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人をやさしく抱き上げる介護ロボット (c)朝日新聞社
自動運転の事故は誰の責任? 5年後の未来を大予測!〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170310-00000008-sasahi-soci
週刊朝日 2017年3月17日号
週刊朝日が100周年を迎える2022年。東京オリンピックは終わり、国内で少子高齢化はますます進む。社会はどう変わり、テクノロジーの進歩は人類を幸せにするのか。現在のデータに基づき、5年後の未来を描いてみた。
* * *
22年2月12日(土)X町─。
「危ない!!」
助手席の妻の由美子(55)が叫んだのは、住宅街を車で走っているときだった。左の路地から自転車が飛び出してきたのだ。運転席にいるのは私、佐藤誠(60)。とっさに急ブレーキをかけハンドルを右に切ったが、バンパーと自転車の前輪が接触した。
「大丈夫ですか」
自転車の高校生らしい青年に声をかける。車は速度を出していなかったので、自転車は転倒せずにすんだが、前輪はゆがんでいる。
「警察に連絡しますから、ちょっと待っていてね」
スマートフォンを取りに車内に戻る。
「自動ブレーキ(注1)がついていたんじゃないの。警告音もしなかったわ」
妻は、青年にけがはなくて安心したようだが、車のせいだと言わんばかりだ。確かに300万円で新車を買ったばかり。人や自転車にも反応する最新の安全システムがうたい文句だった(注2)。
「反応が遅れた俺が悪いんだよ」
自動ブレーキが作動しなかったのは、夕日の逆光が影響したのか。もともと飛び出しには対応しきれないと説明を受けていたような気もする。いずれにしても「ドライバーの責任」(注3)があるのは間違いない。
でも、完全自動運転の車だったらどうなるのか。実用化が近いとニュースで流れていた。機械の誤作動もある。自動車メーカーが責任をとってくれるのだろうか……。あれこれ考えている間に、警察と青年の親が到着した。
「とりあえず、けがはなさそうなので」
事故処理後に連絡先を交換し、その場は収まった。
「家に帰る前に、ちょっと一息つこう」
コンビニに入る。夕方なのに、人影はまばら。缶コーヒー2本をレジに置く。
「300円になります」
抑揚のない音声が流れる。人手不足は深刻で、コンビニやスーパーでは無人レジ(注4)が当たり前。列に並ぶ無駄な時間が減ったが、味気ない感じもする。
車に戻り、再び夕暮れの街を走ると、明かりがついていない家が多いことに気づく。そういえば、5軒に1軒は空き家(注5)だと先日の週刊朝日で読んだ。創刊100周年記念号の特集記事だった。
「なんだか、この辺もゴーストタウンみたいになっちゃったなあ」
すかさず妻が答える。
「うちの近所も似たようなもんよ。鈴木さんのところは都心のマンションに引っ越したでしょう? 病院が近くて便利なんだって。まあ、家は買い手が見つからないままみたいだけどねー」
口ぶりから妻は「うらやましい」と思っているようだ。しかし、一人息子の翔太(25)の教育費にお金がかかったこともあり、今も家計は楽ではないのだ。
都心から電車で40分ほどのマイホームは、20年前に5千万円で購入。当時40歳だった私は年収が800万円で、30年ローンでも年齢とともに年収も上がって繰り上げ返済ができるはず、と楽観視していた。だが、逆に収入は年々減少。毎月15万円ほど返済し続けてきたが、まだ10年はかかる。
「いま家を売ったってカネになんてならないよ。東京オリンピックが終わって景気は悪いんだから」
それより前に景気がよかったのはいつだったか。中堅商社の営業職で必死に働いた記憶しかよみがえってこない。それでも、60歳になれば退職金や年金をもとに悠々自適の生活を送れると思い描いていた。ところが高齢者の定義は「75歳以上」になり、年金支給開始年齢は70歳まで徐々に上がりそうだ。定年は65歳になり、70歳まで再雇用で働くのが当たり前になった。
いま私は「平社員」。年収は、以前の半分以下の300万円。貯金は物価の上昇で目減りする一方だ。かつての部下が上司となり、指示されるのもあまりいい気はしない。
「おまえのスーパーの仕事はどうだ。機械化でちょっとは楽になったか」
妻に話題を振ると、あきれながら反論された。
「何、のんきなこと言ってるのよ。無人レジになっても、野菜の陳列や調理は人間じゃないとできないし、いまは外国人の技能実習生でなんとかまわっているんだから。それに年金や保険料の支払いで、手取りが結局減ってるんだから」
余計なことは言うもんじゃない。しばらく黙って車を走らせる。
