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気づいたら「バブル」になっていた日本経済
地価も賃金も上向きに。歴史は繰り返されるのか
2017.4.6(木) 新潮社フォーサイト
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都内の道路を歩く人々(2014年11月28日撮影、資料写真)。(c)AFP/Toru YAMANAKA〔AFPBB News〕
(文:青柳 尚志)
3月の金曜日の夜更け、深夜2時を過ぎた六本木交差点。飲み過ぎて時間ばかりが経過し、街に出てタクシーを拾おうと思っても、拾えない。そこにはタクシーを待ち、虚しく手を挙げる酔客たち。さすがに1万円札をかざす人は見かけなかったが、街の雰囲気がちょっと違う。送別会のシーズンだからかもしれないが、銀座コリドー街の賑わいも尋常ではない。
目を見張る大阪の地価上昇
国土交通省が3月21日に発表した、今年1月1日時点の公示地価。住宅地価格が9年ぶりに底打ちし、わずかながら上昇した。新聞記事は見出しを採りやすい住宅地に焦点を当てたが、住宅地ばかりでなく、商業地と工業地の価格も上昇している。そして神々は細部に宿る。大阪の動きに目を見張る。商業地の上昇率の上位5地点をみてみよう。
41.3%上昇 道頓堀1−6−10(づぼらや) 1
35.1%上昇 宗右衛門町7−2(CROESUS(クリサス)心斎橋) 2
34.8%上昇 小松原町4−5(珍竹林) 3
33.0%上昇 心斎橋筋2丁目39番1 4
30.6%上昇 茶屋町12−6(エスパシオン梅田ビル) 5
いずれも大阪市で前年比の上昇率は3割を超えている。ちなみに6位は京都市の祇園町、7位は名古屋市の名駅、8〜10位は東京の銀座だが、大阪が上昇率のトップ5を席巻したのは初めてだろう。1位に輝いた道頓堀エリアは地下鉄なんば駅から450メートルの距離。鑑定評価員によれば、「外国人観光客の増加にともなって、賑やかさが増していることから新規の出店需要が強い。さらに周辺部はホテル用地としての需要も旺盛」というのだ。
大阪の観光名所、通天閣にほど近い地下鉄・恵美須町駅(大阪市浪速区)。訪日外国人が多く乗降する出入り口からすぐの場所で、約360室の大型ホテルの建設が進んでいる。日本経済新聞によれば、同じ場所には2014年までシャープの営業拠点があったが、売却されていた。
興味深いことに、所有者はアジア系の大手旅行会社。不動産鑑定士によると「公示地価を大幅に上回る価格で土地が取引された」。新設するホテルは外国人客が多い「道頓堀ホテル」を展開する王宮(大阪市)が運営する計画で、「電機大手などのオフィスからホテルへ」という動きを象徴する。
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2016年に大阪を訪れた外国人観光客は941万人と4年連続で過去最高。13年は263万人だったから、4年間で3.5倍である。関西国際空港の国際線旅客数は16年には15%増の1876万人。うち外国人客数は21%増の1217万人で、いずれも過去最高を記録した。各国の格安航空会社(LCC)や大手航空会社が新規路線を開いたうえに、首都圏よりもアジアに近い地の利がある。
ヤマト運輸は運賃値上げ
エコノミスト・吉崎達彦氏の最新刊『 気づいたら先頭に立っていた日本経済』になぞらえれば、大阪は「いつのまにか先頭に立っていた」のだが、埼玉県入間市の存在も見逃してはならない。残念ながら観光スポットとしてではないし、朝鮮半島の緊張激化に伴い航空自衛隊入間基地に脚光が当たっているといった事情でもない。西武池袋線・入間市駅から5キロメートル離れた、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)周辺の土地(入間9−1)が、工業地として全国一の上昇率(10.3%上昇)に輝いたのだ。
用途は物流施設である。そういえば、2月に大火事を起こして世間を騒がせたアスクルも、物流倉庫の所在地はこの近隣の入間郡三芳町だった。圏央道の埼玉県および神奈川県内の区間が相次いで延び、さらに2月には茨城県区間が全線開通した。圏央道の輸送ルートとしての使い勝手が格段に良くなるとして、沿線地域で物流用地の需要が高まっている。
