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映画『国道20号線より』
郊外貧困の最新事情「“ファスト風土”はもっと悲惨なことになっていた」【映画監督・富田克也】
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170314-01294612-sspa-soci
週刊SPA! 3/14(火) 16:00配信
ロカルノ映画祭で若手審査員・最優秀作品賞を受賞した自主映画制作集団“空族”の最新作『バンコクナイツ』が2月25日から公開されている。
“作りたい映画を勝手に作り、勝手に上映する”をモットーに、毎回長期間におよぶ独特の映画制作スタイルで配給宣伝も自ら行い、作品は全てソフト化しないという独自路線をひた走る“空族”。
その作品は日本にとどまらず広くアジアを見据えており、構想に10年を費やした『バンコクナイツ』もそんな作品のひとつとなっている一方で、パチンコ店、消費者金融、ドンキなどに埋め尽くされたロードサイドの不良カップルを描いた『国道20号線』や、アジアNO.1の経済大国と呼ばれた日本の地方都市の現状を捉え国内外の賞を受賞した本格劇場デビュー作『サウダーヂ』など、“郊外日本”をテーマにした作品をこれまで世に送り出してきた。
日刊SPA!取材班は、空族のキーパーソンである富田克也監督に山梨県甲府市にてインタビューを敢行。『バンコクナイツ』公開を控えていた富田監督の目に、2017年現在の郊外日本の姿はどう映るのか。
――最新作『バンコクナイツ』では田我流のMVのほか、stillichimiyaプレゼンツの映像コンテンツを手がける、スタジオ石が撮影に加わっています。いま空族のメンバーというのは何人くらいいるんでしょうか?
富田監督(以下、富田):スタジオ石はstillichimiyaなので空族じゃないんですが、空族の名刺を持っている人は10人くらいです。一本一本の作品で新しい人が関わってくれて、結果としてその人たちが空族になっていく感じです。
◆郊外は今、どうなっているのか
――’07年公開の『国道20号線』で地方都市と郊外に住む人たちの状況を描き、ある意味“ファスト風土”や“マイルドヤンキー”を先取りして描いていたようにも思います。しかしゼロ年代後半は花盛りだった「郊外論」も現在、映像も含めて全然流通していません。地方は今どうなっているのか、知りたいというファンは多いと思います。
富田:『サウダーヂ』以降、地方都市の状況は更に深刻化していると思いますね。空族は甲府の「へちま」(http://hechima400.blogspot.jp/)というミニシアターで全作品の定期上映をやっていて、俺たちも時間があるときはフラッと行ってみるんです。そこでいろんな観客と話す機会があるんですが、特に若い世代と話してみると、彼らの置かれている状況は、俺たちの世代とは比べものにならないくらい追い詰められていることがわかります。
ついにこの国でも“貧困”という言葉が真実味を持ち始めているのだと痛感しています。しかし、そう括るのは簡単ですが、なぜそんな状況に追い詰められているのかということが問題でしょうね。到底ここでは語りきれませんが、これは今急にはじまったことではなく、前世代からのツケ、いや、もう毒といってもいいようなものが下の世代を苦しめているのだと、はっきり認識するに至りました。
――状況は『国道20号線』が公開された2007年頃よりもっとひどくなっていると…。
富田:今が『サウダーヂ』を経てさらにその後ということを考えても、『国道20号線』の頃なんかまだよかったですね。今テレビのニュースでも貧困がよく叫ばれますけど、周りを見ても報道と一致している実感があります。もし、現在の甲府という主題にいま取り組むとしたら、貧困という言葉が日本でここまで真実味を持って響いている状況を描かざる得なくなるでしょうね。それくらい当たり前の状況になっています。
――先ほどまさに国道20号線を通ってここ(甲府)まで来ましたが、消費者金融の看板など当時の記号的な企業はなくなっているように思いました。
富田:そうですね。消費者金融のATMなんかは表向きパッと見なくなった。けど、よくよく考えれば単に大手企業に吸収されていっただけなんですよね。つまり、それをメガバンクがやっているっていうだけで。
――なるほど。当時はメガバンクもここまで消費者金融とガッチリ組んでなかったわけですね。
富田:要はシステムに組み込まれて巨大化し真っ当なふりをしているんです。サラ金もメガバンクとか大企業がやりますよ、という正当化が進んだだけ。手数料もバンバン上がってるし、金利なんかないくせに、この前カードでの支払いが引き落とせませんという知らせが来て10日間くらい放置していたら、2万円近い利息払わされましたから。これってまさに消費者金融じゃん…と。
◆甲府に移住してきた被災者から見えたもの
――そんなエグいことになっているんですね…(笑)。他にもし、いま『国道20号線』を撮るとしたら、撮りたいものはありますか?
富田:福島から山梨に逃げてきている人たちとも結構知り合いました。彼らは原発事故の2年後に逃げてきた人たちなんです。つまり、2年間は行政の発表する放射能測定値を信じ、現地に住み続けていたんですよ。結果、息子さんの甲状腺に異常が表れ、お孫さんはふたりとも耳が聞こえない状態で産まれてきました。一方でいま、政府は避難した人たちを福島に戻そうとしていますよね。だから、直後に逃げた人々との入れ違い現象が起きています。
甲府に避難してきた彼らは「私たちは絶対に戻ることはありません」と断言していました。しかも、どこの医者に行っても放射能との関連は絶対に認めてくれないんです。つまり、なんの補償もない。体調不良で仕事もままならない。かといって、生活保護受給申請に行こうものなら車もなにも贅沢品ということで取り上げられてしまう。他県から来ていて共同体も機能しない現代において、山梨で車なしの生活は相当にきついですよ。あらゆる悪循環が俺たちの身近なところで起きている、そんな感覚です。
――『サウダーヂ』もまさに現実と地続きの作品です。あそこに描かれていたブラジルの方たちが今どうしているのかなど、そのあたりの取材などはされていますか?
