http://www.asyura2.com/17/hasan119/msg/555.html
Tweet |
10年後、君に仕事はあるのか?
【第5回】 2017年2月27日 藤原和博
採用面接での評価ポイント「雇われる力」とは?
AIの台頭や一層のグローバル化、就活の地殻変動などの影響で到来する「仕事が消滅する時代」。そんな時代に必要とされるのが、「雇われる力」だ。本連載では、藤原和博氏の最新刊『10年後、君に仕事はあるのか?』の内容をもとに、「高校生に語りかける形式」で2020年代の近未来の姿と、未来を生き抜くための「雇われる力」の身につけ方などお伝えしている。今回はその第5回。
学歴重視で採用を決めるのには、十分に合理性があった
もし君が会社の人事部長になったら、どんな視点で新卒採用の面接をするでしょうか?
人事部長ロールプレイです。
とにかく芸達者でコミュニケーション能力が高そうな人ですか、それとも、実直な受け答えで仕事を確実にこなしてくれそうな人のほうを採用しますか?
大学時代にスポーツ系の部活をやってましたというパワーを評価しますか、それとも、囲碁の段位を持っている論理的な能力がありそうなほうを評価しますか?
緻密に会社のことを調べてきて自分にはこれができるとプレゼンする分析力に賭けますか、それとも、海外に長く住んだ帰国子女の可能性に賭けますか?
100人会えば、百人百様。ましてや相手は就職面接でのプレゼン力を磨いてきていますから、みんなよく見えてしまうかもしれませんね。
採用倍率は7倍を超えると質が維持されると言われていますから、10人採用するなら70人以上、100人採用するなら700人は面接したいところです。
10人だとなかなか多様性を確保することはできませんが、100人採用するなら、7割がたは学力重視で普通の仕事なら大丈夫だろうという人材を採用し、あとの3割に多様性を求め、いろんな色を織り交ぜることになるかもしれません。さらに3〜4人は、迷うけれども勝負しようかなとか、意外と伸び代があってあとから大化けするかもとか、もしかしたら天才?……というようなリスクのある人材も交ぜるのが理想です。
たいていの組織の人事部長は、こんな考え方をしていると思ってくれれば、そう遠くないでしょう。今度は応募者の視点に戻って、よく聞いてくださいね。
まず、ベースとしての「人間力」を面接で見極めたい。実際には、なかなか難しいんですけどね。基本になるのは、その人の「人柄」と「体力」でしょう。
君だって人柄の悪い人とは一緒に働きたくないでしょうし、体力がなければ仕事が続きません。つまり、これらは最低限の条件だということ。
なぜ人事部長が体育会系の部長経験者が好きかと言えば、一般的には集中力や精神力、忍耐力に加えてリーダーシップがあるんじゃないかと解釈できるからです。
次に基礎学力。基本的な事務処理能力を保証する目安になります。
たいていの企業が学歴重視で採用を決めるのには、じつは十分に合理性があるのです。
なぜなら、どれくらいの偏差値の大学に入ったかは、少なくとも18歳時点での君の処理能力を保証するモノサシになるからです。高校までの成績が一生を決めるとまで言われたのは、学力の比重が「雇われる力」のなかでいかに高かったかを示しています。その大学で何を学んだかではなく、入試がどれほど難しかったかのほうを、これまでの企業は信用していたということになりますね。
しかし、この傾向は改まるはずです。
「雇われる力」はバランスが重要
これからは、以下の5つのリテラシーがより重要になるでしょう。
(1)コミュニケーション・リテラシー
(異なる考えを持つ他者と交流しながら自分を成長させること)
(2)ロジカルシンキング・リテラシー
(常識や前例を疑いながら柔らかく「複眼思考」すること)
(3)シミュレーション・リテラシー
(アタマのなかでモデルを描き、試行錯誤しながら類推すること)
(4)ロールプレイ・リテラシー
(他者の立場になり、その考えや思いを想像すること)
(5)プレゼンテーション・リテラシー
(相手とアイディアを共有するために表現すること)
周囲の人たちとコミュニケーションしながら、ロジカルに自分の仮説を考え出し、マーケットの変化をシミュレーションしつつ、顧客の反応や判断をロールプレイすることで仮説を強化して、最後には相手が理解できる言葉でプレゼンテーションできるかどうか。
こういった力が重要になる。
なぜなら、これらが「できるビジネスパーソンの条件」だからです。
この力を大人になるまでにバランス良く育めるかどうか。それが、君自身の「雇われる力」を決めるということ。
もっとも、完璧な人なんかいませんから、誰でも入社してから弱点を補強し、長所をさらに伸ばしていけばいいんです。
http://diamond.jp/articles/-/118270
【第34回】 2017年2月27日 flier
科学は人生をどう変える?最先端テクノロジーの現場から見る
『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』
これまでテクノロジーは、多くの不可能を可能にしてきた。だが、テクノロジーが発達する勢いはすさまじく、「人間」や「知性」の意味を変えてしまうのではないか
要約者レビュー
これはまた異色の本だ。だが、とにかく面白い。
『明日、機械がヒトになるルポ最新科学』
海猫沢 めろん
296ページ
講談社
840円(税別)
著者の海猫沢めろんは、溶接工やホストなどさまざまな職業を経たあと、小説家として2004年にデビューした人物だ。といっても本書『明日、機械がヒトになるルポ最新科学』は小説ではなく、最新の科学の現場を追ったルポルタージュである。小説家という立場にもかかわらず、なぜこのような科学ルポを書きあげたのか。海猫沢の語る理由はいたってシンプルだった。「テクノロジーがぼくたちの想像力を超えはじめている。その現場を見たい」。
テクノロジーはこれまでも、多くの不可能を可能にしてきた。だが、現在のテクノロジーの進化は、「人間」や「知性」の意味を変えてしまうかもしれないと海猫沢は述べている。たしかにテクノロジーが発達するいきおいはすさまじく、人間とテクノロジーの境目はこれからさらにあいまいになっていくだろう。
