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「雇用環境」の消費者意識に過労死事件が影響?
上野泰也のエコノミック・ソナー
経済指標では見えない実情
2017年1月31日(火)
上野 泰也
2016年12月の消費者心理は上向いたが、「雇用」を取り巻く環境についての消費者意識の数値だけは伸び悩んだ。(写真:PIXTA)
日本の雇用環境について、人々はこのところ一定の不安感をぬぐい去れないでいるように見える。
消費者心理を表す12月の指数は、3年3か月ぶりの高水準
1月10日に発表された昨年12月の消費動向調査で、一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は43.1に上昇した(前月比+2.2ポイント)。3か月ぶりの上昇で2013年9月以来の水準である。ただし、基調判断は据え置かれ、長期的に見れば横ばい圏内の動きだと内閣府は説明した。
この調査は毎月15日が調査時点とされており、10日前後に調査対象世帯に調査票が届くように郵送した上で、20日頃までに返送されてきた調査票を集計。「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断J」「資産価値」の5項目について、今後半年間の見通しを5段階評価で回答してもらい、決められたルールにしたがって5つの指数(消費者意識指標)を作成する。そして、「資産価値」を除く4つの消費者意識指標を単純平均して、消費者態度指数が作成されている。こうして出来上がった指数は、季節ごとに特有の振れを調整する前の原数値である。内閣府はさらに、そうした季節パターンを調整した季節調整済みの消費者態度指数を作成しており、上記の12月分の数字はそれである。
トランプラリーによる「漠とした高揚感」が上昇の原動力か
消費者態度指数を構成している消費者意識指標4つは、10月・11月にはすべてが低下していたが、12月は上昇に転じた。「トランプラリー」の下で急速に展開された円安・株高とそのことによる漠とした高揚感を最大の原動力にして上昇したと考えられる。上記のほうに消費者態度指数の構成要素にはなっていないものの、「資産価値」は株高を素直に反映して12月分で43.1に上昇した(前月比+3.0ポイント)になった。2015年11月以来の水準である。
このほか、天候不順による生鮮野菜の価格高騰という、各家庭の台所事情を強く圧迫していた要因が一巡したことも、消費者のマインド改善を支援した可能性が高い。
にもかかわらず「雇用環境」の数値の伸び悩みはなぜか
ただし、消費者態度指数を構成する意識指標4つのリバウンド度合いを見ると、2か月連続で低下する前の9月の水準を超えたのが、「収入の増え方」と「耐久消費財の買い時判断」の2つ。9月の水準と横並びになったのが、「暮らし向き」。残る「雇用環境」は45.7(前月比+3.2ポイント)で、上昇はしたものの、9月の水準である46.2には唯一届かなかった<図1>。これはなぜだろうか。
■図1:消費者意識指標(季節調整値) 「雇用環境」「収入の増え方」
(出所)内閣府
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/012600079/zu01.jpg
景気のベクトルは足元で上向いており、多くの消費者が自分の置かれた雇用環境についてにわかに不安を強めるようなことは考えにくい。完全失業率は3%前後まで水準を切り下げている。有効求人倍率は昨年11月まで3か月連続上昇し、1.41倍という1991年7月以来の記録的な高水準である。
自分の雇用環境についての不安はわずかに薄れた
また、日銀が四半期ごとに行っている、生活者の意識や行動を大まかに聴取する一種の世論調査である「生活意識に関するアンケート調査」の2016年12月分(調査期間:11月10日〜12月6日)が1月13日に発表されたので、内容をチェックすると、「これから1年後を見たとき、あなた(またはご家族)は、勤め先での雇用・処遇(給与、ポスト、福利厚生など)に不安を感じますか」という設問がある。回答分布は、「あまり感じない」(19.4%)、「少し感じる」(48.5%)、「かなり感じる」(29.8%)だった。9月に実施された前回調査結果(それぞれ17.5%、49.0%、31.4%)と比べると、雇用・処遇への不安を「あまり感じない」人が3か月前から1.9%ポイント増える一方、感じる人は2.1%ポイント減少した。回答者を勤労者のみ、すなわち会社員・公務員(会社役員を含む)およびパート・アルバイトなどだけに絞ったデータを見ても、傾向は同じである(感じない人が2.6%ポイント増加、感じる人が2.5%ポイント減少)。
