱は、理論モデルと整合的な予想改定とみ
なせることを示唆している。
5.2 予想改定頻度 1: 全体観
予想改定頻度は、Andrade and Le Bihan [9] らと同様に、予想を改定した企業数を全
体の企業数で除したものとして定義する。表 5 は、5.1 節で議論したふたつの予想改定頻
度の計測結果である。これらを比較する際には、理論モデルと整合的な予想改定頻度が 8
四半期の間での予想の改定であることを踏まえて、これを四半期あたり平均に変換する必
要がある。ここでは、8 四半期の間の予想改定頻度が一定であると仮定して四半期あたり
平均に変換した13。
表 5 の結果から、いくつかの重要な事実を指摘できる。第一に、理論モデルと整合的な
予想改定頻度は、1 年後予想と 3 年後予想の間の改定では四半期あたり 14%程度、3 年後予
想と 5 年後予想の間の改定では 13%程度、同じ時点の代替的な予想改定頻度は、34.8%か
ら 26.1%となっている。第二に、理論モデルと整合的な予想改定頻度は、代替的な予想改
定頻度に比べて水準が低い。これには、上述のとおり、理論モデルと整合的な予想改定頻
度が 8 四半期前との 2 時点間でしか計測できないため、真の予想改定を過小に評価してい
ることも影響している。同時に、代替的な予想改定頻度が理論モデルと整合的な予想改定
138 四半期の間で計測された予想改定頻度を g、四半期あたり平均を f として、8 四半期の間の予想改定頻
度が一定であると仮定すれば、f = 1 − (1 − g)
1
8 である。
5. 事実 2: インフレ予想の改定 12
頻度と比べて高めに計測されやすいことも影響しているとみられる。第三に、計測結果が
3 四半期分しかないことから確定的なことはいえないが、理論モデルと整合的な予想改定
頻度は、時間を通じてほぼ一定である。他方、代替的な予想改定頻度は、通時的な変動が
相対的に大きい。第四に、理論モデルと整合的な予想改定頻度は、3 年後予想と 1 年後予
想の間では、5 年後予想と 3 年後予想の間に比べて予想改定頻度が高い。ただし、予想の
ターゲットが前者で 2017 年、後者で 2019 年と大きく異なっていることには留意が必要で
ある。年限別の予想改定頻度については 5.4 節で改めて議論する。
図 4 は、代替的な予想改定頻度の時系列推移を示している。図 4 から、次の三点を指摘
できる。第一に、予想改定頻度は、2014 年 3 月調査から 2016 年 9 月調査までの期間の平
均で、「物価全般」1 年後予想で四半期あたり 36.3%、「自社の販売価格」1 年後予想で四
半期あたり 20.4%である。第二に、この期間のインフレ予想の低下傾向を反映して、下方
改定頻度は、上方改定頻度を常に上回っている。第三に、予想改定頻度は、低下傾向にあ
る。この点、下方改定頻度の低下には、4.1 節で議論したように、インフレ予想における
下方硬直性が影響していると考えられる。すなわち、インフレ予想をゼロと回答した企業
が何らかの理由で下方改定しにくくなるのであれば、インフレ予想が低下する局面では、
そうした下方硬直性は、下方改定頻度を低下させるように作用する。
次に、各企業がどの程度の頻度で予想を改定しているかを確認する。ここでは、2014
年 3 月調査から 2016 年 9 月調査まで継続して回答している企業を抽出し、それらの企業
が同期間中に何回予想を改定したかを計測する14。図 5 は、その予想改定回数ごとの企業
数分布をみたものである。この分布からは、次の二点を指摘できる。第一に、予想を一度
も改定していない企業が相応に存在する。「物価全般」1 年後予想で 14.0%、「自社の販売
価格」1 年後予想で 40.3%の企業がこの二年半の間、一度も予想を改定していない。第二
に、予想改定頻度には、企業間でかなりのばらつきがある。一度も予想を改定しない企業
が存在する一方、頻繁に予想を改定する企業もみられている。
5.3 予想改定頻度 2: 属性別
次に、属性別に予想改定頻度を確認する。表 6 は、ふたつの定義にもとづいて計測し
た属性別の予想改定頻度である。
企業規模別の特徴 企業規模別にみると、いずれの定義を用いても、また、「物価全般」
「自社の販売価格」それぞれの予想でみても、大企業の予想改定頻度は、中堅 · 中小企業に