かつてデカルトは『方法序説』のなかで、人間そっくりの機械と人間を確実に見分ける方法として、(1)自由に言葉を使えるかどうか、(2)自由意思があるかどうかという判断基準を提示した。しかし、そうしたことが機械にもできるようになったとき、はたして両者を峻別することができるのだろか。
本書が提供するのは、これまで未到達だった領域へのロードマップだ。閉塞した旧来の人間観をこじ開け、新しい地平を目にしたいのならば、ぜひ本書を手にとってみてほしい。新たな人間観が立ちあらわれてくるにちがいない。 (石渡 翔)
本書の要点
・SR(代替現実)はVR(仮想現実)を上回るリアリティをつくりだす。これにより、これまでむずかしかった主観的な体験の伝達もできるようになるかもしれない。
・人間にとって最も理想的なインターフェースは人そのものである。
・ロボットが発展した将来、人間は自らの存在価値を何に見出すのか迫られることになるだろう。
・人間の「活動予算」は決まっており、たとえば原稿執筆作業には1日の29%程度しか使えない。
・幸せを定量化することは、かえって多様性の促進につながる。
要約本文
◆SR――虚構を現実にする
◇心の問題を「見える化」できるか
現実と虚構の境をなくす技術といえば、VR(仮想現実)が有名だ。だが、SR(代替現実)システムが提供するリアリティはさらにその上をいく。実験室でSRを体験した海猫沢は、本当に現実と虚構の区別がつかなくなるほどだと話す。
SRシステムの研究をしているのは、理化学研究所の脳科学総合研究センターに所属する藤井直敬(ふじい・なおたか)たちのチームだ。ふつう、主観的な体験というのは相手に伝えようとしても、完全には伝えられないし、再現することもできない。だが、SRシステムなら、ヘッドギアをかぶった瞬間に、「ああ、こういう感じか」とある程度実感できてしまう。平たくいえば、「他人の視点」の共有ができるのだ。
本来、科学において、心の問題を扱うのはとてもむずかしい。これまで神経科学はfMRI(機能的磁気共鳴断層撮影装置)などで心の問題を解き明かそうとしたが、結局はデータという数量的なものしか研究の土台に上げることができず、主観的なものを研究することはできなかった。だが、SRなら心の問題を「見える化」できるかもしれない。
◇テクノロジーは幽体離脱を可能にする
SRを使えばもっとすごいこともできると藤井は語る。それは幽体離脱だ。
SR内でカメラをそのへんに置いてライブ映像を見せる。すると、自分の視点が体ではなくカメラのほうに移ってしまい、まるで幽体離脱をしたような感覚を味わうことができる。さらに、カメラの位置を何カ所かに動かしていくと、自分ではない別の所に自分の視点は持っていかれたままになる。それをずっと繰り返していると、部屋に自分が充満したような気になり、神のような視点になるのだという。
◇SRで人類は進化する
藤井は、SRをみんなに体験してもらえる環境をつくりたいと考えている。そうすれば、認識もしくは認知のレベルを、1段階上のレイヤーに上げることができるからだ。
たとえば、SRを用いて物事を別人の視点で見ることで、共感能力をアップデートするということもできる。現実の複数性を同時に体験することも可能になる。最終的には、SRで人間を進化させることすらできるかもしれない。
人類の進化というと荒唐無稽に感じられるかもしれないが、ネットやスマートフォンが日常化し、人類がこれほど細かいデータを脳に出し入れする時期は、これまで存在しなかった。SRシステムはあくまで基礎研究だが、この成果がいつか身近なデバイスで使われるようになれば、そのとき私たちは気づかないうちに進化するかもしれない。藤井はそう考えている。
◆アンドロイドは人間のように夢を見るか
◇機械はやがて人型になる
日本のアンドロイド研究の第一人者である石黒浩(いしぐろ・ひろし)は、2007年にCNNの「世界を変える8人の天才」に選ばれ、同年、英 Synetics 社の「世界の100人の生きている天才」で26位になった、世界中が注目する研究者である。
私たちが人間型ロボットに興味をもつ理由として、石黒は人のもつ「人を認識する機能」をあげる。現在のスマホや携帯は、人間にとって理想的なインターフェースではない。最も理想的なインターフェースは人のカタチをしたものである。そして、その人間らしさの究極系としてあるのが、アンドロイドだというのだ。
「最も理想的なインターフェースは人そのもの」という石黒の発言にたいし、疑問を覚える人も多いかもしれない。実際、今の工業用ロボットや携帯電話は、人のカタチをしていないのも事実だ。しかし、子どもたちのふるまいに目を向ければ、その発言の真意が見えてくるだろう。子どもはまねをするとき、人の動きだけを見ており、機械の動きのまねはけっしてしないのだ。
◇心なんて本当は存在しない
「人に心はなく、人は互いに心を持っていると信じているだけである」――石黒がこう考えている背景には、感情がなく、怒ることが一切できなかった幼少期の経験が大きく関わっている。現在怒ることができるのも、大勢の人間をたばねるときに必要だったため、がんばって練習したからだ。昔は「人」、「気持ち」、「考える」、そのどれも理解できなかった石黒だからこそ、「人間には心が問答無用に備わっている」という見方には反対である。
石黒の考えでは、人と機械のあいだには「そもそも境界がない」。というのも、人間はもともと自分の力だけで進化するのではなく、技術をつくりあげることで、自分の可能性を引き出してきたからだ。そういう意味では、今になって機械が人間のようになってきたという話は、そもそもナンセンスだともいえる。
◇ロボットの雇用問題
「人間」を定義することはむずかしい。「意識がある」、「考える」といった曖昧なものはすべて定義たりえない。そう考える石黒に対し、海猫沢は疑問をぶつけた。仮に人間と同じようにふるまうものを「人間」としてとらえたとき、アンドロイドをはじめとするロボットに人権を認めるという話になるのか。
海猫沢の疑問に対する石黒の答えはこうだ。人間は機械よりもすぐれていると考えたがるが、それは差別である。とはいえ、差別がなくなったら今度は能力で区別することになる。そうしたとき、ほとんどの人間はコンピュータやロボットに勝てなくなり、そのせいで将来、自分の存在価値を見失う人もいるかもしれない、と。