大手広告代理店における過労自殺事件の影響か
「自分(あるいは自分の家族)」が置かれた雇用環境について足元で不安が薄れているとすれば、消費者意識指標「雇用環境」の上がり方が鈍い原因は、「他人」が置かれた雇用環境に求めることになる。筆者の考えでは、原因である可能性が最も高いのは、大手広告代理店における違法長時間労働・女性社員の過労自殺事件が2016年10月からテレビ・新聞・雑誌で大きく報じられ、日本の雇用環境の厳しい実情への関心が人々の間で高まったことである<図2>。
■図2:全国紙5紙(日経・朝日・読売・毎日・産経)に掲載された「過労死」という言葉を含む記事数
(出所)日経テレコンで検索した全国紙5紙掲載記事数から筆者作成
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/012600079/zu02.jpg
全国紙5紙に掲載された「過労死」という言葉を含む記事数を検索すると、2016年10月に急増したことがわかる。次の11月はさらに多い件数になった。12月になると件数は減少したものの、それでも100件を超え、9月の水準よりも多かった。
こうした動きと消費者意識指標「雇用環境」の戻りの鈍さには関連があるのではないだろうか。実際、昨年10月に消費者意識指標が悪化した際の内閣府記者レク(報道機関の記者向け説明)では、この過労死事件が引き合いに出されていたという。
職場環境の厳しい実情が、消費者心理の重石に
要するに、マクロの経済統計ではとらえられていない、(一部の)日本企業における職場環境の厳しい実情が、消費者心理の重石になったということである。
ちなみに、こうした日本の労働環境の厳しい方向への変容を取り上げた1年程前に発売された経済小説に、相場英雄『ガラパゴス』がある。実は、相場氏が大手通信社の経済担当記者だった時代に筆者とは長く接点があり、脱サラして小説家になると知った時は大変驚いた。その後、山本周五郎賞に2度ノミネートされるなどしており、今や売れっ子作家の1人として活躍中である。「ガラパゴス」では、フィクションの形を取りながらも、記者時代の人脈を生かした取材経験を元にしたとみられる、ノンフィクションではないかと錯覚するような文章も見出される。書評にはそうした観点からのものもあった。印象に残ったセリフを少しだけ引用したい。
「正社員やパートなど顧客企業が直接雇用する人たちは人事部が把握しています。しかし、我々は部品や備品と同じ扱いで、足りなくなった分を補うという意味で外注の加工費としてカウントされているのです。部品以下かもしれませんね」
「普通に働き、普通にメシが食えて、普通に家族と過ごす。こんな当たり前のことが難しくなった世の中って、どこか狂っていないか?」
シンプルで楽観的なシナリオが、現実に当てはまるとは限らない
いま安倍首相が力を入れようとしている働き方改革はどこまで実効性の伴うものになるかは現状未知数だが、少なくとも1つ言えるのは、「マクロ経済統計で雇用需給のひっ迫が続けば、賃金の増加と消費マインドの改善を期待することができ、それらに沿って個人消費は顕著に増加して、景気は良くなるはずだ」というような、シンプルで楽観的なシナリオが妥当するわけではどうやらなさそうだということである。消費者態度指数の内訳である消費者意識指標の動きをつぶさに見ることを通じて、そうした見方が浮かび上がってくる。
このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/012600079/
企業が現金決済をやめるべき理由
テクノロジーの発達と犯罪の予防目的で急速に進むキャッシュレス化