14ここでの予想の改定は、代替的な定義によるものである。
5. 事実 2: インフレ予想の改定 13
比べて明確に低い。理論モデルにもとづく解釈は 6 節で議論するが、大企業の予想改定頻
度が相対的に低いという事実は、シンプルな粘着情報モデルにもとづけば、大企業が直面
したショックが相対的に小さかったか、大企業の方が予想改定の際の意思決定などにかか
るコストが大きかったことを示唆している。後者のコストについて、Zbaracki et al. [29]
は、売上高 10 億ドル規模のある大企業 (米国所在) のケース · スタディとして、粘着情報モ
デルが想定している情報の獲得や予想の改定にかかるコスト (情報収集、意思決定、内部コ
ミュニケーションにかかるコストの合計) を実際に計測し、純利益 (net margin) の 4.6%と
の計測結果を報告している。こうしたコストは、中堅 · 中小企業において相対的に小さい
かもしれない。ただし、大企業は、相対的に大きなコストをかけて予想を形成する結果、
4.2 節で議論したように、事後的にみた予測誤差が中堅 · 中小企業より小さくなっている
面もあると考えられる。
業種別の特徴 業種別にみると、「物価全般」の予想改定頻度については、いずれの定義
を用いてみても、製造業と非製造業の間で明確な差異はみられない。4.2 節での議論とあ
わせて考えると、企業のインフレ予想は、予想の水準でみても予想改定頻度でみても、業
種間ではなく企業規模間に差異が存在するといえる。これと対照的に、価格改定頻度には
財の種類や業種の間で大きな差異が存在する。たとえば、才田 · 肥後 [6] や倉知 · 平木 · 西
岡 [5] が指摘するように、サービスの価格改定頻度は、財に比べてずっと低い。このこと
は、予想改定頻度と価格改定頻度の関係が必ずしもシンプルなものではないことを示唆し
ている。この点は、今後の研究課題である。
5.4 予想改定頻度 3: 年限別
年限別のインフレ予想に対する見方 年限別のインフレ予想は、「短期」と「長期」という
区分で議論されることが多い15。価格設定における短期と長期それぞれのインフレ予想の
役割は、先験的には明らかでないが、実証的には、ふたつの異なる見方が存在している。
ひとつは、Yellen [28] に代表されるような、長期のインフレ予想こそがインフレ率のトレ
ンドを決めるとする見方である。Yellen [28] は、家計やエコノミストによる長期のインフ
レ予想とインフレ率の長期的なトレンドを比較したうえで、長期のインフレ予想がインフ
レ率のトレンドを決める重要な要素であると主張している。もうひとつは、Fuhrer [15] が
示したように、長期のインフレ予想は実際のインフレ率に影響を与えないとする見方であ
15こうした議論における「長期」がどの程度の期間を指すのかについては、必ずしも広く合意があるわけで
はない。Fuhrer [15] のように、10 年後を長期と呼ぶ場合もあるし、開発 · 白木 [1] や鎌田 · 中島 · 西口 [4] の
ように、5 年後を中長期ないし長期と呼ぶ場合もある。
6. シンプルな粘着情報モデルにもとづく議論 14
る。Fuhrer [15] は、実際のインフレ率に影響を与えるのは、短期のインフレ予想であり、
長期のインフレ予想は、短期のインフレ予想を経由して間接的に実際のインフレ率に影響
を与えていると主張している。
年限別の予想改定頻度 表 7 は、代替的な定義にもとづいて計測した年限別の予想改定頻
度である。これをみると、企業のインフレ予想は、「物価全般」「自社の販売価格」のいず
れについても、企業規模や業種を問わず、年限が長いほど予想改定頻度が高い。この結果
は、上述の Yellen [28] の見方と整合的でなく、Fuhrer [15] の見方と整合的であると考え
られる。すなわち、長期のインフレ予想は、短期のインフレ予想より頻繁に改定されるこ
とから、インフレ率の長期的なトレンドを捕捉できるとは考えにくい。ただし、この結果
が本稿のサンプル固有の結果である可能性も否定できない。すなわち、本稿のサンプル期
間中 (2014 年 3 月 ∼2016 年 9 月)、わが国では、長期のインフレ率により多くの関心が向
けられた可能性がある。この間の金融政策に対する注目度などを踏まえると、こうした主