もっとも、ロボットの発展にとって生じうる雇用問題について、石黒は楽観的に考えている。雇用の心配をしているのは、現状が変わらないと思ってる人たちだけであり、歴史を見ても、仕事の種類はどんどん変わっていっている。経済活動を活性化するためにロボットがあるのだから、またそこから別の種類の仕事が生まれてくると考えたほうが建設的だというのがその理由だ。
ロボットの隆盛は、人間が生きることに対する挑戦だと石黒は考えている。今まで人間の遺伝子には、「生き残れ」ということしか書いていなかったが、これから先は、ある種のフィルタリングを経ないと進化はむずかしい。つまり、機械とくらべて、自分はどれだけ存在価値があるのかを、自分自身で納得できるような生き方が求められる社会になるはずだ。人間の生きる意味はまさにそこにあるというのが石黒の意見である。
【必読ポイント!】
◆ビッグデータから法則を見出す
◇人間には「活動予算」がある
日立製作所研究開発グループ技師長の矢野和夫(やの・かずお)は2006年から、1秒間に20回、詳細な動きのデータを計測してくれるリストバンド型のウエアラブルセンサをつけて生活をしている。そしてそうやって集めたデータを分析した結果、いろいろな法則が見えてきたという。
矢野によると、人間には明確な「活動予算」が存在する。たとえば1分間に腕の動きが60回以下の活動は、1日の活動時間全体の半分の時間までしか行なえないし、60〜120回腕を動かす必要のある活動はその半分、120〜180回ならだとさらにその半分といった具合に、活動の「帯域」はすでに決定されている。
もちろん、人間ごとに個性はあるものの、1日のなかでどういうことに何割ほど時間を使えるかといったことは、ほぼ決まっている。たとえば原稿執筆作業には、1日の29%程度しか使えないことがわかっている。
◇幸せは定量化できる
人間の幸せに関する学問は、この10年間で急速に進歩していると矢野は語る。大量のデータとセンサを用いて大人数の回答を統計解析した結果、身体運動の特徴と主観的な幸せとのあいだには、強い相関関係があるとわかった。くわえて、毎週「よかったこと」を書くのを続けたメンバーは、ほかの人たちと比べて幸せの度合いが高まっていたという実験結果も出ている。
そもそも、幸せを感じる能力というのは、半分ほど遺伝子の影響を受けている。残りの半分のうち、10%が人間関係や健康、お金などの環境的な要因、そして40%が「積極的に行動をしたかどうか」で決まってくる。「幸せな人たちの身体は特徴のある動き方をする」という単純な事実があるからこそ、ウエアラブルセンサで幸せの度合いが測れるというわけだ。とはいえ、たくさん動けば幸せというわけではない。多様な動きが集団のなかに混ざっていることが、集団の幸せをあらわすのだという。
◇管理することが多様性を生みだす
ビッグデータは共通法則を見出すことにも役立つが、個別データの差異をあきらかにするときにも有用だ。矢野たちの開発したハピネス測定サービスを受注した、とある企業でのことである。そのオフィスでは、日本企業によく見られる伝統的な島型対向オフィスから、斜め動線の最新型のワークプレイスに机の配置を変えた。社員同士のコミュニケーションを減らし、個人の作業時間を増やすための工夫だった。
その結果、Aという部署では幸福度があがったにもかかわらず、Bという部署での幸福度は下がってしまった。つまり、個人の作業に集中したほうがいい部署もあれば、そうでない部署もあるというわけだ。このように、データにもとづいて環境を変えたり指示をしたりすることで、人間の幸せは管理できるのである。
このように「人間の幸せは管理できる」と聞くと、忌避感を抱く人も少なくないかもいれない。だが著者の見立てでは、その恐怖の本質は「多様性を奪われること」、つまり人間がデータで画一的に管理されることへの不安にこそある。矢野の研究が示しているのは、むしろデータによってむしろ多様性が活かされるということだ。技術はあくまで人間のためにある。
◇アドバイスシステムという衝撃
9年間、ウエアラブルセンサを身につけている矢野は、過去数日のデータから自分に最適なアドバイスを出してくれるシステムをつくり、それに従って今も生活しているという。「まごころから人と助け合え。そうすれば、共感しても迎合しないことで隠れた機会が見えてくる」といったように、送られてくるアドバイスは非常に具体的だ。
「ライフシグナルズ」と呼ばれるこのシステムは、人間行動を6つの変数で記述するというしくみから成り立っている。その6つの変数が過去数日でどのように変化しているのかを観察していくと、自分の状態を64に分類できる。矢野はその64分類で8マス×8マスの表をつくり、それぞれのマス目に、「こういう状態のときはこうするともっといい日になる」とアドバイスを書きこんでいった。このメッセージ表とデータをもとに、その日にふさわしいアドバイスが送られてくるというわけである。
驚くことに、送られてくるアドバイスはとても的確だと矢野は感じている。矢野も最初は、「これはあくまで参考にして、最後は自分の意志で決める」ことをかたく誓っていた。だが、毎日参考にしていると、本当にそのアドバイスがすばらしいと感じられた。思わず2年目からは、アドバイスで言われたことをできるかぎり実現するためにはどうすればいいのか、考え方を切り替えたほどである。矢野は、いつかこのアドバイスシステムも世に出すつもりだ。
一読のすすめ
読んでいるうちに、機械と人を隔てる境目がどんどんと溶けていくような、そんな感覚を覚えさせてくれる一冊だ。要約では全7章のなかから、「SR」、「アンドロイド」、「ヒューマンビッグデータ」の3つを選び構成したが、残る「3Dプリンタ」、「AI(人工知能)」、「BMI」、「幸福学」の章もとても刺激に満ちた内容となっている。未来のテクノロジーと人間の未来について思いを馳せたいのであれば、本書を手にとることを強くお薦めする。
評点(5点満点)
※評点基準について
著者情報
海猫沢めろん(うみねこざわ・めろん)
1975年大阪府生まれ。小説家。様々な職業を経て文筆業につく。主な著書に、『零式』(ハヤカワ文庫JA)、『ニコニコ時給800円』(集英社文庫)、『左巻キ式』(星海社文庫)、『死にたくないんですけど iPS細胞は死を克服できるのか』(共著、ソフトバンク新書)などがある。
(要約の達人 flier)
http://diamond.jp/articles/-/118332
