http://www.asyura2.com/17/hasan120/msg/602.html
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【第17回】 2017年3月31日 新谷学
「できない理由」を探すバカ
つねに世間を賑わせている「週刊文春」。その現役編集長が初めて本を著し、話題となっている。『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)だ。本連載では、本書の読みどころをお届けする。
(編集:竹村俊介、写真:加瀬健太郎)
糸口を見つけたら、すぐに一歩を踏み出す
企画の発端は、雑談から始まることも多い。そこで大切なのは「おもしろい」と思ったら、すぐに一歩を踏み出してみることだ。そのままにしておかない。「実現できたら、おもしろいな」と思ったら、まずやってみることが大切だ。
新谷学(しんたに・まなぶ)
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。
現在バチカン大使を務める中村芳夫さんが経団連副会長だった頃、テレビ朝日の経済部で財界担当だった出町譲君と3人で昼飯を食べた。その席でリーダーの言葉が話題になった。「今、政治家の言葉が軽いのではないか」と。そこで「どういうリーダーの言葉なら、国民に届くのか」について語り合った。
中村さんは「僕にとってはやっぱり土光敏夫さんの存在は大きい」とおっしゃった。土光さんが経団連の会長だった頃に、中村さんはずっと秘書をしておりスピーチライターも務めていたという。その経験から「土光さんの言葉は、本当に重かった」とおっしゃるのだ。出版部にいた私は「それ、おもしろいですね。『土光さんの言葉』という企画は、今このタイミングで世に出したら、結構読まれそうですね」と言った。そこでふと思いつきで、大学で同級生だった出町君に「書いてみたらどう?」と提案した。
そのときは出町君も「そうかな」などと言っていたのだが、その後がすごかった。彼は土日に経団連の図書館に通って資料を集め、土光さんの言葉について原稿を書き始めたのだ。ほどなくして「ちょっと書いてみたんだけど」と原稿がメールで送られてきた。私は「本当に書いたのか」と驚いた。読んでみるとなかなかおもしろい。
私は『土光敏夫100の言葉』とタイトルを付け、本にまとめた。ちょうど東日本大震災の後のタイミングだったため「清貧と復興」というサブタイトルを大きくして、「今こそ、土光さんの言葉に学べ」「日本が立ち直るためにはこの本が必要だ」といった宣伝文句で新聞やテレビの知り合いにも協力を依頼した。ハードカバーの単行本だったが、8万部くらい売れた。
出町君が、何気ない雑談を大切にして、すぐに行動に移したからこそヒットは生まれた。大切なのは、思いつきをそのままにしておかないということなのだ。
もちろん売れるかどうかはハッキリ言ってわからない。ただ、おもしろいと思ったらやってみることが次につながる。話題にならなかったら、また違うものを考えればいいではないか。
大切なのは“The Show Must Go On”(とにかくやり続ける)の精神だ。理屈をこねて、できない理由を探すほどバカなことはない。
http://diamond.jp/articles/-/123045
【第9回】 2017年3月31日 岩瀬大輔 [ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長]
仕事は「50点」でいいから早く出せ!
いよいよ4月から会社員生活がスタート!
必要な準備はできているか、気になっている新入社員の方も多いようです。
そんな「来週から入社1年生」のみなさんに、
36万部突破のベストセラー『入社1年目の教科書』著者・ライフネット生命保険社長岩瀬大輔氏が、
入社する前に前に意識しておくといい、学生時代と大きく異なる仕事の原則についてお話します。
「入社1年生」が知っておきたい、学生時代とは異なる考え方とは? Photo:milatas-Fotolia.com
仕事における3つの原則とは?
岩瀬大輔 ライフネット生命保険(株)代表取締役社長。1976年埼玉県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。1998年卒業後、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て米国に留学。2006年ハーバード経営大学院(HBS)を日本人4人目のベイカー・スカラー(成績上位5%表彰)として修了。帰国してライフネット生命保険設立に参画。撮影/佐久間ナオヒト
いよいよ週明けから新生活がスタートする。新入社員のみなさん、準備はできていますでしょうか。
今回は、会社に入る前に知っておくといい「3つの原則」の原則2「50点で構わないから早く出せ」についてお話しします。この原則2が、学生時代との一番の違いかもしれません。
私が入社1年生対象の講演会などでいつもお伝えしていることですので、すでに聞いたことがあるという人も、新年度を迎えるための「準備」として、改めて押さえていただければと思います。
書籍『入社1年目の教科書』で紹介している「仕事における3つの原則」は、次のとおりです。
1.頼まれたことは、必ずやりきる
2.50点で構わないから早く出せ
3.つまらない仕事はない
今回は、原則2「50点で構わないから早く出せ」について説明したいと思います。
仕事は「持ち込み可」のテストと同じ
この原則2は、原則1「頼まれたことは、必ずやりきる」と実はつながっています。
一言で言えば、「100点の状態にしなくてもいいから、必ずやる」ということです。