張は、少なくとも定性的には受け入れやすい。やや一般化していえば、長期のインフレ予
想が「リアンカー」されていく過程では、こうした現象が生じるということなのかもしれ
ない16。
5.2 節で議論したように、理論モデルと整合的な予想改定頻度でみると、5 年後予想と
3 年後予想の間では、3 年後予想と 1 年後予想の間に比べて予想改定頻度が低い (表 5、表
6)。これは、表 7 の結果と対照的である。もっとも、これらは、予想のターゲットが 2019
年と 2017 年と大きく異なっている。また、5 年後予想と 3 年後予想の間の改定を長期のイ
ンフレ予想の改定とみなすには、ホライゾンが短すぎるため、表 5 と表 6 の結果は、ここ
での長期と短期のインフレ予想の議論にはなじまないと考えられる。2018 年 3 月調査まで
待てば、2019 年 3 月をターゲットとした 5 年後予想と 3 年後予想と 1 年後予想が出そろう
ため、今よりは踏み込んだ議論をすることが可能になる。いずれにしても、長期と短期の
インフレ予想の関係については、今後も、様々な角度から分析を深めていくことが求めら
れる17。
6 シンプルな粘着情報モデルにもとづく議論
5 節の事実整理を踏まえると、短観のデータに予想改定頻度を過小評価するバイアスが
あるとはいえ、一定程度の企業は、しばしば予想を改定していない可能性が高い。また、
16この点についての詳細な議論は、補論 A 節を参照。
17この点、日本銀行調査統計局経済分析グループ [8] は、機械学習の手法を用いて、長期のインフレ予想の
特徴点を探ろうとしている。
6. シンプルな粘着情報モデルにもとづく議論 15
サンプル数が時系列方向に少ないために確定的なことはいえないが、理論モデルと整合的
な予想改定頻度は、時間を通じてほぼ一定である。こうした予想の改定行動は、Mankiw
and Reis [21] と Reis [25] のシンプルな粘着情報モデルで説明できる可能性がある。本節
では、シンプルな粘着情報モデルが満たすべきいくつかの条件について実証的なテストを
行ったあと、同モデルの推定結果が有する金融政策に対する含意について議論する。なお、
Mankiw and Reis [21] と Reis [25] の粘着情報モデルは、「価格の」粘着性を説明するため
のモデルであるが、本稿の関心は、「価格の」粘着性ではなく、同モデルが仮定ないし導
出する「予想の」粘着性そのものにある。
6.1 シンプルな粘着情報モデル
モデルの構造 Reis [25] のシンプルな粘着情報モデルでは、価格の改定にはコストがかか
らない一方、予想の改定にはコストがかかると仮定する。また、そのコストを支払いさえ
すれば、各企業は、利用可能なすべての情報にもとづいてモデルと整合的に予想を形成す
るものと仮定されている。各企業は、予想の改定にかかるコストを所与として、期待収益
を最大化するために、価格ではなく予想をどの程度の期間据え置くのかを選択する。この
シンプルな粘着情報モデルでは、各企業は独自の情報を持っておらず、すべての企業が同
じ情報を有しているというシンプルな仮定を置く。各企業が一定の確率で独立に予想を改
定する結果、経済全体では、以下のとおり、毎期一定割合の企業の予想が改定されていく。
Ft = λE [πt
|Ωt
] + (1 − λ)Ft−1
ここで、Ft は t 時点における経済全体のインフレ予想、λ は予想を改定する企業の割
合、πt は t 時点のインフレ率の実績、Ωt は t 時点において利用可能なすべての情報の集
合、E[·|·] は条件付期待値を意味する。
実証的に確認すべき含意 5.2 節では、予想を改定しない企業が相応に存在すること、ま
た、各企業の予想改定の回数にばらつきがあることを確認した (図 5)。これらは、各時点で
観察される予想改定が特定の企業に偏っているわけではないことを示唆している。ここで
は、さらに一歩進んで、シンプルな粘着情報モデルが示唆するように、各企業の予想改定
がランダムに生じているかどうかを確認する。各企業がランダムかつ独立に予想を改定す
るのであれば、Reis [25] が主張するように、経済全体の予想据置期間はパラメータ λ の指
数分布に従う。これは、短観の個票データによって検証可能である。ただし、短観のデー
