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個人投資家は今のマーケットに参加する必要なし
市場は「晴れ、ときどき台風」
晴れ間があってもいまは「冬」
2017年2月10日(金)
居林 通
トランプ米大統領の登場を、市場はまずは前向きに受け止めました。それを受けて前回(「投資は“トランプ旋風”に乗るか、逃げるか?」)お話をお聞きしたのですが、居林さんは「乗らない。風は吹いているが、北風だ」とおっしゃいました。
国内最優先の路線が支持されて大統領になるトランプ氏は、世界が不景気になっても自国の景気を優先するでしょう。具体的にはドル安政策であり、自国製品優先主義になると見ます。
居林:はい。「ここまで言って外したら大恥ですけどね。恥をかくリスクはあるけれど、言わないのは罪だと思うので」申し上げました。
今回お話ししたいことは2つ。「市場を一つの見方だけで見るのは危険だ」ということ、そして「個人投資家の方は、株式市場に参加しなくてよい時がある」ということです。
ダウ平均株価が2万ドルを超えて、市場はまだまだ強気のように見えます。「理屈ではおかしい。けれど、ここで買わないのはもったいないのでは」と、投資家ならば考えたくなる局面では。
居林:2つの理由から、個人投資家の人は今のマーケットに参加する必要がないと思います。第1は、前回にも指摘しましたが、現在の日本株マーケットは「トランプ大統領がアメリカの景気を良くするので、円安になる」という期待値でできていることです。
トランプ大統領の政策がアメリカ経済にとって良いことだとしても、日本経済、日本の企業収益に良いことかどうかは大いに疑問が残ります。つまり、株価が上がるシナリオに疑念を持っています。第二に、これが今回のメインポイントですが、マーケットが良いニュースをフルに織り込んでいる(PERが16倍程度になっている)時に、さらなる上値を追いかける必要はないのではないかと思う点です。
PERが16倍、ということは、居林さんのセオリー(PERは13〜14倍が適正、詳しくは「或るプライベートバンカーの株価の読み方」)からいくと、かなり上回ってきた。
居林:はい。ということは、多くの投資家が期待していることは、すでに株価に織り込まれているのではないでしょうか? そうなると、リスクとリターンを考えると、リスクが大きいのではないでしょうか? そんな風に私は考えます。
一方、個人投資家には休む自由があるのです。機関投資家と個人投資家の一番の違いはここです。個人投資家が情報量で勝る機関投資家に勝つためには、無駄な勝負をしないことです。
上昇局面ではどう考える?
去年はマーケットに参加するタイミングが2、3回ありました。年初の原油の急落時、BREXIT(ブリクジット、英国が国民投票でEU離脱を決定)の時、そして102円まで円高に振れた時です。まさに、「本当に株価は戻るのか?」と、胃薬を飲みながらがんばって買う状況でした。
今はみなさん「もう大丈夫だよね」と胃薬を薬箱にしまって、喜んでいるところでしょうか。でも、こういう時こそ、少なくともトレーディングのポジションは利益を確定して、マーケットのセンチメントの変化を注視するときなのだと思います。ここは胃薬ではなく、投資哲学が必要なところです。
「相場が高すぎたら売り、低すぎたら買う」の前者の局面にいると。
居林:「株価は企業業績の関数で、適正水準はPERで判断できる」というのが私の考えで、そこから上でも下でも大きく離れたときは、投資のチャンスです。ブリクジットやトランプ政権誕生などで株価は大きく動きますが、政治が株価に与えるインパクトはどんなに大きくても一時的です。誰かが悲鳴を上げたら、利益が期待できるチャンスと考えるべき。「パニックで株価が下がった時はリスク対リターンのコストパフォーマンスがいい。頑張って買おう。胃薬を握りしめて」です。
現状のような、上昇相場の局面ではどう考えますか。
居林:今は大切な時期です。市場がユーフォリア(多幸感)の中にいる。そういうときにはどうするか。株価が上がる可能性があれば買いたくなりますよね。しかし、市場に影響を及ぼすリスク要因は引き続き存在しているのです。
あ。そりゃそうか。
居林:リスクが無くなったから株価が上がっている、というわけではなく、市場参加者がリスクが減ったと「感じている」だけなのです。よって株価もPERが上がっていくわけですが、もし上がったとしても、その株価上昇から得られるリターンはリスクを多めに負担していることになります。私の見方では「コスパが悪い投資」ということになります。
休むも投資なのだと思います。株式投資というのはスポーツと違って、全員勝者になる時期もあれば、全員敗者にもなり得ます。上値があって下値が少ないのが良い投資環境であって、下値があって上値が少ない投資環境だと思ったら引き下がることも必要だと思います。
なるほど。