上司や先輩などから頼まれた仕事に対し、新入社員のうちは完璧にこなせることは少ないと思います。だからこそ、「完璧ではなくていいから、とにかく早く出す」ことを意識するのです。もちろん、仕事の質や種類にもよるとは思いますが、ほとんどの仕事は、「質」より「スピード」のほうが、新入社員には大事だと思います。
たとえば、何かのレポートを書くよう頼まれたとします。
どのような形で提出するのがいいでしょうか。
Aさん:100点満点のものを1週間かけて作成する
Bさん:1日で50点くらいのものを出して、上司に赤ペンを入れて修正してもらう
当然、評価されるのはBさんのほうです。
「早くやる」というのは、「早い段階で上司に赤ペンを入れてもらって、レポートをどんどんアップグレードさせていく」ということなのです。
頼まれたレポート作成は、50点レベルのざっくりしたものを急いで作って上司に提出し、上司に修正してもらう。こんな風に言うと、次のような不安にかられる人もいるでしょう。
「え、仕事を頼まれたのは自分なのに、上司にやってもらって大丈夫なの?」
そこで、たとえを変えてみましょう。
私は大学時代法学部で、在学中に司法試験に合格しました。
司法試験は六法〈憲法・民法・刑法・商法(会社法)・民事訴訟法・刑事訴訟法〉を参照しながら受験できます。なぜなら、弁護士になれば、六法を使って仕事をするからです。もちろん、六法そのものは膨大な情報量ですから、ある程度「どこに何が書かれているか」を把握していないといけませんが、一字一句丸暗記する必要はありません。参照可能なのですから。
仕事も同じです。あなたに求められているのは、「成果」です。
あなた自身が持っている能力を試すものではありませんから、人の力を使ってもいい。上司も先輩も専門家も「持ち込み可」です。
大切なのは、誰の助けも借りずに、何も見ずにやることではなく、すべてのリソースを総動員して、より速くアウトプットを出すことなのです。むしろ、自身の能力がないうちは、積極的に上司の力をうまく使いながら、仕事を進めていくことが不可欠でしょう。
よくこの話をするのですが、新入社員の頃、私が上司によく言われた言葉があります。
「岩瀬ほど、しょっちゅう俺のとこに来るヤツいないよ」
仕事を頼まれると、頻繁に上司のところへ行き、その都度フィードバックをもらっては再提出を繰り返していたのです。
転職した2社目の上司からも、同じようなことを言われました。
「岩瀬は、自分の書いたレポートを真っ赤にされると喜ぶ」
自分の「できないこと」を理解していれば、人の力を借りれる
なぜ私は、50点の段階で上司に見せて、赤ペンで修正されては喜んでいたのでしょうか。
それは「早く完成に近づくことがうれしい」と、私が思ったからです。
私は、自分のできることとできないことを理解しています。
ここまではできるけれど、この先はできない。その境界線どこにあるのか、理解しています。
もっとよくするためには、上司のフィードバックをもらったほうが、早く確実に前に進められる。自分のできる範囲で考えたり調べたりする→上司に赤ペンを入れてもらう→再び自分なりに考えながら、修正する→上司に再提出する。
このサイクルを高速で回すことで、仕事がどんどん前に進むのです。
わからなかったことが上司のアドバイスによってわかるようになり、仕事が少しずつ完成形に向かっていく。このプロセスが楽しいのです。
もし上司が忙しそうにしていたら…
「そうは言っても、上司が忙しそうにしていたら、どうしたらいいんですか?」
この質問もよく受けます。
答えは明快、気にせず聞けばいいのです。
そもそも上司の仕事は、部下の力を引き出して、いいものを生み出すことです。
あなたにフィードバックすることは、上司としての仕事なのです。
もちろん、声のかけ方には気をつけます。
「5分ほどお時間いただけますか?」などと、謙虚かつ臆することなく上司にお願いをし、「この箇所について悩んでいます」とか「この点が不明なので教えていただけますか」と、質問のポイントを明確に伝えます。
どんなに忙しくても、「ちょっといいですか?」と部下から言われたら、上司はいったん手を止めます。
「ちょっときみ、それぐらい自分で調べなさいよ」はダメです。
自分でできることは全部やって、行き詰まったところに早く助けてもらうのがセオリーです。
あと、抜けがちな発想としては、頼るのは直接の上司以外でもいい、ということ。いろいろな部署の人に教えてもらえばいいのです。経理部長だったり総務部長だったり、隣の部署の先輩だったり。
ビジネスは総力戦です。
だからもう、あらゆるものを総動員していいのです。
持ち込み可のテストだとわかっていたら、何を持ち込み、誰に質問すればより早く回答が得られるか。そういう視点で周囲の力をフル活用すればいいのです。
何ひとつ難しいことはありません。
ちょっとした心がけの違いで、成長と評価が得られるか、大きな違いが生じるのです。
次回は原則3.つまらない仕事はないについて、お話したいと思います。
※次回は4月3日(月)更新予定です。
http://diamond.jp/articles/-/122011
【第10回】 2017年3月31日 中室牧子、津川友介
勉強ができる友人と付き合うことになっても
自分の子どもの学力は上がらない?
受験シーズンも終わり、自分の子どもの進路が決まった人も多いだろう。多くの親が自分の子どもを少しでも偏差値が高い学校に入れさせたいと考える背景には、「学力が高い友人と一緒に生活を送ることで、いい影響を受けて、願わくばそれによって自分の子どもの学力も上がってほしい」という願望があるのではないか。
しかし、『「原因と結果」の経済学』の著者である中室牧子氏と津川友介氏によれば、「学力の高い友人と付き合っても自分の学力は上がらない」という。どういうことか、詳細を聞いた。
学力の高い友人と付き合うと
自分の子どもの学力も自然に上がる?