タでは、理論モデルと整合的な予想据置期間を計測することができないため、5.1 節で議
論した rˆt を用いて、予想据置期間を定義する。
6. シンプルな粘着情報モデルにもとづく議論 16
テストされる含意 1: シンプルな粘着情報モデルが適切であれば、予想据置期間は指数分
布に従う。
実証的に確認すべきもうひとつの重要な点は、予想の改定が合理的かどうかである。シ
ンプルな粘着情報モデルが示唆するように、ひとたび予想を改定すると決めた企業が合理
的に予想を形成するのであれば、次のふたつが成り立つはずである。第一に、利用可能な
すべての情報を用いるとすれば、予想の改定は幅広い変数で同時に生じる可能性が高い。
予想する変数ごとにコストが異なる可能性などを踏まえると、確定的なことはいえない
が、複数の変数の予想が同時に改定されやすくなる可能性は高い。このことは、「物価全
般」1 年後予想を改定することを所与とした場合、3 年後予想や 5 年後予想を改定する確
率が高まることを意味している。第二に、すべての企業が同じ情報にもとづいて合理的に
予想を改定するならば、予想を改定する企業の間では予想不一致 (disagreement) は生じな
い。たとえば、「物価全般」の 1 年後予想について、ある企業は 2%、別の企業は 3%といっ
た予想の改定は、シンプルな粘着情報モデルでは生じない。これらは、Andrade and Le
Bihan [9] がエコノミスト予想のデータによって検証したシンプルな粘着情報モデルの含
意でもあり、短観の個票データでも直接的に検証可能である。これらについては、5.1 節
で議論した rt,T と rˆt の両方を用いて検証することができる。
テストされる含意 2: シンプルな粘着情報モデルが適切であれば、条件付の予想改定確率
は無条件の予想改定確率を上回る。
テストされる含意 3: シンプルな粘着情報モデルが適切であれば、予想を改定した企業間
では予想不一致 (disagreement) は生じない。
6.2 シンプルな粘着情報モデルのテスト結果
含意 1 含意 1 のテスト結果は、図 6 にまとめられている。ここでは、各企業の予想据置
期間を適切に計測するために、サンプルの始期と終期の両端で計測される予想据置期間を
除外している18。この結果、サンプル 11 四半期の間に一度だけ予想を改定した企業が予
想据置期間の計測サンプルから抜け落ちる。当然ながら、予想を一度も改定していない企
業についても予想据置期間が計測できないため、結果として、本稿のサンプル期間中の予
18サバイバル分析では、この除外される部分を「左右の切断スペル」と呼んでいる。「スペル」とは、何ら
かの事象が持続する時間を総称する単語で、サバイバル分析の分野で広く使われている。「左側の切断スペル」
とは、サンプルの始期から最初の事象が発生するまでの持続時間で、サンプルの始期が存在することによって
前回の事象発生時間が不明となることから、「真のスペル」ではないという意味で「左側の切断スペル」には
バイアスがある。「右側の切断スペル」にも、サンプルの終期について、同様のバイアスが存在する。「左右
の切断スペル」をサンプルから除外するのは、こうしたバイアスに対処するためである。ただし、「右側の切
断スペル」は除外せず、「左側の切断スペル」だけをサンプルから除外する場合もある。
6. シンプルな粘着情報モデルにもとづく議論 17
想改定が一度以下の、潜在的に予想据置期間が長いとみられる企業の予想据置期間が計測
できていない19。なお、サンプルの始期と終期の両端で計測される予想据置期間を除外し
たうえで、ひとつの企業から複数の予想据置期間が計測された場合には、それらのうちの
ひとつをランダムに抽出し、その企業の予想据置期間とした。
図 6 では、指数分布のパラメータ推定に加えて、念のために、先験的に指数分布を仮
定せずにハザードレートを推定することもあわせて行っている。結果をみると、予想据置
期間は指数分布におおむね従っており、ハザードレートは予想据置期間に対しておおむね
一定である。すなわち、Mankiw and Reis [21] と Reis [25] のシンプルな粘着情報モデル
が示唆するように、各企業がランダムかつ独立に予想改定を行っていると考えることはあ