上がる週と下がる週の数は同じ
居林:ひとつ図を見て頂きましょう。
過去10年間の日経平均(週次)のプラスマイナスの分布
居林:上の図は過去10年間の日経平均の週次のプラスマイナスを示したものです。プラスの週とマイナスの週は見事に半分ずつ、なおかつきれいに正規分布しています。
本当だ。上がる週と下がる週の数は対象形なんですね。
居林:しかし、我々投資家は、下がり続けると「もう上がらないのではないか」とか、上がり続けていると「来週も上がるだろう」とか考えてしまいがちです。結局は上がる週と下がる週の数が同じ、という事実を受け入れて、下がりすぎなのか、上がりすぎなのかを自分で判断するツールを用意すべきなのです。それが、投資哲学であり、胃薬と同時に投資家には必要不可欠なものだと思います。
ただ、投資哲学(と胃薬)を持つ上でいちばん難しいのは、投資は詰まるところ行動だ、という点にあります。
え?
居林:人間はいつも目先のものごとを大きく捉えます。そして、それに基づいて行動したくなるんです。今、相場が上昇局面にある。理屈ではおかしい。でも、自分もその波に乗りたくてたまらない。まさしく「わかっちゃいるけど、やめられない」です。
でも、投資を趣味ではなく仕事として行うのであれば、目先ではなく、自分の哲学、信念、意思を優先させねばなりません。そして、自分の行動を、自分の信念や意思と同一にできるのは偉大な人です。これがどんなに難しいのかは、ダイエット、マラソン、英語学習などなどを考えてみればわかります。 これらを達成するために、ほかの人が何をやっているのかは、あまり、いやほとんど関係がありません。
わかっちゃいるけどやってしまう
…たしかに、意思は現実に負けやすい。投資もそうだとは思いませんでした。
居林:株式投資も一緒ですよ。「わかっちゃいるけど、やめられない」を、やめなければいけない。
今は皆さん株式を買いたくなっていますよね。株価はまだ上がりそうだと。でも、企業業績が好調だったにも関わらず、ブリクジットで安くなった時はなかなか手が出なかった。原油もそうです。一時は1バレルあたり26ドルでした。今は55ドルになっています。26ドルのころも、平均採掘コストは40ドルだったのに。利益を期待するなら、そういう時、つまり「リスクが安く買えるとき」に買うべきです。
リスクが安く買える、ですか。それが「コスパがいい時」ですね。
居林:そうです。ついでに言いますと、株式を買うことに「所有する喜び」はありません。
仕事柄、買ったことがないので分かりませんが、そういうものなんですか。
居林:「クルマを持っていると、コスパが悪い」といわれて「所有する喜びがあるじゃないか」という反論がありますよね。でも、投資家ならば問うべきなのです。「そう? では、所有する喜びはいくらになるの? 例えばレンタル料金よりいくら上乗せするの?」と。
あああ。なるほど。
株は「リスクを買う」ものだ
居林:REIT(不動産投資信託)はちょっと別かもしれませんけれど、基本的に私は、株を買うとは「リスクを買う」ことだと思います。投資家にとって、株式投資で得るものは「リスク」と「リターン」の可能性です。ほとんどの個人投資家にとつて株価は「リスク」「将来のリターン」の値段であって、会社の一部を所有することの対価ではありませんよね。損するかもしれないリスクを負って、リターンを得ようと参戦する。そこに「所有する喜び」のような定性的な意味を持ち込むと、理屈で割り切れず、迷いが生じます。
投資家は、まず自分の行動原理を決める。それは自分の哲学によって決める。私の場合はそれが「株価は企業業績の関数で、それ以外は中長期的には一時的な作用」というわけです。
今の市場環境について私と同じ意見でなくてもまったく構いません。しかし、せっかくこの連載を読んで下さっている方には、「周りの人がみんな買いだと言っているから、私も株を買う」という行動はとってほしくないのです。
「リスクを買う」とのことですが、株価は変動しますが、リスクの量も増減するんじゃないでしょうか。先ほどおっしゃった、「政治リスクは一時的」というのは「本当かな」と思うんですが。
居林:「投資リスクは常にある。そして、その量はほぼ一定」くらいに考えた方がいいと思います。歴史を振り返れば、同じようなリスクを前にも経験し、吸収していることがほとんどだからです。例えば英国のEU離脱(=ブリクジット)の際の経緯と市場の反応は、1998年のEU創設のためのマーストリヒト条約への、英国の批准をめぐる騒ぎとそっくりです。
「買わない=幸せを逃がしている」
面白いですね。ということは「史上初だ」とみんなが思っている出来事には、ちょっと眉唾だと見たほうがいいのかな。
居林:でも、乗せられてしまうのですよ。
たとえば今日は冬にしては暖かい、気温が20度になりそうな日ですね。ジャケット一枚で外を歩ける。「じゃ、明日はもっと温かくなるな」と、Tシャツで出社しますか?