(写真はイメージです)
受験の時期が近づいてくると、わが子には少しでも偏差値の高い学校に滑り込んでほしい、と願う保護者は多いはずだ。
偏差値の高い学校には、学力の高い生徒たちが集まっているだろうから、自分の子どもにとっては少々実力不相応な学校でも、学力の高い友人たちとともに学校生活を送れば、子どもの学力も自然と上がっていくだろう、などと考えているのではなかろうか。
実際に、「生徒の学力が高い」と言われる学校周辺の住宅価格や地価は高くなる傾向にあるという。
経済学では、友人らから受ける影響のことを「ピア効果」と呼ぶ。保護者は、このピア効果が、自分の子どもの学力にプラスの影響があると考えているというわけだ。
しかし、これは慎重に検討する必要がある。「学力の高い友人と付き合うから自分の学力が高くなる」(因果関係)のか、「学力が高い子ほど学力の高い友人と付き合っている」(相関関係)だけなのか、どちらだろうか。
因果関係……2つのことがらのうち、片方が原因となって、もう片方が結果として生じる関係のこと。「友人の学力」と「自分の学力」の関係が因果関係の場合、学力が高い友人と付き合うと自分の学力が上がる。
相関関係……一見すると片方につられてもう片方も変化しているように見えるものの、原因と結果の関係にはない関係のこと。「友人の学力」と「自分の学力」の関係が相関関係にすぎない場合、学力が高い友人と付き合っても自分の学力が上がることはない。
この問題に取り組んだのが、マサチューセッツ工科大学のヨシュア・アングリストらである。
ボストンとニューヨークには、大学受験を目指す生徒のための特別な公立高校がそれぞれ3校の計6校ある。ただし、この学校には日本のように入試があり、合格しなければ入学を許可されない。いわば「エリート高校」だ。
このエリート高校の入試に落ちてしまった生徒たちは、ほかの公立高校に通うことになる。もちろん、入試で選抜が行われるエリート高校に比べると、ほかの公立高校の生徒の平均的な学力は圧倒的に低くなる。
アングリストらは、入試の合格ラインぎりぎりのところで合格したエリート高校の生徒たち(「介入群」と呼ぶ)と、ぎりぎりで落ちてほかの高校に行くことを余儀なくされた生徒たち(「対照群」と呼ぶ)は「比較可能」であると考えた。
介入群の生徒と対照群の生徒は、自分の意思でエリート高校を受験したものの、自分の意思で合否を決めたわけではない。また、合格ラインぎりぎりの生徒なので、学力はほとんど同じだと考えられる。
そうなると、「その後入学する高校の友人の学力」以外に、「自分の学力」に影響を与えそうな要素が似たもの同士になり、両者は比較可能になるのである。
この状況で、介入群と対照群の生徒の学力を比較する。そうすれば、学力の高い友人とともに高校生活を送ることが、生徒本人の学力に与える因果効果が明らかになる。
学力の高い友人に囲まれても
自分の学力は上がらない
アングリストらが示した結果によると、ボストンとニューヨークの学校で、その後の学力に差は見られなかった。
「ピア効果」が存在するのかどうかについてはいまだ諸説あるものの、アングリストらと同様に、学力の高い友人と付き合う因果効果に迫った研究では、同様の結論にいたっているものも多い。
たとえば、全米経済研究所(NBER)のジェフリー・クリングらの研究では、アメリカ政府が実施している「チャンスのあるところへの引っ越し」という大規模なランダム化比較試験(第3回を参照)に注目した。
これは、子どものいる貧困層の家庭を対象に抽選をし、当選すると貧困率の低い地域に引っ越せるクーポンを受け取ることができるという政策のことだ。
当選した家族の子どもたちは、引っ越し先で自分たちよりも学力の高い友人たちと学校生活を送ることになるのだが、抽選に外れてもとの地域で生活していた子どもたちの学力と比較しても、統計的に有意な差がなかったことが報告されている(「統計的に有意な差がなかった」とは、その差は偶然の範囲で説明できる差であるということである)。
残念ながら、多くの保護者の期待を裏切って、勉強のできる友人に囲まれて高校生活を送っても、自分の子どもの学力にはほとんど影響がないということのようだ。自分の努力を棚に上げて、周囲の友人に過剰な期待をしてはならないということなのかもしれない。
参考文献
Abdulkadirŏglu, A., Angrist, J. and Pathak, P. (2014) The Elite Illusion: Achievement Effects at Boston and New York Exam Schools, Econometrica, 82 (1), 137-196.
Kling, J. R., Liebman, J. B., and Katz, L. F. (2007) Experimental Analysis of Neighborhood Effects, Econometrica, 75 (1), 83-119.
http://diamond.jp/articles/-/122934
イノベーションなんて簡単には起こらない
特別対談:高岡浩三×伊賀泰代【最終回】
高岡 浩三,伊賀 泰代:ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO
2017年3月31日
『生産性』の著者、伊賀泰代氏とネスレ日本の高岡浩三社長との対談は今回が最終回。話は、働き方から、イノベーションが起こらない組織の問題の本質について。お二人の考えが見事に一致する。(構成/田原寛、撮影/鈴木愛子)
※バックナンバーはこちら[第1回][第2回][第3回]
一番のヒット商品はイノベーションアワード
高岡浩三(以下、高岡):ネスレ日本のヒット商品というと、「キットカット」の期間限定商品や「ネスカフェ バリスタ」などが社外では有名ですけど、私の中での一番のヒット商品は何かと考えると、実は「イノベーションアワード」かもしれません。
伊賀泰代(以下、伊賀):社内表彰的な制度ですか?
高岡 浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本 代表取締役社長兼CEO
1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本入社(営業本部東京支店)。2005年、ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長に就任。2010年、ネスレ日本代表取締役副社長飲料事業本部長として新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月、ネスレ日本代表取締役社長兼CEOに就任。著書に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)、『ネスレの稼ぐ仕組み』(KADOKAWA)、『マーケティングのすゝめ』(共著、中央公論新社)、『逆算力』(共著、日経BP社)がある。