る程度もっともらしい。ただし、予想据置期間の実績は、1 四半期のところで理論値をや
や大きめに下回っている。上述のとおり、本稿のサンプルは時系列方向に短いため、長め
の予想据置期間が脱落しやすく、予想据置期間が短い方向にバイアスがかかっているとみ
られる。これを踏まえると、予想据置期間の「真の」実績は、より大きく理論値を下回っ
ている可能性が高い。この点は、データが十分に蓄積されたあと、再度検証されることが
望ましい。
予想据置期間が指数分布に従うとすると、予想改定頻度からパラメータ λ を推定する
ことが可能となる20。本稿では、5.2 節において、ふたつの予想改定頻度を計測した。そ
こで議論したように、理論モデルと整合的な予想改定頻度は概念的には適切であるが、短
観のデータで計測すると二重に下方バイアスがかかっている。したがって、表 6 のなかの
14.1%および 12.9%という予想改定頻度の計数を用いるのは明らかに適切ではない。
ここでは、代替的な予想改定頻度から λ を推定する。推定される λ の値は、「物価全
般」1 年後予想で 0.45、「自社の販売価格」1 年後予想で 0.23 となり、示唆される予想据
置期間の平均は、「物価全般」1 年後予想で 2.2 四半期、「自社の販売価格」1 年後予想で
4.4 四半期となる。この λ の推定値 (0.23、0.45) は、Andrade and Le Bihan [9] と Dovern
et al. [14] がエコノミストのインフレ予想の個票データから計測した λ の値 (0.7∼0.9 程度)
や、Pfajfar and Santoro [24] と Hori and Kawagoe [20] が家計のインフレ予想の個票デー
タから計測した λ の値 (0.98、0.86) よりずっと小さく、Mankiw et al. [22] や Reis [25] が
モデルのカリブレーションに用いた値 (0.22∼0.27) にかなり近い。もちろん、上述のとお
り、この推定値には、短観のデータに固有のバイアスがあることには十分留意する必要が
ある。それでも、代替的な予想改定頻度には、短観のデータが選択式であることから生じ
19図 5 で示したとおり、本稿のサンプルでは、「物価全般」で 28.8%、「自社の販売価格」で 54.8%の企業
で同期間の予想改定が一度以下となっている。
20予想改定頻度を f とすると、予想据置期間がパラメータ λ の指数分布に従うのであれば、f = 1−exp(−λ)
である。
6. シンプルな粘着情報モデルにもとづく議論 18
る下方バイアスがある一方、理論モデルと整合的な予想改定頻度に比べて高めに計測され
る傾向があることから、上下両方向にバイアスが生じている可能性が高い。したがって、
得られた推定値が先行研究に比べて低くなることがすべてバイアスによるものと先験的に
いえるわけではない。企業のインフレ予想については、これまで、データの制約から、λ
を計測することが困難であった。このため、エコノミストや家計の予想のデータにもとづ
いて、シンプルな粘着情報モデルの説明力に疑問を投げかける議論が多くなされてきた。
ここでの結果は、こうしたこれまでの議論に新たな材料を提供している。
含意 2 と含意 3 含意 2 のテスト結果は、表 8 に示している。ここでは、ふたつの定義に
もとづいて、無条件の予想改定確率と条件付の予想改定確率を計測している。たとえば、
理論モデルと整合的な予想改定確率の「3 年後と 1 年後」の条件付の列にある計数は、「5
年後と 3 年後」の予想が改定されることを所与とした場合の「3 年後と 1 年後」の予想改
定確率を示している。いずれの定義でも、条件付の予想改定確率は、無条件の予想改定確
率より常に高い。このことは、複数の予想が同時に改定されやすいことを意味しており、
シンプルな粘着情報モデルを支持する結果である。
含意 3 のテスト結果は、図 7 に示している。図 7 は、各調査時点において予想を改定
した企業だけを抽出して、それらの企業間での「物価全般」予想の不一致 (標準偏差) を計
測したものである。予想を改定した企業間の標準偏差は、いずれの年限でみても、明らか
にゼロではない。これは、Andrade and Le Bihan [9] と同様の結果で、シンプルな粘着情