富田:こないだブラジル人の友人が久々にパーティーやるからと誘ってくれたので行ってみたら、お店の中でバンドが演奏していて、それなりに人も集まっていい感じで盛り上がっていました。
『サウダーヂ』が上映されたころの、かつての一大コミュニティほどではないですけど、少しはいい雰囲気に戻っているのかなと思いました。ちなみに『サウダーヂ』でちっちゃな女の子二人と両親が食卓を囲むシーンの家族は、実はブラジルに帰らず残っているんです。
――ブラジル人のお子さんたちももう結構大きくなっているんじゃないですか?
富田:そうですね。ちっちゃな妹のほうは「『サウダーヂ』観たよ。つまらなかった」って言われましたが(笑)。でも、お姉ちゃんの方はもうすぐ高校生で「私はおもしろかった」と言ってくれました。あの家族は奥さんがフィリピン人というのもあって、苦しい時期にブラジルに帰るのを踏み留まった家族なんですよ。
『サウダーヂ』撮影時はリーマンショックの直後で、しかも北京オリンピックの鉄鋼の特需も終わって首切り真っ最中の時期。ブラジル人も日本人もキツかったけど、そんな一番悪い時期から比べると仕事も少し戻ってきて、残っていた人たちもあの頃に比べれば少しはラクになったんじゃないかな。単に全体数が減ったからというだけなのかもしれませんが。でも、みんなの元気そうな顔を見て、少しだけほっとしました。
◆いま、若者にヒップホップが支持されている理由
――富田監督の作品は世間でまだ言語化されていないものを先に映画の中で描いてきたように思います。先ほどの『国道20号線』の“マイルドヤンキー”みたいな存在もそうですが、“意識高い系”もそうかなと思います。『サウダーヂ』の登場人物で、一度上京したものの、甲府に戻ってきて在日ブラジル人と日本人をクラブイベントを通して交流させる、コスモポリタニズム的なものに目覚めた女性“まひる”の存在には、当時衝撃を受けました。
富田:俺たちはあの役を特徴的に描きましたが、ああいうコたちと接していると、とどのつまり彼女たちは欧米的価値観でしか物事を語っていないように思えました。つまり”白い”。このコたち、頭から爪の先まで白くなりたいだけじゃんって。もちろん、欧米的な価値観がすべて悪いとは言わないけど、日本はしみじみ(欧米的価値観の)植民地なんだよなぁと思わされました。
――富田監督はかつてBOØWYのコピーバンドをしていたそうですね。『サウダーヂ』でも「わがままジュリエット」が印象的に使われていますが。
富田:そのBOØWYの音楽がよく表していると思うんですけど、よくよくBOØWYの歌詞を読んでもあんまり意味はないんですよね(笑)。そういう、なんとなくキラキラしたカッコ良さに憧れるだけの時代はもう終わって、この“白く”されきった日本でヒップホップというものが真実味を増してきているように思います。道端から叫ばれる世の中になったんだということを痛感しましたよね。田ちゃん(田我流)は“黒い”んですよ。
――なるほど。
富田:今後、この日本社会は無理やりかつ徹底的な欧米化というか、植民地化が進んだ挙句にどういう方向に向かうのかをよく考えますね。
いま、山梨には東京などから多くの人たちが移住してきています。なんでもかんでも金を払うことでしか得られないというシステムの中で、失われたものを取り戻す作業として農業を始める人たちが増えているんです。彼らの考えは非常にシンプルで、「食い物を自ら作り出す以上に強いことはない」というもの。
ですが、これには農協に代表される既に利権化されたシステムが立ちはだかっています。しかし、これにも抗おうという機運があります。ずっと分断されて働かされ続けていたら苦しくなっちゃうのは当然。でも、「それが当り前だから諦めるしかないでしょ」なんていうのは嘘。それにみんな気づき始めていると思うんですよね。
僕らも、みんなで寄り集まってワイワイやってなきゃマズイよ、ってことを言い始めています。つまり、共同体を取り戻そうってことなんですけど、そういう機運に対して、いま権力側は共謀罪を成立させようとしています。権力なんざ、いつだってそういう被害妄想でおびえ続けてるもんですが。
でも、最終的には今権力側にいるヤツらとも仲間にならないといけないという気概は必要でしょう。敵はもっと巨大なんですから、とにかく分断されてる場合じゃないと思います。
――「『サウダーヂ』で田我流と出会ったように、『バンコクナイツ』でも様々な仲間との出会いがあった」と富田監督はある取材で語っていますが、そういった様々な出会いが、今後の作品内でも反映されそうですね。
富田:『サウダーヂ』以降、もはや立ち上がるしかないという気持ちは一貫してあります。その結果できあがったのが『バンコクナイツ』。現在公開の真最中ですが、その気持ちを切実に感じている人々と、そうでない人々との間で、感想が真っ二つなのがわかりやすいですね。
<取材・文/日刊SPA!取材班>
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