高岡:そうです。2011年に始めた制度です。今はほぼ全て正社員になりましたが、始めた当時はまだ派遣社員や契約社員もいました。そういう人たちも含めて、イノベーションを起こせる組織にしたいと思って、全社員からビジネスに貢献するアイデアを募ったんです。
この表彰制度の肝は、アイデアを出すだけじゃなくて、自分で実行、検証すること。そして、優秀な成果を上げた人には賞金100万円を贈呈する。
伊賀:えっ、100万円!? それはすごい。しかも年齢とか役職とか関係なく、全社員が対象なんですね。
高岡:敢えて、そうしました。人事評価とイノベーションって関係あるのかなという私自身の疑問があったので。実際にやってみると、人事評価とイノベーションアワードでの評価にはまったく相関性がなかった(笑)。
この制度をトップダウンではじめて、実際に小さなイノベーションが生まれてきた。顧客が気付いていない問題への解決策を考えて、自分で仮説を立て、実際にやってみて検証する。これを6年間続けてきたことで、日々の仕事のやり方にもかなりのインパクトを与えたと思います。
伊賀:日本人はイノベーションというと技術の話だと思いがちですが、全社員を対象としたアワードなら、人事や経理部門から非技術的なイノベーションの提案がでてくる可能性もありますね。しかもその活動が社内で紹介されれば、みんな「自分の部署でもできそうだ」と思うようになる。そこに価値があると思います。
高岡:受賞対象となったアイデアは、次の年に組織的に実行します。
伊賀 泰代(いが・やすよ)
キャリア形成コンサルタント
兵庫県出身。一橋大学法学部を卒業後、日興證券引受本部(当時)を経て、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスにてMBAを取得。1993年から2010年末までマッキンゼー・アンド・カンパニー、ジャパンにてコンサルタント、および、人材育成、採用マネージャーを務める。2011年に独立し、人材育成、組織運営に関わるコンサルティング業務に従事。著書に『採用基準』(2012年)『生産性』(2016年)(ともにダイヤモンド社)がある。
ウェブサイトhttp://igayasuyo.com/
伊賀:それくらい現実的な課題について考えろってことですね。
高岡:最初の年は70件程度のエントリーでしたが、年々応募が増えてきて、去年は社員数より多い4000以上のエントリーまで拡大しました。レベルも上がってきたので、賞を取ったアイデアを会社として実行すると、売り上げが上がったり、必ず何らかの成果が出るようになった。
今はエントリーの数が増えたので、それぞれの役員が担当部門のトップ10を決めて役員会に持ち寄り、全員で審査するんですけど、最初の3年は数も多くなかったので私も全エントリーに目を通していたんです。それでおもしろかったのは、私が選ぶものとほかの役員が選ぶものがまったく一致しなかったこと(笑)。
伊賀:どう違ってたんですか。
高岡:そのころはまだ、顧客の気付いていない問題を解決することがイノベーションだという定義もできていなかった。ただ、私は直感的にわかってきたので、「これはおもしろい、芽があるな」と思うものを評価するんですが、ほかの役員はそつのないアイデアを選ぶ。
伊賀:改善や効率化みたいな話と、イノベーションの違いがわからなかったということでしょうか。
高岡:最近はそういうことがなくなってきましたが、別の問題もありました。何人かの役員が、「うちの部門からあまりいいアイデアがなくて」と言うんです。私は、「それは違うだろう」と。そんなすごいアイデアが一般社員からいきなり出てくるわけがない。「イノベーションの芽を見つけて、それを磨いて大きく育てるのが上司の仕事だろう」と言ったんです。
伊賀:わかります。それはたしかに上司の問題でしょう。
高岡:上の人間がイノベーションとは何かということを理解していないと、アイデアの芽を簡単につぶしてしまう。
伊賀:イノベーションって何かを大きく変えることにつながるので、なんであれ過去の否定につながります。だから過去のやり方で実績を上げてきた人には抵抗感が強い。何を聞いてもまず「そんなの無理だ」というところから入ってしまう。できない理由はいくらでも見つけられるから。
高岡:ネスレもグループ全体でイノベーションを起こしていくために、日本にならってイノベーションアワードを海外でも始めたんです。アフリカを含めて7、8ヵ国でやっています。賞金は1万ドル。
伊賀:生活費の安い新興国で1万ドルはすごくないですか?
高岡:私もビックリしました。ガーナでも1万ドル渡しているらしいですが、日本でいえば1000万円ほどの価値はあるんじゃないかと。
上司がイノベーションをつぶす
伊賀:イノベーティブなアイデアが組織の中で潰されてしまうのは、構造的な問題なんです。何かを大きく変えようとすれば、リスクは必ず大きくなる。そのリスクをとるべき理由がなければ、誰もリスクをとろうとはしません。
私は、その理由になりえるのが生産性だと思っているんです。従来のやり方を続けていればリスクはほとんどない。でもそれでは生産性は上がらない。生産性をどーんとあげようと思うと、いくらリスクが高くてもイノベーティブなことにチャレンジしなくちゃならない。
「これがうまくいけば生産性は倍になる。だったらリスクがあってもやってみようじゃないか」という気持ちになることが必要で、つまり目的側に大きなジャンプを求めないと、どうしてもリスクを取るのはやめようという話になってしまうんです。
高岡:そうですね。
伊賀:マッキンゼーで採用グループのマネージャーだったころ、年末の人事考査では「あなたの部署の生産性を上げるために、今年はどんな新しいことをしたか」と問われるんです。方法論を指示されることはないので、毎年、何をしたら生産性が上がるか、自分で考えなくちゃいけない。考えるための時間の確保も必要だし、トライ&エラーの時間も必要。その時間を確保しようと思うと、まずは作業的な部分の生産性を上げるしかない。
でもそういうプレッシャーがなければ、私も毎年粛々と「去年と同じこと」をやっていたかもしれない。今までやってきたことを否定して新しいことをやる。そういうのって誰にとっても面倒で怖いことだから。あちこちから文句も言われますし。
高岡:軋轢がある。
伊賀:軋轢もあるし、とにかく「変わるのが嫌い」という人もいますよね。変化を嫌う人が多いことは、イノベーションが生まれない理由でもあるし、生産性が上がらない理由でもあると思います。
大きなイノベーションは数世代起こらない
