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※写真はイメージです
バレンタインも憂鬱、コンビニバイト店員「自腹購入」の実態
http://diamond.jp/articles/-/117808
2017年2月14日 奥田由意 ダイヤモンド・オンライン
現在の日本にすっかり根付いたイベントの一つに、女性が男性に(最近は逆も)チョコレートを贈る日の「バレンタインデー」がある。義理、本命、自分へのご褒美、友チョコ、オレチョコ……。あるいはそんな風習とは無縁という人まで消費のあり方は多様化しているが、デパートやスーパーやコンビニでは、「バレンタイン商戦」という“死闘”が一様に繰り広げられている。特にノルマを課せられることも多いコンビニのアルバイト従業員にとって、こうした流通・食品業界の催事(イベント)は「憂鬱以外の何物でもない」という。(ライター 奥田由意)
■相次ぐイベントキャンペーンで
ノルマ達成と自腹購入を強いられる
「販売数ゼロの場合はペナルティとしてポイントカード入会を30件取ること。それもできなければシフト1回(無償で)入ってもらいます。とくにAさん、Bさん、Cさん、Dさん。ほかの人にも毎回同じようにやってもらっていて、今回は甘い顔をできませんので。よろしくお願いします」――。
あるコンビニエンスストアで、従業員全員に配られた書類の文言だ。
これは夏の「土用の丑の日」に合わせたうなぎ予約獲得キャンペーンについてのものだが、コンビニアにはお歳暮、節分、バレンタインデー、ひな祭り、お花見、母の日、土用の丑、お中元、ハロウィン、ボジョレーヌーボー解禁、クリスマスなど、季節ごとのイベント関連商品がある。
しかも、仕入れは本部から買い切りのものも多く、期間内に売り切らなければならない。そのしわ寄せがアルバイト従業員に及ぶ。まず、ノルマが設けられ、その達成が求められる。未達の場合は「自腹購入」を明に暗に強要するという形でのしかかってくるのだ。
年末から2月にかけては、特にイベント関連商品の販売が多く、年賀状印刷、お歳暮、クリスマスケーキ、おせち、節分で恵方巻き、バレンタインと目白押しだ。
なかでも「土用の丑のうなぎ、お歳暮、恵方巻きはコンビニが特に力を入れているようで、相談件数も増える」(ブラックバイトユニオン執行委員青木耕太郎さん)。
「恵方巻きは1人30本がノルマ。未達の場合は廃棄分を買い取ってもらいますと言われ、結局半分買い取った」
「1人10個クリスマスケーキの予約を取るように言われた。期限内にノルマの予約数を獲得できなかったので、結局自分で3個購入した」
「期限までにお歳暮カタログから商品を選んで申し込むよう言われた。期限がくると、店長が勝手に定番商品の予約を入れて、到着した商品を自分で買い取ることになった」
「『おでんを○○個買ってくれないか』とよく店長に言われる。店舗の売り上げランキングで上位に入りたいから。断ると希望のシフトに入れてくれないなど、嫌がらせを受けるはめになるので、結局買わされることになる」
ブラックバイトユニオンには、アルバイトに関する高校生や大学生の相談が年間1000件寄せられる。そのうち100件程度が、上記のような、自腹購入に関するものだ。電話でユニオンに相談する人はあくまでも氷山の一角。実際にはその1000倍くらいの事例があるだろうと前出の青木さんは見ている。
■給与の1〜2割が
自腹購入で消える
販売金額や販売個数目標に達しなかった場合、「自腹購入」を強いられることがしばしばあり、その形態には主に以下のようなパターンがある。
一つは、恵方巻きのように当日に売れ残った廃棄処分の商品を購入するというケース。
二つ目は、あらかじめ個数が決まっていて、予約を入れさせられるというケース。
三つ目は、目標件数や個数に達しなかった場合、相当金額が給与から天引きされるというケース。
このような自腹購入で、実に給与の1〜2割が消えていく。
自腹購入をしない場合は、だいたい下記のような事態となることが多いという。
・「うちのルールでみんなやってくれている」といわれ、居づらくなる
・無給のシフトが課される
・「やめてもらう」「次のシフトは入れさせない」などと脅迫される
・回覧される文書等で「次回は必ず目標を達成するように……」と、名指しで通達される
などの「ペナルティ」が与えられるのだ。
■法的には労働基準法違反
賃金未払いなどに相当
当然ながらこれらはすべて違法行為だ。
まず、自腹購入を強いられるのは「強要罪」だ。「シフトを入れさせない」というのは契約違反。商品購入分として給与を天引きするのは、労働基準法違反。予約件数分を買い取って、それを家族や友達に売る場合、そのために費やした時間は時間外労働になり、その分が賃金不払いに相当する。