米メリーランド州ボルティモアのパークカフェ&コーヒーバーでは、強盗被害にたびたび遭ったことから、現金決済を一切やめる決断をした PHOTO: CHRISTOPHER MIMS/THE WALL STREET JOURNAL
By
CHRISTOPHER MIMS
2017 年 1 月 31 日 07:28 JST
――筆者のクリストファー・ミムズはWSJハイテク担当コラムニスト
***
米メリーランド州ボルティモアのパークカフェ&コーヒーバーでは、わずか3カ月で5回も強盗被害に遭った。これを受けてオーナーのデービッド・ハート氏は、地元客相手の小さなコーヒー店としては数年前であれば過激に見えた措置に踏み切った。現金の受け取りを一切やめたのだ。ハート氏にとっては捨て身の決断だったが、意外なことに売り上げは落ちなかった。
米両海岸合わせて66カ所に店舗を構えるサラダチェーンのスイートグリーンでは、もっと大きな規模で実験を行い、同様の結果を得た。同社の広報担当者によると、1年の試験運用を経て、2017年に完全キャッシュレス化することを決定した。その決断に至った要因はレジ処理の迅速化から現金の不衛生さへの懸念まで多々ある。しかし、広報担当者が真っ先に挙げた理由はハート氏と同じく、強盗に襲われるチャンスを減らすことで従業員の安全を確保するためだった。
米国では1950年代に初めて汎用(はんよう)クレジットカードが導入されて以来、ゆっくりとキャッシュレス社会に移行してきた。しかしここへきて、現金を完全になくすなら今だと多くの企業が判断し始めている。
多数の要因を受け、米国人の多くが日々の生活で現金の使用をやめるに至っている。また、信用に値する多数のテクノロジーも登場している。モバイル端末とスクエアなどの決済システムを組み合わせることで、食料品市場の販売店から住宅検査員などの個人経営のサービス業者に至るまで、誰もがクレジットカードで決済できるようになった。米スクエア、米クローバー・ゴー、スウェーデンのアイゼトル、米スパークペイなどの新興の決済システム会社は、大小を問わず企業の決済処理の支援も始めており、クレジットカード払いの導入に伴う手数料の節約に一役買っている。
さらに、友人に借りた20ドルを返す際も、現金を手渡す代わりに米決済大手ペイパル傘下の個人間送金サービス「ベンモ」を使用して返金できるようになった。駐車場でも今は硬貨の代わりにクレジットカードやアプリで支払うことができ、現金支払いの料金所も減っている。アップルペイをはじめとするモバイル決済アプリの台頭は言うまでもなく、タクシーの手配から食べ物の出前まであらゆるサービスをアプリで発注し、決済することも可能だ。
2016年は世界で初めてクレジットカード決済額が現金決済額を上回った。青:カード決済額/緑:現金決済額(単位:1兆ドル)
https://si.wsj.net/public/resources/images/BF-AN844_KEYWOR_16U_20170127144505.jpg
こうした小さな変化が積み重なり、米国の特定層の人たちは単純に現金を習慣的に使用しなくなってきている。調査会社ユーロモニターのアナリスト、ケンドリック・サンズ氏によると、昨年は世界で初めてクレジットカード決済額が現金決済額を上回った。米国では2004年にすでにその節目を迎えており、2016年の全取引に占める現金決済の割合はわずか22%にとどまっている。スイートグリーンがオープンした2008年当時は現金決済が40%を占めていたが、その割合は2016年までには10〜15%に減った。
こうした現状からは、明白だが重要な事態が予想される。現金利用の減少と代替決済手段の台頭は今や加速する一方であり、合法的なビジネスで現金に終わりが来る日は予期していたよりも早く訪れるだろう。
だが、現金の消滅を嘆くべきではない。その理由は、現金がおおむね怪しい用途に使用されることにある。米国における現金と犯罪の関係という問題に対処するための包括的な調査で、現金の扱い量を減らした地域では窃盗だけでなく暴力犯罪も大幅に減少したことが明らかになった。
パークカフェ&コーヒーバーに貼られた現金決済をやめることを顧客に告げる貼り紙 PHOTO:CHRISTOPHER MIMS/THE WALL STREET