高岡:イノベーションは簡単には起こらないんですよね。弊社の看板商品の「ネスカフェ」も、80年以上前にできた商品です。コーヒーを飲むのが大変だった時代に、誰でも手軽に飲めるコーヒーを世に出した。でもその後、革新的な一杯抽出型のコーヒーマシンが誕生するまでは、長期にわたり品質の改良というリノベーションを続けてきました。
テレビもそうです。テレビができる前は、動画を見るには映画館に行かなければいけなかった。その時代に、アンケート調査しても、誰もテレビが欲しいなんて答えませんよね。テレビの存在を知らないし、自宅で動画を見たいという自分のニーズにも気付いていない。だから、テレビの誕生はイノベーションだと思うのですが、その後、白黒がカラーになったことも、薄型になったことも、イノベーションではなくて、リノベーションなんです。
伊賀:そうですね。
高岡:それほど、イノベーションは簡単なことではないということです。社長もイノベーターとリノベーターに分けて考えてみると、ほとんどがリノベーター。私が尊敬する小倉昌男(ヤマト運輸の宅急便事業創始者)さんのようなイノベーターは、ごく僅かです。
会社を大きくしたオーナー経営者が、なぜ簡単に引退できないかというと、自分の後を継ぐイノベーターなんて、簡単に育てられないし、見つけられないからです。
伊賀:創業経営者の方々は本当、簡単には引退できないですよね。体が続くまでトップとして牽引し続けるのは、もはや宿命的なのかもしれない。
高岡:そう宿命的。この話はフィリップ・コトラー氏ともしたんですが、「グローバルに見ても、イノベーターによる経営が2代続いた例は見当たらない」と言っていました。
伊賀:いったんは後継者を指名しながら引退できなかった柳井正社長や孫正義社長も、きっとそういう思いなんでしょうね。
高岡:それもあって、私はイノベーションアワードを始めました。ネスレ日本で次のイノベーターを育てたい。それは私の後継者ではなくて、2代後か、3代後かわかりませんが、私は見届けられないかもしれない。それでも、育てる準備だけはしておきたかった。経営学にも、経営者がいかに次のイノベーターを育てるかについて解き明かしていません。誰も理論化できていないのです。私はそれを自分でできればと思っています。これこそ、イノベーティブな挑戦ですね(笑)。
【著作紹介】
生産性―マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの
(伊賀泰代:著)
「成長するとは、生産性が上がること」元マッキンゼーの人材育成マネジャーが明かす生産性の上げ方。『採用基準』から4年。いま「働き方改革」で最も重視すべきものを問う。
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http://www.dhbr.net/articles/print/4752
2017年3月31日 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
中国人が辛辣指摘「日本企業9つの問題点」に知日派も喝采
日本人は「一生懸命働いているようだが、実際は、なかなか成果を出さない」といった指摘が中国でもされ始めた
文化大革命の悪夢をもたらした毛沢東時代に決別し、新しい国作りの道を歩み始めた中国の改革・開放路線は1978年から始まったものだ。当時の中国では、窓を開けて外の世界を見ようというスローガンが流行っていた。ドアを開けて外国を受け入れる勇気も心の準備もできていなかった時代だったのだ。
その頃の中国にとっては、その外の世界は西側の国々だった。日本は中国に一番近い「西側の国」として、中国国民から長い間仰ぎ見られていた。戦後の廃墟から日本を世界2位の経済大国にまで復興した世代の日本人と日本企業に畏怖の念を抱いている中国人が多い。今の60代や50代の中国人には、この傾向が特に顕著だ。
しかし、それ以降の世代になると、かなり違ってくる。インターネット時代を迎えてから、日本の企業文化や社会事情に関する情報が非常に入手しやすくなり、その分、日本企業を見る目もかなり厳しくなってきた。
激しく体を動かすが
決して前進しない踊りのよう
例えば、最近、私は日本の中国語メディアに、日本の会社員の習性を取り上げて批判した記事を載せた。これらの日本人は「一生懸命働いているようだが、実際は『〓秧歌』(〓は扌に丑:ニウヤンコー)と同じだ。まったく前進はしない」と批判した。
「〓秧歌」とは、田植えに起源が求められる歌踊りで、中国の北方では広く親しまれている。その特徴は激しく体を動かすが、前方へ進むように移動することはほとんどないということだ。忙しそうに働いているが、なかなか成果を出さない日本人社員を私は「〓秧歌社員」と名付けて批判している。こうした「〓秧歌社員」を量産している日本企業と企業文化に対しても、砲火を浴びせた。
その記事がネットにアップされると、日本企業で働く多くの中国人社員や日本企業と取引のある中国企業の関係者から賛同のコメントが送られてきた。
また、友人の一人は、ある日本企業とその企業文化を批判する辛辣な記事を紹介してくれた。一読した私は日本の読者に紹介する必要があると思い、このコラムのネタにすることにした。
「日本人の骨に染み込んだ9つの問題点」と題するこの記事は、日本企業の敗北は技術や経営とはあまり関係なく、日本人にその問題の所在を探し求めるべきだと主張しているのだが、実際は、日本企業の問題点を指摘している。
日本人の骨に染み込んだ
9つの問題点
1. 第一の問題点は、技術に対しては、日本企業は病的な完璧主義者で、度の過ぎたイノベーションを求めすぎる。
性能をさらに1%向上させるために、惜しみなく30%のコストを注ぎこんだため、価格の面では国際的競争力を失ってしまうのだ。
2. ユーザーの立場に立って物事を考える意識や販売を促進しようとする意欲も薄い。
市場よりも技術を重視し、技術を武器にすれば市場を切り開くものだ、と妙な自信をもっている。しかし、技術への過度な依存と自信が販売へ力を注がない問題をもたらしている。小米、魅族、楽視など中国の電子製品メーカーの華やかな販売作戦の前に、日本企業は敗北の坂を転がり落ち続けている。
3. 終身雇用制が日本企業にとって耐えがたい負担となりつつある。日本企業、特に大手企業がかつての中国の国有企業の病にかかっている。上司の言いなりに行動する、自分では物事を考えず、積極的に行動もしない現象は普遍化している。社員を解雇することも困難だが、社員が進んで転職するのもなかなか難しい。やる気のある社員でもそうこうしているうちに、仕事への情熱を失ってしまうのだ。