高齢の母が自宅で待ってくれているのは、スマホの表示でわかっていた。介護の現場も人手不足から自動化が進んでいる。人の代わりに見守り支援ロボット(注6)が母の状況をいつも確認。異常があればすぐにスマホに連絡が入る。母はまだ元気なほう。在宅で介護している同世代の仲間は多いが、やむなく仕事を辞める介護離職者(注7)も減っていない。
「翔太は最近どうしてる。仕事は忙しいのか」
独り立ちした息子とは、妻は今でも頻繁にやりとりしているようだ。
「あなた、心配なら自分で連絡してみてください。私には言いにくいこともあるかもしれないし……」
仕事といえば人工知能(AI)の話題も最近よく耳にする。事務やコールセンターなどの職場で、人間に代わって活躍し始めている(注8)。私のような営業職はまだ大丈夫なようだが、翔太の職場は経理。いつまでその仕事があるのやら。暗い気分になってきたので、話題を切り替えた。今日の夜に予定されている北京冬季五輪(注9)のフィギュアスケートのことだ。
「今日は、早めに食事にして生中継に備えるか。羽生結弦選手が3大会連続で金メダルを取れるかどうか心配してたじゃないか」
一緒に楽しもうと言ったつもりが、こう返された。
「当たり前よ。私がどれだけこの日を楽しみにしてきたか。あの装置は私が使うから、あなたはいつものテレビで見てね」
あの装置というのは仮想現実(VR)が体験できるヘッドセット(注10)。高精細な「8K」放送に対応し、360度見渡せ、会場で直接応援しているような気分が味わえる。VRを使えば、海外旅行気分も味わえる時代になったのだ。ただ、高いのでわが家は1台しか買えていないが。
「わかってるって。ほら、着いたぞ」
玄関を開けると、テレビの音がする。母が部屋で医療・科学番組を見ているようだ。特定のがん細胞を狙い撃ちする「分子標的薬」や、免疫を再活性化しがんを攻撃させる「免疫治療薬」が次々に開発されているとか、アルツハイマー病の画期的な新薬が近い将来実現しそうだとか。治療法が少なかった分野も変わりつつあるという。
テレビを見ながら半分寝ていた母は、私の顔を見るなり、こうつぶやいた。
「誠、あんまり無理するんじゃないよ。体だけは大事にしないといけないよ」
85歳になる母こそ、まだまだ元気でいてほしい。未来は悪いことばかりじゃない。そう思いながら、妻が待つ居間へ向かった。
【注釈】
1.自動ブレーキ 国土交通省によると、新車における自動ブレーキの搭載率は、2015年で約45%。20年までには、歩行者にも対応したシステムがほぼすべての車種に搭載される見通し。
2.自動運転 国交省によると、20年までに限定地域における無人自動走行移動サービスが始まる。25年をめどに完全自動走行が実用化の見込み。
3.自動運転の事故時の責任 現状の自動ブレーキはあくまで運転を補助するもので、ドライバーが事故の責任を負わなければならない。完全な自動運転が実現すれば、システムにも責任が生じる。自動車メーカーに賠償責任があるのかどうかなど論点は多く、国交省や経済産業省、警察庁などで検討が行われている。
4.無人レジ パナソニックとローソンは今年2月から、商品に貼り付けた電子タグから価格などを自動で読み取る新システムの実験を始めた。コンビニ店員が働く時間の約4分の1を占めるレジ対応を減らす狙い。同様のシステムは20年ごろには本格的な普及が期待されている。
5.空き家 野村総合研究所によると、総住宅数に占める空き家率は13年は13.5%。住宅用途以外への有効活用などが進まなければ、23年には21.1%、33年には30.4%まで上昇すると予測。
6.介護ロボット 見守りや移動、排泄などさまざまなシーンで日常の介護を支える。経産省や厚生労働省によると、20年ごろから普及が加速し、30年には国内市場規模が約2600億円になるという。
7.介護離職者 大和総研によると、15年には9.3万人で20年には10.2万人まで増えると見込む。介護休業の制度がなかったり、利用しにくい雰囲気があったりする企業も目立つ。
8.人工知能(AI)の雇用への影響 野村総合研究所が英オックスフォード大のマイケル・オズボーン准教授らと共同で研究したところ、日本では25〜35年には、労働人口の約49%が人工知能やロボット等で代替可能になる。
9..北京冬季五輪 22年2月4〜20日の開催予定。この前に五輪は18年冬に平昌(韓国)、20年夏に東京で開かれる。フィギュアスケートの羽生結弦選手(22)は平昌で、前回のソチ(ロシア)に続く連覇に挑む。
10.仮想現実(VR) ヘッドセットなどをつけることで、自分が映像の中に入り込んでしまったような感覚が味わえる。16年は新製品が相次いで登場し、「VR元年」と言われた。将来は触覚や嗅覚、脳波との連動も想定されている。
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