40代からの人生の折り返し方 野田稔
【第47回】 2017年2月27日 野田 稔 [一般社団法人 社会人材学舎 代表理事]
一流のプロほど「準備」の重要性を熟知している
ここぞという時に、自分の力を発揮できる人は、準備の重要性をしっかりと把握しています
人生のすべてを懸けて
自らを追い込むのがプロ
最近、非常に感銘を受けた言葉に、元巨人軍の選手であった足のスペシャリスト、鈴木尚広氏のものがあります。目にしたのは、The Pageが1月30日に配信した記事で、論スポ、スポーツタイムズ通信社の本郷陽一氏が取材したものです。
記事のタイトルは『大型補強巨人が抱える「なぜ若手が育たない」の矛盾はキャンプで解消可能か』でした。
同記事で鈴木氏は「今の若い選手は、野球の重みを知らないように思えるのです。ひとつひとつのプレーが雑に見える」と述べています。
この言葉は本当に意味のあるものだと思いました。プロとしてのマインドセット(心構え、自分の考え方)がいかに大切なものであるかということを再認識させられました。
老荘思想家の田口佳史先生から聞いた話を思い出しました。それはある漁師の話です。天竜川の投網漁の達人だったと思います。
彼の投網は百発百中、まず外れがないのですが、翌日の漁の出来は前日の準備でほぼ100%決まると言います。
田口先生がプロフェッショナルの研究をされていた時、インタビューを申し込んだら、その漁師から「前の日の夜の10時に来い」と言われました。漁師小屋の二階にはあらゆる道具が揃っているのですが、翌日の天気を読み、川の状況を予測して、いかに準備をするか、成功の秘訣はすべて前の晩にある、と言われたそうです。できることを前日の準備ですべて行って、当日は運任せにしないというわけです。
それこそプロの心構えだと思いました。田口先生はまた、イチロー選手とも親交があり、ある時イチロー選手が「先生、僕はグラウンドの中でできることはすべて終わりました」と言ったのだそうです。
すごい言葉じゃないですか。グラウンドの中でできること、つまり試合でやれることはすべて習得したという意味だと思います。しかし、先生は「いや違うんだ。彼はさらに地獄に踏み出したんだよ」と言うのです。
グラウンドの中でできること。それは試合だから一番重要なことではあるけれども、1日のうちでせいぜい3時間程度であるわけです。その他の時間、つまり1日のうちの21時間のなかで彼は勝負をすると言ったのです。
プロにとってそれは「準備」などという生易しいものではありません。人生のすべてを懸けて自らを完璧に仕上げていくため、そこまで自分を追い込んでいくものなのです。プロが素人と決定的に違う部分は、不確実性をどこまで減らすかに命をすり減らしているということなのです。フロック(まぐれ)ではなく、コンスタントに実力を発揮する。それこそがプロのやるべきことだからです。
必要なのは笑われることではなく
笑わせることができるか
野球選手にしても芸人にしても、観客が見るのは基本的には本番の姿です。これはビジネスパーソンも同じです。人に見せるのは、晴れの舞台も含め、仕事の現場であるわけです。本番でのパフォーマンスがもちろん一番大切です。しかし、その現場で行っていることは、全体の中では実はごくわずかなことに過ぎません。その裏にあること、つまりは準備をどこまで充実させて、その成果を最後に発揮するかが大事なのです。
冒頭に出てきた元巨人の鈴木氏はさらに「それを感じない鈍感力も大切なのかもしれないが、勝負ごとには邪魔な部分でしょう。痛みを覚え、感じながら野球をやって欲しいのです」と言っています。
これは鈴木氏の意味するところとはもしかしたら違うのかもしれませんが、私なりに解釈すれば、研ぎ澄ませて、研ぎ澄ませて、鋭敏になって、その痛みをも感じるほど準備を行い、最後の最後、本番の試合では自分を鈍感に持っていける。つまりはリラックスして、ベストパフォーマンスを発揮できることこそがプロのなせる技だと思います。
どんなに周到な準備をしても、本番であがってしまっては意味がありません。その部分でのマインドコントロールもプロとしての重要な技量です。
少し、私自身の話をしたいと思います。私はよく皆には驚かれるのですが、元来はものすごいあがり症なのです。だからテレビ番組などの本番前はいたたまれません。ドキドキしてしまうのです。
緊張を抑える術を何とか私は習得しました。私は手に汗をかきます。だから必ず手を洗います。ゆっくりと念入りに洗います。それで本番に向けたスイッチを入れる。これが習慣化しています。「よし、行こう」と思えるのです。
逆に言えば、手を洗いたくならない時は、手に汗をかいていないわけで、この状態はよくありません。あがってはいないのですが、習い性になっているか、いまいちやる気がないかのいずれかだからです。それではいいパフォーマンスは望めません。
本番の多くを慣れでこなしている人は、そのことに気がついていないから、時に、おもしろい大ドジを踏んだり、逆にファインプレーをしたりすることがあります。これは大変に怖いことです。
あるお笑い芸人が昔、こんなことを言っているのを聞いたことがあります。「俺たちは人に笑われているのではない。笑わせているのだ」と。ごもっとも。しかし、多くのお笑い芸人は観客に笑われているように思います。そういう芸人のブームは短く、早晩、飽きられてしまうわけです。
これは、お笑い芸人だけの話ではもちろん、ありません。
準備をしっかりするから
斬新な発想も生まれる
またイチローの話に戻りますが、彼はファインプレーが意外と少ない。それは、打球がどこに飛ぶかを予測して、先に走って待ち構えているからです。彼は「ファインプレーを狙うのはいいことではない。身体に負担がかかるし、ケガをするかもしれない」と言うのです。
実は、これは孫子の兵法に通じる考えです。このような一節があります。『古のいわゆる善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。故に善く戦う者の勝つや、智名なく、勇功なし。(中略)すでに敗るる者に勝てばなり』
孫子は「よき将軍は決して華々しい武功を上げない。しっかりとした準備をして、敵の動きを察知し、勝つべくして勝つ。戦わずして勝つことこそ最善の戦い方である」と述べています。
すべてに共通する話が「事前準備」の重要性であるわけです。