その底流には、インターネット販売の普及という消費構造の地殻変動がある。ネットでの注文にタイムリーに応えるには、大規模な物流施設が不可欠。商業地の不動産需要が「オフィスからホテルへ」とシフトしているように、ネット販売の拡大とともに工業地の不動産需要も「工場から物流倉庫へ」と大きく変わっているのだ。
ネット販売が普及する陰で、人手不足が深刻さを増している。ヤマト運輸による27年ぶりの運賃値上げ要請が話題となっている。象徴的なのは、相手方がネット販売大手のアマゾンだったことだ。数時間刻みの配送や留守宅への再配達など、きめ細かな宅配サービスを続けようにも、人手が足りず現場環境は過酷になっている。だから、運賃値上げを認めてほしい。こんなヤマトの要請には、うなずく消費者も多かった。
非正規社員の時給も上昇
43.9%の企業で正社員が足りない。帝国データバンクが今年1月、企業に従業員の過不足を尋ねたところ、そんな回答が返ってきた。正社員が足りないとの回答は、半年前の16年7月調査から6.0ポイント増加した。正社員の人手不足は、過去10年で最高に達した。
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正社員の人手不足が最も著しい業種は「放送」の73.3%で、「情報サービス」「メンテナンス・警備・検査」「人材派遣・紹介」「建設」が60%台で続く。「運輸・倉庫」も58.1%の企業が正社員の人手不足を訴えている。
非正規社員が人手不足という企業は29.5%。半年前から4.6ポイント増加した。最も非正規社員の人手が足りないのは「飲食店」の80.5%。これに「娯楽サービス」の64.8%、「飲食料品小売」の59.4%が続く。「旅館・ホテル」も53.3%で人手が足りない。
人手不足はアルバイト・パートの時給にも反映している。リクルートジョブズの調べでは、今年2月のバイト・パートの時給は前年同月比2.3%増の1001円と、2月としては初めて1000円の大台に乗せた。年末のかき入れ時である昨年11月、12月に1000円台に乗せ、年明け1月には993円まで低下していたのだが、人手不足の度合いが強まったことで早くも持ち直した。
ホテルフロントの時給が前年同月比3.6%増、金額にして36円増の1022円になったのは、外国人観光客の増加を映してのことだろう。ホテルスタッフ、宿泊施設関係(旅館・民泊)も979円と978円ながら、前年同月比ではそれぞれ3.2%増、4.2%増となっている。金額にすると30円と39円の増加である。
ヤマトの運賃値上げ要請の背景にあるのは、ドライバーの不足。フォークリフトなどのオペレーターの時給は同7.4%増の1102円と、ついに1100円台に乗せた。ドライバー・配送・デリバリーは同2.6%増の1022円、ドライバー(中型・大型・バス・タクシー)は同2.1%増の1113円になっている。
このほか介護スタッフが同1.0%増ながら1019円に。ホームヘルパー(訪問介護員)が1.6%増の1160円、介護福祉士が4.5%増の1133円になったのも目を引く。介護の仕事はきつくて、低賃金といった紋切り型の言い回しが流布するなかで、労働需給の逼迫は確実に時給に反映されつつあるのだ。
「春闘」の動きは鈍いが・・・
その一方で今年の春闘について、連合は3月24日、ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた平均賃上げ額は6224円、賃上げ率で2.05%だったとの中間集計を発表した。23日朝までに回答のあった1243組合の集計で、前年同期と比べ111円、0.05ポイント減少した。 多くのメディアはこうした春闘の結果を「4年目の官製春闘の限界」などと大見出しで報じた。
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春闘の賃上げとバイト・パートの時給増加を単純には比較できないにせよ、どちらの元気が良いかは明らかだろう。企業がいったん雇ったらなかなか解雇されない長期雇用が保証された「正規雇用」と、その都度の事情で雇われるバイト・パートなどの「非正規雇用」。日本の雇用市場は、この正規、非正規に分断されているといわれる。
