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「国の借金」は心配し過ぎてはいけない
記者の眼
過度の悲観論は事態の悪化を招くだけ
2017年3月21日(火)
水野 孝彦
「国の借金は膨大で、財政再建を急がなければならない」――。そうした意見を聞く機会は少なくない。しかし、それは心配のし過ぎではないかと記者は考える。
例えば、3月14日時点で日本の長期金利は0.09%。期間10年の国債の利回りが指標となっている。仮に日本政府の借金が増え過ぎて本当に困っているなら、ほぼゼロ金利の国債を買う投資家はいないはずだ。しかし、30年物の国債でも金利は0.875%。40年物国債で1.055%。少なくとも投資家は、国の借金を今の時点で心配してはいないのではないだろうか。
以前、日経ビジネス本誌のコラム「気鋭の経済論点」に寄稿をお願いしたこともあるソシエテ・ジェネラル証券のチーフエコノミスト、会田卓司氏が2月3日に開催したメディア関係者向けのセミナーで財政再建を急ぎ過ぎることの危険性を指摘した。
内閣府の試算を疑問視
会田氏が疑問視するのは、2017年1月25日の経済財政諮問会議に内閣府が提出した「中長期の経済財政に関する試算」についてだ。内閣府の試算では2016年度の「一般政府の財政収支」の赤字はGDP対比で5.1%。2015年度は3.3%の赤字なので大幅な悪化を予測している。その赤字幅はこの数年間、徐々に減少していた。会田氏によると「一般政府の財政収支の赤字が確定するには国民経済計算確報を待たねばならず1年くらいの時間が掛かる。しかし、四半期ごとに公表されている日銀資金循環統計から傾向は追えて、2016年度の赤字が大幅に拡大する状況とは思えない」という。「2016年の後半は円安によって税収が増加するはず」(会田氏)なのも財政収支にはプラスだ。
にも関わらず、これまでのトレンドに反して、なぜ赤字が大幅に拡大する試算となるのか疑問というわけだ。その悲観的な2016年度の予想を起点に、将来の財政赤字を予測すると結果として、政府が掲げる「2020年度の財政健全化目標の達成」も危いという予測が導かれる。追加の歳出削減が必要という声が高まることを会田氏は懸念している。それがデフレからの完全脱却を遠のかせるためだ。
ソシエテ・ジェネラル証券のチーフエコノミスト、会田卓司氏。エコノミストとしてメリルリンチ日本証券やヘッジファンドなどでの勤務を経て現職。
財政再建を急ぐ理由は見当たらない
さらに、疑問点はあるものの1月25日提出の「中長期の経済財政に関する試算」を前提として受け入れて、将来を考えてみても財政再建を加速させる理由はないと会田氏は指摘する。「ベースラインケース」(中長期的に経済成長率は実質1%弱、名目1%半ば程度)と呼ばれる2つあるシナリオのうち悲観的なシナリオでは、2025年の「一般政府の財政収支」の赤字をGDP対比で3.9%と予測している。2025年は団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、65歳以上の高齢者が人口の3割となる時期だ。介護や医療への財政支出の増加が予想され、財政再建を急ぐべきという主張の根拠にもなっている。少子高齢化で家計の貯蓄率が下がれば、政府が発行する国債を消化できず、海外から資金を調達せざるを得なくなる。それが深刻なインフレを招いたり、国債の格下げによってギリシャの様な債務危機が起きかねないと懸念する声もある。
しかし、内閣府の予測通りなら2025年の財政収支の赤字がGDP対比で3.9%だったとしても、家計と企業を合わせた民間の貯蓄はGDP対比で8.5%もある。その結果、経常収支も大幅な黒字になる。「これは政府の赤字を補ったうえで、資金が余っているから外国にお金を貸している状態。国債がファイナンスできないことを心配して、今の時点で財政再建を急ぐ必要はないことを示している」と会田氏は指摘する。
少子高齢化が深刻化する時期でも民間の貯蓄が黒字という予測には意外感があるかもしれない。しかし、その理由の1つは政府が介護や医療に巨額の資金を投じれば、そこに雇用が生まれることだ。事業者や労働者は貯金もできるし、財政支出のかなりの部分は税収として国に戻ってくる。個人はお金を使えば、それっきりかもしれない。しかし、国がお金を使うことは雇用を生み出し、税収も増やす。これが「ミクロ(個人や企業のレベル)とマクロ(国家のレベル)の違い」(会田氏)になる。
