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2017年3月16日 嶋矢志郎 [ジャーナリスト]
働き方改革は有名無実か?「労働後進国」日本を直視せよ
安倍首相が不退転の決意で臨む、政府主導の「働き方改革」をめぐる駆け引きが過熱してきた。しかるに今の日本は「労働後進国」と呼ばれても仕方がない状況だ
「働き方改革」が迎える天王山
盛り上がりとは裏腹に拭えぬ不安
安倍首相が不退転の決意で「最大の挑戦」と謳う、政府主導の「働き方改革」をめぐる駆け引きが過熱してきた。具体的な実行計画のとりまとめを3月末に控え、国会論戦をはじめ、政・労・使間の意見調整が難航を極め、大詰めを迎えている。日本的な労働慣行が根を張る中で、政府主導の働き方改革は果たしてどこまで受け容れられ、功を奏すことができるのか、ひとえにその実効性が問われているが、改革を阻む構造的で、根本的な疑念は拭い切れない。
日本はとりわけ欧米の先進国に成功モデルを求めているが、欧米とは「労働」や「働き方」をめぐる価値観の違いが大きい。家父長制や男尊女卑による男女の日本型分業モデルがいまだ労働環境を支配しており、その障壁も厚い。ILO(国際労働機関)の国際基準に従えば、日本の労働慣行には伝統的に人権軽視の風潮が拭えず、途上国並みの水準に甘んじている。
政府主導の働き方改革は、まずは政府が率先垂範して国際基準を順守するよう、国民に強く訴え、順法精神を蔑ろにしてきた甘えの構造から脱却することが先決であり、最優先で取り組むべき課題である。懸案の実効性を高めるためには、罰則規定を強化して、順法への監視、監督の網目をきめ細かく刻む一方、摘発Gメン制度を導入して、違反企業には罰金を伴う業務停止命令を発令し、それを公表して社会的な制裁を科すなど、厳罰をもって臨む態勢の整備とその浸透が究極の決め手であり、より効果的な再犯防止策でもある。
果たして、日本は働き方改革を押し進めることができるのか――。本稿では、あらゆる角度からそれを検証したい。
「今年は、働き方改革の断行の年だ。正規と非正規(労働者)の不合理な待遇の格差は認めない」――。安倍首相の働き方改革に賭ける年頭の決意表明である。
アベノミクスの神通力が急速に色褪せていく中で、日本経済の持続的な成長と分配の好循環を軌道に乗せるための新たな起爆剤として、働き方改革に寄せる安倍政権の期待は計り知れない。以下は、安倍首相の決意の発言である。少し長くなるが引用したい。
「目指すは、戦後最大のGDP600兆円、希望出生率1.8、介護離職率ゼロ。これら3つの的に向かって、一億総活躍の旗を高く掲げ、安倍内閣は未来への挑戦を続けていきます。その最大のチャレンジが働き方改革です。長時間労働を是正し、同一労働同一賃金を実現し、非正規という言葉をこの国から一掃します。(略)年度内をめどに働き方改革の具体的な実行計画をとりまとめます。スピード感を以て実行していく」(昨年8月3日、第2次安倍改造内閣発足時の総理会見にて)
「働き方は人々のライフスタイルに直結するものであり、(略)長時間労働を自慢する社会を変えていく。かつてのモーレツ社員、そういう考え方自体が否定される。そういう日本にしていきたい。人々が人生を豊かに生きていく。企業の生産性も上がっていく。日本がその中で輝いていく。日本で暮らすことは素晴らしい。そう思ってもらえるような、働く人々の考え方を中心にした働き方改革をしっかりと進めていきたい」(同9月2日、働き方改革実現推進室開所式にて)
「若者をはじめ、女性も高齢者も含め、人々が自分のライフスタイルに合わせて、多様な働き方を自由に選択できるようにする。(略)今までは不合理な処遇の差がありましたから、(略)そういうことをなくしていくことによって、人々はより自分に合った、こういう人生を歩みたいという自分の人生観に合った働き方を得られるようにする。その際、不合理な差別を受けることがないとなれば、やり甲斐も生き甲斐も得られ、結果として生産性も上がっていく。(略)私が先頭に立って進めていく決意です」(同月8日、外遊先のラオス・ビエンチャンでの内政懇談会にて)。
