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苦悩する中国、人民元安から始まる「負の連鎖」が止まらない さらに厄介なトランプ政権の圧力も…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51041
2017.02.23 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
■中国当局の介入に効果なし
このところ、中国人民元レートの下落傾向は一服している。だが、その理由は明らかで、これは、中国の通貨当局による短期金利の引き上げによるものと思われる。
中国の市場短期金利である「Shibor(上海銀行間取引金利)」は昨年12月以降、急上昇している。2月21日時点で翌日物金利は2.483%、3ヵ月物金利は4.272%となっている。
翌日物金利の上昇ペースは緩やかだが、3ヵ月物などの「ターム物」金利の上昇幅は著しい。それにともない、米中の短期金利差は大きく拡大しており、これが人民元の下げ止まりから反発へと波及している(図表1、2)。
実は、人民元レートの下落は中国の外貨準備高がピークアウトし、減少局面に転じて以降、趨勢的に続いている。
人民元安の進行に対し、中国当局は当初、為替介入(人民元買いドル売り介入)によって人民元の下落を止めようと試みるが、介入の効果は一時的なものに終わりがちである。
それどころか、人民元買いドル売り介入の実施による外貨準備の減少がオフショア市場などでのさらなる人民元安を誘発してしまうことも多く、中国当局の介入はほとんど効果がない状況が続いている。
中国当局は資本取引規制を強化するなどの措置を講じるが、国際収支統計を見る限り、資本取引規制も効果を上げているとは言い難い。
むしろ、海外からの投資(直接投資)の減少などをもたらし、中国でのビジネスリスクを高めることになり、中国経済にとって逆効果となっている。
そこで、次の段階として、中国の通貨当局は資金供給を抑制し、市場短期金利を引き上げることによって人民元安の進行を止めようと試みる。これが現在の状況である。
この市場短期金利の引き上げは、確かに人民元安抑制には効果がある。だが、短期金利の上昇、及び、その背後にある資金供給の抑制は、中国経済に大きなダメージをもたらしかねない。
現に、2014年末から2015年初めにかけてのShiborの上昇は人民元安の進行に歯止めをかけたが、その後、株価や不動産価格の大幅下落をもたらし、それが中国の景況観の悪化に波及した。
中国の場合、景況観の悪化は社会不安に結びつき、体制批判を高めることになりかねないので、結局、当局は金融緩和への転換を余儀なくされる。そして、それは人民元安の次のサイクル入りを意味することになる。
■「変動相場制への転換」はあるか
以上のような、人民元安の進行、外貨準備高の減少、内外金利差の変動(その背後にある金融政策の変更)の連関は、「通貨危機モデル」が示唆する(Crawling)Peg制崩壊から変動相場制の転換のパターンをほぼ踏襲していると思われる。
この「変動相場制への転換」がいますぐ迫っているということはないかもしれない。
理論的には、外貨準備の枯渇がみえてくる段階で通貨当局がペッグ制の維持を放棄するというパターンであるが、中国の場合、減少が著しいとはいえ、残高そのものはまだ多い(そもそも、中国の外貨準備高は先進諸国のそれと定義自体が異なっており、その実態もつかみづらい)。従って、ペッグ制を死守できる「体力」はまだあると思われる。
だが、この「サイクル」が今後、何度も続くことになれば、人民元はいずれどこかの段階で変動相場制への転換を余儀なくされるのではないか、というのが筆者の考えである。
その外貨準備の減少だが、ひとつ気になるデータがある。米国の財務省発表の中国が保有する米国債の残高が、昨年半ば以降、急減している点だ(図表3)。
これまでも、中国の外貨準備全体の減少はみられたが、米国債保有残高はほぼ一定で推移していた。
だが、今回の人民元下落サイクルにおいて、中国当局は、保有していた米国債を売却することで介入のための原資を調達し始めた可能性がある。介入余地を米国債保有残高で見た場合、中国が現在の通貨制度を維持できなくなるリスクは増大したかもしれない。