正規雇用の場では、企業経営者はいったん賃金を引き上げると、その後の景気後退期に賃金をカットすることが難しい。いわんや解雇をや。だから賃金引き上げにはどうしても慎重になる。組合も企業内組合だから、そうした経営側の事情には「忖度」を働かせる。反対に非正規雇用では労働需給に応じて賃金が決まるので、最近のように景気が持ち直し、人手不足が目立つ局面では賃金が上昇しやすい。
かくて「官製春闘」とは別世界の、非正規の雇用市場で賃金上昇のメカニズムが働きだしたのである。ところが政府も組合もマスコミも、大企業が春闘相場という形で賃金水準を決め、中小企業や非正規雇用に波及していくとの思考に囚われている。その結果、バイト・パートの時給の変化にはメディアの関心が向かわず、街行く人たちも認知ラグに陥っている。
GDP計算方法を改訂してみると
政府は3月の月例経済報告で、個人消費に対する判断を若干上向かせた。2月の「持ち直しの動きが続いているものの、このところ足踏みがみられる」から、「総じてみれば持ち直しの動きが続いている」へと変更したのだ。企業収益の判断を政府は、2月の「改善の動きがみられる」から、3月は「改善している」へと上向かせた。消費と企業収益は足並みをそろえているようにみえる。
そうは言っても、人口減少に向かう日本経済は右肩下がりではないか。そんな疑問をぬぐえない向きも多いだろう。皮肉にも人口が減少し、労働力の供給が限られているからこそ、多少の景気上昇で、雇用が逼迫してしまうのだが、そうした議論をする前に、日本経済の全体像である国内総生産(GDP)を点検してみよう。
直近16年の日本の名目GDPは537.3兆円。前年比で1.3%増え、1997年以来19年ぶりに過去最高を更新した。あれれ、日本の名目GDPは500兆円くらいじゃなかったの。いつの間に30兆円以上も水増しされたの。そんな疑問を抱いた方がいるなら、経済に土地勘のあるご仁だ。実は政府はGDPの計算方法を改定し、米欧のように企業の研究開発費(R&D)などを投資に加えたのだ。その結果、15年の名目GDPを比べると、従来の基準で500.6兆円だったものが、532.2兆円へと30兆円余り拡大した(下記グラフ)。
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旧基準と新基準のGDPを年度ベースで比較すると、日本経済の自画像が違ってくる。まず旧基準のイメージ。97年の521.3兆円をピークに、07年にはいったん513.0兆円まで持ち直したものの、リーマン・ショック(08年)と東日本大震災(11年)で大きく落ち込み、その後多少回復したとはいえ500兆円どまり。経済の天井は着実に低下している、という右肩下がりのイメージだ。
新基準のイメージは異なる。07年にはほぼ97年のピークに近づき、その後リーマン・ショックと大震災に見舞われたものの、15年には再びピークに接近している。16年(暦年)にはついにピークを更新したことを含め、粘り腰といったイメージを抱かせる。
安倍政権の経済運営(アベノミクス)の見立ても違ってくる。政権発足前の12年と3年目の15年を比較すると、旧基準でのGDP増加額は26.2兆円。これに対し新基準では37.5兆円の増加となる。10〜12年を民主党政権時代とし、09年と12年を比べると、旧基準では0.4兆円、新基準でも2.6兆円にとどまるから、GDPを物差しとした経済運営の成果は明らかだろう。
バブルの歴史は繰り返すか
もちろん、こうしたGDPの拡大の背景には、日銀の異次元緩和によるマネーの大量増刷が存在する。そしてマネーの大量増刷にもかかわらず、消費者物価指数は今年1月にようやくプラスに転じたばかりで、政府・日銀が13年1月の政策合意で定めた2%の物価目標の達成からは程遠い。2%物価を目標とする、黒田東彦総裁率いる日銀は、米国が利上げしようと、欧州が量的緩和の出口を模索しようと、異次元緩和を継続する構えである。
皮肉にも、アベノミクスの成果を認めたがらないエコノミストもメディアも、足元の景気実態を過小評価しがちだ。日本経済の地力ははるかに低下しているとはいえ、1980年代後半から90年にかけてのようなバブル景気が繰り返されることはないのだろうか。森友学園問題への政権の対応をみていると、リクルート事件が走馬灯のようによみがえってくる。事件の発覚は88年6月、ときの竹下登政権は当初、問題を過小評価して未公開株問題への対処が後手に回った。
