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(回答先: 日ガスが自由化に殴り込み、東京ガスより3割安 トランプ政権下で米経済学者はどこに行ったか 投稿者 軽毛 日時 2017 年 2 月 21 日 01:13:33)
コラム:
10年周期の金融危機は杞憂か
斉藤洋二ネクスト経済研究所代表
[東京 18日] - 米国の株価は2009年3月以来8年に及ぶ上昇トレンドの中、史上最高値を更新し、為替相場もドル高地合いが続くなど、市場は依然、強気に包まれている。
とはいえ、1987年のブラックマンデー、1997年のアジア通貨危機、2007年のサブプライム問題と、10年ごとに金融危機が市場を襲ったのは周知の通りだ。したがって、10年周期で危機が訪れるというアノマリー(経験則)に対し、2017年は警戒が必要との声もちらほら聞かれる。
振り返れば、年初早々118円台に上昇した今年のドル円相場は、1月下旬のトランプ米大統領による円安誘導批判を受け、保護主義政策に対する警戒感が強まり、2月初旬には一時111円台へと下落した。ただ、112円近辺では円売り介入を連想させるようなドル買いが散見され、円高圧力を抑えている。
その意味で市場ではトランプ大統領と安倍晋三首相による10日の日米首脳会談が注目されたが、通商問題などについてはペンス副大統領と麻生太郎副総理をヘッドにした経済対話に委ねられることとなった。特に貿易不均衡を是正する手段として万民に分かりやすい為替調整は財務相間での交渉へと持ち越しになり、ムニューシン氏の財務長官就任を受けて議論の本格化が待たれるところだ。
ついては、そうした議論にも大きな影響を与えるであろう日本の経常収支構造と財政・金融政策の行方を整理し、今後のドル円相場の行方を予想したい。
<「日本たたき」の時代とは異なる経常黒字の中身>
まず、最大の相場かく乱要因であるトランプ大統領の言動について言えば、フォロワー数2500万を超える自身のツイッター・アカウントで、不規則かつ奔放な「つぶやき」を連発し、政権の混乱ぶりを際立たせるとともに、情報の不確実性を高めてしまっている。
特に懸念されるのは、そのつぶやきなどからトランプ大統領の通商・為替問題についての認識が、「ジャパン・バッシング(日本たたき)」真っ盛りの1980年代から90年代初頭に形成されたと見受けられる点だ。トランプ大統領は貿易相手国の通貨安誘導(その結果としてのドル高)が国内の雇用を奪っているとの思いにとらわれているようであり、その信念を大きく覆し、現下のドル高地合いを肯定するようになるとは予想し難い。
そもそも、米商務省発表の貿易統計(通関ベース)によれば、2016年のモノの貿易での対日赤字は689億ドル(約7.7兆円)と、国別では対ドイツを抜いて、対中国に次ぐ2番目に大きい金額となっている。日米首脳会談では対日批判は表立って聞かれなかったが、貿易不均衡をことさら問題視するトランプ大統領がこのまま大人しく黙っている保証はない
ただ、日本の経常収支の推移に目を移せば、違った風景が見えてくる。2016年の日本の経常収支は貿易収支の黒字転換を背景に、20.6兆円と9年ぶりの大きさになったとはいえ、その黒字額の大宗を占めているのは18.1兆円に上る第1次所得収支の黒字だ(貿易収支黒字は5.6兆円)。
生産拠点の移転など海外投資が増えるにつれ貿易収支黒字は圧縮され、対外資産から得られる配当や金利収入などが経常収支黒字の大部分を占めるようになっているのだ。
このようにモノ、カネの流れを含めて日本の経済構造が大きく変化していることから、円高が日米対外不均衡の是正に有効な政策だとは必ずしも言い難い。だが、トランプ大統領にそうした正論が通じるかどうかは楽観できない。
一方、為替需給の観点から言えば、東日本大震災以降5年にわたる貿易収支の赤字傾向が2016年に入りようやく黒字へと転じたように、需給に緩みが生じつつある。その背景に、原油価格の低下があるのは明らかだ。
財務省貿易統計によれば、2016年の原油や天然ガスなどの鉱物性燃料輸入は12兆円と、日本の輸入(66兆円)の約18%に相当する。その大半はドル建てである。仮に為替レートが10%もしくは原油の入着価格が10%変動するだけで、ドル需給は数兆円規模の影響を受けることになる。
つまり、油価の上昇とドル高が重なれば需給のタイト感は一気に高まり、逆に油価の下落とドル安が重なれば余剰感が醸し出される。原油価格とドル相場の上下動が、今後もドル円レートの振幅を大きくする可能性には注意が必要だろう。