「私たちは、新しい法律を提案します。同一労働同一賃金の実現です。(略)同じ企業で働いていて、同じ責任を有しているのであれば、得られるお金に違いがあっては絶対にいけません。正規と非正規の労働者の格差を埋め、若者が将来に明るい希望が持てるようにしなければなりません。そうなれば、もう一度、中間層が厚みを増し、より多くの消費をするようになり、より多くの人々が家族を持つようになるでしょう。そうなれば、日本の出生率は改善する。
長時間労働も改革するため、規制の枠組みを強化して、新たな法律を提案します。そうなれば、女性も、高齢者も仕事を見つけやすくなるでしょう。(略)私たちは労働参加率を上昇させ、賃金を上昇させ、生産性を向上させなければなりません。働き方改革が生産性を改善するための最善の手段です」(同月21日、米ニューヨークでの金融・ビジネス関係者との対話にて)
このように安倍首相の発言は、働き方改革が功を奏すれば、成長と分配の好循環メカニズムが機能して、念願の生産性も改善し、一億総活躍社会の「3つの的」を射止めることができるという趣旨になっており、働き方改革の実効性にアベノミクスの総仕上げを賭けているということがわかる。
国際基準に照らすと浮き上がる
日本の「労働後進国」ぶり
労働環境の改善・整備には、1919年にILO(本部:ジュネーブ)が創設されて以来、間もなく1世紀にも及ぶ万国共通の目標がある。労働者の基本的な権利を尊重し、保護する狙いから、世界各国の労働実態を監視、監督するILOが定めている国際基準である。これに従えば、日本の労働環境は今なお未成熟で、国際的に大きく出遅れている。
その実態は、経済先進国の名を汚す労働後進国の域を出ていない。日本はILOの常任理事国であり、政・労・使の3者はそれぞれに代表を送り込んでいながら、労働者の権利を保護する重要な条約の批准を蔑ろにしたまま、今日に及んでいる。戦後の日本経済の構造と体質が、いかにも労働環境の改善、整備を後回しにしてまで高度成長を優先してきたかが見て取れ、国民のワークライフ・バランスよりも経済大国への道をひたすら走り続けてきた証左であることを物語っている。
現在、ILOが採択している184本の条約のうち、日本が批准している条約は48本で、全体の4分の1強に止まっている。ちなみに他国は、スペインの133本をはじめ、フランス123、英国86、ドイツ83本などとなっており、日本はEU各国の半分以下の水準に甘んじている。日本がいまだ批准していない条約は、1日8時間・週48時間制(1号条約)をはじめ、週40時間制(47号条約)や年次有給休暇(132号条約)などで、全部で18本ある労働時間や休暇関係の条約のうち、そのほとんどを批准していない。連合や全労連など、日本の労働団体は毎年、早期批准を強く求めているが、その都度無策で終わっている。
ILOでは1998年に「労働における基本原則及び権利に関するILO宣言」を改めて宣言し、新宣言では4つの原則を謳い、原則ごとに2条約ずつ、計8条約を中核的な基本労働条約に定め、その実現を奨励している。4つの原則とは、次の通りである。
(1)労働組合の結成や団体交渉の権利
(2)強制労働の廃止
(3)児童労働の撤廃
(4)雇用と職業における差別待遇の禁止
ILO加盟国187ヵ国(2016年2月現在)のうち、約4分の3は基本8条約のすべてを批准しているが、日本はこのうちの「強制労働の廃止」(105号条約)と「雇用と職業における差別待遇の禁止」(111号条約)の2条約をいまだ批准していない。批准していない国は、105号条約でわずかの11ヵ国、111号条約でも13ヵ国に過ぎず、紛れもなく少数派である。EU諸国は英国を含め、基本労働8条約のすべてを批准している。主要7ヵ国(G7)では米国が6条約を、日本とカナダが2条約を批准していない。
日本の国際評価を下げ続ける
人権意識欠如、過労死・過労自殺増大
強制労働の廃止を定めている105号条約には「ストライキの参加者に対する制裁の禁止」が盛り込まれているため、日本は批准できずにいる。日本では、国家公務員に対し、労働の基本権である団結権、団体交渉権、団体行動権を制限しており、「国家公務員などの争議行為に関する規制」で国家公務員のストライキなどに懲役刑を定めていることが同条約に抵触するのではないかとの懸念から、批准できずにいる。