法的には店主と交渉して、未払い分の賃金を払ってもらったり、ノルマで購入させられた分を返金してもらうことが可能だ。
もちろん、真面目に売上向上に取り組む店主がほとんどだろう。明らかに悪質な一部のオーナーや店主が一方的にアルバイト従業員にノルマを強いているという場合もあるが、こうした強要行為がなかなかなくならないのは構造的な問題もある。
こうしたノルマが課せられるイベントの中でも「うなぎ、お歳暮、恵方巻き」が3大ノルマだ。あるコンビニチェーンでは、売上向上のためにフランチャイジーに配布する資料に、パートやアルバイト従業員の周囲の人々を季節イベントの予約商品の販売対象にするよう示唆するようなマニュアルを配布していた。
「従業員さんの意識付けと、アプローチについての具体的指導が必要。(中略)従業員さんの人間関係を聴きながら、どこにチャンスがあるのか。どのようにお勧めするのか。アドバイスを行うことが必要」
続けて、「パートさん」の周囲の人間関係として「来店されるお客様、友達関係、身内関係、仕事関係、ご近所さん、その他」と6項目が挙げられ、「身内関係が基礎票となるが、(中略)前職からの大口注文や、サークル活動を通しての注文のケースなどがある」
そして、「アルバイトさん」の周囲の人間関係は「ご両親、親戚関係、大家さん、先生・教授、友達の親御さん、他のバイト先」が挙げられ、「パートさんに比べ難しく思えるが、一人2件平均で販売できれば、20人で40件となる。(後略)」とある。
同じマニュアルには恵方巻きやお歳暮、クリスマスケーキなど8商品について、地区平均、トップ店舗、ワースト店舗の売上額とトップとワーストの差額が掲載されている。資料ではこれら予約商品の合計が平均で126万円、クリスマスケーキはなかでも従業員の年齢の幅なく取り組める商材で、「学生従業員の戦力化の切り口にすることもできる」と書かれている。
このコンビニチェーンでは、2014年と2015年には、夏ギフト(お中元)とお歳暮の販売個数の全国上位500店舗を販売金額とともに公表し、競わせている。
■コンビニオーナーも
ノルマがつらいという構造
コンビニのフランチャイズ契約をしたオーナーは、常にこうした競争にさらされている。イベント関連商品への取り組みに参画しなければ、「本部からフランチャイズ契約を切られるのではないか」という不安があるため、積極的に取り組んでいる姿勢を見せざるをえない。前述のように、恵方巻きなどは本部から一括納入の買い切り商品であるため、返品もできない。
また、本部に支払うロイヤリティ(本部の商標やノウハウを使い、支援を得る代わりに本部に支払う対価、上納金)を払うと、利益が出にくいという実情もある。ロイヤリティは本部が土地建物を準備する場合は、40〜70%と、支援体制や売上げに応じてまちまちだが、売上が低ければ経営難、売上が伸びても累進的にロイヤリティ率が上がるので、楽になるわけではない。
そういう意味ではコンビニのフランチャイズオーナーも本部に対しては弱い立場にある。このため、東京都労働委員会は2015年、コンビニのオーナーが、チェーン本部と団体交渉をするための「コンビニ加盟店ユニオン」を労働組合として認めているほどだ。
とはいえ、コンビニのフランチャイズオーナーが本部の圧力に耐えかねたとしても、アルバイト従業員にノルマを強要するのは違法行為だ。
前出の青木さんは、「電話の相談でも『クリスマスケーキを買い取れ』と言われたり、『協力しないとやめてもらう』と言われていること自体が違法であると認識していない人が多い。また、強要されないまでも、雰囲気的に居づらくなったり、店主やノルマをこなしている同僚との関係が悪くなることを気にして声を上げられない人がほとんど」という。実際に店主やオーナーと交渉して、自腹購入分の金額を取り戻す人は10分の1にも満たないのが実情だ。
もし、自腹購入を強要された場合、その金額を後で取り返したい場合はどうしたらよいのだろう。
「ノルマの強要や、シフトを減らすなどのやりとりをしたメールやLINEでの連絡はスクリーンショットをとっておく。ノルマを断って呼び出されたら、面談中のやりとりを録音する、購入分の記録をとっておく。それができなければ、日記やメモの形で記録しておいてほしい」(青木さん)と『証拠の保全』を勧める。
「まずは明確な違法行為だと知ってほしい。そして声を上げるのは自分の権利を主張するだけでなく、職場環境全体の改善にもなり、みんなが働きやすくなることなのだと認識してほしい」と呼びかける。
バレンタインデー、続くホワイトデー、ひな祭りにお花見。冬が過ぎ、春が来ても、本部や店舗側の「違法行為」に対する“認識”が希薄なら、コンビニ店員の憂鬱は延々と続くことになりそうだ。
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