では、よりよく準備をする人間はどういう人でしょうか。私は、決して豪胆な人ではなく、常に、ヒリヒリするくらいの恐怖感を感じている人です。焦燥感があり、切迫感がある。人はそうなると、完璧主義を求めます。だから、十分な準備をするのです。
プロも、習い性になったら終わりです。遅かれ早かれ、その人のパフォーマンスは落ちてしまいます。なぜなら、緊張もせず、ただ鈍感になり、準備も怠るようになるからです。
実は私はテレビに出始めた時に、リハーサルが嫌で嫌で仕方がありませんでした。鈍感だったからではなく、恥ずかしいからでした。撮影本番はハイテンションになっていて、アドレナリンが出ているので、たとえば大声を出すのも恥ずかしくはありませんが、リハーサルは違いました。いかにも中途半端な緊張感の中で、真剣にやるのが恥ずかしかったのです。
講演などの舞台の場合はリハーサルも問題ありません。なぜなら観客がいないからです。しかし、テレビの場合はその場に観客がいないだけで、目の前の撮影風景はカメラマンやディレクター、プロデューサーや照明……多くの関係者がひしめいています。
小学生の時に味わった、ある手痛い経験から、私は準備の必要性を十分わかっていましたし、50回以上行っている結婚式の司会でも、私は京大式カードに自分が言うべき言葉をすべて書き込んで準備していました。講演に際しても、原稿をしっかりと書き、何回も練習をして、暗記して、本番では読まないでできるようになる。そこまでしっかりと準備をしていました。
それでも、テレビのリハーサルは苦手だったのです。初めてNHKでメインキャスターを務めた時に、そんな中途半端な気持ち、態度が一瞬にして打ち砕かれました。コメンテーターの場合は練習をしなくても大丈夫なのです。むしろ練習し過ぎると型にはまってしまいます。しかしメインキャスターとなるとそうはいきません。仕切らないといけないので、現場で何が起こっても冷静に対応できるような準備が必要です。
ところがリハーサルではやっぱり恥ずかしさのほうが勝っていて、現場対応に身が入らず、「というようなことで」という言い方をしてしまったのです。すかさずプロデューサーから「ちゃんとやりましょう!」という声が飛んできました。その声には怒気と「あなたはプロなのだから」という思いがこもっていて、刺すようなものを感じ、本当に申し訳ないと思いました。
リハーサルをやっても、やっても、撮影本番を迎えるともちろん、その通りにはいきません。しかし、リハーサルをしっかりやっていると本道がわかるから、今、どのくらいズレてしまっているのかもわかります。だから元に戻れるのです。必要な要所要所が何分何秒後なのかを体で覚えているから、どの部分をどこまでに誘導すればいいということがわかっている。さらに言うならば、それがわかっているからこそ、自信を持って遊ぶことができる。
これは「守破離」と同じです。しっかりと準備をして守ってはじめて、偶然の成り行きやコメンテーターなどの脱線も制しながら、破ることができるし、離れることもできるようになるのです。
プロというのは、自分の領域において非常に慎重な人だと思います。臆病といってもいいかもしれません。もちろん根っから臆病なのではなく、撮影本番中に脇道に入って本道に戻れなくなる怖さを知っているからこそ臆病になるのです。プロであればあるほど、失敗した時の情けなさや怒りを知っているため、準備やリハーサルにも身が入るのだと思います。
準備をしっかり行い、念入りにリハーサルをするのは、予定調和を狙い、無難に撮影本番を終わらせるためでは決してありません。それよりも、自信を持って、リラックスして遊べる、挑戦ができる、そのための準備なのです。
皆さんは、そんな準備を怠っていませんか?
(一般社団法人社会人材学舎 代表理事野田 稔 )
http://diamond.jp/articles/-/119079
幸せを引き寄せる「口ぐせ」の魔法
【第3回】 2017年2月27日 山名裕子
「相づち」を打つ時は、「ペーシング」を意識する
無意識のうちについつい言ってしまう口ぐせ。でも、その口ぐせひとつで幸せになれる人となれない人が決まってしまうとしたら……?
テレビ出演多数の人気臨床心理士が、幸せを引き寄せる口ぐせの数々を、脳への効果や医学的理論を基に解説。今回は、相手の心をぐっとつかむ「相づち」の方法についてです。
お勧めなのは、相手の言葉を引用して返す
「バックトラッキング」という方法
山名裕子(やまな・ゆうこ)
やまなmental care office代表。臨床心理士。 1986年、静岡県浜松市生まれ。幼い頃から両親が一番の理解者であったが、身内ではないからこそ話せることもあるのだということに気がつく。心理学系大学を卒業後、夢に向かって努力を重ねるが、努力だけではどうにもならない挫折を味わい、自信をなくす。その後もう一度心理学を学び、臨床心理士として活動するため、大学院にて心理療法の心得や技術を習得する。2013年、臨床心理士の資格を取得。心の専門家、臨床心理士として「モーニングバード」(テレビ朝日)、「あさチャン!」(TBS系)、「Rの法則」(Eテレ)などメディア出演多数。また、有名企業から教育機関などで講演活動も精力的に行っている。主な著書に『バカ力―完璧をめざさない強さ―』(ポプラ新書)『一瞬で「できる男」と思わせる心理術』(宝島社)がある。
相づちには、会話を弾ませる効果があります。夫婦関係、恋人関係、家族関係、仕事関係……コミュニケーション不足に陥りがちなすべての関係において、「相づち」は非常に有効です。
コミュニケーション不足の大きな要因に、一方が「興味がなさそうだから話すのをやめよう」と思ってしまい、それを受けたもう一方も「相手が黙っているから自分も話すのはやめようかな」と感じてしまう、会話の“負のループ”が挙げられます。負のループに陥ったら、コミュニケーションが一気に減り、関係性が希薄化してしまいます。
相づちは、「話を聞いていますよ」というアピールです。このアピールが、話している相手の承認欲求を満たし、コミュニケーションを円滑にします。
相づちにはいろいろなパターンがありますが、お勧めなのは、相手の言葉を引用して返す「バックトラッキング」という方法。
例えば、奥さんや彼女に「昨日、渋谷の美容室に行って来たんだ」と言われたら、何と反応しますか?