<トランプ大統領の円安誘導批判に反論できるか>
さて、為替需給に続いて注目されるのが日本の財政・金融政策だ。アベノミクス始動から4年が経過したが、2%を目標に掲げたインフレ率が依然、ゼロないしは若干マイナス(生鮮食品を除くコアベース)で低迷していることからも当面、財政拡大的、金融緩和的な政策に著変はなさそうで、政府・日銀の円安志向は継続する可能性が高い。
この点において気になるのは、アベノミクスの理論的支柱と目される浜田宏一・内閣官房参与(米イエール大学名誉教授)が、金融緩和の効果を高めるためには財政政策の拡大が不可欠との見方を示し始めたことだ。ロイターなどのインタビューによれば、米プリンストン大学のシムズ教授(2011年ノーベル経済学賞受賞者)らが提唱する「物価水準の財政理論(FTPL:Fiscal Theory of the Price Level)」に触発されたものだという。
FTPLに基づくシムズ教授の提案は、ゼロ金利下限では金融政策の有効性は失われているため、財政拡大でインフレ目標の達成を目指すよう勧めている。その是非は別として、2019年10月に予定される消費増税の延期や基礎的財政収支(プライマリーバランス)改善目標の先送りなどの方便として、使われる可能性がある。
仮にそうなった場合、国内総生産(GDP)比230%超の政府債務残高を有する日本において、インフレ率が目標の2%を超えて、急進していく可能性(ハイパーインフレが起こる恐れ)はないのか、注意深く見守る必要があろう。
一方、日本の金融政策については、2月初旬に10年物国債利回りが0.15%へ急上昇した際に、日銀が指値オペで抑え込みを図るなど、今後も昨年9月に導入した長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を最優先政策として維持すると思われる。
そうした中で、米連邦準備理事会(FRB)による継続利上げ観測を背景に、米金利上昇期待は根強い。つまり、金融政策面からドル高円安圧力は今後も増すことはあっても、米景気が腰折れしない限り、大きく減ることはなさそうだ。日銀の金融政策は「通貨安」を目的としていないとトランプ大統領に納得してもらうのはそうたやすいことではない気もする。
<ドル円のフェアウェイは87―107円近辺>
このような視界不良の相場環境下で、手掛かりがあるとすれば、やはり購買力平価(PPP)だと考える。国際通貨研究所によれば、ドル円のPPPは昨年12月時点で、消費者物価ベースでは126.59円、輸出物価ベースで76.32円、企業物価ベースで96.88円だ。
このうち相場の経験則から最も重視されるのは企業物価ベースであり、同PPPの上下10%程度の範囲で動くと仮定すれば、87―107円近辺がゴルフに言う「フェアウェイ」だろう。
当面、「ラフ」とも言える110―116円範囲でのボックス的な動きが続くとみられるが、その次の局面は、足元で主要6通貨に対するドル指数が14年ぶりの高水準にあることや米景気拡大もピークアウトが近いことなども勘案すれば、フェアウェイのセンター、つまり100円割れの方向へと円高が進むリスクにも備えが不可欠なのではないだろうか。
関連インタビュー:インフレ税はなぜ日本に必要か=シムズ教授
*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
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コラム:シムズ理論があおる日銀不安=永井靖敏氏
永井靖敏
永井靖敏大和証券 チーフエコノミスト
[東京 20日] - 円債市場は、日銀のオペに振り回されている。現行の金融政策枠組みの持続性に不安を感じる中、日銀からの情報発信が少ないため、投資家は、手探り状態で運用しているようだ。
具体的な不透明要因として、現状ゼロ%程度としている長期金利の操作目標変更に対する日銀の考え方、長期金利の操作目標からの乖(かい)離許容度と日銀のコントロール能力などが挙げられる。
前者の変更時期については、現時点では、物価の実績値が低いことから、喫緊のテーマではないが、物価の実績値が上昇するにつれて、注目度が高まりそうだ。
2016年9月に導入した「新しい枠組み」は、期待インフレ率が上昇するのに合わせて長期金利の操作目標を引き上げても、金融引き締めではないという建て付けだが、実際に期待インフレ率を計測できないこと、できるだけ早期に「物価安定の目標」達成を目指していることなどから、安易に引き上げることはできないだろう。