折しも89年4月には消費税の導入という不人気なイベントが控えていた。振り返れば当時がバブル景気の真っ只中だったのだが、消費者物価は落ち着いていた。株価と地価が急騰するなか、日銀は消費税の引き上げ前の公定歩合引き上げをためらい、初の利上げは消費税導入の翌月の89年5月だった。
今回も政局が動揺するようだと、おのずと日銀への過剰期待が台頭するはずだ。消費税再増税の時期は19年10月。再増税の決断は18年中だが、そのときまでに2%物価を達成できているかは、再増税の重要な判断材料となるだろう。いきおい経済の実態に比べて緩和の度合いが強まるはずである。バブルの歴史は繰り返すのだろうか。このところ話題の名著『 バブル』の著者は、少なくともそうした危うさを感じ取っているようにみえるのだが。
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・厚労省「全面禁煙」案は自民党の反対で「風前の灯」
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・「国家安全保障戦略」から日本の防衛を考える
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49628
資産家がわざわざローンを組んで不動産を買う理由
資産運用のパラダイムシフトはすぐ目の前?(第1回)
2017.4.6(木) 加谷 珪一
資産家はお金があるのにローンを組んで不動産を買うことがある(写真はイメージ)
このところ資産運用の世界で、大きなパラダイムシフトが起こりつつある。長年続いた低金利の時代が終わり、金利上昇が本格化するのではないかとの見方が台頭してきているのだ。
もしこの転換が本物だった場合、個人の資産運用は抜本的な見直しを迫られることになる。金利が上昇し、インフレが進む局面において、銀行預金に依存し過ぎることはリスク要因となる。
そこで今回から3回にわたって、新しい時代を迎えつつある個人の資産運用と、すべてのカギを握る「金利」の動向について論じていきたい。
資産家はなぜわざわざローンを組んで不動産を買うのか
多くの人は「金利」について普段、あまり注意を払っていないかもしれない。銀行の定期預金にお金を預ける時に「こんなに利子が少ないのか」と嘆いたり、逆に住宅ローンを組む際にパンフレットの表示を気にするくらいだろう。
だが資産運用の世界において「金利」ほど重要な指標はない。金利が持つ力をどれだけ活用できるのかで、長期的な資産形成のレベルは天と地ほど変わってくるのだ。その代表的な例が住宅ローンである。
普通に考えれば、住宅ローンを組むのはお金がないからである。家を買えるだけの現金を持っていないので、銀行からお金を借りて家を買うという理屈である。
もちろん、この話はほとんどの人にとってウソではない。現金でポンと家を買える人はそうそういないので、現実問題として銀行からお金を借りなければ、家を買うことはできないだろう。
だが世の中には、家を買うことができる現金を持っているにもかかわらず、わざわざローンを組んで家を買う人がいる。こうした人はたいていが資産家である。当然のことだが、ローンを組めば金融機関に金利を支払わなければならない。絶対的な支出という意味では確実に損してしまう。
では資産家は、なぜ現金を持っているのに、時としてわざわざローンを組んでまで不動産を買うのだろうか?
その理由は、資産家は金利が持つ意味を熟知しており、それを活用してさらに資産を増やそうと戦略的に考えているからである。
家の購入も立派な投資行為の1つと見なすことができるので、これが成功するかどうかは、購入時とその後の不動産価格の推移に大きく左右される。安いところで買うというのは投資の鉄則であり、それは不動産も同じである。
価格が破格に安くなった時が最大の投資チャンスということになるわけだが、そのようなチャンスはそうそうやってこないと多くの人は考えている。だが実際はそうでもなく、10年に1回程度は大きなチャンスに巡り会うことができる。最近では2003年前後と2010年前後にこうした局面が見られた。
不動産を購入する最大のチャンスはいつ?
