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フォルクスワーゲン社の異常な役員報酬に開いた口がふさがらない! 記録的な大赤字なのに…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51060
2017.02.24 川口 マーン 惠美 作家 拓殖大学日本文化研究所 客員教授 現代ビジネス
■ある取締役の解任劇
〈 就任後13ヵ月で解任されることになった取締役が、1250万ユーロ(15億円)の退職金と、死ぬまで月々8000ユーロ(96万円)の企業年金を貰える会社は、ただ一つしかない。
それは、記録的な赤字を計上したにもかかわらず、その年、取締役に3490万ユーロ(41億円)のボーナスを支払う会社。庭の鯉が風邪をひかないよう、池に6万ユーロ(720万円)の暖房設備を取り付ける会社。もちろん、フォルクスワーゲン社だ 〉(シュピーゲル誌2月4日号)
ドイツの収入の格差が甚だしいことを書こうと思っていた矢先、この記事が出たので、その冒頭の部分を引用させてもらった。
記事のタイトルは『セルフサービス店』。取締役が会社のお金を好きなように収奪しているという意味だ(https://magazin.spiegel.de/SP/2017/6/149411862/index.html)。
13ヵ月でフォルクスワーゲンの取締役を解任されたのは、クリスティーネ・ホーマン−デンハルト氏。憲法裁判所(最高裁に当たる)の女性元判事で、退任後、まず2011年、ダイムラー社(ベンツ)の取締役に収まった。
そこで贈賄事件の解決に尽力した彼女を、2016年、今度はフォルクスワーゲンが大枚を投じて引き抜いた。
フォルクスワーゲンはこのころ排ガス不正ソフト問題で空前の危機に陥っていたため、誰か信用のおけそうな人物を取締役に据える必要があり、ホーマン−デンハルト氏に白羽の矢を立てたらしい。ちなみに彼女はSPD(社民党)党員だ。
ところが、フォルクスワーゲン救済はうまくいかなかった。原因は、氏が社内の権力争いに巻き込まれて足を引っ張られたからとも、問題が大きすぎて手に負えなかったからとも、あるいは、事実の究明を徹底的にやろうとしすぎて、他の役員の不興を買ったからとも言われている。
いずれにしても、あっという間に彼女の解任が決まり、膨大な退職金と年金が支払われることになった。そして、それに対して異議を唱える人が、フォルクスワーゲンの監査役会には誰一人いなかったのである。
■経営者と従業員の収入格差
フォルクスワーゲン社の不正ソフト事件が公になったのは2015年の9月だった。
翌年3月の取締役会はもちろん非公開であったが、内容は漏れ伝わってくる。新社長のミュラー氏が、役員のボーナス報酬の30%カットを提案したが、皆の意見が折り合わず、結局うやむやになったという。
2015年5月の株主総会で、スクリーンに映し出されたウィンターコーン氏 〔PHOTO〕gettyimages
フォルクスワーゲン社の役員の報酬は凄い。
事件の後、社長を退いたウィンターコーン氏は、醜聞のあったその年も、固定給とボーナス合わせて587万ユーロ(7億440万円)を受け取っている(うちボーナス分が5億8700万円)。
この年の9人の役員全員の収入を全て合わせると、6320万ユーロ(75億8400万円)。
その中の1人、ダイムラー社から同年フォルクスワーゲン社に引き抜かれたレンシュラー氏にいたっては、移転の特別ボーナスが含まれたため、年収は1491万ユーロ(17億8900万円)に膨れ上がった。
そればかりか彼の場合、5年後にリアイアしたあかつきには、通常の企業年金に加えて月々6万ユーロ(720万円)の年金が支給される契約になっているという(2016年5月16日付フランクフルター・アルゲマイネ紙)。
報酬が、労働への対価であるとするなら、これほどの価値のある労働が存在するとは思えない。やはり、シュピーゲル誌のいうように、セルフサービスになっているのか?