大切なのは魅力のある国であり続けること
財政再建を急ぐ必要はないのに、専門家の間でなぜ財政再建の必要性が繰り返し強調されるのか。「国の将来を想っての使命感からだろうが、危機感をあおる必要はない」と会田氏は話す。何十年か先には、民間の貯蓄で政府の赤字を補えず、経常収支も赤字続きとなり、海外の投資家に国債を買ってもらう時代が来ると会田氏は予測する。大事なのは、その時に海外の投資家にとって魅力のある国であり続けることだ。将来を過度に不安視することで、設備投資や若者への教育に十分な資金を回さなければ、それ自体が日本の経済力を弱めてしまう。考えてみれば、この「失われた20年」と呼ばれるデフレの時代はその繰り返しだった。
ちなみに経常収支が赤字続きになったとしても、それは日本の凋落を意味しない。例えば、米国は財政赤字が続き、経常収支も赤字続きだが、アップルやグーグルを生み出し、世界のリーダー国であり続けている。「危機を意識しすぎると、さらに事態は悪化する。大切なのは将来への『抑制された悲観論』と『楽観論』を持つことだ」と会田氏。記者も同意見だ。
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/031700429
焦点が定まらない「働き方改革」は前途多難
上野泰也のエコノミック・ソナー
安倍首相は「人口動態に全く懸念なし」と明言
2017年3月21日(火)
上野 泰也
現在、「働き方改革」の最大のテーマは、残業時間の法定上限見直しだ。しかし本来は、「少子化対策や女性の社会進出の推進」「非正規雇用の待遇改善」ほか、改革のポイントは多岐にわたるはずである。(写真:PIXTA)
安倍内閣は現在、成長戦略の重要な柱の一つとして、国民の多くにとり身近なテーマである「働き方改革」に注力している。
ややトリビアめいてしまうが、この「働き方改革」という言葉が全国紙に初めて登場したのは今から13年半ほど前、2003年11月中旬のことである。4道府県(北海道・千葉・大阪・熊本)の女性知事が国に対し、男女共同参画に向けた働き方改革などを提言した時だった。そもそもは、女性の視点から出てきたスローガンだったわけである。
元々は「ホワイトカラー・エグゼンプション」がテーマだった
しかし、その3〜4年後の「働き方改革」の議論において焦点になったのは、会社員の一部を労働時間規制から外す「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」を労働基準法の改正で実現させるかどうかだった。今度は企業経営者の側から、ホワイトカラーの労働時間規制はもはや実態に合わなくなっているから改革(法改正)が必要だという主張が展開されたわけである。
働いた時間の長さではなく、働いたことによる成果の有無・大小で、労働の価値を判断して給料を支払う。この考え方は、ホワイトカラーの場合は合理性がある。なぜなら、ただ単純に時間と比例して残業代を払う場合、仕事を進めるペースをあえて落としてより長い時間働くことによって受け取るお金を増やそうというインセンティブが働いてしまうからである。生産性の高い働き方を実行した人は、より少ない労働時間で従来と同じ給与を受け取ることができる(はずである)。その場合、増えた余暇をさまざまな活動にあてることができ、「ワークライフバランス」改善にもつながってくる。
「残業代ゼロ」横行の懸念から、今も導入に至らず
ただ、上記の方針を貫徹しようとする場合、現実には問題点がいくつもある。たとえば、@「成果」を公平かつ客観的に評価して給与の大小に結びつける仕組みを作ることはどこまで可能か、A制度が悪用されて「残業代ゼロ」が横行してしまう労働者が不利益を被ることにならないか、といった点である。このAのリスクをもっぱら前面に出して、労働組合の側は「ホワイトカラー・エグゼンプション」に強く反対している。
2014年6月の成長戦略に「成果で評価される働き方改革」が盛り込まれるなど、時間ではなく成果により評価する「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を目指す政府の取り組みは、現在に至るまで続いている。
