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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第210回 日米がWinWinになるために
http://wjn.jp/article/detail/9592995/
週刊実話 2017年3月2日号
アメリカの商務省が2月7日に貿易統計を発表した。財貨(モノ)の貿易に限ると対日貿易赤字が689億ドル(約7兆7000億円)となり、赤字額が中国に次ぐ2位となったとのことである。特に、トランプ大統領が「不公平だ」と批判する自動車関連で、対日貿易赤字が526億ドルに増加した。
今後、日本はアメリカと2カ国間貿易協定の交渉を進めていく可能性が高い。すなわち日米FTA交渉だが、アメリカサイドは例により日本に「日本の自動車市場が閉鎖的であるためアメリカ車が売れないのだ」などと、言い掛かりをつけてくるだろう。
日本は外国からの自動車輸入に対し、関税を掛けていない。アメリカは、乗用車に2.5%、トラックに至っては何と25%もの関税を掛けている。どちらが閉鎖的なのか、誰の目にも明らかである。
日本の軽自動車を除く国内市場において、すでに輸入車は9%のシェアを得ている。日本の輸入車市場のシェアを見ると、何と過半数がフォルクスワーゲン(&アウディ)、メルセデスベンツ、BMWというドイツ車が占めている。GMやフォードといったアメリカ車は、ベスト10にすら入っていない。
ドイツ車が日本で売れている理由は簡単だ。性能、デザインに加え、「右ハンドル車」が中心になっているためだ。さらには、ドイツ勢はサービスを重視する日本の顧客向けに、日本国内において過去にディーラーネットワークの構築に投資した。
高級感があり、右ハンドル。さらに、購入後のサービスも心配がいらないからこそ、日本国民はドイツ車を喜んで買うのだ。
逆に、アメリカ勢はなかなか日本向けの右ハンドル車を作ろうとせず、ディーラーネットワークへの投資もおろそかにしてきた。しかもフォード社に至っては、2016年1月26日に突然「日本事業から撤退する」とアナウンスし、本当に撤退してしまった。
アメリカ企業の「努力不足」が原因であるにもかかわらず、責任を「日本市場の閉鎖性」に押し付ける。政治力を使い、日本に車を買わせようと、繰り返し、繰り返し、ありもしない「日本市場の閉鎖性」を叫ぶ。これが、自動車分野におけるアメリカ側のスタイルだ。トランプ大統領が真の意味で「製造大国アメリカ」を復活させたいのであれば、この種の政治的な動きは慎むべきだ。政治力で他国に強引に製品を買わせることは、逆にアメリカ製造業の復活を妨げることになるだろう。
ところで、2月3日の衆議院予算委員会で、安倍総理大臣は日米首脳会談において、「インフラ投資などによってアメリカ国内の雇用を生み出し、成長につなげていくことを包括的に説明したい」という考えを示した。とはいえ、日本マネーをアメリカに投じた場合、ドル買い円売りになってしまうため、為替レートはドル高円安に動く。結果的に、アメリカの対日貿易赤字はかえって拡大することになる。
そもそも、「アメリカのインフラ投資を日本が担う」などという意味不明な路線に走らなくても、日本国がアメリカの雇用拡大に貢献する方法はきちんと存在するのだ。すなわち、日本が国内に財政出動を行い、デフレから脱却。内需主導の経済成長路線を取り戻すことである。日本が、自ら健全なインフレ率の下で安定的な経済成長路線に回帰する。そうすることで、日本の生産能力(経済力)が国内の需要に振り向けられることになる。
日本の生産能力が国内に向けば、対米輸出は減る。さらに、内需が拡大していけば、エネルギーや鉱物資源を中心にアメリカからの輸入は自動的に増え、対米貿易赤字は縮小に向かうだろう。
日本政府は内需主導の経済成長実現のために、どうするべきなのか。もちろん、地方の交通インフラ整備への投資拡大だ。
例えば、地方で高速道路と「称する道路」は片側一車線の対面通行で、真ん中にポールを立てて仕切っているところが少なくない。筆者は首都高や東名自動車道に慣れているため、片側一車線対面通行ポール仕切り方式を高速道路と認めることには抵抗感がある。しかも、ポール仕切りの対面通行は悲惨な交通事故の原因になりやすい。
本来、地方において片側二車線、コンクリ仕切りで建設する予定だった高速道路の多くが、実際には対面通行ポール仕切り方式になっている。理由はもちろん公共投資削減路線である。予算を理由に、わが国の地方の高速道路の多くが片側一車線で作られてしまったのだ。情けない限りである。
カネ、カネ、カネと、財務省主導の緊縮財政に誰も逆らえず、最低限のインフラ投資すら実施できず、地方は人口流出に悩まされている。となると、これまた情けない成長否定論者、あるいは「日本衰退論者」たちが、
「地方は人口が減っているのだから、交通インフラの整備は無駄だよ」
と、言い出すのが、わが国の「決まりごと」である。
とはいえ、話は逆なのだ。交通インフラが整備されていない地域の経済が成長するはずがなく、当然ながら人口も減少していく。東京一極集中に歯止めをかけ、地方の人口を増やしたいならば、なおのこと交通インフラに投資をしなければならないのだ。
わが国では、国内の交通インフラ中心に政府が投資する路線に対し、反射的に否定する政治家、学者、官僚、識者が少なくない。しかも、選挙区の区割りが変えられ、地方の国会議員が減らされてしまった。政治的にも、ますます地方のインフラ整備が困難になっているありさまなのだ。
地方のインフラ整備をおろそかにする反対側で、なぜかアメリカへのインフラ投資についてマスコミは礼賛する。まずは「国内」に投資するという普通の発想が、なぜできないのだろうか。
日本が「属国」よろしくアメリカに投資を捧げても、対米貿易黒字は減少しない。何しろ日本の内需は低迷したままで、アメリカからの輸入は増えず、さらに日本国内の生産能力が「外需(アメリカ市場)」に向かわざるを得ない。
日米がWinWinの関係になるためにも、日本国は内需主導型の経済成長を目指さなければならないのである。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。
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