4. 対中国戦略の失敗。特に家電メーカーの中国戦略は最初から間違っている。中国企業との合弁を嫌がったため、ハイアール、長虹、康佳、TCLなどの家電産業の勃興を許し、中国企業とともに成長していく機会を失ってしまった。
もう一つの失敗は、中国をコストの安い製造基地として捉え、短期的な利益を求めるだけで、長期的な視点において企業の対中国戦略を考えていなかった。2000年までは、中国の市場としての消費力を低く見すぎたが、2000年以降は、中国市場のリスクを誇張しすぎた方向に走ってしまった。だから、日本の家電メーカーの中国での存在感がますます低下していったのだ。
5. 創業を奨励する文化は日本では国家的に形成されていない。
インターネット分野で、アップル、Facebook、Google、アマゾンのような大手企業と競争できる大手企業は日本で生まれていない。
6. 日本企業が長年保ってきたイメージが近年、崩れている。
不正会計問題を巻き起こしている東芝やオリンパスのような企業が増えている。
7. 現状に甘んじて進歩を求めず、戦略的な選択と投資を怠った傾向が強い。パナソニック、シャープ、ソニーなどの家電の王者の失敗は、時代の流れにうまく乗れなかったところに原因が求められる。
8. 長期的な低価格競争に耐えられない。中国の家電メーカーの低価格作戦に日本企業は対抗できなくなっている。
9. 上層部が無能で、部下は無原則に従う。サラリーマン社長は3〜4年の任期内では、大過なく過ごせるのを是としている。会社の重役たちは社内政治に長けているが、市場競争にはあまり戦力をもっていない。この点は中国政府の内部に似通う。
以上のようなかなり辛辣な指摘だが、案外、的中しているところがある。この記事も中国のSNSでは多くの喝采を得ている。とくに、日本企業に長年勤めている中国人幹部社員、中には中国現地法人の社長を務める中国人幹部たちからも「その通りだ」「その批判は痛快だ」と拍手が送られている。憂慮すべき問題ではないかと私は考え込んでしまう。
(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)
http://diamond.jp/articles/-/123003
2017年3月31日 池田園子
「モンスター顧客」犯罪寸前クレーマーたちの事件簿
「お客様は神様です」の本来の意味を知っているのか知らないのか、自分の行動を正当化するための文句として使おうとするモンスター顧客。関わる従業員の心身にストレスを与え、ときに店や会社に損害を与えることも……。20〜40代男女が「怖い」「おかしい」と感じた、絶対に関わりたくないモンスター顧客の事例を集めた。(取材・文/池田園子、編集協力/プレスラボ)
「お客様は神様です」を
振りかざして大暴れ
「お客様は神様です」という有名な言葉がある。昨今、モンスター顧客、もっと一般的な表現で「クレーマー」について語るときに、よく用いられる言葉であるが、真意とは異なる意味として捉えられ、広まってしまっているようだ。
この言葉が生まれたのは1960年代。浪曲師で演歌歌手の三波春夫さんがステージに立っているときに、司会を務めた宮尾たか志さんから「三波さんは、お客様をどう思いますか?」と問われ、「お客様は神様だと思いますね」と答えたのが始まりだとされる。
三波さんの言う「お客様」とはステージを観にきた聴衆のこと。聴衆がいなければ歌手の商売は成り立たないわけで、本来は客席にいるお客とステージに立つ演者の関係性からできた言葉なのだ。決して飲食店や小売店に来るお客のことを指しているわけではない。また、客側が自分で言う言葉でもない。
しかし、昨今はモンスター顧客が自身のひどい言動を正当化するために「お金を払って(サービスを受けたり、モノを買ったりして)いるんだから、もっと丁寧な対応をしてよ。『お客様は神様』でしょ!?」と恫喝するような形で使うことがある。もともとの意味を勘違いし、「客がどんなことを言っても受け入れるべき」と当然の権利のように思っているような場合もある。
「お客様は神様です」を振りかざし、暴れまわるモンスター顧客は、対応する従業員の心身にストレスを与えるだけではなく、その言動がエスカレートしてしまうと、店や会社に損害を与える恐れもある、と知っておきたい。
筆者は、これまでダイヤモンド・オンラインで、「モンスター○○」を度々取り上げ、実録として紹介してきた。今回は、通常の感覚では理解しかねるような「モンスター顧客」の事例を20〜40代男女に聞いて集めてみた。こんなモンスター顧客と関わったことはないだろうか。
体調不良を装って女性店員に
介抱されたがるセクハラ顧客
まずは、セクハラ顧客と極端な冷やかし客の事例から。
「家電量販店に勤めています。都心にある大型店舗なので、本当にいろいろなお客さんが来ます。店内で体調が悪くなった風を装って、女性店員に介抱してもらおうとする男性客はときどきいますね。
決まって新卒から勤続2〜3年目の若くてかわいらしい女性店員が標的になります。特定の女性店員を気に入ったのか、同じ男性客が2週間後にやってきて、同じように体調不良を装って同じ女性店員に抱きついたことがあり、さすがに『お客さま……』と呼びかけました。
他にも前に勤めていた店舗で遭遇したんですが、暇つぶしなのか、何か恨みがあるのか、商品について片っ端から店員に解説させて、何も買わずに帰るお客もいました。そのお客は“常連”でしたね。ただ、“買わないのに常連”というたちの悪い人ですけど」(40代男性)
セクハラ顧客は店自体には被害を与えていないと思う人もいるかもしれない。しかし見ず知らずの男性から抱きつかれた女性店員としては、まったくもっていい気はしないだろう。精神的に傷ついている可能性も高く、もし「こういうことがあるならもう働きたくない」と辞めてしまったら、店としては損害を被ったことにもなる。
真昼のファミレスでキレまくり!
店の教育方針をネチネチ指摘する顧客
「ファミレスでパートをしています。お客としてファミレスを使っていた頃には全然気づかなかったんですが、ファミレスで働き始めてから『ここにはモンスター顧客がウヨウヨいる』と気づきました。
たとえば『(バイトの子が)注文を復唱しなかったのは、教育がなっていないだろう』とか『コーヒーのお代わりにもっと気を配らないとダメだ』などと、店長を呼びつけて延々と説教する男性客には困りましたね。店中に響き渡るくらいの大声で喚いていて、店に入ってこようとしていたお客さんの中には、その剣幕を見て帰ってしまう人もいました」(40代女性)
自分自身のイライラやストレスをファミレスの店員にぶつける、単なる八つ当たりとしかいえない行為。各店舗に売上ノルマというものはあるだろう。来店しようとしていた客を逃したり、「この店には悪質なモンスター顧客がいる」と周囲の客に思われ、客離れが起きたりすることを考えると、明らかに店ひいては会社に損害を与えていると言わざるを得ない事例である。