とはいっても、「物価安定の目標」達成後は、長期金利の操作目標を2%以上に引き上げる必要があり、その間のパス(経路)はブラックボックスの状態にある。
<長期金利制御不能に陥るシナリオは杞憂か>
後者のかい離許容度とコントロール能力については、すでに市場参加者の間でも主要なテーマになっている。市場では「ゼロ%程度」はプラスマイナス0.1%とした見方がコンセンサスになっていたが、日銀のオペの不透明感などを受け、長期金利は一時0.15%まで上昇した。
日銀が市場実勢より低い金利水準での指値オペを機動的に実施したことで、上昇を抑えることができたが、先行きについては見方が分かれている。
筆者は、日銀は今後も無制限にオペを実施することができるため、基本的にコントロール可能と考えている。国債の買い入れ額については、「保有残高の増加額年間約80兆円程度」という「めど」はあるが、金利を優先している。おおむね現状程度の買い入れペースで、長期金利の水準を抑えることができなくなっても、買い入れ額を増やすことで対応できる。
ただし、長期金利の水準をコントロールすることは難しい。日銀も、Q&A形式で日銀の業務や金融政策などを説明しているホームページの「教えて!にちぎん」のコーナーで、長期金利について、「オーバーナイト物金利のように資金量を調節して誘導することは容易でない」とした回答を掲載していた(2016年11月に削除)。
市場参加者の中でも、やがてコントロールできなくなると見る向きも少なくない。短期的には、コントロールできても、中長期的には日銀よりも市場の力の方が勝るため、やがて抑制不能になると主張している。
ポイントは、政府や日銀の信認だろう。確かに、市場からの信認を失い、やがてコントロール不能の状況に陥るというシナリオを完全に無視することはできない。
<シムズ理論は日銀政策と相いれない>
こうした中、黒田東彦日銀総裁は、14日の衆議院予算委員会で、「物価水準の財政理論(FTPL:Fiscal Theory of the Price Level)」に関する民進党の前原誠司議員からの質問に対して、「理論的には興味深い」としながらも、「いろいろな前提を置かなければ出てこない話」と語った。
FTPLは、「政府が財政健全化を目指さない」と国民に信じさせることで、物価の押し上げが可能という考え方だ。物価上昇が行き過ぎるリスクや、国債が格下げされるリスクなどが指摘されているが、その前に、国民に信じさせることが難しいという大きな問題がある。
米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授はこのFTPLに基づき、「物価が2%に上昇するまで、消費税増税を延期するというルールを作り、このルールを国民に信じ込ませる」という案を提示したが、これまで消費税増税の延期を繰り返してきたにもかかわらず、物価が上昇していないことを踏まえると、効果があるとは思えない。
「物価が2%に上昇するまで、すべての税金を停止する」というような、極端な政策を導入しない限り、国民の物価観が変わるほどの変化は生じないだろう。
そもそも、これまでの異次元緩和も、金融政策運営の抜本的な転換により、人々のインフレ期待を変化させることを狙っていた。シムズ教授の案は、物価が上昇するまで、現行の金融政策を維持する、という日銀の政策運営と大差ない。
FTPLは、財政に関する理論であるため、日銀が採用の是非を議論する話ではない。ただ、少なくとも長期金利の操作目標を設定している現行の金融政策とは、相いれない。すでに、国民の多くが「政府が財政健全化を目指さない」と感じている中、極端な政策を導入して、目指さない姿勢をより鮮明にすると、政府の信認が低下し、日銀の信認も低下する。
日銀の信認が低下すると、長期金利をコントロールすることができなくなる。FTPLを導入することで、やがて物価は上昇するかもしれないが、その前に長期金利の上昇圧力が発生する。日銀が調整能力を失った状況で上昇圧力が発生すると、市場は危機的な状況に陥る。
なお、FTPLのポイントは、あくまでも、政府が財政健全化を目指さないと国民に信じさせることだ。ただ、一部で、「財政政策により物価押し上げを狙う理論」と従来のケインズ経済の域を脱しない説明をする向きがある。金融政策に対する閉塞感が強まる中、シムズ理論の本質とは異なる部分が切り取られ、消費税増税延期の口実に使われるリスクについても、意識する必要がありそうだ。
閉塞感を打破するためにも、「いろいろな前提」を置いた上で、日銀が金融政策の先行きに対する方針を提示することが望まれる。