日本の不動産価格はバブル経済の頂点だった1991年をピークに下落が続いており、現在は当時の半分以下の水準となっている。だが不良債権問題がピークに達した2003年前後、市況は特に悪化し、価格を考えずに投げ売りする物件が急増した。リーマンンショック後も同様で、この時期に不動産を取得すればかなりの利回りが実現できた。
こうしたチャンスを資産家は決して見逃さないのだが、彼等はなぜそのタイミングが市況の底だと判断できたのだろうか。もちろん経験や勘による部分も大きいが、それだけが理由ではない。資産家の多くは金利について非常に敏感であり、それゆえに市場の動向をより正確に把握できている可能性が高い。
2002年から2003年にかけて、それまで平均すると1.5%程度だった長期金利が一気に0.5%まで下がった。これは金利のメカニズムをよく知っている人にとっては強力なサインとなる。市場が底を打った可能性が高く、かつ金利が大きく下がったことで資金調達のコストも低下する。このようなタイミングでは、思い切って銀行からローンを引っ張り、積極的に投資した方が得策なのだ。
その後、不動産価格は急上昇し、高値で売却できた人は短期間で極めて大きな資産を作ることに成功した。リーマンンショック崩壊後も同様である。2009年4月には1.4%程度だった長期金利が2010年8月には1%を切る水準まで低下している。この時も、後になってみればアベノミクス相場における最大の買い場となっていた。
この話を聞いて「その後、日本はさらに低金利になったではないか」との感想を持った人がいるなら、残念ながら金利との付き合い方はまだまだである。確かに日本では量的緩和策によって意図的に金利を低くする政策が行われたので、金利の絶対値はさらに下がった。
しかし、投資の成否は金利だけで決まるものではなく、取得コストと金利を総合したものが最終的な投資コストになる。人為的に金利が引き下げられた後のタイミングでは、すでに取得コストが上がっており、トータルの採算は悪化していた可能性が高い。
金利は市場参加者の心理的な「時間軸」と関係している
詳しくは第2回以降で解説するが、金利というものは市場参加者が持つ心理的な「時間軸」と密接に関係している。この部分を理解できるかどうかが投資を成功させるカギとなる。
金利が高いということは、今後、物価が上がると多くの人が予想していることを意味している。物価が上がっている時は好景気であることも多いので、景気拡大を予想していると解釈することもできるだろう。
逆に金利が下がっている時は、多くの人が今後は物価が下がり、景気が縮小すると考えていることになる。
ではある時期、これまでとは大きく乖離して金利が急低下した場合に、どう考えればよいのだろうか。現実の景気や物価というのは、数日で変化するようなものではなく、半年や1年という時間をかけて状況が変わっていくものである。
それにもかかわらず、ごく短い期間に大幅に金利が下がったということは、市場参加者の心理が急激に悪化したことを意味している。すべてのケースにあてはまるわけではないが、このような時は、市場が底を打つサインとなることが多い。2003年や2010年の金利低下局面はまさにこうしたタイミングだった。
多くの人は、株価や不動産価格など、資産価格の推移しか見ていない。このため、価格が継続して下落していると、この先もっと下がるのではないかと考えてしまい、安く買えるチャンスを認識できなくなってしまう。逆に、まだまだ下がる可能性があるにもかかわらず、安易に飛びついてしまい、含み損を抱えてしまうということもあるだろう。
もちろん金利動向を分析したからといって、将来の動きを確実に予想できるわけではない。だが金利の動きを知っているのと知っていないのとでは、判断に大きな差が出てくる。
金利を知っていればバブル市場を売り抜けられた
もう1つの例をあげてみよう。
1980年代後半のバブル経済崩壊前夜、市場参加者の誰もが株価の上昇を信じて疑わなかったといわれているが、金利はそうではないことを如実に示していた。
1987年に4%台だった長期金利は上昇を続け、1990年には9%に達する勢いになったが、これは従来トレンドから見ると相当に乖離した水準だった。株価は一旦上昇相場が始まると青天井で上昇が続くことがあるが、金利はハイパーインフレにでもならない限り上限が決まってくる。このため、株式や不動産よりもピークを把握しやすいという特徴がある。
実際、金利が急騰したこのタイミングが株価のピークであり、ここで株式から債券に乗り換えた投資家はごくわずかだが存在する。彼等は周囲がバブル崩壊に苦しむ中、年利9%という驚異的な利回りを長期間にわたって享受することができた。
リーマンショク直前も同様である。米国の長期金利は基本的には長期的な下落トレンドだったが、株や不動産価格が暴落する直前の2年間はトレンドを乖離した金利上昇が見られた。金利の動向に注意を払っていれば、リーマンンショックもある程度は予想できたことになる。
金利というのは将来見通しを示したものだという話は、具体的にはこのようなことを意味している。
このあたりについては、2月に上梓した『最強のお金運用術』(SBクリエイティブ)で詳しく解説しているので、参照していただきたい。
次回は、そもそも金利というものがなぜ発生するのかという少々、根源的な部分について議論を進めていく。これが理解できるようになると市場の見方が大きく変わってくるはずだ。さらにその次の回では、100年単位の金利の動きを分析し、今後の市場動向について考えてみたい。
(次回は4月7日に掲載します)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49620
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