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銀行は、放漫経営で傾いた借り手を助けるべきか?
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9200
2017年3月27日 塚崎公義 (久留米大学商学部教授) WEDGE Infinity
■甘やかすと甘える子になる
高校を卒業し、新しく親元を離れて大学に進学した子も多いでしょう。仕送りは、子にとっては「命綱」です。でも、子が受け取った仕送りを浪費してしまい、翌月の仕送りの前借りを頼んで来たら、どうしますか? 母親は「今回だけ」と言って応じようとするかも知れませんが、父親は反対するかもしれません。
なぜ、父親は反対するのでしょうか? 今回、前借りに応じると、次も前借りできるだろうと考えて、浪費癖が悪化しかねないからです。「前借りしなくても飢え死にしない」ことさえ確認できれば、厳しく対応し、子が「二度と浪費はしない」と改心することを期待するわけです。
似たようなことは、保険の世界にもあります。保険に加入したことで、客に甘えが出ると困るのです。たとえば、盗難保険に加入した客が、鍵をかけずに外出するようになったら、保険会社は大損です。車両保険に加入したドライバーが車庫入れを乱暴に行なうようになったら、やはり保険会社は大損です。こうした客の行動を「モラル・ハザード」と呼びます。
モラル・ハザードを防止するために、保険会社は様々な工夫をしています。たとえば、車両保険に「損害額のうち、2万円は運転者の負担、それを超える部分は保険会社の負担とする」という条項を入れておけば、運転手は2万円の負担を避けるために慎重に車庫入れするようになるはずです。
■他人が甘えるようになるのはさらにマズイ
大学4年生が就職も決まり、期末試験も終わり、あとは卒業式を待つだけ、という状態になると、人生最高の日々を過ごすことになりますが、中には単位不足で卒業できない学生もいるでしょう。そうした学生から「先生が単位を下されば卒業出来るのです。せっかく一流企業に内定をいただいているのに、卒業できなければ……」と泣きつかれる教授もいるでしょう。しかし、甘やかしてはなりません。なぜでしょうか?
それは、「塚崎先生は、泣きつけば単位をくれる」という話が学生間で拡がるので、来年以降の4年生が勉強しなくなるからです。一人の学生が一流企業の就職内定を棒に振るのと、来年以降の4年生が一切勉強しなくなるのと、比較すれば、心を鬼にして学生を留年させるのは、仕方のないことでしょう。
■放漫経営をして傾いた借り手を、銀行が支えるか否か、難しい判断
放漫経営をしている企業が融資の返済を待って欲しいと銀行に依頼してきた時、銀行としては、悩みます。強引に融資を返済させれば、借り手は倒産し、従業員は失業するでしょう。銀行自身にとっても、借り手の工場設備がスクラップ業者に二束三文で買い叩かれてしまうと、ほどんど回収出来なくなりかねませんから、生かさず殺さず、少しずつ回収する方が得でしょう。
しかし、返済を待ってあげると、他の借り手も「我が社が放漫経営をしても、銀行は我が社を支えてくれるだろう」と考えて、放漫経営をするかもしれません。それでは銀行は堪りません。
理屈上は、「放漫経営をしていた会社のうち、10社に1社は、見殺しにする」といった対応が考えられます。そうなれば、すべての会社が「自社が見殺しにされる可能性」を考えて、慎重に経営するようになるでしょうから。もっとも、「どの会社を支え、どの会社を見殺しにするのかをルーレットで決める」のは、気持ちの良いものではありませんね(笑)。
ちなみに、東芝については、放漫経営だったと言うべきか否か、筆者は事情に詳しくありませんが、「ここで東芝を救済したら、他社も東芝を真似て、赤字経営をするようになるから、見せしめのために、東芝を見殺しにしよう」という話にはなっていないようです。「借り手の図体が大きすぎるので、見放した時の日本経済へのインパクトや銀行の収益へのインパクトが大きすぎる」という事かもしれませんね。
■銀行の放漫経営は事情が異なる面も
銀行が放漫経営を行った場合、政府・日銀がこれを救済するか否か、という問題もあります。基本的な考え方は同じで、放漫経営を行った銀行を救済すると、他行も放漫経営をしかねない、ということが制約要因となるわけですが、一般企業の場合と銀行の場合は、若干事情が異なるので、やっかいです。
第一に、銀行が倒産すると、一般企業が倒産した場合と比べて、経済に与える打撃が桁違いに大きくなります。特に、大手銀行の倒産は、金融危機を招き、経済を深刻な不況に陥れる可能性が高いと言われています。リーマン・ショックは、倒産したのが銀行ではなく証券会社でしたが、金融市場のみならず、世界経済に極めて大きな打撃を与えました。
米国政府がリーマン・ブラザーズを見殺しにした本当の理由は不明ですが、「モラル・ハザードを防止するためだった」という説も有力です。そうだとすると、「浪費癖のあるバカ息子に仕送りしないでいたら、バカ息子が餓死してしまった」といった所でしょうか。「角を矯めて牛を殺す」と言う言葉がありましたね。
今ひとつの問題は、銀行の放漫経営がバブル時に生じやすい、ということです。「今期で退任する頭取が、自分の花道を飾るために、今期の決算のことだけを考えて赤字企業にも積極的に貸し込んだ」といった事例であれば、見せしめとして当該銀行を見殺しにすることで、他行が将来モラル・ハザードに陥る可能性を減らすことが出来るでしょう。しかし、バブルに踊った銀行を見殺しにするのは、事情が異なります。
■バブルに踊った銀行
バブルに踊った銀行が苦境に陥るのは、バブルが崩壊した後です。ここで見せしめのために当該銀行を見殺しにしても、「次のバブルが発生した時にはバブルに踊るな」というメッセージにしかなりません。一方で、バブル期には、どの銀行も多かれ少なかれ「放漫経営」をしているでしょうから、金融機関の連鎖倒産が発生しやすく、「どこまで見殺しにして、どこから助けるのか」という線引も困難です。
結局、リーマン・ショックの時には、リーマン・ブラザーズだけを見殺しにして、他はすべて救済したわけですが、「そんな事なら、リーマン・ブラザーズも救済しておけば良かったのに」というのが、筆者の感想です。
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