この間、2013年には、少子化対策の一環で「働き方改革」が注目された。政府の有識者会議「少子化危機突破タスクフォース」は同年5月の提言で、出生率回復に向けた「3本の矢」として、子育て支援、結婚・妊娠・出産支援に加え、働き方改革を挙げた。これをうけて、政府は6月に「少子化危機突破のための緊急対策」を決定。具体的には、子どもが3歳になるまで育児休暇取得や短時間勤務をしやすくするよう企業に働きかけることなどがうたわれた。
そして現在の最大のテーマは、残業時間の法定上限見直し
そして現在、「働き方改革」の最大のテーマになっているのは、周知の通り、残業時間の法定上限見直しである。政府は年720時間(月平均60時間)を基本的な上限とし、繁忙期は例外として「月100時間未満」まで認める労働基準法改正案を年内に国会に提出して、2019年度にも残業の上限規制を導入する構えである。
安倍首相は2016年3月25日、第6回一億総活躍国民会議で、「働き方改革」について、次のように発言した。
第一に、長時間労働の是正であります。長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や女性の活躍を阻む原因となっています。戦後の高度経済成長期以来浸透してきた『睡眠時間が少ないことを自慢し、超多忙なことが生産的だ』といった価値観でありますが、これは段々ですが、そうでもない、生産性もないという雰囲気が、この3年間で大分変わり始めているのではないかと思います。私はまだ若いサラリーマンの頃、こういう価値観があって、8時くらいに帰ろうとするともう帰るの、という雰囲気があったわけですが、企業側に聞いたところ、政府が全体の労働時間の抑制や働き方を変えていくことについて、旗振り役を期待しているかということについて期待している人が90%ということは、皆帰るのだったら帰りたいということに変わり始めている。やっとそういう雰囲気に変わり始めたので、ここは、正に我々が更に背中を押していくことが大切であろうと思います。
(官邸のウェブサイト 2016年3月25日「一億総活躍国民会議」)
そして、同年6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」には、次のくだりがある。
(長時間労働の是正)
長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参画を阻む原因となっている。戦後の高度経済成長期以来浸透してきた「睡眠時間が少ないことを自慢し、超多忙なことが生産的だ」といった価値観が、この3年間で変わり始めている。長時間労働の是正は、労働の質を高めることにより、多様なライフスタイルを可能にし、ひいては生産性の向上につながる。今こそ、長時間労働の是正に向けて背中を押していくことが重要である。
(官邸のウェブサイト内PDF資料「働き方改革に関する総理発言・閣議決定」 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai1/siryou3.pdf )
悪しき慣行の見直しに取り組む首相のメッセージに共感
「長時間労働が当たり前」「長時間働くのが美徳」「早く帰るのは会社の組織風土の中では異端だ」といった、筆者も見聞きすることがあった日本の悪しき慣行の見直しに取り組もうという安倍首相のメッセージに、筆者は強い共感を覚える(付言すると、日銀の金融緩和への過大な期待など、経済政策の面で意見が異なることが多い筆者の場合、これは珍しいことである)。
しかし、この「働き方改革」は、前途多難だと言わざるを得ない。
まず、この改革は、視点(主たる狙い)が定まっていない。
すでに述べた経緯などから浮かび上がるように、今回の働き方改革は、@少子化対策および女性の社会進出を推進することに主たる狙いがあるのか、それとも、A社会問題と化している非正規雇用の待遇改善(同一労働同一賃金の実現)が最重要なのか、あるいは、B過労死事件の発生でやはり社会問題となっている長時間労働の是正(残業規制強化)が最大の目玉なのか、それとも、C経営サイドから要望が根強い「ホワイトカラー・エグゼンプション」など賃金制度の抜本見直しが実は最大の主役なのか。
生産性が向上しないと、「仕事が回らない」事態も