その調査とは、連邦政府が社会福祉給付の支給方法を強制的に変更した影響を調べたものだ。1990年代、各州では給付金を容易に換金可能な小切手で支給するのをやめ、代わりにデビットカードに振り替えた。ミズーリ州では、この移行を1年かけて郡単位で行った。全米経済研究所の2014年の報告書によると、エコノミストと犯罪学者で構成される研究チームは、過去のデータを使用し、犯罪率が9.8%低下した原因が福祉給付の電子振り込み化にあることを突き止めた。
ジョージア州立大学で犯罪学を教えるチームの筆頭研究者のリチャード・ライト氏によると、この結果はキャッシュレス社会への世界的なシフトにも広く当てはまる可能性が高い。犯罪者が必要とする乏しいリソースを排除することで、サイバー犯罪は無理でも、路上犯罪は制御できる可能性がある。
キャッシュレス化がおおむね有機的に発生している米国や中国とは対照的に、デンマークやスウェーデン、韓国などの国々はトップダウンでキャッシュレス化を推進している。その動機は多くの場合、闇市場活動の撲滅や税収拡大にある。インドは現在、政府主導で独自のキャッシュレス社会化を進めている最中だが、その理由について政権幹部は数百万人の貧困層が金融サービスを広く利用できるようにするためだと主張している。政府はその主張を後押しするため、貧困層に無料で銀行口座や借越金に対する保険を提供している。
スイートグリーンでは2017年に完全キャッシュレス化に踏み切った。写真は昼食時でにぎわうニューヨーク・マンハッタン店 PHOTO: DAVID KASNIC FOR THE WALL STREET JOURNAL
現金輸送費など現金はコストがかかるが、キャッシュレス化にも代償がないわけではない。このシフトでかなりの利益を得られる立場にあるのが銀行だ。消費者金融保護局(CFPB)は当座貸越手数料を通じて消費者を巧みに利用している銀行を訴えているが、そうした手数料は増える一方だ。米国人が路上犯罪で失う金額は年間5億ドル(約570億円)だが、現金自動預払機(ATM)の手数料で失う金額は年間80億ドルに上る。
また、決済テクノロジーが発達するにつれ、他にも手数料が取られるようになっている。アップル、サムスン電子、スクエア、ペイパル、ストライプをはじめとするテクノロジーと金融を融合したフィンテック事業を手掛ける無数の新興企業が、われわれがカードやスマートフォン、スマートウオッチで決済するたびに、少額を稼いでいる。
利ざやの低い小企業の多くが、一部帳簿外のビジネスを行うことで存続している。現金割引を提示するのには理由があり、クレジットカード手数料はそのごく一部にすぎにない。内国歳入庁(IRS)の推定では、IRSの請求額と納税額の年間差額4580億ドルのうち4分の1以上を小企業が占めている。
現金が何らかの形で今後も使用される可能性はかなり高い。米国では、いまだに7%の人たちが銀行口座を持っていない。また、危機の際には現金が有用だ。
しかし、われわれは現金への文化的愛着を失いつつある。ハート氏は、カフェのスタッフに現金の使用をやめることを告げた際、慎重に事を進めたという。
ハート氏は「私はとても心配していた。顧客が拒否した場合、どう答えるべきかをかなり気を遣って彼らに説明しようとした」とした上で、「だが、誰も拒否しなかった」と述べた。
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イケアが問う「環境に優しいから高価格」のウソ
トランプに勝つ!「サステナブル経営」の極意
温暖化対策の仕掛け人、イケアのハワードCSOに聞く
2017年1月30日(月)
蛯谷 敏
本誌1月23日号の特集「トランプに負けるな! トヨタ、GE、ダノンの動じない経営」では、トランプ氏の大統領就任が象徴するグローバリゼーションの修正が始まる時代に必要なのは、企業と社会が共に価値を共有し続ける「サステナブル経営」であると位置づけた。
特集で取り上げた欧米企業の中でも、家具の世界大手スウェーデンのイケアは、気候変動対策に積極的な企業として特に有名だ。「2020年に店舗を再生エネルギーで100%賄う」「世界全店舗から白熱電球の販売を中止し、LED電球に切り替え」など、スケールの大きな取り組みが注目を集めている。
