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ヤマト運輸が「利益なき繁忙」に陥らないための妙案
http://diamond.jp/articles/-/120413
2017.3.8 山崎 元:経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 ダイヤモンド・オンライン
■ヤマトは便利で感じはいいが
過剰サービスでは?
ヤマト運輸の業績が悪化している。主にネット通販の荷物の配達が増えてコストが増加していることが原因だと言われている。ヤマト運輸は宅配便シェアのトップ企業だが、2位の佐川急便から大口顧客であるアマゾンのビジネスを奪ったことが負担になったようだ。
推察するに、アマゾンと契約した条件がヤマトにとって厳しく、「利益なき繁忙」の状況に陥ったのだろう。加えて、ヤマト運輸は、利益が出ないだけでなく、人手が足りずに過重労働となり、受注する荷物の総量に制限を設けることを労働組合が要求しており、経営陣は協力的に検討する(せざるを得ない)方向だ。結果から見て、自社が対応できるキャパシティを把握し損ねていた面があった。
かといって、折からの人手不足で人数の補強は簡単ではないのだろうし、ヤマトの場合同社のセールスドライバーの仕事のクオリティに追い着く人材を短期間に養成することも難しかろう。
ヤマト運輸は、どうやら、強い荷主という需要側の交渉力と、人手不足という調達における供給側の制約に、同時に直面してしまったようだ。おそらくこれまで両方の制約をカバーしてきたのは、サービス残業も含むセールスドライバーの労働強化だったが、それが限界に達し、制約が表面化した。
ヤマト運輸では、過去、残業代の未払い金が数百億円単位に上ることが判明した。経営陣は、これを調査して遡って支払うとしている。これは「当然」なのでもあるが、後述のようにヤマト運輸の大きな強みの一つは、社員の配達と接客における練度の高さ(配達の能率の良さと、顧客から見た感じの良さ)にあるので、何はともあれ現在の社員を大切にすることは、戦略的に正しかろう。
実は、筆者は昨夜、ヤマト運輸から再配達でネット通販の荷物(アマゾンとは限りませんよ!)を受け取った。便利でありがたいと思った半面、「この配達でいくらになるのだろうか?」、「この便利さは過剰サービスではないか?」といささか心配になった。
ちなみに、筆者は、人名の物覚えのいい方ではないが、配達してくれたNさんの顔と名前を覚えている。彼が近隣のエリアを担当しており、時々お目に掛かるからでもあろうが、彼の配達サービスの感じがいいことも理由の一つだ。ヤマト運輸が苦境を脱し、同時に、Nさんもより幸せになるような解決方法はないものか?
■ポジティブな競争条件を
ヤマトは十分に持っている
筆者は残念ながら、経営コンサルタントではないので、他人が思いつかないような飛躍のあるアイデアを自信満々に語るようなことはできない。以下、ごく常識的なことを考えてみる。
まず、ヤマト運輸が置かれた大まかな状況を確認しよう。
「宅配」の競争状況をごく大まかにシェアで見ると、トップのヤマト運輸が45%、2位の佐川急便が30%、第3位は15%くらいで日本郵便で、残り15%をその他の宅配業者が分け合う。
ただし、宅配自体は、小規模にも始められるし、参入障壁は高くない。地域を限るなら少数精鋭で高い効率を持つ新規参入者が現れてもおかしくないし、ネットを使って小規模業者を束ねるようなやり方もある。また、日本郵便のような、広いネットワークがあって、おそらくは効率の向上が可能なライバルもいる。
大手の荷主から見ると、ヤマトがなければ商品の配達ができないということはない。トップシェアの規模の利益によるコスト競争力はあるとしても、ヤマト運輸が、宅配サービスの価格において強力なプライスリーダーになることは難しいだろう。大手の荷主であるネット通販業者は、最終顧客に対して「配達料無料」をうたうのが効果的な売り方なので、商品販売の粗利の中から配達料を賄う必要があり、大幅な値上げには強力に抵抗するものと思われる。
とはいえ、大手荷主に対する価格交渉は、できるだけ行うべきだ。値上げ自体はライバルにも歓迎されるだろう。
しかし、社員に労働に見合った対価を十分に払い、さらにキャパシティを増強するために大人数を追加的に雇うだけの原資は、荷主に対する値上げ交渉だけからは得られないのではないだろうか。