もともとヨーロッパの企業では、経営者と従業員の収入格差が大きく、ゆえに労使の対立も大きい。
経営陣が利益拡大を図るのは己のためであり、会社のためでも従業員のためでもない。もっと報酬の多いポストがあれば、すぐに転職もする。
極端な言い方をするならば、経営陣の目標は、いかに多くを合法の範囲内で従業員から搾取できるか、ということではないか。だから、不祥事が起きようが、会社が赤字であろうが、一度決めた報酬を全額手にすることが、役員の個人目標となるのである。
福島の事故のあと、東電が、副社長以上の役員は報酬の全額、常務は60%、管理職は25%、一般社員は20%カットしたなどと聞けば、ドイツの重役たちはあっけにとられるに違いない。
しかも、東電の事故前の報酬は、監査役も含めた役員33人分でたったの(!)8億6400万円。一方、フォルクスワーゲンでは前述のように、9人の役員全員の報酬はボーナス分だけで計41億円だった。
ドイツでは2015年1月、ようやく時給8.5ユーロの法定最低賃金が保証されるようになった。ちなみに、この賃金で1年間働いても、前述のフォルクスワーゲン前社長ヴィンターコーン氏の年金のたった5日分だ。
■産業と政治の癒着
フォルクスワーゲンのフォルクは民衆、ワーゲンは車の意。戦前からドイツの代表的企業である。
北ドイツのニーダーザクセン州に本社を持つが、同州はSPDの州で、フォルクスワーゲンの株も伝統的に州が20%強を所持する。監査役にも必ずニーダーザクセン州の州首相と経済大臣が名を連ねているから、彼らSPDの面々も、今回のホーマン−デンハルト氏の超厚遇に異議は唱えなかったということになる。SPDは、元は労働者の党だ。
そのSPDが現在、秋の総選挙戦で主要テーマとして持ち出しているのが、貧富の格差の解消。
突然、首相候補に躍り出たマーティン・シュルツ氏いわく、「大企業の役員たちが、自社の赤字にもかかわらず天文学的な報酬を受け取り、労働者がリストラで職を失うのはけしからん!」
彼がフォルクスワーゲンを指しているのは明らかで、その説ごもっともだが、間の悪いことに、それを言った途端、シュピーゲル誌が冒頭の記事をすっぱ抜いたわけだ。
つまり、その天文学的な報酬にOKを出したのが、実はSPDの政治家たちで、受け取ったのもSPDの党員ということが、万人の知るところとなった。ドイツでは、産業と政治の癒着はつとに有名だが、それでも国民としてはかなり白けた。
そうするうちに、2月22日、憲法裁判所が殊勝なことを言い出した。
近い将来、判事のアルバイト(講演など)、あるいは、定年後の天下りについての規則のようなものを定めたいという。やはり、元判事ホーマン−デンハルト氏の一件が、かなり効いていると思われる。
しかし彼らは同時に、憲法裁の判事の立場は完全に自由であり、他者によって監督されることがないという点も強調している。
つまり、これまでオールマイティーであった憲法裁判所だが、今後、判事としての良心に基づき、自らにモラルの自己規制を掛けるということらしい。
判事にどの程度の良心があるかが問われるのだとすると、ちょっと冗談っぽい。それにしても、フォルクスワーゲン事件がとんでもないところに派生したものだ。
■長者たちの泥仕合
さて、昨年の暮れには、フォルクスワーゲン社の前監査役会長フェルディナンド・ピエヒ氏が検察の聴取に応じ、「ヴィンターコーン氏が不正を事前に知っていた」という証言をしている。
ピエヒ氏は、アウディやフォルクスワーゲンの社長も歴任した自動車界の老獪サラブレッド。不正事件が明るみに出る前にヴィンターコーン氏と衝突して、フォルクスワーゲンの監査役会長を辞任したが、その原因は今もわかっていない。
ヴィンターコーン氏はこれまで、同社の不正に関しては何も知らなかったと主張していた。彼がはたして、このピエヒ氏の爆弾証言のあとも穏やかな年金生活を送れるのかどうか?
長者たちの泥仕合は、憲法裁判所まで巻き込んで、私たち外野にとっては一気に面白くなってきた。
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