――関連インタビュー:インフレ税はなぜ日本に必要か=シムズ教授
*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
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ドル120円予想を支える2つの根拠=鈴木健吾氏
鈴木健吾
鈴木健吾みずほ証券 チーフFXストラテジスト
[東京 17日] - 1月20日のトランプ米大統領誕生からほぼ1カ月が経った。この間、メキシコ国境の壁建設やイスラム圏7カ国からの入国禁止措置など過激な政策に加え保護主義的な発言もあり、円高リスクが意識される場面もあったが、日米首脳会談やイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言などを経て、そのリスクは後退したと感じている。
これまで示したシナリオ通り、年後半に1ドル=120円超えに向かう下地が徐々に整いつつあるようだ。
トランプ大統領の政策に対する評価はなお割れている。過激な政策に対して、戦略性がなく発言も場当たり的で、今後の政策運営も期待できないとのネガティブな評価もあるが、メキシコの壁もイスラム教徒への発言も昨年の選挙期間中からのことであり、公約を実行に移しているだけとも言える。今後は減税やインフラ投資など、景気刺激策に関する公約も有言実行の期待が持てる、とのポジティブな見方を筆者は抱いている。
予算措置が必要な政策は議会の立法が必要なものが多く、実行の順序が後回しになり、環太平洋連携協定(TPP)離脱といった大統領令ですぐに実行できるものが優先されているが、トランプ大統領が9日に「向こう2、3週間後に税に関する驚くべき提案を行う」と発言した通り、おそらく減税策などの景気刺激策が今後徐々に姿を現すだろう。
<日銀の手足が縛られる懸念は後退>
日米首脳会合の成果も大きい。トランプ大統領はオーストラリアのターンブル首相との電話会談で、難民・移民に関する話題で衝突し会談を途中で切り上げたとされるが、安倍晋三首相との会談では衝突する可能性のある貿易や為替に関する話題にほとんど触れず、友好関係を強くアピールした。
国防では、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを確認したうえ、在日米軍の受け入れに対する謝意まで述べた。これには2つの大きな意味がある。トランプ政権が中国に対する強硬姿勢をとる中、アジアの同盟国としての日本の重要性が確認されたこと。もう1つは誤った認識をあっさりと修正したことだ。
選挙期間中は「米国は日本を守っているが、日本は公平な負担をしていない」などと発言していた。日本との貿易に関してもトランプ大統領は「日本が通貨安攻勢をかけ、米国の製造業に不公平な競争を強いている」という意味合いの発言をしているが、今回の会談で日本サイドは、ここ5年ほど為替介入をしておらず、日本企業は米国で多くの雇用を行い、直接投資も英国に次いで2位、1980年代の貿易摩擦があった頃とは大きく違うことを説明しただろう。
巨額の対中貿易赤字などを意識してトランプ大統領の保護主義的な発言が大きく変わることはないだろうが、日本を名指しした批判は減る可能性が高い。また、会談後に公表された共同声明においても、「国内及び世界の経済需要を強化するために相互補完的な財政、金融及び
構造政策という3本の矢のアプローチを用いていくとのコミットメントを再確認」している。これにより通貨安誘導という批判によって日本の金融政策の手足が縛られる懸念は後退した。
さらに、日米首脳会談後、空席だった財務長官に下馬評通りムニューシン氏の起用が決定している。事実上為替政策の責任者になるが、これまで「長期的にはドル高が重要」などと発言しており、保護主義的な側面からしか為替相場を見ないトランプ大統領とは一線を画す。
トランプ大統領の在日駐留米軍に関する発言が、おそらくは来日したマティス国防長官の説明で変わったと思われるのと同様に、金融のプロであるムニューシン財務長官の為替に対する認識が大統領の考えに影響を与える可能性も十分にあるだろう。
<年後半の120円超えシナリオを堅持>
トランプ政権の現実路線シフトに加え、今年のドル高見通しを支えるもう1つの要因がFRBの利上げ姿勢だ。これまでイエレンFRB議長が1月18日に講演、2月14日に議会証言を行ったが、基本ハト派とされる議長の発言からも利上げに対する前向きな姿勢が明らかになっている。