風邪を引きます。
居林:そう。誰もそんな馬鹿なことはしない。「たまたま温かくなっただけ」と判断する。季節が冬だと理解しているからですね。「2月に夏は来ない」と。ところが、季節が目に見えない相場では、暖かい日が数日続くと「夏が来るのか!」と、Tシャツを着る人が出てくる。株価は(何度も申し上げているように)意外に少数の市場参加者の動向で動くので、「あれ? Tシャツを着たほうがいいのかな?」とダウンジャケットを脱ぐ人が出てきた。
吹雪がきたら全員風邪を引く、と。じゃあ、いまは「夏気分」の人がTシャツになって、それを「どうしようかな」と様子見している人が現れている、そんな感じでしょうか。
居林:ためらい、それでも「このまま夏になったらどうしよう」と思うわけです。
居林:天気ならば分かりやすくても、相場は、みんながハッピーになっていると「自分だけ乗り遅れているのではないか?」となって、自らの哲学で決めた通りに行動するのが難しい。
それに、株価が上がっていると売り急がない。なぜか。幸せな気分が続き、そこに「所有する喜び」が生まれてしまうんです。これが下げ始めてから売るときは逆になって、「こんな株、持っていなければよかった」となって、一部の人が売ると、他の人が引っ張られ「人より先に売ろう」になるのですけれどね。
そこから解脱して、哲学で判断するには。
居林:繰り返しになりますけど、株式は、「リスクという代金を払って将来のリターンを買う」ゲームに参加するためのチケットだと考えることでしょうか。なぜ参加したのかと言えば「この程度のリスクを負うが、ここまでのリターンが期待できるから」ですよね。
リスクまで計算して買うのが正しい
あっ、「儲かるから」じゃダメなんですか?
居林:買うときに、リスクとリターンがどの程度なのか考えないのは、「真冬にTシャツ」ですよ。
「XX%のリターンを期待できる、なぜならばこれらの理由が」ということはみんな言えるのです。でも、「それにどんなリスクがあるの? うまくいかないとどの程度の損になるの?」を言う人はまずいない。たとえば「配当があるから株価が下がってもマイナスXX%で済みます」などと言えれば、これは「下値がなくて上値がある」よい投資なんです。リスクとリターンを買う、というのは、上値だけでなく下値まで考えて買うことです。
なるほど…。ところで、いまの市場は春夏秋冬のどこでしょう?
居林:要するに、その時期の下値と上値が分かれば季節が分かります。もちろんどこかに書いてあるわけではなくて、そこを自分の哲学、私の場合は、企業業績をみて季節を予測するわけですが。
今は、冬に向かっていると思います。企業業績のトレンドに大きな変化がない状況で、トランプ政権による米国自国主義の台頭は世界経済にとってマイナス要素にもなりかねない、と私は考えているからです。従って、いかに暖かい日があっても、ダウンを脱いでTシャツになってはダメです。
前回の繰り返しになりますが、トランプ氏は米国の景気を最優先する、いや、せざるを得ない大統領です。たしかに米国景気はよくなるだろうけれど、そのために世界経済は大きなダメージを受け可能性がある。米国金利上昇による円安を期待する方もいますけれど、金利を上げれば米国の景気が冷えますから、トランプ政権はそちらには向きにくい。
いまダウンを脱いでいる方は、トランプ政権が(米国の)景気を良くすることを過剰評価し、それしか目に入っていないんです。もっと大きな視点で見れば、米国は景気回復が10年つづくスーパーサイクルの中にあります。結構なことですが、株価が上がっているということは、リスクの値段が高くなり続けている、とも言えますね。
じゃ、下がる前に売れば?
