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「シムズ理論」が成功しても庶民だけが損をする理由
http://diamond.jp/articles/-/124074
2017.4.10 週刊ダイヤモンド編集部
『週刊ダイヤモンド』4月15日号の第一特集は「思わず誰かに話したくなる 速習!日本経済」です。今、働き方改革の進展、シムズ理論の台頭、AIの劇的進化──と、日本経済は大転換のさなかにあります。特集では日本経済のさまざまな疑問に対し、例え話を盛り込みながら解説します。思わず話したくなる速習講座のスタートです。
増税せずに債務減「シムズ理論」とは?
財政拡大を正当化するシムズ理論が話題だ。この理屈が分かれば上司にも一目置かれるはず。しかし、よくよく聞くと、政府には都合がいいが、庶民は犠牲を強いられる理論のようだ。
たとえば、借金をしたいだけして、楽に返すことができる。そんなうまい話があれば誰でも飛び付くだろう。
通常は、そんな話は存在しないのだが、今の政府の中にはうまい話が存在すると思っている人もいるようだ。今話題のシムズ理論である。増税せずにインフレで財政赤字を小さくし、債務残高を減らせるという夢のような理論だ。
元となる「物価水準の財政理論(FTPL)」の提唱者である米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授は、2011年にノーベル経済学賞を受賞している。
シムズ理論に基づいて、財政再建のメカニズムを説明してみよう。
まず、政府が物価上昇率の目標達成(日本では2%)までは増税しないと宣言する。その上で減税を行い、公共事業などを増やして財政を拡大する。
所得が増えた国民や企業が、消費や投資を増やす。ここで肝心なことは、増税をしないという政府の宣言を国民や企業が「信じる」ことである。将来、増税するのであれば、増税時に備えて貯蓄をしようとするから、消費や投資を増やそうとはしない。
消費や投資が増えれば、需要が増えるので物価が上昇する。もし、物価が目標値を超えて上がり過ぎるようなら、中央銀行(日本では日本銀行)が金利を引き上げるなどして、物価の上昇を抑える。
物価が上昇すれば、通常であれば賃金も増加する。やや極端な例になるが、説明しやすくするために、物価が2倍になり、年収も400万円から800万円になったと仮定する。
インフレが進行して金利が上昇すればいずれは利払いの負担が増えるが、政府の借金の元本自体は即座には増えない。それどころか、2倍になった物価水準から見た借金の実質的価値は2分の1になる。
一方、増税をしなくても税収は増加する。日本も含め多くの国で、所得税については、所得が増えれば税率が高くなる累進課税という仕組みが採用されている。日本では、所得が400万円から800万円になれば、適用される税率が10%から20%に上がる。税収が増加することで債務返済を進めやすくなる。
現政権は、高等教育、幼児教育を含む教育の無償化に充てる財源として教育国債発行を議論するなど、財政拡大には熱心だ。
そして、国際公約の20年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス〈PB〉、国債以外の歳入と国債の元利払い以外の歳出の収支)黒字化目標の旗を降ろす姿勢を見せている。一方で、PB目標に代えて、債務残高の対GDP(国内総生産)比を目標にしようとしているのも、GDPを拡大させれば、財政支出が増えて債務残高が膨らんでも対GDP比は低下させることができるからだ。
シムズ理論のもくろみ通りにいけば、現在の日本の政策当局にとっては願ったりかなったりである。異次元緩和によるデフレ脱却に行き詰まっていただけになおさらだ。
だから、昨年8月の米国でのジャクソンホール会議(世界各国の中銀関係者や経済学者らが参加する会合)での、「ゼロ金利の下では、マネーを増やしても物価を上げる効果は小さい。そうしたときには財政拡張が有効」というシムズ教授の論文に飛び付いた。
特に、昨年11月に内閣官房参与の浜田宏一氏がシムズ理論を聞いて「目からうろこが落ち、考えを変えた」と発言して以降、急速に日本での注目度が高まっている。ただ、日本以外の国では、ほとんど注目されていない。裏返せば、今の日本にとってそれだけ都合のいい理論なのだといえる。
日本では機能しない可能性が高い
では、シムズ理論は日本において効果を発揮できるのだろうか。冷静に見ていくと、発揮できない可能性の方が高い。
なぜなら、日本の場合、政府の「増税しない」との宣言を国民が信用したとしても、それ以外の要因が働いて消費を増やさない公算が大きいからだ。
その一因が社会保障。若年層を中心に、老後の生活設計に見合った額の年金を受け取ることができないという不安が根強い。それ故、所得が増加しても消費に回さず貯蓄される可能性が高い。
消費が増えなければ物価は上昇しない。物価上昇率目標が達成できないのでずっと財政支出の拡大が続き、財政赤字が膨らみ債務残高が積み上がることになる。しかし、無制限に債務残高を積み上げることはできない。いずれは財政赤字を縮小するために増税することは避けられないだろう。
たとえ首尾よくシムズ理論のもくろみ通りに物価が上昇したとしても、多くの庶民は損をするだけになる。というのも、物価が上昇することで、庶民の預金や貯金の額が目減りするからだ。