111号条約は同一報酬を定めた100号条約と並んで、差別待遇の撤廃を目指している。人種をはじめ、性別や宗教、さらには政治的な見解などによる差別を禁止し、雇用や職業における機会及び待遇の均等を求めている。日本国憲法の14条では「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条(略)において、差別されない」と規定しており、批准を妨げる事情はないはずだと思いがちであるが、日本の労働実態には人権意識の欠如による、いわば「不都合な真実」が潜んでいるため、いまだ批准できずにいるのだ。
日本は先に同一報酬を定めた100号条約の批准を準備したところ、ただちに男女の賃金格差などでILOから是正勧告を受け、報告を求められたため、使用者側は批准に後ろ向きである。政府側もこれまでは政策を推進するための国内法の整備や政策の実効性への責任が問われるため、前向きになれないでいる。
しかし、ILOの国際基準に例外はない。常任理事国で、しかも経済大国である日本が1世紀近くにもわたってなお、これらの宿題を放置してきたことは、もはや国際的にも面子が立たず、この機を逃さず汚名の返上に最善を尽くすべきときを迎えている。今後とも引き続き無視、放置すれば、労働環境の改善、整備に「誠意ある努力の跡が見られない」との誹りを免れず、外圧で半強制的に改善を促される可能性もある。
とりわけ、政府主導の働き方改革が笛吹けど踊らず、功を奏することができないとなれば、過労死や過労による自殺の増大などが不当労働行為と見なされて、海外から指弾される前代未聞の国際摩擦に発展する恐れもある。日本に対する国際的な評価を押し下げることは必至である。
日本の格差是正に要する時間は170年?
同一労働同一賃金の実現に二重の障壁
日本が国際社会から長い間悪評に晒されながら、改善の跡がほとんど見えてこないのが、男女平等度ランキングである。WEF(世界経済フォーラム)は毎年、世界各国の男女平等の程度を指数化した「ジェンダー・ギャップ指数」を発表している。2016年版では日本は調査対象144ヵ国中111位、前年より10位も下げる過去最低の水準で、G7中ではイタリアの50位に次ぐダントツの最下位であった。日本の男女格差は改善どころか、悪化しているという調査報告である。
なぜ、こんなにも低く、改善の跡が見られないのか。調査分野には政治、経済、健康、教育の4分野があり、このうちの経済以外はいずれも前年に比べてランキングを上げていながら、経済だけが前年比12位も下げて118位に低落しており、総合ランキングを111位に押し下げていることがわかった。
最大の要因は経済格差である。しかも改善の跡が見られずむしろ悪化しているため、この分だと「日本で男女間の経済格差が解消するまでには約170年を要する」との不名誉なコメントまで授かっている。日本の職場では家父長制をはじめ、男尊女卑の処遇、待遇や男女差別による分業モデルが根付いていることが主因である。
建前では理解していながら、本音では無視、放置を決め込み、後は「皆で渡れば怖くない」世界に逃げ込む悪弊から脱却できずにいるためだ。男女雇用機会均等法が1986年に施行されて以来、30年余。今さらの同一労働同一賃金である。このたびは男女格差とともに、正規・非正規格差の是正も重なって、課題解決への障壁はさらに高まっている。昨年12月に公表されたガイドラインでは、日本の雇用システムの全体像の見直し、改革なしに強引に導入しても、現場の混乱を招くばかりで、本来の狙いである労働生産性の向上から成長と分配の好循環へと、より戦略的な改善、改革に繋がるとは到底思えない。
欧米の労働は贖罪感を拭うための義務
日本の労働は自然の神々に仕える奉仕
さて、労働や働き方をめぐる価値観は、欧米と日本でいかに違うのか。働き方改革を論じるには、この典型的な文化摩擦への認識を無視できず、肝に銘じておく必要がある。ひとことで言えば、欧米の労働観は一種の懲罰から発しているのに対し、日本の労働観は初めから美徳として尊重されてきた経緯がある。