つい、上昇局面だと悪いことが起きないような気がしますが…。
居林:みんながハッピーになっているときにこそ、起こり得るリスクを見なければいけません。「起こり得るリスクの可能性は大きく変わらない」のです。低下しているように見えるのは感覚によるマジック、簡単に言えば慣れです。
聞いた話ですが、釣り堀で釣られたお魚は、元に戻してもしばらくは懲りて餌を食べないそうです。ところが、2週間もするとまた釣られるんだとか。
ああ、よく分かります。
居林:というわけで、現在の市場では少数派になりますが、私の判断は「利益確定」。少なくとも買いではない。
ひとつお聞きしたいのですが、ここまで聴いて「下がるから買うな、というけれど、下がる前に売ればいいじゃないか」と思う方も多いのではないでしょうか。
居林:おっしゃるとおりです。高いときに買って、もっと高いところで売る短期トレーダー的な手法ももちろんあります。長年この世界にいますので、信じられないくらいの才能を持つ、まさに天才を何人か目にしました。「株価が上昇し始めたところで乗って、天井につく前に降りればいい」という理屈も正しい。できる、と思うならどうぞ、わたしにはそういう才能がないのでやれません、他の方にも勧めません、というお話です。
私のようなバリュー投資か、グロースか。「長期的に生き残れるのは全員バリュービレッジの出身だ」とウォーレン・バフェットが言ってまして、私の好きな言葉なんです(笑)。
別の分け方をすると、投資哲学として、コントラリアン(逆張り)、波乗り(順張り)、両方(スイッチ)という分け方もあります。運用会社で25年の経験がありますが、長い目で見ると、私はコントラリアンですね。それも、強い馬のオッズがいいときに賭けている。懐かしの「クイズダービー」で言えば、はらたいらさんがたまたま調子が悪くて、倍率が上がったときに賭ける、みたいな。
篠沢教授が20倍、には?
居林:絶対行きません。冷静に考えれば当然ですよね。でも、「投資は行動」なので、目の前の20倍に釣られるのです。そこで釣られないために哲学がいる。
投資は10年単位の勝ち残り戦
なるほど。ところで「長期的に生き残れるのは」という、長期とは何年くらいですか?
居林:私は、長期というのは10年単位だと思っています。株式投資を仕事としてやるなら10年勝ち続けねばならない勝ち残り戦。参戦自体にコストがかかるので、それを上回る利益を上げられるかどうか。10年平均して勝ち続けないと意味がない。
先ほど見て頂きましたが、日経平均のヒストグラムを長期で取ると、きれいに正規分布になるんですよ。過去10年、266週でプラスマイナス。きれいに対象形になります。もちろん、時には行きすぎたブラックスワンの日もあり、そこだけをみんなが覚えている。1998年に破綻したLTCMもその点では正しかった。
ロシア通貨危機が短期で収まると見越して投資したんでしたっけ。
居林:はい、長期的には正しい予測でしたが、レバレッジをかけ過ぎて予測が実現する前に破綻してしまいました。統計的異常値に注意し、逆張りしてもいいが全力でかけず、アベレージの世界に住んでいることを忘れずに、というのが教訓でしょうか。マーケットは明日もある。「今日は撤退でいい」と決めるのが大切です。
そういえば、居林さんの「撤退」についてのお話はまだお聞きしていませんね。
居林:撤退、利食い、損切りをどうするのか、は大きなテーマです。昨年は、いつマーケットに入るのか、の話を良くしました。この後は出方ですね。どう出口戦略を執行すべきか、そして我慢するべきか。次回にお話ししましょうか。最後に一言。売った後も上がるともう一回買い直したくなるんだけど、そこはぐっとこらえてください。
このコラムについて
市場は「晴れ、ときどき台風」
いわゆる「アナリスト」や「経済評論家」ではなく、「実際に売買の現場にいる人」が書く、市場の動きと未来予測です。筆者はUBS証券ウェルス・マネジメント本部日本株リサーチヘッドの居林通さん。そのときそのときの相場の動きと、金融市場全体に通底する考え方の両面から、「パニックに流されず、パニックを利用する」手法を学んでいきましょう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/020500004/020900010
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