さらに、仮に上記Bが早期に実行に移される場合、労働者の業務遂行において生産性がにわかに向上しないと、労働時間の制約から半ば強制的に退社させられて、いわゆる「仕事が回らない」事態に陥ってしまうケースも考えられる。これは当面の経済活動にとり、ネガティブとなる可能性が高い。また、エコノミストの間では、残業代の支払い額がマクロで顕著に減少した場合、個人消費に下押し圧力がかかるのではと危ぶむ声もあがっている。
もう一つ、筆者が危惧しているのは、女性・高齢者の積極活用や「働き方改革」に政府が注力するあまり、日本経済の長期停滞さらには衰退に結びつく可能性が高い人口減・少子高齢化の着実な進行という問題への取り組みがおろそかになってしまわないかという点である。
おろそかになる人口減・少子高齢化対策
安倍首相は2016年9月21日にニューヨークで講演した際に、次のように述べた。
最後に、良いニュースをお伝えして、スピーチを締めくくりたいと思います。私は、日本の人口動態に全く懸念を持っていません。日本では、この3年で生産年齢人口が300万人減少しました。しかし、名目GDPは成長しました。
今を嘆くより、未来を見つめましょう。日本は高齢化しているかもしれません。日本は人口が減少しているかもしれません。しかし、この現状が、我々に改革のインセンティブを与えます。我々は、生産性を高めようとし続けます。ロボットからワイヤレスセンサー、ビッグデータからAIまで、全てのデジタル技術、新しいものを活用しようと思い続けます。ですから日本の人口動態は、逆説的ですが、重荷ではなく、ボーナスなのです。
(官邸のウェブサイト 2016年9月21日「安倍総理と金融関係者との対話」)
この発言、特に「日本の人口動態に全く懸念を持っていない」というくだりに、筆者はどうしても賛同できない。
「人あっての経済」というのが、筆者の根本的な考えである。労働生産性さえ向上すれば生産年齢人口が減少しても乗り切れるはずだという主張もあるが、では、具体的にどういったタイムスパンで何をどうやれば生産性が上昇するのか。テクノロジー先進国の米国でさえ、労働生産性の伸びの停滞に頭を悩ませているのが現在の状況である。
人口の高齢化が急速かつ着実に進んでいるため社会のムードが沈滞しがちであり、しかも「外」からサプライサイドに刺激を受けること(海外からの「よそ者」受け入れによる社会経済の活性化)には依然として消極的な日本という国が、目覚ましい生産性の伸びによって人口減・少子高齢化の重しをこの先完全に跳ね返していけるとは、筆者にはどうしても思えない。
成長力への期待はかなり薄らいでいる
2012年12月に「アベノミクス」が開始されてから4年以上の月日が経過した。その間、日本経済全体の中長期的なビューはどう変わったか。
家計の場合、2013年にかけて(マイナス圏の中ながら)いったん急上昇していた経済成長力DI(回答比率「より高い成長が見込める」−「より低い成長しか見込めない」)はその後、ジリ貧とでも言えそうな動きになっている<■図1>。
■図1:生活意識に関するアンケート調査 経済成長力D1
(出所)日銀
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/031600086/zu01.jpg
企業の場合、実質成長率の今後5年間の見通しは2011年度の調査で+1.5%まで上昇したものの、直近の2016年度調査では+1.0%に下がり、2008年度の水準に逆戻りした<■図2>。
■図2:企業行動に関するアンケート調査 今後5年間の見通し 名目および実質成長率
(出所)内閣府
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/031600086/zu02.jpg
有効求人倍率など雇用関連の数字はきわめて良好だが、これは若年人口減少と過剰供給構造温存の組み合わせの中で起きている現象であり、経済の実力が上向いた兆候だとは、家計や企業は認識していない。人口対策の本格展開が引き続き待たれる。
このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/031600086/
社員の心を変えたいなら「説教」の前に「整頓」
トップリーダーかく語りき
武蔵野・小山昇社長の「写真で読み解く整理整頓」―前編:整頓のツボ