多くのご夫婦やカップルの場合、男性のほとんどが「ふーん」「へー」で返すから、「ねえ、聞いてるの!」となり、ケンカが勃発するわけです。
そこで、相手の言葉を引用し、「え?渋谷の美容室に行ったんだ?」と相づちを打つ。そうすると、話している側は「聞いてくれている!」と感じ、もっといろいろ話したいと思えます。
相づちを打つ際に、「ペーシング」を意識することも有効です。相手の話し方やスピード、話すテンション、間の取り方、声の大きさなどをなるべく合わせながら返す。そうすると、人は自分と似たものに好感を持つという心理「類似性の法則」が働き、お互いの居心地がよくなって、会話が弾むようになります。
「ペーシング」にはもう一つ、相手が欲している表情や態度を取るという意味もあります。相手がどういう反応をしてほしいと思っているのかを測って、聞く側もその表情をつくるのです。
表情には大きく分けて、オープンフェイス(笑顔やびっくりした表情などのオープンな表情)、ニュートラルフェイス(素で無機質な表情)、そしてクローズドフェイス(悲しい、怒っている、真剣など、顔のパーツが中心に寄るような表情)の3つがあります。この3つを、相づちにプラスすると、「相手の話を感情移入しながら聞いている」というアピールになります。楽しい話をしているならば、オープンフェイスでニコニコと、グチを言っているならば、一緒になって辛そうなクローズドフェイスに……を意識してみましょう。
身体を前後に動かすこともお勧めです。前のめりになって興味を示したり、顔や身体を後ろに反らして驚きを表現するのです。時には肩を落として反省の態度を示してみるのも有効です。相づちのレパートリーを増やすと、さらにお互いの居心地がよくなり、会話も弾むようになるでしょう。
「バックトラッキング」+「表情変化」は、ビジネスシーンにおいても有効です。意思疎通や意思確認につながり、思いのニュアンスを一致させることができます。相手の言葉を繰り返すことは、ミスを減らすことにもつながります。
特に、言うことがコロコロ変わる上司や取引先などに有効。相手の言葉を引用することで、相手に「自身の発言内容」を記憶させることができるので、発言の変化を防げますよ。
http://diamond.jp/articles/-/118769
カルビー会長兼CEO 松本 晃
【最終回】 2017年2月27日 松本 晃 [カルビー代表取締役会長兼CEO]
他人のお金で勝負できる。サラリーマンは社長が一番面白い
Photo by Yoshihisa Wada
2月の「今月の主筆」に迎えたカルビーの松本晃会長は、論理的でリアリティのある視点でカルビーの成長をリードしてきた。一連の発想の起点は、どのような体験にあるのか。(聞き手/「ダイヤモンド・オンライン」編集長深澤 献)
「会社のお金」だから大胆にやれる。でも絶対に失敗はしない
――大学を出て伊藤忠商事を志望したのは、なにか理由があったのですか。
松本いえ。学生ですから会社のことなど分からないし、お金をたくさんくれたらいいなぁ、ぐらいのものでした。実際、入社してみると、やはり想像していたものとは違いました。想像よりも「お金を儲けること」はずっと面白かったのです。
働いてみると、「面白いのは社長だ」と思うようになりました。組織の中にいると、やはり様々な制約があります。その意味で、トップと2番手の差は、2番手と最下位の差よりもさらに大きい、というのが私の実感でした。なにより、社長は決断できる。仕事は、自分で決断できるから面白いのです。その意味では、今はCEOなのであまり面白くないですね(笑)。
――決断する立場ではないからですね。
松本CEOは、「このような方向、方針で」と大枠は示しますし、社長にアドバイスもします。でもそこまでです。本当に社長は面白いですよ。その代わりしんどい。社長はジョンソン・エンド・ジョンソンで9年やったからもう十分です。
そもそも私は、「カルビーでは4年以上はやらない」と言っていたのです。中継ぎのピッチャーのようなもので、6回のピンチに出てきて7回を締めたらクローザーなどに引き継ぐ。ところが実際は、上場があり、上場後も株価が右肩上がりだったので株主が、「あなたが辞めたら株価が下がる」とおだてる。だからいまだおだてに乗せられてやっている。人間はおだてやごますりに弱いですよ(笑)。人間ってそうでしょう。
――それをはっきりと口に出されるのが松本さんらしいところなんでしょうね。
松本しかし、いつまでもおだてられていてもキリがない。おだては、そのうちドスンと落とされるものでもありますからね。
それと7年もやっていると、私のことを「あいつ、うるさいな」と思う人が多くなります。「カルビーの人間は儲けるのが上手ではない」と思うこともありますが、それでも皆さん一所懸命に取り組んでいることだからあまり口を出さないようにしています。僕の賞味期限もそろそろかなと、いつも思っています。
――就職して「社長になりたい」と思われたのはいつごろですか。
松本25、26歳頃ですかね。サラリーマンは、社長でなくては面白くないとはっきりと自覚しました。ただ伊藤忠で私の所属していた部は、繊維やエネルギーなどの主流とは違い、マイナーな部隊でした。実績を上げてはいても、出世コースに乗っているとは言い難い状況で、社長は難しかったでしょう。
――独立は考えなかった?