1月18日の講演では「2019年末までに政策金利が長期的に中立な3%に達するとの見通しを、FOMC(連邦公開市場委員会)メンバーの大部分が共有している」とした。現状0.50―0.75%の政策金利を2019年末に3%にするには、1回0.25%として9回の利上げが必要だ。これから3年間、単純平均で年3回ペースでの利上げ実施を「大半のメンバーがおおむね共有」していることになる。
また、今月14日の議会証言では次回の利上げが比較的近い可能性にも言及した。「あまりに長く緩和の解除を待ち過ぎることは賢明ではない」として「目先開催されるいくつかの会合(upcoming meetings)でさらなる金利の調整が適切になる可能性がある」とし、3月の利上げ実施の可能性を排除しなかった(筆者のメインシナリオは6月実施)。FRBは目先も、そしてその後3年間も、利上げに対する前向き姿勢を打ち出している。
今後、最大の注目はトランプ大統領の具体的な景気刺激策となろう。米国企業に海外利益の本国還流(リパトリエーション)を促す優遇税制措置の有無をはじめ減税の規模や種類、インフラ投資・財政出動の具体策や規模などがどのようなものになるかが大きな鍵となる。
そもそも、トランプ大統領の景気刺激策による景気拡大や物価上昇期待が、株や金利、ドルの上昇やFRBの利上げペース加速期待を後押ししているわけで、その政策がこれまで以上に「過激」なものとなるかどうかが、今年のドル円相場の方向性を決めると言っても過言ではない。
現状、ドル円相場は年初の118円台から一時111円台まで下落する動きを見せているが、前回のコラムで言及した通り、春先に向けてはおよそ110円―117円程度のレンジを中心に調整的な動きを予想している。
その後は徐々に明らかになるトランプ政権の景気刺激策やFRBの利上げペース、欧州での選挙結果を確認しつつ、年後半には1ドル=120円を超える展開を引き続きメインシナリオにしている。現状、その下地が整いつつあるのではないか。
*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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コラム:トランプ円安に「逆回転」の芽=内田稔氏
内田稔
内田稔三菱東京UFJ銀行 チーフアナリスト
[東京 20日] - トランプ米大統領は9日、米航空大手の首脳らを招いた会合で、2、3週間以内に「税に関する驚くべき発表をする」と述べた。大統領は28日に米議会の上下両院合同本会議で今後の経済政策などに関して演説を行う予定であり、その場で減税に関する全体像が見えてくると期待される。
同氏は選挙期間中、すでに法人税を35%から15%へ引き下げる方針を掲げてきた。また、米企業による海外での滞留資金を米国に還流させる際の減税(いわゆるリパトリ減税)を挙げているほか、所得税減税や最近になって浮上した国境税の骨格も示される可能性がある。
米連邦政府債務残高の拡大に慎重姿勢を示す保守強硬派「ティーパーティー(茶会)」の勢力を抱える共和党だが、減税の方向性ではトランプ大統領と一致している面もある。減税幅は大統領の主張通りとなるか予断を許さないが、減税実現の可能性は高いだろう。
これに折からの金融規制緩和との期待も加わり、米国の株式相場の続伸や国債利回りの上昇が見込まれている。また、日米金利差拡大を背景に、ドル高円安が進むとの見方が合理的だ。
<ドル円と日米金利差が相関を失った理由>
ところが、今年に入り、その日米金利差とドル円相場の相関はほとんどなくなっている。両者の相関の強さを見ると、昨年11月の米大統領選後から年末までの期間、2年物、10年物国債の金利差のいずれもドル円との重相関計数は0.9を超えていたが、年明け以降、どちらも0.1前後へと急低下している。
確かに、14―15日のイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長による議会証言にて利上げペースの加速やFRBのバランスシート縮小の可能性が示され、米国債の利回りが上昇したが、ドル円は上昇を阻まれ、かえって上値の重さが浮き彫りとなっている。
14日時点のシカゴIMMの先物市場における投機筋の円ショートは5万枚を少し超えた程度にすぎない。円売りの持ち高の重さが一段の円安進行を阻んでいるというわけでもないだろう。
ドル円と日米金利差が相関を失っている背景としてまず考えられるのは、そもそも昨年11月の米大統領選後のドル円急騰劇も日米金利差の拡大のほか、ドル資金の需給逼迫(ひっぱく)度合いが強く影響していた可能性がある点だ。