近年は自社での活動にとどまらず、社外とも積極的に協力して、気候変動対策を世界的に強化する活動をけん引している。自社のファンドを組成して、環境ベンチャーに10社以上投資。大企業とは「RE100」など、再生可能エネルギーの利用を普及させるイニシアティブも主導する。国連とも連携し、SDGs(持続可能な開発目標)の推進にも貢献している。
イケアがこれほど経営のサステナビリティー(持続可能性)を重視するのは理由はなぜか。同社のCSO(チーフ・サステナビリティー・オフィサー)のスティーブ・ハワード氏に聞いた。
【記事のポイント】
●このままでは地球の資源は枯渇する
●サステナブル経営は企業の責務
●目標は「100%」でなければ実効性がない
(写真:永川智子、以下同)
スティーブ・ハワード(Steve Howard)氏
1990年ロンドン・メトロポリタン大学卒業。96年、ノッティンガム大学で環境物理学の博士号を取得。CSR(企業の社会的責任)コンサルタントとして働いた後、2003年に環境NPO(非営利組織)のザ・クライメートグループを立ち上げ、CEO(最高経営責任者)に就任。政府や企業と連携し、低炭素社会の実現に向けた活動を展開した。2011年、イケアがCSO(チーフ・サステナビリティー・オフィサー)のポジションを新設したことに伴い、イケア入社。イケア全社のサステナビリティーの戦略を統括するほか、世界経済フォーラムの気候変動対策グループ議長なども務める。
イケアはサステナビリティーを重視する企業として世界的に有名です。なぜ、サステナビリティーを重視するのですか。
スティーブ・ハワードCSO(以下、ハワード):残念なことですが、地球の未来を考えると、企業がサステナビリティーを考えることは、もはや「やる」「やらない」の問題ではなくなりました。このままでは、地球資源が枯渇するのは明らかです。企業がサステナビリティーを経営の根幹に位置付けるのは当然です。しかも、それにどれだけ、コミットできるかが問われています。
20世紀の初頭、世界の人口がまだ15億人ほどの時代なら、何も問題はありませんでした。資源は潤沢で、海はどこまでも続き、食料は無限にある時代でした。
しかし、100年後の現在は違います。世界人口は75億人に膨れ上がりました。先進国の人々は豊かさを享受し、新興国の人々の生活もこれに続いています。その結果、地球の資源は枯渇に近づいています。そして深刻な環境破壊が地球全体を蝕んでいます。
国際シンクタンクのグローバル・フットプリント・ネットワークの試算によれば、我々が消費している資源は、毎年、地球1.6個分にのぼります。1年間で、我々は地球まるごと1つ以上の資源を消費しているのです。そして、この“負債”は年々蓄積されています。恐ろしいことに、その消費量は今後さらに拡大すると見られています。このままでは、地球の資源は持続できません。
地球規模で考えなければならない社会課題はいくつもあります。その中で、イケアが特に関心を持っているのが、気候変動問題です。昨今、世界で起きている異常気象も、この動きと無縁ではないでしょう。
問題が大きすぎて、消費者には実感がわかないかも知れません。しかし、気候変動に関して言えば、もはや猶予はあまりありません。次の世代に先送りできる問題ではないのです。
イケアはこうした問題意識を、CEO(最高経営責任者)のペーテル・アグネフィエルを始めとした経営陣が共有しています。そして、経営の中心に据えて取り組む方針を掲げてきました。
「人にも地球にもポジティブ」な影響を与える
サステナブルな経営の重要性は理解できます。一方で、日本では具体的にどう実践すればいいのか、分からないという企業も少なくありません。
ハワード:イケアも1990年代から、サステナビリティーをどのように経営戦略に位置づけるか、試行錯誤してきました。
経験的に、まず取るべきステップは、社内にサステナビリティーを推進する責任者を置くことです。それも、経営に携わる役員クラスが望ましい。その理由は、サステナビリティーを経営戦略と一体で考えなければ、社会に大きなインパクトを与えることができないからです。
イケア自身もそうでした。90年代から環境対策やサプライチェーンの見直しなど、サステナビリティーに積極的に取り組んできました。一方で、当時はどの活動も単発的で、部分的な活動にとどまっていました。