松本独立心はありません。なぜならそんな度胸がありませんから。言いたいことを言っているように見えて、実は気は小さいのです(笑)。だから人の褌(ふんどし)でなければ相撲が取れない。その代わり、人の褌ならば大胆にやります。そして絶対に失敗しません。
カルビーの経営を引き受けたのも、カルビーは勝ち馬だったからです。この勝ち馬は強い。だが、もっと強くなれる。なにをすれば強くなれるか、私には見えていました。それが会長就任以来、言い続けている「コスト・リダクション」と「イノベーション」だったわけです。
――自分のお金でやるのは、たしかにしんどいですね。
松本そうです。会社のお金だったらやりやすいですよ。勝っても負けても会社持ちですから。もちろん真剣にやっている。だけど、自分のお金だと真剣さと共にビビりが入ってしまいます。
そう考えるとソフトバンクの孫(正義)さんとか、ユニクロの柳井(正)さんなどの創業者で成功している人は偉いと思います。本当に尊敬に値します。もちろんカルビーの創業者(松尾孝)も尊敬しています。私が入社する前に亡くなっていて面識はありませんが。
売って稼ぐ。商売とはそこからしか始まらない
――伊藤忠時代には、なんでも売りまくっていたと本連載でも書かれていましたし、武勇伝も多いですが、売る力は天性のものだったのでしょうか。
松本天性かどうかは分かりませんが、他に才能がなかったですね。ものを売るのは楽しかったですし、今でも楽しい。
――売る才能とは、端的に言ってなんですか。
松本人に好かれること。これに尽きます。そして好かれるにはなにをしたらよいか。これは2つしかありません。
まずお客さまをよく訪ねること。1年に1度しか顔を出さずに「買ってください」では虫がよすぎる。それこそ毎日、夜討ち朝駆けです。
もう1つは、仕事の上では嘘をつかないこと。絶対に嘘はつかない。家に帰れば嘘だらけですが(笑)。売るためのコツは、この2つしかありません。
――連載では、販促活動でも、また保育園費用や介護費用の補助などでも「とにかく稼いでお金があれば、なんとかなる課題は多い」と一貫しておっしゃっていました。このリアリズムの原点はどこにありますか。
松本そもそも人に対する投資が、最も意味のある投資だと思っています。研修費の補助など微々たるものだし、そもそも人件費比率などさほど大きくありません。なのに多くの経営者は、人件費をコストとみなして削減しようとする。そんなもの稼けば一発でカバーできます。
昔、伊藤忠に勤めていた頃に、当時の社長だった米倉(功)さんがいつも言っておられたのです。「稼ぐに追いつく貧乏なし、や」と。どんどん稼いでいたら、貧乏神が追いかけてきても絶対に取り憑かれない。稼ぐことは、すべての好循環を生むためのエンジンなのです。
今の伊藤忠の岡藤(正広)社長も同じ考えでしょう。気前よく給料払うし、自分もたくさん取っている。「文句あるか」てなものでしょうね。
――連載の中でも書いていましたね。値下げしてでも、とにかく売り切れ、と。定価100円で1個売れるのを待つのではなく、80円にして10個を売った方がよい。
松本そういうことです。カルビーには「かっぱえびせん」のような発売以来半世紀を経ても売上が落ちない、その代わりに増えもしないヒット商品があります。ならば品質や商品への信頼をベースに、もう一段の売上増を実現するにはどうしたらよいかを見つけ出さなければならない。それがイノベーションであり、稼ぐということの真意です。
――商売の原点は稼ぐことなのに、どうやって稼ぐかより、どうやってコストダウンするかの方ばかりを向いてしまう経営者は多いですね。
松本日本は、ある意味で“世界で最も成功している社会主義国”ですから、稼いだ人に対するペナルティが大きすぎると思います。税金でバンバン持っていかれるから、だんだんと稼ぐことに興味がなくなってくるのではないでしょうか。
会社の金を自分のために使う人が多いのも、稼ぐことへの興味が薄いからだと思いますよ。
松本私は、会社の金を使うくらいなら、「その分を給料に回した方が絶対にいい」と言っているんです。「交際費を使いたい」と言って来たら、「分かった。その分は給料に乗せておくから、その金でなんとかしろ」と。50万円の月給に30万円の接待交際費を乗せる。そうしたらその30万円を使いますか。使わないでしょう。家に持って帰った方がいいでしょうから。
――うーむ、確かに使い方を考えちゃいますね。それは、投資とリターンを考えろということですか。
松本それもあります。上乗せされた30万円は、稼ぎが減ればなくなるのですから、これを維持するにはどうするかを必死に考えるようになるでしょう。考えるには知恵が必要なので、学ばなければとも思うでしょう。「ならば、学ぶことに使おう」となってほしいのです。
それともう1つ、部下に対する「示し」の問題があります。例えば出張中に買った昼の駅弁代を経費で落とす人も多いと思いますが、カルビーではそんなことはありません。少なくともマネジメントは、絶対に会社にその領収書を回したりしません。そうすると従業員もやらなくなります。もし逆だったら全員がやりますよ。
カルビーでは、ゴルフの接待はすることもされることも禁止です。ゴルフをやっても、それはあくまでもプライベートであるべきだ、と思うからなのです。
未来を見据えれば残業ほど無駄な時間はない
――働き方改革でも一家言お持ちで、「仕事が済んだらさっさと帰れ」と長時間労働を戒め、女性の力の活用によるダイバーシティの推進を訴えています。これも結果的に「稼ぐ」ことにつながる経営戦略だと思いますが、なにか考え方の原体験がおありなのでしょうか。
松本残業問題では伊藤忠時代の経験が原点にありますね。
同僚に、有名大学を出たハンサムボーイがいたのですが、彼は仕事の成果はさっぱりダメなのに残業ばかりしていました。仕事はないのに、土曜日も出社しているのです。残業手当を得るためのようでした。一方私は、業績はS君の何百倍もあったものの、海外や国内の出張が多くて残業手当は1ヵ月に4時間分ぐらいしかない。
月給を比べると、残業代がかさんでいるS君の方が圧倒的に多いのです。「こんなアホな仕組みをつくっているから会社はダメなんだ」と当時は心底思っていました。「俺がトップになったら、こんな馬鹿らしい仕組みは改める」とも思いました。
残業手当が1時間5000円だとしたら10時間で5万円、40時間で20万円です。これは生半可な金額ではありません。自分が残業を苦にしなければ稼げるのだから稼ぎたい。その、人としての気持ちは私もよく分かります。
でも、残業手当をもらうために会社でダラダラ仕事をしていても、短期的に収入は増えるかもしれませんが、将来の為になりません。
「お金なんてそのうちドカーンと入ってくる。ドカーンと入ってくるための準備や学びに時間を使おう」と考えた方が、どれほど建設的なことか。
連載でも述べましたが、私は残業代が惜しいのではないのです。それを給料や教育費に回せばいい。だからこそ将来のために使ってほしい、と思うのです。
――過重労働が減れば、体調も整い、仕事の効率もよくなる。