数量限定商品なのに大量買い
営業妨害する顧客
続いての事例を見ていこう。
「自分が新卒で入社・配属されたスーパーマーケットは、クレーマーというかモンスター顧客が西日本エリアで一番多い、という噂の名物店舗でした(笑)。社員の左遷先としても有名で、やっぱりモンスター顧客との遭遇率は高かったです。
たとえば、タイムサービスの数量限定商品(ひとり当たりの購入可能数が決まっている)を、規定の個数を無視して大量買いしようとする客は珍しくなかったです。『おひとり様◯個までです』と断ると、こちらが折れるまで何時間でも大声で騒ぐ悪質な客も……。
毎回警察沙汰にすると店のイメージが悪くなるので、そういう場合は仕方なく売っていましたね。この手の目玉商品は原価割れしていることが多く、普通に仕入れるより安いので、ネットなどで転売して利益を得ていたようです。そこまでして得られる額なんてたかが知れているのに。
他にもひどい客はたくさんいました。たとえば、不要なレシート入れから高額商品の載ったレシートを盗んで、店内で万引きした商品を持って返金を求めにくる客……こちらの想像を超えた、普通なら考えつかないことをやってのけるのが彼らです。『該当日時の監視カメラの映像を確認します』と言ったら撃退できました。
モンスターが跋扈している店に勤めたことで、ある意味で鍛えられましたが、人間としての底辺を見てしまったな、という感想も持ちましたね」(30代女性)
店側としては件のモンスター顧客の対応に時間をとられ、店全体のオペレーションに不都合が生じることになる。人件費を考えると営業妨害になっていることは間違いない。万引き×詐欺のコンボで攻めてくる2つめの事例はもはや犯罪である。
当事者ではなく“第三者”が怒鳴り込み
美容室で彼女の代わりに大暴れする顧客
衝撃のモンスター顧客エピソードはまだまだ続く。
「美容師をしています。後輩美容師が数年前、ものすごいモンスター顧客に当たって、そのストレスで辞めていったことがありました。お客さんは女性で一見おとなしそうなタイプに見えました。黒いロングヘアで『ミディアムにしてパーマをかけてください』というオーダーで、後輩美容師はその通りにしたのですが、気に入らなかったみたいで……。
当日は『切りすぎだと思います。もう2cmは長いほうが良かった』『パーマが強くかかりすぎな気がする』などと、静かに文句を言っていましたが、まさか翌日になって強面のヤンキー風な彼氏が怒鳴り込みにくるとは想像もしませんでした。
女性は一歩後ろに下がって何も言わないんですが、彼氏のほうが『こいつ(彼女)昨日変な髪になってもーたって泣いてたんやで』『誰が担当したんや?』『美容師免許本当に持っとんか?』『下手すぎるやろ』『金返せや!』『訴えたろか』など、関西弁風の口調で暴言を吐き続けて、美容室全体がシーン……。
店長が出てきてなだめても、返金対応をすると言っても、1時間以上居座って延々とキレ続け、明らかに営業妨害でしたね。ほかのお客さんも怯えていましたし。その後、お店宛てにメールもしつこく届いて、結果的に後輩は退職してしまったんです。がんばっていたのに残念でした」(30代女性)
まさか当事者のパートナーと思われる人間が、当事者の不満を代弁するために翌日来店するとは、思いもよらなかったことだろう。しかも、1時間以上も美容院で怒鳴り続け、その後もメールでネチネチと文句を書き送ってくる……その執念には背筋が寒くなる。
美容室側は謝罪し、返金する旨を伝えても、この人物は折れることなく、美容室は最終的に若い貴重な人材をひとり失っている……。
「不良品売りやがって」とキレて
商品を投げつける顧客
最後は、傷害罪では?と思われる驚愕の事例を見て締めたい。
「某大手おもちゃ屋に正社員として勤めていたときの話です。『買ったものが不良品だった!」とキレて怒鳴り込んできた客が、その商品をバイト店員に思いっきり投げつけたことがありました。
その商品は子ども用のクルマ型の乗り物で、けっこうな大きさと重量感がありました。一歩間違うと大怪我を負いますし、暴力行為に他ならないですよね。何よりも疑問だったのは、その客の暴れっぷりを目にしても、毅然とした対応をとってくれない店長でしたが……。
とはいえ、店長が怯え気味だったのにも一応理由はあって、その気持ちはわからなくもないんです。店舗の近隣に反社会的勢力の人が多く住んでいて、治安も良いとはいえない地域で、ガラの悪い客がとにかく多かったんですよね。暴れた客はおそらく普通の人ですが、怖そうな外見や話し方をする人でした」(30代男性)
本来、子ども用のクルマ型の乗り物とは、子どもが乗って楽しむおもちゃである。使い方を明らかに誤っている。「それを人間に向かって力いっぱいぶつけていいですよ」と教えた教科書や参考書などは存在しない。「そんなこと、しちゃう!?」とたまげるしかない、常識を超えた使い方をするモンスター顧客も中にはいるのだから恐ろしい。
もし、あなたが業務中に
モンスター顧客に遭遇したら?
身も蓋もない言い方をすると、モンスター顧客は避けようがない。本シリーズの中で繰り返し言っているが、世の中には実にいろいろな人間がいる。極端な話、自分の常識は他人にとっての非常識である。自分が思いもよらぬ行動に出る人間がいても何らおかしくはないのだ。
ただ、モンスター顧客の発生率が他と比べて高い立地や場所、というのは存在するだろう。とはいえ、一介の従業員が、その店舗を自らの意思で避けようとしても難しい。配属先や転勤・異動先は会社が決めることである。
では、どうすればモンスター顧客の被害を最小限に食い止めることができるのか。最も手軽にできることは、“傷口”が広がるのを抑え、流す“血”を極力少なくすることではないだろうか。
業員側に非はないのに、モンスター顧客が起こしたトラブルの模様が、SNSやネットの掲示板などで広まり、店が閉店に追い込まれた事例もある。あまりにも理不尽すぎる……と絶望的な感情を抱いてしまうが、その類の無用な情報拡散を防ぐことが、モンスター顧客と対峙した際、店側に求められるリスク管理策ではないだろうか。
できることなら縁を持ちたくない、関わりたくないモンスター顧客だが、もしものときの対応を個別に考え、用意しておきたいものだ。
http://diamond.jp/articles/-/123157
【第22回】 2017年3月25日 木原洋美 [医療ジャーナリスト]
新妻が部屋を片づけられないのは「ある病気」が原因だった
足の踏み場もない汚部屋で
片づけられない妻に切れる
(こんなはずじゃなかった)
足の踏み場もないほど散らかった室内を見ながら、実さん(仮名・35歳)は暗澹たる気持ちでいた。
妻、愛美さん(仮名・30歳)とは社内恋愛の末、1ヵ月半ほど前に結婚したばかり。