イケアはCSO(チーフ・サステナビリティー・オフィサー)のポストを設けた後、その体制をがらりと変えました。経営の中で、サステナビリティーに取り組むことを宣言し、戦略と一体化しました。「People&Planet Positive」という戦略を掲げ、イケアのあらゆるビジネスが「人と環境にポジティブな影響を与える」という方針に沿ったものとすることを明確にしたのです。
この方針の下に、イケアの個々の事業について、取るべき方策を具体化していきました。
現在では、イケアの事業展開の基準は、すべてこの戦略に沿っているかどうかで判断しています。例えば、イケアには環境ベンチャーに投資するファンドがありますが、投資判断は、人と地球にポジティブな影響を与えるかという基幹戦略に沿っているかどうかを重視します。商品も同様で、この戦略に沿って開発されます。
責任者を設け、経営戦略と一体化することに加えて、もう一つ大切なことは、サステナビリティーの活動を定量的に測定することです。サステナビリティーに取り組んだ結果、どれだけのインパクトを与えるのかを、可視化するのです。
その方法は、いくつもあります。分かりやすいのは、二酸化炭素をどれだけ排出したかという点ですが、それ以外にも、再生可能エネルギーの利用率など、いくつもあります。測定方法を示すツールを提供するNPO(非営利組織)などもあります。
目標は100%でなければ実効性がない
数字で示すことは大切だということですね。
ハワード:はい。私はよく100%という言葉を好みます。100%リニューアブル、100%認定魚、100%リサイクルプラスチックなど、イケアには100%を掲げた活動がいくつもあります。
理由は簡単で、目的がとてもクリアになります。例えば、60%にすると、それはどこかに言い訳できる余地を残してしまうのです。当初は、それほど意識はしていなかったのですが、社内での動き方も変わります。経営に良い緊張感も生まれます。決意の固さと同時に、徹底的に進めることにつながります。
確かに、100%という数字はインパクトがありますね。
ハワード:もちろん、すべて100%である必要はありませんが、数字を示すことはサステナブルを考える上ではとても大切です。世の中にポジティブなインパクトを与えているかどうかが、明確になりますから。
さらに数字が、どのような意味を持つかを見せていくことも、経営にとっては大切だと思います。仮に何かの目標を50%達成したとき、それを、もう半分なのか、まだ半分なのか。捉え方次第で、組織のモチベーションは大きく変わります。フレームワークを前向きに設定することも、経営の大切な役目だと思います。
インタビュー全文は、スマートフォンやタブレット端末などでも日経ビジネス本誌が読める「日経ビジネスDIGITAL」の有料会員限定となります。「日経ビジネスオンライン」の無料会員ポイントでもご覧いただけます。
【インタビュー後半のポイント】
●「サステナブル経営」はイノベーションを加速する
●サステナブルだから値段は高い、という発想は間違い
●「目的志向」の人々が増えている
「日経ビジネスDIGITAL」でインタビューの全文を読む
このコラムについて
トランプに勝つ!「サステナブル経営」の極意
日経ビジネス1月23日号の特集「トランプに負けるな!〜トヨタ、GE、ダノンの動じない経営」では、グローバリゼーションの修正が始まる時代に企業はどうあるべきか。編集部が導き出した解は、ビジネスが生み出す価値を社会と共有し続ける「サステナブル(持続可能な)経営」。日経ビジネスオンラインでは、本誌の登場した、米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授、仏ダノンのエマニュエル・ファベールCEO、花王の澤田道隆社長、コマツの大橋徹二社長などのインタビューを掲載する。日経ビジネスDIGITALの有料会員向けには全文を公開している。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/16/011700014/011700002
社員の能力を100%引き出す 食事マネジメント