古代神話では、アダムとイブが禁断の木の実に手を出し、口にして以来、アダムは労働を、イブは子を産み育てることを、それぞれ懲罰として義務づけられたのである。義務としての労働であれば、決して自発的ではなく、他から強制されてやむなく従うことになる。レジャー論の元祖である古代ギリシャの哲学者・アリストテレスも、労働とレジャーの関係を「労働のためにレジャーがあるのではなく、レジャーのために労働がある」と言い切っている。
これに対して、日本ではどうか。天照大神をはじめ、八百万の神々は全員「働き者」の神様である。神の中の神である天照大神が率先垂範して働き者とあれば、八百万の神々もそれに従い、その神々を敬い、倣い、随う俗人がさらに従うのは、当然である。しかも、日本の自然観では、自然こそが物を造化する力であり、物を造り出すのは人間ではなく、自然の神々の力によるとの考え方がある。このため労働観は、自然の神々が物を造り出す力に人間は参加するだけで、自然の神々の下で仕えるとの考え方が根底にある。
これは、欧米型の半強制的な義務としての労働観とは相容れず、むしろ自然の神々に仕える自発的な奉仕としての労働観である。なぜ、そうなったのか。日本の悠久の歴史を遡れば、自然の神々に倣い、随い、寄り添って働くことが社会の法であり、秩序であり、これに逆らうことは不法で、秩序を乱すことになるからである。
言い換えれば、働くことが自然で、働かないことは不自然で、勤勉を尊重する労働観が社会規範として定着してきた価値観である。命懸けで働く「一所(生)懸命」や、作業手順を右顧左眄しつつ周囲に併せる「右へ倣え」的な意識と行動もこの延長上で、いわば社会規範化してきた労働慣習である。今なお職場の中で、自分だけが「お先に失礼」する退社をためらわせるものがある。サービス残業や長時間労働を強いられても、我慢して凌ぐ悪弊も引きずっている。電通マンの行動規範である「鬼十則」も、決して例外ではない。電通は過労自殺騒動で強制捜査を受け、社長交代を余儀なくされたが、安倍政権に「働き方改革」を急がせる契機となったことは怪我の功名である。
深刻な勤労者層の非正規化と貧困化
アベノミクスの恩恵も蚊帳の外
EUの前身であるEC(欧州共同体)が1979年に公表した報告書で、日本及び日本人が「ウサギ小屋に住む仕事中毒」と揶揄されてから38年。それ以来、日本の労働環境はどこまで改善し、整備されてきたのか。確かに男女雇用均等法などの法整備が進み、ワークライフ・バランスなどの勤労意識も浸透しつつあるが、労働環境が目に見えて改善し、整備されてきた実感は薄く、むしろ後退している印象の方が強い。
とりわけ、本人が望まない不本意な非正規雇用化が急速に拡大して、総雇用者数に占める非正規雇用者数の割合があっという間に約4割を占めつつある。非正規雇用は、雇用調整弁として企業側には都合がよくても、雇われる側にとっては身分が不安定で、結婚したくてもできないような低収入を強いられ、いわゆるワーキングプアのすそ野を広げる温床と化している。貧困が若者層から中年層をも蝕み、労働力と購買力の両面で日本経済の推進力を弱め、疎外してきたことは否めない。
直近のアベノミクス政策にしても、安倍首相は約270万人もの新規雇用者を増大させたと豪語するが、実態は正規雇用者数が60万人減で、非正規雇用者数が330万人増という内訳である。正規から非正規への入れ替えが進み、雇用構造は質的に後退している。株高と円安を誘導してきた背景から、その恩恵の多くは輸出依存度の高い業種を中心に、大企業、正規雇用者、株式収入に与れるいわば恵まれた富裕層の懐をさらに豊かにしてきただけだ。中小企業や非正規雇用者、さらには株式収入などとは縁遠い一般の勤労者は蚊帳の外である。なかでも不本意な非正規雇用に甘んじている若者や中年層にとっては、低収入、未婚、出生率の低下という社会的な悪循環に陥っており、貧富格差の拡大とともに相対的な貧困が深刻化している。