円を担保にドル資金を調達する際のプレミアムを示すドル円のベーシススワップのスプレッドは、昨年11月に急拡大し、本邦勢のドル資金の調達は難しさを増した。これは、ヘッジ外債投資を行う本邦投資家にとって、そのヘッジコストが急上昇したことを意味する。
3カ月物で見て一時は190ベーシスポイント(bp)にまで跳ね上がったヘッジコストを目の当たりにした本邦投資家によるヘッジ外し(ドル買い円売り)がドル円を押し上げた一因だった可能性が高い。ただ、足元では年末年始を越えた季節要因もあり、そのスプレッドが急縮小している。それとともに昨年11月に見れらた強いドル買い円売りは影を潜めており、こうした説明と整合的だ。
また、トランプ政権が金融規制の緩和を進めれば、米国の金融機関によるドル資金の供給力は飛躍的に高まり、スプレッドの縮小要因になると期待される。そうなれば、米国の利上げ観測の台頭や実際の利上げによってドル調達のプレミアムが急拡大し、為替市場での強力なドル買いにまで波及するといった事態は今後、起こりにくくなっていくだろう。
こうした環境であれば、事前に織り込み済みの利上げが実現する程度で、ドル円が力強く上昇するとは考えにくい。
<年後半は105―110円圏へじり安か>
ドル円と日米金利差が相関を失っている、もう1つの背景として考えられるのが、米国債の需給悪化だ。
例えば、米国債の最大保有国である日本と中国は、昨年11月から年末までに、それぞれ411億ドル、573億ドルと計984億ドルもの米国債を処分している。中国は、人民元を買い支える為替介入の原資として米国債を売却していくとの観測が根強い。
日本の投資家勢も米国債相場が大きく下落した上、前述の通り、為替ヘッジコストの先行きが見通しにくいことから、米国債の残高を減らしたと考えられる。今後、トランプ政権が打ち出す減税策は、その財源の多くを長期国債の増発に依存すると予想される。大統領選後の動きが示す通り、長期金利には上昇圧力(国債価格下落圧力)が加わる可能性があるだろう。
また、完全雇用とされる米国経済における財政出動がインフレ高進を招くとの見方を強めれば、それも金利上昇を促すと考えられる。さらに、FRBはここにきてバランスシート縮小の議論を始める姿勢を見せており、将来的な需給悪化懸念を高めやすい。
こうした状況も見据え、本邦投資家から見た日本の超長期国債の投資妙味も増す見込みだ。なぜなら、イールドカーブ・コントロールによって日本国債の利回り上昇が抑制されているとはいえ、30年債の利回りは世界的な金利上昇の影響を受け、利回り水準が0.9%台を回復している。
本邦投資家の外債投資が加速した時期は、2016年1月のマイナス金利政策導入よりも少し早い、30年国債利回りが1%を割り込んできたタイミングだ。FRBによる利上げによって、本来であればドル建資産がより魅力を増し、ドル高をもたらすと期待されている。しかし、米国債の需給悪化要因がこれだけ目白押しとなっている上、為替ヘッジコストの先行きも読みにくいことを考慮すると、ことヘッジ外債と比べた円債の投資妙味も今後、増してこよう。これもドル円の上昇を抑えると予想される。
税制改革や規制緩和といった米経済に対する追い風が見込まれる一方、利上げや保護主義が重しとなり、すでに8年目を迎えている米国の景気拡大がさらに勢いを増すのは容易ではない。このため、高まった米経済好転への期待が和らぐ過程で、ドル高の勢いは年末に向けて次第に和らいでいくと考えられる。
他方、日本では昨秋以降、石油輸出国機構(OPEC)による減産合意や米大統領選後のドル高といった外的な要因によって期待インフレが上昇し、実質金利が低下。これが、円安をさらに後押ししたとみられるが、ここまで指摘した背景によってドル高円安が進みにくくなるに連れ、今度は次第に日本株の上値が重くなろう。これまでとは逆に、期待インフレ率の低下と実質金利上昇によって、円高圧力がじわりと強まってくると思われる。
こうしたことを踏まえると、ドル円は年前半には底堅く推移すると考えられるが、いずれピークに達し、その後は徐々に軟化。年末にかけて105円から110円圏に向けて、じり安に推移すると予想している。
*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から16年まで個人ランキング1位。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
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