他方、ヤマト運輸のポジティブな面にも注目しよう。
そもそも、宅配サービスは、今や社会生活の重要なインフラの一部であって、ニーズは間違いなく存在している。ネット通販のような商品購買行動が拡大することによって、そのニーズはさらに拡大する公算が大きい。
また、ヤマト運輸は何と言っても、シェアトップなのだ。規模の利益もあれば、経験の積み重ねによるコスト改善効果も相対的に有利なものを持っているはずだ。近年でも、トラックの路上駐車規制が厳しくなったことに対応した、自転車配達や軽量な台車による配達の利用など、配達の技術革新にも感心する(配達する人は大変そうだけど…)。配達のためのネットワークも、相対的に大きなものを持っている。
加えて、ヤマト運輸のセールスドライバーには、正確で効率的な配達のスキルと、接客の感じの良さがある。ライバルの佐川急便には爽やかなイケメン配達員が多く顧客にとって魅力となっているという話も聞くが、ヤマト運輸の配達員の対応は、おしなべて丁寧で感じがいいし、配達地域に密着していることもあり、顧客から見た信頼度・好感度は高い。
ヤマト運輸は、ポジティブな条件を十分に持っているのだから、何らかの解決策があるはずではないか。
■受取人が後から追加できる
「宅急便プレミアム」はどうか?
筆者の思うに、ヤマト運輸は、受取人の指定にきめ細かく応じて再配達を行うような、現状では過剰なまでに丁寧なサービス(「宅急便プレミアム」とでも呼ぶ)と、日に1回配達を行い、翌日以降に荷物を受け取るか、コンビニなりヤマトの集配所なりに荷物を取りに行くかを荷受人の側で選択する「宅急便エコノミー」の2種類の配達サービスに商品を分けて、別々に価格設定するといいのではないだろうか。
宅急便エコノミーに関しては、ライバルを楽にしないためにも安い料金を設定する。その代わり、手間の掛かる宅急便プレミアムにあっては、それなりの追加料金を取るのだ。高額商品や大事な相手に送る贈り物のようなケースでは、送り手は、当然、はじめから宅急便プレミアムを選択するだろう。
ただし、「宅急便プレミアム」は荷主が最初から付けてもいいが、不在配達票を受け取った段階で荷受人が「事後的に」ヤマトに追加料金を支払う条件で、申し込むことができるようにするといいのではないだろうか。後者にあっては、宅配サービスの品質と価格を、受取人が選択するのだ。
現在も、「宅急便タイムサービス」というスピード配達で追加料金を取るサービスはある。ただし、こちらは、荷物の送り主が選んで追加料金を払う。これ以外に、荷物をどのように受け取るのかについて、受取人が選択と追加支払いを行うことができるオプションがあってもいいのではないだろうか。
普通のネット通販にあっては、「宅急便エコノミー」の配達が無料でついていれば、商品の注文者(荷受人)はまあまあ満足だろうし、通販業者も、商品販売の利益からエコノミーの安価な料金を支払うことが可能なら文句は出まい。
荷受人は、不在配達票を見た段階で、それが急いで欲しい荷物なのか、そうでないのかが判断できる場合が多い。急がない荷物についてまで、急いで再配達することは、荷受人・宅配業者双方に無駄があるし、その手間のコストが宅配価格に反映するのだとすると荷主にとっても不利益だ。
指定に応じる再配達の宅急便プレミアムの追加料金をどのように設定したらいいのかについては、残念ながら筆者は適当な「相場観」を持っていないが、たとえば、数百円(できれば安く!)の追加料金を払えば荷物を今日中に受け取ることができるなら、荷受人が宅急便プレミアムを依頼したいと思うケースは十分あるだろう。
仮にヤマト運輸の経営努力によって、プレミアムサービスの追加料金を200円まで下げられるとするなら(付け加えると、スイカなどのICカードやアップルペイなどでも払えると嬉しい)、それを、会社が100円、配達したセールスドライバーが100円と山分けするような感じでどうだろうか。あるいは、プレミアム料金は、地域や繁忙度合いの差によって個別に設定してもいいだろう。上限額の範囲内でセールスドライバーが決めてもいい。
忙しいことは変わらないように思うのだが、筆者宅のエリアを担当されているNさんも少し潤うのだとすると、再配達を頼む方も少し嬉しい気持ちになるというものだ。
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
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