2017年3月21日(火)
日経トップリーダー
ダスキンの加盟店業務の傍ら、中小企業の経営指導を630社以上手掛ける、武蔵野(東京都小金井市)の小山昇社長。徹底した現場主義で、人間心理に即した実践的な経営哲学と手法を説く。その持論にはときにアンチの声も聞かれるが、熱烈なファンが多くいる。
そんな小山社長が人材教育の軸に据えるのが、整理整頓。特に整頓だ。新刊の刊行に寄せて、小山社長が考える整理整頓のツボを、前後篇に分けてご紹介する。
うちの社員を性根から変えたい。部下の根性を叩き直したい。そう願ったことが一度もない社長や幹部は、まずいないでしょう。かくいう私も未だにときどき、そんな抑えきれない衝動に駆られます。
しかし、社長や幹部が取り組む「社員の心を変える人材教育」のほとんどが、失敗に終わります。
「ありがたいお話」では、社員は変わらない
その理由は、私の見るところ、社員の心を変えたいと強く願うあまり、社員の心に直接、訴えかけるからです。名経営者や名僧など、人格者と定評ある人物を研修に呼んで、みんなに「ありがたいお話」を聞かせる。あるいは、良書を読んで感動を語り合う。さらには、「心を一つに頑張ろう!」と皆で叫んで気勢を上げる。
その心意気は尊いですが、悲しいかな、効果は今ひとつです。抜本的な問題解決になりません。
人の心は不安定なものです。研修の直後には、やる気がみなぎっていた社員の「心の風船」も、帰宅後、奥さんにちょっと一言、嫌味を言われた瞬間、プシューッとしぼんでしまいます。これくらい安定しない心に対し、どんなに良い栄養を与えたところで、効果は長続きしません。
だから私は、社員の心に直接働きかける教育はまずしません。
形なき心ではなく、形あるモノに働きかけます。
その筆頭が、環境整備。特に整頓です。仕事に使うモノを所定の位置に、所定の置き方で戻す。まず、この1点に絞って徹底させます。
本来「1、2、3……」の順に並ぶべきハンガーが、「6、1、2……」と並んでいるのを、社長(右)がダメ出し。4週間に1回、全社を1日がかりで回り、整頓や整理、清掃の状況をチェックする。そこでの1コマ(写真:的野弘路)
我が社は、整頓を徹底している――。こう書いたばかりですが、「徹底」は、曖昧なわりには乱用されがちで、混乱を招きやすい言葉です。
私は「徹底」を、次のように定義しています。
「他人が見たら異常と思う結果にすること」
我が社の整頓は「異常」である
整頓の基本は「定位置管理」です。決まった場所に、決まったものを置く。向きをそろえて1ミリもずらさず、元あった場所にピタリと戻す。そのために私が経営する武蔵野の現場で、どんな工夫をしているか、ざっと写真で紹介します。
「本当に、ここまでやる必要があるか」
「この会社は、ちょっと異常じゃないか」
そう感じていただけるなら、何よりです。
ポリエチレンシートを文房具の形にくりぬき、ピタリと収納。ハサミやカッターを取り出しやすいよう、立てているのもポイントだ(写真:鈴木愛子)
文房具にマグネットシートを貼って、ホワイトボードにペタリ。原寸大のカラーコピーで「貼り場所」を一目瞭然にする(写真:的野弘路)
ノートパソコンに電卓とテンキー、マウスをセットにして置くのがルール。原寸大のカラーコピーで置き場所を示せば、誰でもピタリと戻す(写真:鈴木愛子)
清掃サービスを手掛ける部署。洗剤も爪楊枝も何個の在庫を持つかをルール化して徹底。すべての備品をナンバリングする(写真:鈴木愛子)
予備のトイレットペーパーも「ココに2個置く」のがルールだと、誰もが一目でわかる(写真:的野弘路)
武蔵野では毎朝、始業後に30分、パート・アルバイトも含めた全従業員が「環境整備」に取り組みます。当番表に従って、床にワックスがけをしたり、蛍光灯を磨いたり、窓を拭いたり、会社の周辺のゴミ拾いをしたり、各自が自分に割り当てられた場所をきれいにします。
毎朝30分、就業時間内に全従業員が、環境整備に取り組む。特に社長のチェックが入る日は、窓ふきや天井の掃除まで入念に行われる(写真:的野弘路)
このようなことをしていると、ときどき、「全社で、掃除に取り組んでいるのですね」と、勘違いされる方がいます。
掃除と環境整備は、一見、似ているようで、目的がまったく違います。
大事なポイントなので、しっかり押さえてください。
自宅の掃除と、職場の環境整備の違いとは?
