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シムズ理論が日本政府のご都合解釈で「悪魔の経済学」になる理由=斎藤満
2017年3月23日 ニュース
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浜田宏一内閣官房参与に「目から鱗」と言わしめたシムズ理論。日本はこれをご都合主義で活用しようとしていますが、その実態は、日本国民にとって受け入れがたい理論です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年3月22日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
シムズ理論の「良いところ取り」が、日本経済を窮地に追い込む
浜田宏一氏も「目から鱗」シムズ理論の正体とは?
安倍総理の経済アドバイザーを務める浜田宏一内閣官房参与(米エール大学名誉教授)。彼をして「目から鱗」と言わしめたのが、いわゆる「シムズ理論」です。これは2011年にノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授の「物価水準の財政理論」を言います。
これはざっくり言えば、物価目標を達成するには金融政策では限界があるとして、財政支出を拡大し、増税は先送りして、国民に「政府は債務を返済できない」と不安がらせ、返済しきれない分を物価上昇で穴埋めする、という考え方です。つまり、政府の無責任によって国の信用を低下させ、通貨価値を下落させることで物価を押し上げようというものです。
【関連】アベノミクスの主犯・浜田教授が執心する「シムズ理論」の何が危険か=田中徹郎
これがなぜ「目から鱗」なのか理解に苦しみますが、早い話がアフリカの例えばジンバブエのように、政府は財政赤字を出しても、その債務返済ができないために、誰もその国の通貨を信用せず、持ちたがらず、従って天文学的なインフレが生じる状況を先進国の日本でも再現せよ、と言っているようなものです。インフレになれば、これを抑える引き締め手段はあるから大丈夫と言います。
先進国の間ではすでに財政による成長支援、インフレ率引き上げが採用されつつあり、その流れの中にあって、日本も積極財政に転換しました。そこへこの「シムズ理論」が入ってきたために、政府は公然と「2020年度もプライマリーバランスは均衡せず、8兆円以上の赤字が残る」と言ってはばかりません。
国民を不安にさせるのが「シムズ理論」のミソ
この「シムズ理論」の核心は、政府の「いい加減さ」にあり、国債も全部は償還できない、財政赤字を増税などで穴埋めもしない、と言って国民を不安に陥れることにあります。そして2017年度予算が通りました。歳出が97兆4500億円、税収は57兆7100億円で、前年に比べて税収が1000億円増加する一方、歳出は7000億円増加し、「いい加減さ」は見せました。
ところが、この2017年度予算に対して、財務省幹部は「管理された財政拡張」つまり、歳出増大によって借金は増えるが、まだ財政当局のコントロール下にある、と言っています。これは、ある意味では「シムズ理論」の「邪魔」になります。国民に不安にさせるのが「シムズ理論」のミソですが、当局の管理下にあると説明しては、いずれ赤字削減策がとられると期待させてしまいます。
そうなると、将来の増税、歳出削減などを国民が予想するので、結果的にデフレになる、とシムズ教授自ら指摘します。日本はこれまでさんざん財政赤字を拡大し、世界の主要国の間でも最もGDP比で債務残高が大きな国となりました。それでもインフレにならない理由として、シムズ教授は「いずれ増税で穴埋めされる」との期待がデフレをもたらしていると説明しているのです。
Next: 中途半端な「シムズ理論」の採用で日本国民が犠牲になる
中途半端な「シムズ理論」の採用で日本国民が犠牲になる
シムズ理論自体に大いなる疑問を持ちますが、今の日本は、このシムズ理論を中途半端に利用しようとしているように見えます。財政赤字拡大を正当化する裏付け理論としてシムズ理論を使いながら、その処方箋に従わず、財政赤字は当局の管理下にある、としています。これでは不安からくる通貨価値の下落にはつながりません。
もっとも、当局が言うほど、今の日本では財政赤字が当局のコントロール下にあるとも思えません。そうなると、都合の良い所だけシムズ理論を使って財政赤字を正当化し、それでも将来の赤字補てんをイメージさせるために、かえって赤字がデフレ要因となり、従ってインフレ目標はいつになっても達成されず、ずるずると財政赤字だけが拡大する形になります。
ガスに火をつければお湯も沸き、料理もできますが、ガスを全開にしながら火をつけなければ、ガス中毒になって倒れてしまいます。抗生物質も菌が死ぬまで飲み切らずに、中途半端に止めてしまうと、抗生物質の利かない菌が発生して手に負えなくなります。
シムズ理論に絶対的な評価をするのであれば、とことんその処方箋に従って使う必要があり、インフレの実現が見えれば早急に引き締め転換する必要があります。逆に、シムズ理論が望ましい成果をもたらさないとの疑問があれば、中途半端にこれを使わず、つまり安易に財政赤字を拡大しないことです。
財政赤字の縮小に目途が立ち、年金など将来の不安もなくなれば、消費者も安心して消費を拡大し、需要の拡大、成長促進となり、デフレも心配なくなります。そもそも、国民は物価が上がらない状況に不満はなく、逆に賃金が上がらないままインフレになることこそ、国民の敵です。国民生活を犠牲にして政府の債務負担だけ軽減されるインフレは誰も望んでいません。
理論の実態がわかれば、日本では「シムズ理論」は国民が受け入れないと思います。インフレにして財政の実質負担を軽くすることは、汗水たらして蓄えた貯蓄の価値がインフレで減少することの裏返しで、国民を犠牲にした財政再建で、それに使われる「シムズ理論」は「悪魔の経済学」とも言えます。それよりも、国民にとっては今のインフレ・ゼロの方がはるかにましです。
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『マンさんの経済あらかると』(2017年3月22日号)より抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
http://www.mag2.com/p/money/161563?
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