政府が抱える借金の負担が軽くなるのと正反対である。加えて、先ほど触れたように、所得税の支払額が増える。庶民にとっては踏んだり蹴ったりだ。
シムズ理論がうまく機能してもしなくても、庶民が損をして、得をするのは莫大な借金を抱える政府だけということになる。シムズ理論は、政府にとっては救世主かもしれない。しかし、庶民にとっては悪魔の理論でしかない。
日本は「借金まみれの鈍くさい富裕層」だ
『週刊ダイヤモンド』4月15日号の第一特集は「思わず誰かに話したくなる 速習!日本経済」です。
日本は不思議な国です。長年にわたり財政危機が叫ばれ、破綻説がくすぶる一方、破綻なんてあり得ない、世界一豊かな国だという日本礼賛説も一部に根強く存在します。
一体どっちが正しい日本経済の姿なのでしょうか? 結論から言ってしまえば、ある意味においてはどちらも正解です。
破綻説の根拠になっているのが、その巨額の財政赤字です。OECD(経済協力開発機構)によると、「政府債務残高の対GDP(国内総生産)比」は230%を超えて世界最悪レベル。財政破綻したギリシャより悪いというのだから、いかに悲惨かお分かりでしょう。
また、人事コンサルティング会社世界大手のマーサーがまとめた「世界年金指数ランキング」では、27ヵ国中26位。日本より下だったのは2001年にデフォルト(債務不履行)に陥ったアルゼンチンだけという体たらくです。制度の持続性が問題視されたそうです。社会保障の膨張はその国の財政を急速に追い詰めます。
一方の日本礼賛説、もしくは破綻しない説の裏付けとしてよく挙げられるのが、日本の企業や政府、個人が海外に持つ資産から負債を引いた「対外純資産残高」です。
財務省によると、15年末時点で前年末比6.6%減の339.2兆円となりました。5年ぶりに減少に転じたものの、25年連続で世界一だったそうです。
しかも日本は経常黒字が続いており、おカネが国内に流入し続けています。つまり資産だけでなく、稼ぎもいいというわけです。
また豊かさの論拠として「個人金融資産残高」もよく出てくる数字です。16年3月末時点で1706兆円に達し、米国に次ぐ世界2位の規模。ただし、資産の裏には必ず負債があるということを忘れてはいけません。「個人金融負債残高」でも日本は世界で2番目に多いとされます。
借金まみれの超富裕層というのが、統計データから見える日本経済の一側面といえます。
こうした側面は見方を変えれば、経済全体、特に民間企業は資産も収入も多く節約家なのに、国の方が超の付く浪費家の貧乏人ということになります。日本を一人の人間に見立てたら、まるで二面性を持つジキルとハイドのようです。
ところで、これだけの対外資産があるのだからこのまま借金を膨らませても大丈夫かというと、決してそうではありません。その先にある日本経済の近未来については、本特集内で明らかにしていきます。
働き者は虚像?
日本の労働生産性はG7中で最下位
もちろん日本経済がすぐに危機に陥る可能性は低いです。一方で気になるのが日本経済の地力の低下です。このままでは衰退の流れが加速しそうな情勢です。
例えば、経済的な豊かさを表す「1人当たり名目GDP(米ドル)」の世界ランキング。失われた20年と呼ばれる長期低迷期に、日本の国際的地位は凋落してしまいました。為替の影響があったとはいえ3位をキープしていた1990年代半ばから、足元では20位台にまで大きく順位を落としています。
しかも日本はこれから人口減少が本格化してくるため、さらなる低下も予想されます。
経済成長は労働人口と労働生産性の掛け算であり、「人口減少が避けられないなら、働き者の日本人の高い生産性で補えばいい」との意見も出てきそうです。
しかし実のところ、日本の「1人当たり労働生産性」は意外と低く、OECD加盟35ヵ国中22位、G7(主要7ヵ国)では最下位に甘んじています。数字だけを見れば、働き者どころか鈍くさい労働者といった方がピッタリきます。
実際、G7で最も労働生産性の高い米国と比較すると、日本の製造業の生産性は米国の7割、サービス業は5割にとどまります。日本人は勤勉で働き者というイメージは、日本人自身がつくり上げた虚像なのかもしれません。
国の経済発展には人材育成も欠かせません。しかし、日本は未来に向けた投資には無関心のようです。OECDによれば、日本は「GDPに占める教育機関への公的支出割合」が3.2%で、これは比較可能な33ヵ国中、なんと最下位のハンガリーに次ぐ32位。教育に投資をしない国に未来はありません。
日本経済はこれからどこに向かうのでしょうか。デフレ脱却に向けた日本銀行による異例の金融緩和は、思うような成果を挙げられずにいます。企業に目を向けると、働き方改革の真っただ中ですが、AI(人工知能)の劇的な進化もあって、日本人の仕事が奪われるとの危機感も広がっています。
本特集ではマクロの世界からミクロの世界まで、日本経済に関するさまざまな疑問に対し、例え話を交えながら解説します。思わず誰かに話したくなる日本経済の速習講座、スタートです。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 山口圭介)
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