報モデルの含意と整合的でない。加えて、図 7 は、予想を改定する企業のなかに適合的に
予想を改定しない企業が相応に存在していることも、同時に示唆している21。すなわち、
すべての企業が適合的に「物価全般」予想を改定するのであれば、消費者物価指数の実績
はひとつしか存在しないことから、シンプルな粘着情報モデルによる予測と同様に、予想
を改定した企業間の標準偏差はゼロでなければならない。
6.3 ディスカッション : 金融政策に対する含意
含意 1 と含意 2 のテスト結果は、シンプルな粘着情報モデルがある程度はもっともら
しいことを示唆している。ここでは、同モデルが有する金融政策に対する含意について議
論する。
21ここでの「適合的」とは、前期の実績をそのまま今期の予想とする、静学的な予想形成を意味している。
6. シンプルな粘着情報モデルにもとづく議論 19
中央銀行にとっての λ: 含意 1 今、中央銀行が企業の予想に働きかける手段を有してお
り、経済全体の予想を一定の水準に向けて転換させようとしているような状況を考える22。
含意 1 のテスト結果 (図 6) は、相応に時間はかかるとしても、そうした政策を完遂できる
可能性があることを示唆している。要する時間の長さを確認すると、推定された λ の値
(0.23、0.45) は、たとえば 90%の企業が予想を改定し終えるのに、「自社の販売価格」で
11 四半期、「物価全般」予想で 6 四半期かかることを示唆している。通常の景気循環の長
さを踏まえると、6 ないし 11 四半期の間に予想の形成に影響を与えるショックが生じる可
能性はかなり高い。このため、中央銀行が政策を完遂させるにあたっての不確実性を削減
したいと考えるとすれば、この 6 ないし 11 四半期という時間は相応に長いと考えられる。
また、図 4 から明らかなように、予想改定頻度は、この二年半の間、ほぼ一貫して低下
してきた。たとえば、2014 年 6 月調査時点では、λ は「自社の販売価格」で 0.32、「物価全
般」で 0.63 と推定され、期間平均値よりずっと高い。この推定値にもとづくと、90%の企
業の予想が改定されることにかかる時間は 4 ないし 8 四半期となり、この二年半の予想の
粘着化が、中央銀行の政策を完遂させるにあたっての不確実性を高めたことが示唆される。
中央銀行は予想形成にどうアプローチできるか : 含意 2 と含意 3 シンプルな粘着情報モ
デルが示唆するように、利用可能なすべての情報にもとづいて合理的に予想が改定される
のであれば、時間はかかるとしても、中央銀行の予想への働きかけは有効に機能し得る。
他方、予想が完全に適合的に形成されていれば、中央銀行が先行きのインフレ率にコミッ
トするような政策は機能しない。含意 2 と含意 3 のテスト結果(表 8、図 7)は、企業の予
想形成が完全に合理的とも、また、完全に適合的ともいえないことを示唆している。言い
換えると、中央銀行は、少なくともいくらかは予想に働きかけられる可能性がある。それ
では、実際に、中央銀行の行動は、企業のインフレ予想形成に影響を与えているだろうか。
この点、Fujiwara [16] や Hattori et al. [19] は、日本銀行のインフレ率の見通しがエコノ
ミストのインフレ予想に影響を与えていることを報告している。他方、Kumar et al. [18]
は、多くの企業経営者は、中央銀行のインフレ目標などについての知識をもっておらず、
自らの買い物の経験などのミクロ情報にもとづいて予想を形成しているため、ニュージー
ランド準備銀行が 25 年間にわたってインフレ目標政策を遂行しているにもかかわらず、企
業のインフレ予想はアンカーされていないと主張している。ここでは、Fujiwara [16] や
Hattori et al. [19] のアイデアに依拠しつつ、日本銀行のインフレ率の見通しが企業のイン
フレ予想にも影響を与えていることを確認する。
日本銀行のインフレ率の見通しは、「展望レポート」と呼ばれる媒体を通じて定期的
22もちろん、実際には、金融政策は、インフレ予想以外の経路を通じても実体経済に影響を及ぼすとみられ
るため、中央銀行はインフレ予想だけにアプローチしようとするわけではない。
7. 結論 20
に公表される。「展望レポート」では、毎年 4 月に、見通し期間を 1 年延長する。たとえ