掃除の目的は、ある一定の場所を「きれいにして、快適に過ごせるようにする」ことです。
一方、環境整備は、四字熟語を分解すれば、「環境を整え、備える」ことです。
それでは、何に備えるのでしょうか。
もちろん、仕事に備える。
環境整備の目的は、「仕事をやりやすくする」ことです。引いては、「生産性を高め、儲かりやすくする」ことです。
先ほど写真も使って紹介した定位置管理は、基本中の基本です。
決めた場所にきちっと戻せるようになったら、その場所でいいかの検証です。
iPadで済ます業務が増え、パソコンを使う機会が減った――。そういう変化があれば、モノの置き場所を変えます。使用頻度に応じた並べ替えで、仕事をやりやすくする。
並べ替えて新しい置き場所を決めたら、再び定位置管理を徹底します。
この繰り返しで、現場が強くなる。変化対応能力が高まり、らせん階段を上るように社員が成長する。
本題に戻りましょう。
「社員の心を変えるには、何をしたらいいか?」
私は、整頓を徹底します。なぜか?
そもそも皆さんは、社員や部下に、どんな心を持ってほしいと考えているのでしょうか。ここが曖昧では教育の方針がブレます。
私が何より求めるのは「素直な心」です。
より具体的にいえば、「自分より結果を出している優秀な人がいたら、その人の仕事のやり方をそのままマネする」ことです。仕事で結果を出し、成長するには、このような「デキる人のマネ」が一番の早道です。しかし、素直に実行できる人は実に少ない。
このような素直な行動の重要性を、社員に納得してもらうのに最良の方法が、整頓です。
整頓の極意は「形から入って、心に至る」
なぜなら、整頓とは、先人たちが「モノをこう置けば、仕事がやりやすい」と実証したやり方を、そのままマネすることにほかならないからです。
我が社は「文房具は向きをそろえて並べる」のが、整頓のルールです。
慣れない新入社員にとっては、あまり気の進まない、嫌なことですが、上司が口やかましく言ううえに、できないと賞与が減るので、嫌々ながら、このルールを守るようになっていきます。
すると、あるとき気づきます。「確かにペンの向きがそろっていると、サッと取り出せて便利だ」「だから仕事のスピードが上がる」と。こうして「上司や先輩の仕事のやり方をマネることには、確かにメリットがある」と、納得します。
こうなれば、上司や先輩のほかの話にも耳を傾けます。素直な心を持って、上司や先輩の仕事のやり方を学びます。
他人の勧めることを、嫌々ながらでもやってみる。
これは、とても大事なことです。そこには、社会人として成長するための普遍のセオリーが隠されています。しかし、上司や先輩が勧める「やるべきこと」と「そのことをやるメリット」が、抽象的で分かりにくいと、部下や後輩は、その真理に気づいてくれません。
だから、整頓です。整頓は、気の進まないことを「目に見える形で実践」することです。その結果として、「目に見えるメリット」が得られます。だから誰もが、「他人が勧めることを嫌々ながらでもやる意義」に気づきます。このセオリーを、お説教や訓話といった形で直接、社員の心に訴えても、社員の心は変わりません。一時の感動を得ても、すぐに元の木阿弥です。だから、日々の整理整頓というモノを介する形でしつこく働きかけ、社員の心を少しずつでも、確実に変えていきます。
「形から入って心に至る」――これが、整頓を通じた人材教育の極意です。
(編集・構成:日経トップリーダー)
小山社長の新刊『小さな会社の儲かる整頓』が発売です。
『小さな会社の儲かる整頓』
精神論では、会社は儲からない!
儲けの7割は「整頓」で決まる!
小山社長の持論です。株式会社武蔵野を率いて約30年。赤字会社を再建した後、中小企業630社以上を経営指導し、5社に1社が最高益達成。その経験に裏打ちされた信念です。
本書の特徴は、写真がたっぷり。5ステップで「儲かり体質」の現場づくりを目指します。
1.5万人が視察した株式会社武蔵野の現場の写真がたっぷり
2.写真があるから、すぐ実践できる
3.自社のモノの置き場所、置き方が改善される(=整頓)
4.会社が変わる。社員が成長する(形から入って心に至る)
5.儲かる会社の土台ができる!
上記のような武蔵野の現場の写真を豊富に掲載
このコラムについて
トップリーダーかく語りき
自ら事業を起こし数々の試練を乗り越えて一流企業に育て上げる。引き継いだ会社を果敢な経営改革で躍進させる――。 こうした成長企業のトップはどう戦略を立て、実行したのか。そして、そこにはどんな経営哲学があったのか。日経トップリーダー編集部が創業経営者やオーナー経営者に経営の神髄を聞く。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/269473/031000074
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