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アベノミクスの犠牲になった「三越伊勢丹」の悲劇 百貨店の崩壊が示す、不気味なサイン
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51165
2017.03.08 磯山 友幸 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
■消費増税が致命傷に
三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋社長の辞任が話題になっている。今年6月下旬の株主総会を待たずに任期途中に辞任するというニュースが市場に流れると、同社株には狼狽売りを浴び、3月6日の終値は1363円と、前の日の終値1436円に比べて5%超の急落となった。
翌7日に三越伊勢丹は大西社長の4月1日付けでの退任を正式に発表。杉江俊彦取締役専務執行役員を後任に決めた。石塚邦雄会長も株主総会後に退任するとしており、体制を一新する。
引責理由とされている業績悪化は深刻だ。2017年3月期の連結純利益は会社予想で130億円と、前の期の実績(265億円)に比べて半減する。このタイミングで辞任を発表したことで、市場では、業績がさらに悪化するのではないか、という見方もささやかれる。
「伊勢丹」と「三越」という老舗ブランドを持つ「百貨店の雄」は、何を間違ったのか。
ひとつの分岐点が2014年4月の消費増税にあったことは間違いない。2013年から始まったアベノミクスの効果に加え、消費増税前の駆け込み需要もあり、2014年3月期の同社の連結売上高は1兆3215億円と前年比6.9%も増えた。
2012年に社長に就いた大西氏は日本全国の「本物」を発掘して国内外に発信するなど、「本物志向」「高級品志向」の品ぞろえに力を入れていた。アベノミクスの「脱デフレ」や「クール・ジャパン」は三越伊勢丹の路線を後押しする格好になったのだ。
ところが消費増税で国内消費のムードが変わる。増税をきっかけに国内消費者が財布のヒモを締めたのだ。短期間で増税の影響は収まるという期待は脆くも剥げた。そんな中で、「救い」になったのは中国人観光客の「爆買い」だった。円安で割安に買い物できる日本にやってきた中国人が、高級品を軒並み買い漁ったのである。銀座や日本橋の三越では中国語が飛び交い、高級ブランドショップには列ができた。
日本の消費者の足が百貨店から遠のいていく一方で、高級路線の三越伊勢丹は「爆買い」を取り込む路線へと知らず知らずのうちに向かっていったわけだ。中国人観光客の爆買いは円安によるマジックで、そう長続きはしないと当初から言われていた。国内消費の低迷が鮮明になる中で、爆買い依存度が高まっていたわけだ。
日本百貨店協会の全国百貨店売上高の統計をみると、2015年4月に前年同月比プラスとなった売上高は、2015年秋ごろから変調をきたし、2016年に入ると失速する。2016年3月から今年1月まで11か月連続で前年同月割れが続いているのだ。「爆買い」の対象だった「美術・宝飾・貴金属」の売上高も2016年3月以降、マイナスが続いている。春節で中国人観光客が大きく増えた今年1月でもマイナス0.4%と前年同月割れだった。
もっとも百貨店を訪れる外国人観光客が減っているわけではない。1月に全国の主要百貨店で免税手続きをした外国人客の数は33万人。単月では過去最多を記録した。春節時期の昨年1月は25万人、一昨年2月は17万7000人だったので、着実に増えているのだ。それなのになぜ百貨店の業績が苦しいのか。
外国人客が使う「単価」が大きく下がっているのである。同じ全国百貨店協会の調査では、客単価がピークだったのは2014年12月の8万9000円。その後、ジワジワと下がり、昨年7月には5万2000円にまで下落した。1月は6万6000円だった。
初期は円安による価格差を目当てに高級ブランド品を「爆買い」していた外国人は、その後、日本の化粧品や食料品などに購買対象をシフトしていった。「爆買い」の対象が変わったのである。
三越伊勢丹はこの「爆買い」の構造変化についていけなかったのだ。当然、高級品の方が利益率は高い。高級路線をひた走り、基幹店である新宿伊勢丹には普通の庶民が足を踏み入れるのもはばかられるほどの高級な高額商品が並んだ。結果的に国内消費者の百貨店離れを加速させる結果になったのだ。
アベノミクスは当初、円安による企業業績の大幅な好転やそれに伴う株高などをもたらした。株高によって「資産効果」と呼ばれる高級品ブームが起きかけたのも事実だ。
安倍晋三首相は繰り返し「経済の好循環を実現する」と述べ、企業の儲けをもっと従業員に分配し、賞与や給料を増やすよう経営者に求めてきた。有効求人倍率がバブル期並みに上昇、雇用者数も増加を続けるなど、人不足は深刻化しているが、なかなか給料は上がらず、経済の好循環は実現していない。
アベノミクスで失敗が明らかなのは、日本のGDPの6割を占める消費を盛り上がらせることができないどころか、縮小させていることだろう。
そもそも「百貨店」という業態が時代遅れになっている、という指摘もある。だが、それ以上に大西社長の辞任に結びついた三越伊勢丹の業績悪化は、経営戦略の失敗と言える。その根源には、アベノミクスの失敗があるのも間違いないだろう。
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