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「プレミアムフライデー事務局 HP」より
現状メリットよりデメリットが大きいプレミアムフライデー、早くも失敗か…成功条件を考察
http://biz-journal.jp/2017/03/post_18181.html
2017.03.01 文=橋本之克/アサツーディ・ケイ 不動産エネルギー カテゴリーチーム・リーダー Business Journal
■プレミアムフライデーの勘違い
月末金曜日は午後3時に仕事を終わりましょう! という運動「プレミアムフライデー」が、2月24日から始まった。消費の拡大と働き方改革の2つを同時に目指すこの運動は、仕事時間を短縮して、その時間で買い物や飲食、旅行をしてもらうのが狙いだ。デフレ傾向を変えるきっかけとして、また有給休暇取得やフレックス制度利用を促す契機として期待されているようだ。
計画が公表されて以来、ビジネス誌や個人ブログなどで多くの意見が交わされている。内容を見ると、景気回復への期待から、長時間労働の是正と有給休暇の消化が先だ、といった主張までさまざまだ。
今回は、このプレミアムフライデーが今後定着するのかどうかについて、行動経済学による人間心理分析を踏まえて予測していく。
大前提として、この運動に関する誤解を解く必要がある。
まず、これはすべての生活者のためのものではない。恩恵を受ける人は限られる。得られる恩恵は、毎月最終金曜の午後早い時間に退社できる、というものだ。しかし、雇用側である企業に対する強制力はない。余裕のある企業でなければ、社員の早退は推奨できないだろう。月末が多忙な職種の人も利用できない。また、流通、外食、旅行などのサービス業に従事する人は、より多忙になるため恩恵を受けにくい(企業の業績がアップすれば間接的な恩恵はあるかもしれないが)。
また時給で働く人にとっては、単純に働かない時間分の給与が減るだけであり、恩恵は少ない。自由業やノマドワーカーの場合、労働時間は自分で管理するものだから、関係ないだろう。消費力のあるリタイア層も働いていないので、ほぼ無関係だ。
■コレって、本当に意味あるの?
また「金曜の午後3時退社=消費が活発になる」という図式にも疑問が残る。時間が余ればお金を使うというほど、生活者の懐は豊かではない。そもそも、平日の午後にわずかな時間ができたからといって、人がアクティブに動くとは限らない。博報堂の調査によれば、プレミアムフライデーの過ごし方のトップは「旅行」(31.5%)だが、2位「自宅でのんびり過ごす」(30.3%)との差はわずかだ。3位以下は「食事」(8.8%)、「買い物」(7.4%)と数値が大きく下がる。
そもそも、プレミアムフライデーの原型は、流通業を中心に消費喚起に成功した米国の「ブラックフライデー」とされる。しかし、これは感謝祭という国を挙げての祝い事にちなんだ、年1回(11月第4木曜日)のイベントだ。毎月行われる日本のプレミアムフライデーは、すでに異質のものになったと考えてよいだろう。
いろいろな課題があるプレミアムフライデーだが、ではこれは本当に無意味なものなのか?
私はそうは思わない。
まず国が掲げる「消費の拡大」や「働き方改革」だが、そのこと自体は反対すべきものではないだろう。労働以外の時間を充実させる風潮は、人々の心の豊かさにつながる。現時点では対象者は限られるものの、雇用側の意識が変われば恩恵を受ける人も増えていくだろう。何よりも生活者にとって、行動の選択肢が増えることは良いことだと考える。
要は実際の効能以上の期待を、性急に抱かなければよいのだ。
ただし徐々にであっても、拡大しなければ結局は無意味な運動で終わるだろう。実際に広がり定着するかどうかのカギは、実は、この運動で経済的な利益を受けるはずの「サービス業」と「一般の生活者」が握っている。
■行動経済学で見ると、コレはプレミアムではなかった
プレミアムフライデーが制度でない以上、実行するかどうかは生活者個人の判断に委ねられる。その場合、何かモチベーションがなければ人は動かない。
では、この運動で人々が得るメリットは何か?
「月に数時間の自由な時間」だ。
逆にデメリットは何か?
国やサービス業の狙い通りに人々が消費をするならば、「自分のお金を使って、減らしてしまうこと」がデメリットだ。そのほかにも、早退した時間分の仕事を別の時間で補てんする、仕事の関係者と調整するなどの手間も発生するかもしれない。
行動経済学には「損失回避」という理論がある。同じだけの損得があったとして、人はメリットを得る喜びよりも、損失に対する恐怖のほうが大きいというものだ。従って、デメリットを大きく上回るメリットがない限り “人は動かない”。あえて損をするくらいなら現状のままで、何もしないことを選ぶのだ。この選択は「現状維持バイアス」とも呼ばれる。
プレミアムフライデーのケースでも、「自由な数時間」と「大事なお金が減ること+仕事調整の手間」を比較すれば、デメリットが勝る。金曜の午後に早く会社を出て消費をすることはないだろう。せいぜい「自宅でのんびり過ごす人」が増える程度ではないか。
では、どうすれば人は動くのか? 消費行動を起こすのか?
■プレミアムフライデーは、コレで成功する!
上記の単純比較においては、人は消費に向かわない。ただし現在のところ、比較の一方にある「メリット」の中身は、すなわち「自由な数時間で何をするか」は、まだ明確でない。あるいは出揃っていない。現在、サービス業各社から発表されつつある商品やサービスが、今後「メリット」の中身として比較の対象になっていくはずだ。
しかし現状を見ると、単にセールやハッピーアワーの時間を夕方から午後3時に繰り上げた程度のものが数多く見られる。このレベルでは人は動かない。通常の帰宅時間後にも買える商品や、受けられるサービスならば、わざわざ早退する意味はないのだ。
「わずかな自由時間か、散財か」という単純比較ではなく、「金曜夕方に嬉しいコトがあるトコロへ行くか行かないか」という比較でなければならない。従って、金曜日の午後3時〜6時の時間帯でのみ得られる商品やサービスであることが最低条件だ。「その時間でなければ得られない」メリットでなければならないのだ。
プレミアムフライデーにより最も経済的利益を得るのは、流通、外食、旅行等のサービス業各社である。こういった企業が、今までにない新たな商品やサービスを提供できれば、プレミアムフライデーは成功する。しかし、国をあげての運動の“追い風”を、ただ受ければよいという意識の企業ばかりならば、失敗に終わるだろう。
プレミアムフライデーの将来を左右するのは、国や雇用側の企業ではなく、サービス業である。この結果は、そう遅くない時期に出るはずだ。
(文=橋本之克/アサツーディ・ケイ 不動産エネルギー カテゴリーチーム・リーダー)
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