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退職金の受け取りは「一時金」と「年金」どちらがトクか
http://diamond.jp/articles/-/121992
2017.3.22 深田晶恵 ダイヤモンド・オンライン
■運用率2%なら「年金」が
断然おトクに見えるはずが…
年度末が近づいて、3月いっぱいで定年退職する人の相談が相次いだ。多くは、60歳以降の収入ダウンに備えた収支の見直しや生活設計であるが、今年は「退職金の受け取り方法」についての相談もあった。
サラリーマンの退職金の受け取り方法は、「一時金のみ」「一時金+一部を年金」「すべて年金」などいくつかのパターンがあるが、これらのパターンを選択できるかどうかは勤務先により異なる。
「年金」を選択すると、退職金原資が受け取り期間中も引き続き運用されるため、受け取り総額は「一時金」よりも多くなるのが一般的だ。運用率は企業によって異なるが、最近は1〜2%程度のようだ。マイナス金利政策の状況下では、銀行の定期預金に比べてはるかに魅力的に映るため、選択の自由があるなら「年金」で受け取りたいと考える人が多い。
たとえば、勤続38年の人が退職金2000万円をすべて一時金で受け取ると、手取り額は2000万円となる。退職金一時金の課税方法は、勤続年数に応じた「退職所得控除」というみなし経費を差し引くことができるうえ、他の所得と分けて税金計算をするので、他の所得に比べて納税者に有利な計算方法といえる。勤続38年だと退職所得控除が2060万円になるため、所得税・住民税はかからず、額面=手取りとなる。
一方、運用率2%の「10年確定年金」を選択すると、60歳から69歳までの年金額は約221万円。10年間の受け取り総額は約2210万円なので、単純計算すると、「一時金」よりも「年金」のほうがおトクに見える。大多数の退職者は「60歳で2000万円を一時金で受け取っても、自分で2%の運用はできない。年金受け取りがトク」と判断する。
今のご時世、「自分で2%の運用はできない」と考えるのは正しい。しかし、退職金の「年金受け取り」は雑所得として給与や公的年金と合算して課税されるため、所得税・住民税はもちろんのこと、国民健康保険料や介護保険料もアップする。つまり、必ずしも「年金」がトクとも言い切れないのである。
■「全額一時金受け取り」の
手取りが最も多くなる!
相談事例は個別ケースであり守秘義務があるため、この場で公表できないので、わかりやすい金額でいくつか試算してみた。一緒にケースを見ていこう。前提条件は、退職金2000万円、年金受け取りを選択した場合の運用率は2%、60〜64歳は再雇用で働き年収は350万円、65歳から公的年金220万円の受給がスタート、東京23区在住の人。
まずは、試算A(60〜69歳の10年間の全収入比較)を見てほしい。
試算Aは「全額一時金」、「全額10年確定年金」、「一時金と10年確定年金を半々」の3パターンについて、再雇用後の給与と公的年金を含めた10年間の額面収入と手取り収入を比較したものだ。
額面収入では、2%の運用の効果もあり「全額年金受け取り」が最も多くなる。しかし、手取り収入で見ると1位は「全額一時金受け取り」に取って代わる。この試算結果を意外に思う人も多いだろう。年金受け取りをした場合の手取り収入を押し下げているのは、税金と社会保険料だ。試算Aの「中身」を見てみる。
退職金を全額一時金で受け取ると(ケースA-1)、60代前半は給与のみ、65歳以降は公的年金のみの収入となる。税金と社会保険料の負担は、それぞれ年68万円と年23万円。
退職金2000万円を全額年金受け取り(10年確定年金)すると(ケースA-2)、税金と社会保険料の負担は、60代前半が年89万円、後半は70万円とはね上がる。これにより「逆転現象」が起こるのである。
「やっぱり税金は高いなぁ」と考えるのは早計。確かに再雇用で働く60代前半に退職年金を受け取ると、所得税の税率が高くなるため、税負担は多少重たくなる。しかし、60代前半の働いている間は社会保険に加入しているので、退職年金を受け取っても社会保険料負担には変化はない。
手取り収入を押し下げている大きな要因は、完全リタイアした後に加入する国民健康保険と介護保険の保険料負担である。ケースA-1とA-2の65歳以降の額面年収は2倍程度であるのに対し、税金と社会保険料負担は、23万円から70万円と約3倍に増えている。
2000万円を「一時金」と「10年確定年金」に半分ずつにするとどうかと思い試算してみたのがケースA-3。手取り収入は、「全額年金受け取り」よりも多くなったが、それでも「全額一時金受け取り」にはかなわないという結果になった。
介護保険が導入された2000年から毎年「年金生活者の手取り収入試算」を定点観測で行っている。なので、高齢者の社会保険料負担が年々増えていることを実感している。今回の試算をする前に、うっすらと「全額年金受け取りは不利になるだろう。組み合わせが一番有利かも」と考えていたが、私の予想は外れた。
■年金受け取り期間を長くしても
税金と社会保険料の負担は重い
ここで試算をやめてもよかったのだが、年金の受け取り期間を長くして1年あたりの年金額を少なくすると、2%の運用の効果を得られるかもしれないと思い、「15年確定年金」で再試算してみた。まずは、結果から。
試算Bは、「全額一時金」、「全額15年確定年金」、「一時金と15年確定年金を半々」の3パターンについて、定年後の15年間の額面収入と手取り収入を比較したものだ。
結果は、「10年間比較」の試算Aと変わらないものとなった。受取期間を長くして退職年金を「薄く」もらうことにより、税金と社会保険料の負担を抑えられるかと考えたが、無理だった。「一時金受け取り」が手取り収入1位となった。内訳は、次の通り。
いくつかのパターンを試算した結果、預金金利よりもはるかに高い2%の運用率であったとしても、年金受け取りすることで増える税金と社会保険料の負担は、運用益ではカバーできないということがわかった。
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