【第7回】 2017年1月31日 笠井奈津子 [栄養士、食事カウンセラー]
心の病で休職中・復帰直後の社員を「食事で底上げ」する方法
メンタルヘルスで休職すると、外出に罪悪感を感じる人も少なくありません
?脳も肝臓と同じように臓器のひとつである、という事実を実感する場面はほとんどありませんが、暴飲暴食が体には悪いけれど脳には良い、とは考えにくいものです。体にとって負担になる食べ方は、当然、メンタルにも影響を及ぼしてきます。皆さんは、休職による生活の変化を想像したことはありますか?今回は、メンタルヘルスで休職中・復職後の社員の食事について取り上げます。
心の病に糖質過多・タンパク質不足が追い打ちをかける
「いやー、ちょっと大変な部署なんですよね。食生活も関係していると思うんですけど…」
?研修担当者がそう紹介した部署は、締め切りが頻繁に生じる環境かつ、大きな判断を任されることが多く、仕事においても人間関係においても強いストレスを感じやすい組織でした。私が担当する企業の中では、情報システムや営業の部署が多いように感じます。
?業務や人間関係など様々な原因が考えられますが、メンタルヘルスに問題を抱えたとき、やる気、集中力、睡眠の質が低下することがあります。これらは疲れている時に起きることもありますが、栄養の面からいうと、糖質過多でタンパク質が不足しているときにも起こり得ます。
?ただ、メンタルに負担がかかるとき=仕事が忙しいときでもあるので、そんな時は限られた時間で食事を済ますために、簡単に食べられるメニューを選びがちです。菓子パンやサンドイッチ、おにぎりなど片手でつまめるもの、もしくはカップ麺のように流し込んで食べられものを選ぶ人もいるのではないでしょうか。食べ方を変えれば解決する問題ではないにしても、今の食べ方が弱ったメンタルに追い打ちをかけている可能性は拭えません。
休職しても不安は尽きない
?では、メンタルヘルスに課題を抱えて休職することになったとき、どのような生活を送ることになるでしょうか。たとえ職場でストレスが引き金になっていたとしても、休職したからといってストレスから完全に解放されて家でリラックスして過ごす、ということはほとんどないでしょう。
「職場に復帰できるか」、「今後の生活はどうなるのか」、そして、症状が改善して復職への準備が始まっても、「本当にやっていけるのか」「また同じことにならないか」など不安は尽きないものです。
?また、家にいる時間が多くなっても、キッチンに立って料理を作ろうという気持ちにはなかなかなれないもので、仕事が忙しかったときとあまり変わらない食生活をしている人が多いのも現状です。食材の買い出しで外に出るのも億劫、キッチンに立つのも億劫。冷蔵庫には飲み物だけでスナック菓子やカップ麺、冷凍食品が買い置きされているかもしれません。また、先の見通しに不安があるので、どうしても食費を切り詰めがちになります。金銭的に不安がない場合でも、メニューを考えることや選ぶことが億劫になるので、毎日同じ食事の繰り返しになることもあります。
?それでも「仕方ない」で流すわけにはいきません。なぜならば、私たちは、ストレスを感じると、タンパク質、ビタミン、ミネラルを大量に消費してしまうからです。健康に配慮した食生活を送る気持ちの余裕がないにもかかわらず、体はいつも以上に栄養を必要としているのです。
まずは食事で現状の底上げから
?メンタルヘルスに問題がある時は、いろいろなことを考えるのも作るのも億劫な状態でもあるため、まずは現状の底上げから始めましょう。
?ストレスによって消耗する栄養は食事で補うことができます。コンビニで売られている食材で言うと、タンパク質は、卵、納豆、豆腐、しらす干し、鮭の塩焼きを、野菜は便利なもやしやカット野菜、トマト缶などが挙げられます。あまり調理の手間をかけずに食べられるものをストックしておきたいものです。
?ただ、コンビニと聞くと、“添加物”を気にする人が少なくありません。もちろん、添加物を積極的に摂りましょう、とは言えません。でも、それ以上に問題なのは、「糖質過剰、タンパク質不足」になりやすい栄養の偏りです。タンパク質を毎日補給しなければ、心身の健康は保てません。気持ちの浮き沈みに影響を与える自律神経を正常な状態に保つためには、コレステロールを極端に避けるのはおすすめできません。コレステロールの過多は肥満の原因だと考えられがちですが、ホルモンや細胞膜の材料として、健全な精神状態を保つためにも必要なものです。