ば、2016 年 4 月の「展望レポート」では、2015 年度、2016 年度、2017 年度の 3 年間に
加えて、新たに 2018 年度の見通しが公表される。これは、毎年 4 月に、「物価全般」3 年
後予想に影響を与え得る新たな情報が到来することを意味している。このとき、「物価全
般」1 年後予想についての新たな情報が到来しなければ、各企業は、3 年後予想について
のみ予想を改定する誘因が生じる。幸運にも、2014 年 4 月以降の 3 年間、「展望レポート」
における消費者物価指数の 1 年後見通しは、0.5%から 1.3%の修正幅に収まっている (表
9)。したがって、短観における「物価全般」1 年後予想の回答に際して、「前年比+1%前後
(+0.5%∼+1.4%)」という選択を変更する誘因が「展望レポート」によって生じることは
ない。このことは、「物価全般」の 1 年後予想と 3 年後予想を比較すれば、企業のインフ
レ予想形成が「展望レポート」にどう反応するのかを調べられる可能性があることを示唆
している。
結果をみると、「物価全般」3 年後予想の改定頻度は、3 月調査と 6 月調査の間で、1 年
後予想と比べて 2.42%ポイント大きく上昇している (表 10)。このことは、「展望レポート」
における日本銀行のインフレ率の見通しが企業のインフレ予想の形成に影響を与えている
ことを示唆している。この結果は、Kumar et al. [18] の主張と対照的に、企業が日本銀行
のインフレ率の見通しというマクロ情報も利用しながら、インフレ予想を形成している可
能性があることを示唆している。
7 結論
本稿では、短観の個票データという、これまでにないサイズのパネルデータを用いて、
企業のインフレ予想に関する包括的な事実整理を行ったうえで、シンプルな粘着情報モデ
ルの主たる含意について実証分析を行った。
事実整理に関して、本稿の主たる発見は次の四点である。第一に、企業のインフレ予想
にはゼロ%未満には下がりにくいという性質がある。この下方硬直性は、ここ数年のイン
フレ予想低下局面において、インフレ予想の改定頻度を低下させる方向に作用してきた。
第二に、企業のインフレ予想は、業種間より企業規模間での差異が大きい。価格の改定が
財やサービス、業種間で差異が大きいことを踏まえると、インフレ予想の形成と価格設定
の関係はシンプルなものではないことが示唆される。第三に、企業のインフレ予想の期間
構造をみると、3 年後以降はほぼ不変である。第四に、企業のインフレ予想は、企業規模
や業種を問わず、年限が長いほど予想改定頻度が高い。これは、長期のインフレ予想につ
いてどう考えるかという、とりわけ中央銀行にとって重要な論点を提示している。
7. 結論 21
実証分析に関して、本稿は、企業のインフレ予想形成が、Mankiw and Reis [21] と
Reis [25] のシンプルな粘着情報モデルと、以下の点において整合的であるとの結果を得
た。第一に、予想を改定しない企業が相応に存在している。第二に、理論モデルと整合的
に計測した予想改定頻度は、時間を通じてほぼ一定である。第三に、本稿が計測した予想
改定頻度は、これまでに先行研究が報告してきた推定値よりずっと小さく (予想の改定頻
度が低く)、当初、Mankiw et al. [22] らがモデルのカリブレーションで想定していた値に
かなり近い。
以上の分析結果はいずれも、今後、企業のインフレ予想の形成や価格設定行動をモデ
ル化していくうえで、また、金融政策が実体経済に及ぼす影響を議論するうえで重要な示
唆を与え得る。ただし、企業のインフレ予想の下方硬直性の背景、予想改定と価格改定の
関係、長期のインフレ予想をどう考えるかなど、本稿の分析によって明らかにできていな
い点もなお多い。こうした点を含め、理論面・実証面ともに更なる研究の蓄積が望まれる。
以 上
参考文献 22
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http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2017/data/wp17j03.pdf
   

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