その一方、「通貨危機モデル」に従うと、前述のように、今後、短期金利引き上げの影響が他の資産市場ないしは実体経済に波及することで、通貨当局は、短期金利引き下げを余儀なくされ、これが人民元安を再び加速させるというプロセスが想定される。だが、昨年来、それは発生していない。
逆に、これまでのところ、短期金利上昇にもかかわらず、中国の株価も不動産価格も堅調を維持している(図表4、5)。
中国の場合、個人の資産運用手段として株式市場と不動産市場は競合関係にあるといわれている。すなわち、不動産市場が過熱して当局が取引規制をかけると、不動産市場に流れていた資金が株式市場にシフトし、今度は株価を押し上げるというような状況がこれまで観察されてきた。
この両者の逆相関関係が、中国経済を下支えするというシナリオも想定されるが、昨年来、株式市場、不動産市場ともに底固い展開が続いており、株式市場、不動産市場間での資金シフトが頻繁に起こっているとも考えにくい。
このような資産市場堅調の理由は、中国当局が人民元の下落を許容しながら金融緩和を再開させたためだと推測される(図表6)。
これは、前述の2015年の通貨防衛による短期金利引き上げが株価、不動産価格の下落とその後の景気悪化をもたらしたことの反省と、それをリカバリーさせるための政策発動であったのだろう。
中国の場合、通貨当局による「流動性」の供給(マネタリーベース供給)は株価や不動産価格に先行する傾向があるため、ここまでの資産市場の堅調は、昨年までの金融緩和の効果がいまだに残っているためだと考えられなくもない。
さらにいえば、現在、中国景気の持ち直し(半導体や鉄鋼需要の回復)が日本を含む世界的な輸出の回復を後押しし、これが世界全体の景況観の改善につながっている側面があるが、これも昨年における中国当局の金融緩和の効果ではなかったかと推測される。
中国通貨当局の金融緩和が株式や不動産などの資産価格を引き上げ、これらの資産取引を拡大させたことで、景気が回復し、その結果、社会融資総量も年後半から急拡大した。例えば、昨年11月の社会融資総量は前年比で+78.7%の大幅増であった。
以上のように考えていくと、現時点では過去の金融緩和の効果が残っていると思われるものの、最近の短期金利の急上昇は、今年後半以降の中国の信用収縮をもたらす懸念がある。
だが、このことを当然、中国通貨当局は理解していると思われるので、今は金利引き下げのタイミングをうかがっているところではなかろうか。
■当局が為替介入を実施できないと…
だが、ここで中国当局にとってやっかいなのが、トランプ政権の対中国政策である。
トランプ政権は、中国を「為替操作国」に認定し、不公正貿易によって不当に貿易黒字を稼いでいるとして圧力をかけてくる可能性が高まっている。
そのため、中国当局が金利引き下げを行い、人民元レートが再び下落した場合、中国に対する攻撃姿勢を強めてくることが想定される。
この場合、為替介入を実施しても、外貨準備の減少が、次の人民元レート下落を誘発する懸念もあるし、人民元買い介入とはいえ、トランプ政権は為替介入自体を批判する懸念もある。
さらに、中国通貨当局が為替介入を実施できないということが市場のコンセンサスになれば、投機筋による人民元売り浴びせの「通貨アタック」が始まる懸念も台頭するかもしれない。資本取引規制の強化も考えられるが、これもトランプ政権は攻撃対象とする可能性もある。
結局、中国通貨当局は、再び市場短期金利の引き上げを実施せざるを得なくなる。
これは、「流動性」の収縮をも意味するので、中国の株式市場や不動産市場を痛めつけ、株価や不動産価格の大幅下落をもたらす可能性がある。
トランプ政権が中国に対してどのような態度で接するかに依存している部分もあるが、今後、短期金利の引き下げが実施され、それによって再び人民元安となった場合、その後の中国経済はかなり厳しいものとなりそうだ。
トランプ政権の通商・貿易政策は、アメリカ経済自体に与える影響はそれほど大きくないのではないかと考えるが、中国にとってはかなり大きなものになる可能性があるため、注意が必要ではなかろうか。
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— JapanNewsFeeds (@JapanNewsFeeds) 2017年2月22日
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