時間にルーズで忘れっぽいが、好奇心旺盛で面白い発想をする頑張り屋さん。おっちょこちょいで、些細なことでパニクっている様子も愛くるしい。
(この子は僕がいなきゃだめなんだ。守ってあげたい。結婚したらきっと、健気に尽くしてくれる可愛い奥さんになるだろうな)
実さんは、そんなふうに思っていた。
探究心旺盛で努力している姿勢は見える。しかし飽きっぽい。
何より、ここまで片づけられないというのは、まったくの想定外だった。
目の前の惨状は、まさに「汚部屋(おへや)」であり、テレビのニュースやバラエティ番組に登場する「ゴミ屋敷」そのものだ。
しかも、純粋に「ゴミ」だけならまだいいのだが、困ったことに「大切なモノ」が混在している。
結婚前に実さんが贈ったバッグも、愛美さんのお気に入りの服も、新婚旅行のお土産も、銀行印や重要書類も、全部が全部、この山のどこかに埋もれているのだ。
そのため休日である今日も、実さんは、探し物をする愛美さんを待っている。
「2人で映画を観て、外食しよう」
約束していたのだが、財布がない。財布が見つかったと思ったら今度はバッグがない。恐らく、次は鍵を探し始めるのだろう。
「堆積物」のなかを這い回る愛美さんを見ながら、(彼女の頭の中も、この部屋と同じようにごちゃごちゃなんだろうな)と想像する実さん。
まだ新婚ほやほやだというのに、結婚生活を続けて行く自信がぐらぐらとゆらぐ。
「いい加減にしろよ。なんで普段からもっと片づけないんだい。だらしなさすぎるよ、女のくせに」
ぶち切れて叫ぶと、たまらず外に飛び出した。
原因はADD/ADHD
生きづらい「障害」
専門医の診断を受けない限り断定はできないが、愛美さんはADD(注意欠陥障害)もしくはADHD(注意欠陥・多動性障害)の疑いがある(うつ病、統合失調症など、ほかにも片づけられなくなる病気・障害はあるので要注意)。
いわゆる発達障害だ。
両者に共通する症状は、大きく分けて3つある。
第一に「注意力が不安定で、変動しやすい」こと。気が散りやすく、集中力を維持できない。反面、「アイディアに富み、好奇心旺盛」といったプラス面もある。
第二には、「活動のレベルをコントロールできない」こと。極端に活動的(多動)なこともあれば、極端に非活動的(寡動)なこともある。
第三には、「衝動的」なこと。根気が続かず、すぐに別の作業をやりだしたり、人生を突然リセットしたりする。
ADHDは、多動性障害があるため、せかせかと動き回り、落ち着きがなく、衝動的に行動するのが特徴。
一方ADDは、ぼんやりしている傾向があり、のんびりやさんに見える。
こうした傾向は、子ども時代には誰にでも見られるが、成長するにつれ、改善されていくのが普通だ。しかしADDまたはADHDの場合は、大人になっても改善されず、社会生活に支障を来している場合がある。
「時間や金銭にだらしない」「感情的になりやすく、失言が多い」「本来の実力が発揮しきれず、周囲の評価と実力が見合わない」「自分に自信がない」「対人関係を上手く築けない」「鬱になる」などと評価され、女性の場合は何より、「片づけられない」ことが大きな悩みになってしまう。
世間の評価として「片づけられない」は、イコール「家事能力の欠如」「女性失格」と考えられてしまいがちだからだ。一時期、「片づけられない症候群」という言葉も注目された。
実さんと愛美さんの場合も、片づけられないのが夫の方であれば、まったく問題にはならなかっただろう。
もっとも男性の場合は、「仕事が長続きしない」「失言が多い」は女性以上に致命的なため、男女の別なくADD/ADHDが生きづらいことに変わりはない。
本人のせいではない
神経伝達物質の不全
ADD/ADHDの原因は、主に脳の「前頭前野(ぜんとうぜんや)」と「側坐核(そくざかく)」が上手く働いていないためと言われている。
前頭前野は脳の司令塔に当たり、(1)顔の表情や声の様子から、人の気持ちを推し量る、(2)ものを覚えようとする気持ち、(3)やる気、(4)やってはいけないことはしない自制心、(5)感情のコントロール、(6)集中力、(7)さまざまなものごとを同時進行する等々、人間ならではの能力に関係している。
また側坐核は、脳のほぼ真ん中にあり、「やる気」を刺激する脳内物質を分泌する、「やる気スイッチ」のような存在だ。
この2つの領域で神経伝達物質が安定して機能しないことが、ADD/ADHDを引き起こしていると今のところ考えられている。
つまり、性格に問題があるわけでも、心理上の問題でもなく、本人のせいでもない。さらに、脳そのものに問題があるのではなく、頭が悪いわけでもない(むしろ頭の良い人が多いと言われている)。ただ、脳の中で情報をやりとしている神経伝達物質が何らかの理由で上手く分泌されないだけ、ということらしいのだ。
「要するに、罪を憎んで人を憎まず“的”な捉え方が必要です。片づけられないのは、だらしないとか、愛情が薄いとかではなく、脳がそういう状態にあるということで本人のせいではないんです」と、発達障害の専門医は強調する。
ちなみに、脳がそうなってしまう原因は、遺伝や外傷、虐待、学習障害など、多種多様な理由が挙げられている。
一緒に掃除するなど
発想の転換が必要
ADD/ADHDは、全人口の5%は存在しているといわれ、治療法には、薬物療法、コーチング(生き方指南的な)、カウンセリングなどがある。だが、恐らく、実際に治療を受けているのは少数派で、大多数は家庭や職場の「困ったちゃん」と思われることはあっても、それなりに、普通に生活しているはずだ。
というのも、愛美さんほど極端じゃないにしても、「それっぽい人」は、いくらでもいるため、なかなか障害と認識するのは難しいからだ。
では、実さん、愛美さん夫妻はどうしたらいいのか?
「一番いけないのが、女のくせに、と責めることです。それは本人が一番苦しんでいますから、うつ病に追い込んでしまいかねません」
前述の専門医は言う。
「ご主人はまず、家事は妻がするものという思い込みを捨てるべきです。奥さんが上手くできないのであれば、一緒に片付けようとか、僕が掃除するよとか、考えてみてはいかがでしょう。障害ではなく、脳の癖、あるいは個性と考えた方が上手く行きますよ。
ご主人自身も片づけが苦手でしたら、月に数回、お掃除サービスを利用するのもお勧めです。お互いに魅力を感じたからこそ、結婚したのですよね。お掃除をしてもらうためではないと割り切って、一緒に快適に暮らすための発想の転換をしていただきたいですね」
妻が片づけられないのは「愛の試練」と捉え、夫妻にはぜひ、末永く幸せに暮らしていただきたい。
(医療ジャーナリスト 木原洋美)
http://diamond.jp/articles/-/122621
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