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、実質賃金指数は1992年を100とした場合、1996年の103.4をピークにほぼ一貫して下がり続け、アベノミクスがスタートした直前の2012年には92.8まで下がっている。アベノミクスの施行後はどうか。2013年が91.6、14年が88.5、15年は88.4でさらに下がり続け、リーマンショックの余波を受けた2009年の92.7よりも下回っている。一般の勤労者には、アベノミクスの恩恵が全く及んでいなかった証左である。
日本の労働環境の改善、整備をここまで遅らせてきたのは、政・労・使の3者が長い間、足並みを揃えて国内外の労働関係法規を軽視、蔑ろにしてきた、いわば「甘えの構造」に浸ってきた点に尽きるが、その象徴が通称「36(サブロク)協定」である。終戦直後の1947(昭和22年)に施行された労働基準法36条に由来する労使の取り決めで、「会社と労働者代表が合意して労使協定を締結した場合は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超えて、働かせることができる」と定めてある。しかも「特別な事情があれば、限度時間をさらに延長して働かせることができる」との条項がついている、いわばザル法である。
労基法では、1日8時間、1週40時間超の労働を禁止している。それを労使間の協定で延長を可能にしたのが36協定で、同協定で定めた労働時間を超える残業は労基法上、違法となる。企業はこの36協定を根拠に一定の限度時間内で残業をさせているが、実態は「特別な事情による延長」の乱発・乱用が行われており、限度時間を無視した長時間労働が長期間、常態化してきた。日本的経営システムの中にこれを前提として組み入れ、長時間労働が36協定で定着、労使はともに違法と知りながら、合法化されてきた錯覚に陥っていた傾向さえうかがえる。
それが墓穴をさらに掘ることにつながった。違法なサービス(無給)残業の強制が進む中で、労災保険制度による脳や心臓の疾患、精神障害などの労災認定件数が急増し、過労死や過労自殺が増えてきた。1980年代後半には過労による脳や心臓の疾患などによる突然死が頻発、88年に「過労死110番」が開設されたが、日本経済のバブル現象を背景に、過労死や過労自殺は増勢の一途を辿っている。厚生労働省の調べによると、労災申請件数のうち、過労死・過労自殺件数は1999年度の638人から2010年度の1983人へと、3倍強も増加している。
ただ、労災と認定される確率は宝くじ並みで、初めから申請自体を諦める事例が多い。内閣府警察庁の自殺統計によると、2015年の勤務問題を原因・動機とする自殺件数は2159件。このうち労災保険の適用を申請した件数は199件で、そのうち労災と認定されたのはわずかに93件。つまり、厚労省が労災を認めたのは警察庁が過労死・過労自殺と認定した件数のうちの約4.3%止まりだ。過労死・過労自殺の深刻な実態を改善するための「過労死防止法」(過労死等防止対策推進法)が国会の全会一致で成立したのが2014年6月で、同防止法には「過労死を防止する総合的政策の実施は国の責務である」と明記してある。2015年7月には「過労死防止大綱」も閣議決定されたが、長時間労働に歯止めがかからず、過労死・過労自殺は増え続けるばかりで、お上による机上の作文では何の抑止力にもなっていない。
時短なのに生産性が高い
ドイツの「働き方」に学ぶ点
懸案の働き方改革の実効性を高めるには、政・労・使3者が足並みを揃えて甘えの構造から断固として足を洗い、断ち切る覚悟で意識改革を断行することである。その上で、今後は厳罰をもって臨む態勢を整備し、その普及、浸透を図っていくことが喫緊の課題である。早急に労基法をはじめ、労働関係法規を改正して、実践への移行を急ぐことである。
今や仕事が原因・動機となる自殺件数が1日平均で約6人に及ぶ時勢である。政・労・使3者の指導層は、犠牲者を1人でも減らしていく態勢の整備と、その実践に社会的な責務を痛感していただきたい。
具体的には、1つには違反の制裁に英知を結集し、罰則規定を強化すること。2つには順法への監視、監督の網目をきめ細かく刻むこと。3つには違反の摘発に内部告発の奨励も制度化すること。4つには「摘発Gメン」制度を積極的に導入、活用すること。5つには、違反企業には負担の重い罰金を科し、中長期にわたる業務停止命令を発令すること。そして6つには違反企業の社名を公表して社会的な制裁を科すこと、などの徹底である。