?極端な食生活を送ることなく、大豆・卵・魚・肉などのタンパク質をバランスよくしっかり摂ることが大切です。こだわりすぎて何もできないよりも、不足を補うことが大事だと思います。
休職中に改善したい2つの「習慣」
?食事で心と身体を建て直しながら、復職後を見据えて休職中に改善しておきたい習慣が2つあります。
?ひとつは、ストレスを和らげる目的で飲むお酒を控えることです。飲酒によって失われる栄養素の中には、ストレスへの抵抗力を強めてくれるセロトニンの合成に必要な葉酸も含まれるからです。
?また、休職中のうちに、朝食を食べる習慣も身につけたいものです。職場に戻れば、また以前のような働き方になるときもあるはずです。そうした状況で左右されない栄養の補給源は朝食しかありません。ストレス時には栄養素の必要量が増えるということを認識して、その分を補充しようとする癖をつけておくことが大切です。日々の生活から、コツコツと積み重ねるように心身のバランスを整えていきましょう。
?メンタルヘルスの問題について、もちろん食が全てとは言えません。ただ、選択肢のひとつとして食という切り口があることを知っておくことは、大きな助けになります。毎日のことですし、物理的に見える形で、ひとりでも取り組めるものだからです。
人事・総務・管理職がメンタルヘルスで休職中・復職後の社員の食事をサポートするには
?食がメンタルヘルスを改善する選択肢であることを広く知ってもらうために、人事・総務・管理職が「研修」を開催するのも良いでしょう。参加のハードルを低くするために、フィジカルな健康セミナー(座学中心ではなく体を動かすもの)を主軸に置きつつも、講師の人にメンタルと食の関係についても少し含んでもらうと良いと思います。
?研修とまではいかなくとも、すぐできることでいえば、メンタルヘルスと食との関係が書かれた本を、オフィスの共有スペースに置くのもひとつです。その本だけを置くと露骨ですから、いろいろな系統の本や雑誌に混ぜておくと良いでしょう。自身の健康状態に不安があるときは、アンテナが高く立っているので、少しの知識でも良いきっかけになることがあります。
?ただ、一般的には、予備知識がないままにメンタルヘルスで休職することになるケースもたくさんあります。休職中の接点がほとんどない中で、企業側はどのようなフォローができるか、思案するところですよね。
?そんな時には、休職中に面談する機会がある人事の担当者、産業医や産業カウンセラーと食の重要性について考え、共有するのが効果的です。食事の中身をあれこれと指導するのではなく、ちゃんと食べているか、一日何食になることが多いか、食事の準備はどうしているか、など生活の様子が想像できることをヒアリングするのです。
?メンタルヘルスに問題を抱えると食に興味がなくなる人もいます。そのようなときに、無理に食べるのはつらいものです。そんなときには、外に出て活動量を増やすことで自然と食欲を取り戻すことができれば良いですよね。
?休職中の人にとっては、休職中の外出、特に昼間のお出かけに関して罪悪感を感じてしまうケースが少なくありません。しかし、心身の健康のためにも適度な活動量が大事ですし、外出によって、ずっと家で過ごすよりも食事のリズムが整いやすくなります。家にいると過食に走りがちな人には、外出は予防の一手にもなります。ぜひ会社の方から、散歩などのちょっとした外出を提案し、罪悪感を軽減してあげましょう。
?職場復帰できた人の話を聞くと、外に出られる気持ちになったあと、ファストフード店やカフェ、地域のスポーツセンターや図書館など、自分にとって出かけるハードルが低い場所を上手に活用しているように感じます。
?人事・総務・管理職は、こうした事情も想像して、休職中の社員が少しでも心を休められるよう、サポートしてさしあげてください。
(栄養士、食事カウンセラー?笠井奈津子)
http://diamond.jp/articles/-/116029
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