松本ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社し、3ヵ月後に、残業手当を廃止しました。すると皆、早く帰って勉強したり、家族との時間を大事にするのでさらに元気で働くようになり、成果が出せるようになりました。結果、会社の業績も伸びて、4年で給料が倍になりました。
だから世の中は、マネジメントの方が悪いのです。従業員に「あいつは、ダラダラ残業ばかりでけしからん」と叱っているマネジメントの方に問題があるのです。環境や制度、仕組みを変えれば、従業員はそれなりに変わっていくものです。
――ダイバーシティ、特に女性の力の活用は、保育所問題など政治と絡む面が多く、対応に苦慮している企業も多いですね。
松本日本は、あくまで結果論ですが、1970年代に大きな政治的ミスを犯しています。核家族化に進路をとったことです。これが今、女性の力の活用や介護の絡みでさまざまな問題へと転嫁されています。
例えば両親と同居できない、しない問題。大規模団地を郊外につくって地方の人間を大都市に集め、結果的に家族を分断した。もしお爺ちゃん、お婆ちゃんが近くにいれば、ちょっとしたことでも頼めるのに、そういう関係がないので保育所でお金がかかり、子どもの具合が悪ければ自分が仕事を諦めて付き添わなければなりません。
これを是正にするには、あと2世代ぐらい必要でしょう。政治家は「少子化をなんとかしなければならない」と声高に言いますが、基本的な社会の仕組みを変えないと何ともなんりません。
――家族を分断しておいて、「子どもをつくってください」と言っても無理がありますね。
松本昔は、両親がそばにいたので安心感がありました。また、高度成長期は毎年給料が増えるのが分かっていたので子どもだって2人、3人とつくれました。
しかし、今は給料が上がりません。サラリーマンの給料は、1997年を境にずっと落ちているんです。ピークが467万円で、2009年は406万円。これでは「来年になればなんとかなる」という気持ちになれないし、子どもだってつくれないですよ。
私は政治家ではないので大きな仕組みは変えられませんが、せめて自分の会社で仕組みを変えていけば会社を変えられるのではないか。そうすれば優秀な人材もやって来てくれるでしょう。そのためにも稼がなければならないのです。
組織は正規分布どおりにしか動かない
――松本さんが、社内で「松塾」や「7年後の夢を考える会」を主宰する狙いはなんですか。
松本松塾は、前々社長の松尾雅彦さんと2人の頭文字をとって始めたもので、毎月1回、土曜日の朝10時から7時まで全国各地で開いています。まず私や松尾さんが基調講演をして、後は参加者とグループディスカッションするワールドカフェスタイルです。これは手上げ制で、新入社員から役員まで、誰でも参加できます。
7年後の夢を語る会は、幹部を含む数十人で、1日目はひたすらに夢を語り、2日目は夢を実現するためになにをしたらよいかを語り、最後にトップが「やること」と「やらないこと、やめること」を決めます。松塾は、学びの風土を育てようとするもので、夢を語る会は経営寄りです。性格は異なるものの根底にある問題意識は同じです。
――と言いますと。
松本カルビーがここまでになれたのは、創業者や後を継いだ息子さんたちが優秀だったからです。だから従業員は、トップの言うとおり仕事をしていればよかった。つまり学びの文化がなかったのです。
しかし創業家が離れ、時代は変わり、誰かの言うとおりに仕事をしていればよい時代は終わりました。従業員自身で経営を担う時代が来ている。「この会社がよくなるかどうか皆さん次第だ」“Calbee's future is in your hands”という言葉で従業員に呼びかけています。
また“Our business is people business”という言葉もよく使っています。私たちの仕事は、人そのものが大切なのだ、ということ。だったら一人ひとりが磨かれ、よき人材になっていないと会社などよくなりっこない。学歴とかではなく、人間として磨きをかけてくださいということです。
――連載にあった、目には見えない無形資産の醸成ですね。
松本そういうことです。たった一度の人生で、一番面白いのは夢を持って生きることです。会社だって同じです。7年後、10年後に、こんな会社になっていたい、という夢を持っていなければ会社はよくなっていきません。
夢を叶えるためになにから始めるか。それは学ぶことです。今朝のあるミーティングでもいろいろな意見やアイデアが出てきましたが、ほとんどが思いつきの領域を出ていませんでした。思いつきで世の中が上手くいった例などありませんよ。「なぜ思いつきにとどまっているかと言えば、前提としての学び、知識、経験、知恵がないからだ」と、ちょっと言い過ぎたかなと思いつつ話しました。
失敗する人の大部分は、思いつきで実行しており、まったく考えていません。考えようとすると知識も経験もいる。「そういうのが必要じゃないの」と、ただそれだけを言っているのですがね。
――従業員の皆さんの理解というか浸透度は、いかがでしょうか。
松本軍隊ではないので、全部一斉には変わりません。「よし!」と感じてすぐに始める人、いつまで経ってもわからない人。世の中や組織は、正規分布どおりにしか動きません。これは経営トップにとっては辛抱の問題です。でも同じことを繰り返していれば、1人、2人とやり始める人が増えます。世の中そんなもんだ、と思っていればいいのです。
ダイバーシティで女性の登用を訴えても、いまだに分かってない人はいるでしょう。しかし「あいつはけしからん」と言っても始まりません。
――松本さんご自身のこれからの夢はなんですか。
松本もっと大きな難しいことにチャレンジしてみたいと思いますが、もう歳ですからね、終わりじゃないですか(笑)。
振り返れば(伊藤忠商事の子会社の医療機器専門商社である)センチュリーメディカルに出向して営業のすべてを任されていたのは本当に楽しかった。会社にいることはなく医療現場を訪ね歩いていたから、お医者さんのことも病気のこともよく学びました。全国2000以上の病院の、どこのどんなお医者さんが腕がいいか、なんてたいがい知っていますからね。
私の大きな自慢の一つが、カルビーに入社以来、病気で社員が亡くなることを防げていることです。実は、カルビーには乳がん検診がなかった。「そんなバカな」とすぐに始めさせたら、その後、検診で見つかる人が結構います。乳がんの他にも前立腺がん、胃がん、大腸がん、肺がん。がんが見つかった人には、「あの先生に診てもらいなさい」と医者を紹介しました。先生とは親しいから「先生、社員を助けてください」と頼めば、最優先で診てくれました。
現場を回っていると、それぐらい良いことがあるし、社員を守れたという誇りにもなっています。
――それは誇りですね。今日はありがとうございました。
(構成・船木春仁)
http://diamond.jp/articles/-/119302
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民119掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。