成功モデルは、ドイツである。日本を「残業大国」とすれば、ドイツは「時短大国」である。OECD(経済協力開発機構)によると、労働者1人当たりの年間平均労働時間(2014年)はドイツが1371時間で加盟国中最短である。これに対し、日本は1729時間で、ドイツの1.26倍、358時間も多い。それでいて労働生産性(労働時間当たりの国内総生産、2014)は、日本の41.3ドルに対してドイツは64.4ドルと、日本の1.6倍強である。労働生産性が日本を大幅に上回っているのは、労働時間が短いためで、それが労働分配率を引き上げ、成長と分配の好循環をもたらしている。
政・労・使が一丸となって
今こそ本気の改革に取り組め
ドイツは、なぜ時短に成功したのか。1日10時間を超える労働は、法律で厳しく禁止されており、政・労・使の3者が順法精神の下で厳守しているからである。労働時間を監視する役所が時々抜き打ち検査を実施、1日10時間を超える労働を組織ぐるみで強制していた企業には最高で1万5000ユーロ(約180万円)の罰金を科している。しかも、企業が罰金を科された場合、違反した組織の管理職に対し、その罰金を自腹で支払わせる仕組みがあり、違反職場の根絶に努力している。
これには、人事評価や企業評価の物差しが一変したこと、社会的な制裁効果が機能していることも大きい。ドイツではすでに、長時間労働をして成果が上がらない人や企業は評価されず、限られた労働時間内でより多くの成果をあげる人や企業をより高く評価する価値観が浸透しつつある。メディアに一度ブラック企業などと公表されると、人材集めに苦労するため、優秀な人材を集めるためには時短に努めて、労働生産性を少しでも高める方向で経営努力を競い合っている。有給休暇の消化率も100%に近い。
政府主導の働き方改革の実効性を高めるには、差し当たりドイツを見習って時短を奨励し、労働生産性を高め合う企業間競争に火を点けて、年間ランキングを毎年公表することから始めてはいかがかだろうか。生産性の向上で成長と分配の好循環を目指すためには、アベノミクスよりもはるかに公正、平等で、近道ではないのか。
なお、同一労働同一賃金の導入については、日本の雇用システムの在り方とはさらに相容れず、論点の整理が必要なので、次回に譲りたい。
(ジャーナリスト 嶋矢志郎)
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トランプ大統領:自動車各社に雇用拡大要求−燃費基準緩和の方針示す
Ryan Beene、John Lippert、Shannon Pettypiece
2017年3月16日 12:48 JST
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雇用で「大きな数字」を示すよう自動車メーカーCEOに要請
トヨタ自動車には米国での工場建設を求める
トランプ米大統領が自動車メーカーに対し、あからさまな交換条件を提示している。環境基準の緩和と引き換えに、雇用の拡大を求めるというものだ。
トランプ大統領は15日、ゼネラル・モーターズ(GM)とフォード・モーター、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の最高経営責任者(CEO)に対し、「雇用について、君たちは戻ってきてわれわれに大きな数字を提示する必要がある」と述べ、オバマ前政権が維持することを決めた燃費規制は「自動車業界をさらに破壊していただろう」と指摘した。
オバマ前政権と自動車業界は、2022−25年モデルの車両について定めた燃費基準が実行可能かどうかを18年4月までに判断することで合意していたが、環境保護局(EPA)が自動車業界に協力せず、前政権の任期終了間際に検討の迅速化を決めたことに業界側が反発していた。トランプ政権の方針に基づき、前政権と自動車業界が合意していた当初のスケジュールに戻す。
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GMの雇用計画は「取るに足らない」と一蹴
トランプ大統領は訪問先のデトロイト近郊で見直しを発表した。GMはその機会を捉え、ミシガン州のトランスミッション工場で220人を新規採用する一方、スポーツタイプ多目的車(SUV)工場でレイオフされた社員を一部充てることで680人の雇用を同州で維持する計画を発表した。GM広報のパット・モリシー氏によると、採用はトランプ氏の就任前から予定されていた。
トランプ大統領はGMの雇用発表について、「『取るに足らない』と彼らに言ってやった」と集まった労働者を前に発言。「もっと採用させる。彼らは新たな工場を建設し、工場を拡張する。私の政権は業界を締めつける規制の撤廃、雇用を抑制する税の引き下げ、全ての米企業と労働者のための条件を公平にすることに粘り強く取り組む」と語った。
トランプ氏は自動車業界の幹部らとの会合で、トヨタ自動車に米国で車を生産するようあらためて求めた。北米トヨタのジム・レンツCEOとのやり取りで、「新工場をここに建設しなければならない」と大統領が話す模様が、ホワイトハウスの公式ユーチューブのページに掲載された動画で伝えられた。トヨタの広報担当の土井賀代氏から現時点でコメントは得られていない。
原題:Trump Demands Auto Jobs After Signaling Fuel Economy Relief (2)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-16/OMVXT86JTSE801
日銀:金融政策維持、長期国債買い入れ80兆円めども据え置き (1)
日高正裕、藤岡徹
2017年3月16日 12:03 JST 更新日時 2017年3月16日 12:58 JST
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長期金利「0%程度」、短期金利「マイナス0.1%」をいずれも維持
事前のエコノミスト調査でも全員が現状維持を予想
日本銀行は金融政策決定会合で、昨年9月に導入した長短金利操作付き量的・質的金融緩和の枠組みによる金融調節方針の維持を決定した。市場では黒田東彦総裁の任期中の追加緩和観測が消えつつある一方で、年内にも長期金利の誘導目標を引き上げるとの見方が出ている。
金融調節方針は、誘導目標である長期金利(10年物国債金利)を「0%程度」、短期金利(日銀当座預金の一部に適用する政策金利)を「マイナス0.1%」といずれも据え置いたほか、長期国債買い入れ(保有残高の年間増加額)のめどである「約80兆円」も維持した。
指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J−REIT)の買い入れ方針も据え置いた。前会合に続き木内登英、佐藤健裕両審議委員が長短金利操作等の金融調節方針に反対した。
日銀は「緩やかな回復基調を続けている」との景気判断は据え置いたが、住宅投資は「横ばい圏内の動き」として、前月の「持ち直しを続けている」から下方修正した。消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は小幅のプラスに転じた後、「2%に向けて上昇率を高めていく」との判断を据え置いた。
木内委員は「小幅のプラスに転じた後、かなり緩やかに上昇率を高めていく」との独自案を提出したが、1対9の反対多数で否決された。
原油価格の反転や円安の影響で、物価上昇率が年内に1%に達するとの見方が強まっているが、日銀は物価の基調が着実に目標の2%に向かうかどうか見極める考え。ブルームバーグがエコノミスト41人を対象に6−9日に実施した調査では、回答したエコノミスト全員が金融政策の現状維持を予想していた。
ブルームバーグの事前調査の結果はこちら
大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは会合終了後、ブルームバーグの取材に対し「景気判断もリスク認識も変わっていない中で、政策を動かす理由もないと言うことだ」と述べた上で、「市場の見方では日銀のインフレ見通しはまだ楽観的なので、どこかで下方修正という可能性は残る」との見方を示した。
13カ月ぶりプラス
1月の消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は、エネルギーの下落幅縮小により前年比0.1%上昇となり、2015年12月以来13カ月ぶりにプラスに転じた。ブルームバーグの調査では、黒田総裁の任期の2018年4月までに長期金利の誘導目標を引き上げるとの予想は14人(34%)と3分の1を占めた。
佐藤審議委員は1日の徳島市での会見で、コアCPIが年末にかけて1%に届き、長期金利の0%維持が困難になる可能性があるとして、「10年金利目標を微調整することは十分あってしかるべきではないか」と述べていた。
早期の長期金利引き上げには懐疑的な見方も根強い。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは会合終了後の取材で、「インフレ率はまだゼロだし、先行きも2%に近づいていくかどうか日銀も自信が持てない」とし、引き締めができる状況ではないと指摘。10年金利目標の引き上げについては「今年はないだろう」と予想した。
利上げ前にガイダンス
複数の関係者によると、日銀は物価上昇率が上がり始めた段階で、長期金利を引き上げの条件を示したガイダンス(指針)を明らかにするかどうか検討している。物価の基調が着実に上昇していることが確認できる前に長期金利引き上げ観測が高まることへの懸念が背景にある。
雨宮正佳理事は9日の参院財政金融委員会で、「現状では2%の物価目標まで相当の距離がある」と言明。目標を早期に実現するという点から、現在の金融市場調節方針に基づいた強力な金融緩和を推進していくべきであり、「現下の状況の下で長期金利の操作目標を引き上げるのは適当でない」との見方を示した。
ドル円相場は会合結果の発表前は1ドル=113円近辺で取引されていたが、発表後もほぼ変わらず。黒田総裁は午後3時半に定例記者会見を行う。決定会合の「主な意見」は3月27日、「議事要旨」は5月2日に公表する。決定会合や金融経済月報などの予定は日銀がウェブサイトで公表している。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-16/OMUBZX6K50Y101
中国人民銀、オペ金利とMLF利率引き上げ−米利上げ後
Bloomberg News
2017年3月16日 13:01 JST
安定した経済と物価上昇で米金融当局に追随する余地生まれる
オペ金利引き上げは必ずしも利上げに相当せず−人民銀
中国人民銀行(中央銀行)は16日、公開市場操作(オペ)金利と中期貸出制度(MLF)の利率を引き上げた。安定した経済と生産者物価指数(PPI)の上昇で、利上げを決めたばかりの米金融当局に追随する余地が生まれていた。
人民銀のウェブサイトに掲載された声明によると、中銀は7日物と14日物、28日物リバースレポの利率をそれぞれ10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き上げた。引き上げ後の利率は7日物が2.45%、14日物が2.6%、28日物が2.75%。2月上旬にも10bpの利率引き上げに踏み切っていた。
また、人民銀はMLFを通じ期間6カ月と1年の流動性供給も行った。利率はそれぞれ3.05%、3.2%と前回から10bp引き上げられた。
人民銀は借り入れコストの上昇観測が市場で強かったとした上で、オペ金利の引き上げは必ずしも利上げに相当するわけではないと説明。こうした金融政策措置を拡大解釈する必要はないと指摘した。
原題:China’s Central Bank Raises Borrowing Costs in Step With Fed (2)(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-03-16/OMW2BB6TTDS001
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