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かつて「鉄の街」として栄えたペンシルベニア州ピッツバーグは「ラストベルト」の代表で、1970年代からの10年間で15万人が失業した。現在、製鉄所の跡地には高層ビルや住宅が立ち並んでいる
トランプ政権は中国から工場と労働者を奪い返せない
http://diamond.jp/articles/-/115713
2017年1月27日 姫田小夏 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
1月20日、第45代米大統領にドナルド・トランプ氏が就任した。もとよりその過激で理不尽な発言で支持者を減らしつつあるトランプ氏だが、この新政権の見どころといえば「製造業の行方」がその1つである。
トランプ氏が公約として掲げたのが、米国内における製造業の復活と雇用の確保だ。目下、トランプ大統領はメキシコに進出した自動車工場を米本土に回帰させることに躍起だが、いずれその目は中国に向けられるだろう。
トランプ新政権の通商チームは対中強硬路線の人事で固められているが、中でも通商政策の司令塔といわれる「国家通商会議」のトップに就いたピーター・ナヴァロ氏は常々、近年の中国の増長を批判してきたことで知られる。「中国が工場と労働者を奪った」とし、同氏自らが監督したドキュメンタリー映画『Death By China』で「米国の繁栄には強い製造業と雇用創出を取り戻す」と力説する。
■「ラストベルト」化は
中国のせいではない
ワシントン駐在経験のある丸紅中国有限公司の鈴木貴元氏は、「トランプ氏はかなり本気で米国に従来型の製造業を戻そうとしています。ラストベルト(錆びた工業地帯)に雇用を、と考えているのがトランプ氏です」と話す。
米国の北東部から中部にかけて、「ラストベルト」と呼ばれるかつて繁栄した工業地帯がある。鉄の街ピッツバーグは19世紀から1950年代にかけて米国最大の工業都市の1つとなったが、1960年代をピークに衰退した。2005年、工場跡地はピッツバーグ市だけでも1万4000ヵ所にのぼるとも言われる。
70〜80年代、ピッツバーグは工業から商業への大胆な構造転換への道を選択する。製鉄所の跡地には高層ビルやショッピングセンターが建設され、ウォーターフロントには住宅が立ち並ぶようになった。その一方で1970年代からの10年間で15万人が失業した。
鈴木氏は、続けてこう指摘する。
「ラストベルトができたのは日本との競争に敗れた部分もありますが、本質的には米国がサービス業に向かう中で、従来型の製造会社を自ら潰してしまったにすぎません」
その他のラストベルトでも、ピッツバーグと同じことが起こったことは想像に難くない。米新政権は「中国の工場と貿易が災いを招いた」かのように主張するが、ラストベルトと製造業の衰退と雇用喪失は、時期を考えても、2000年代以降台頭してきた中国とは関係がない。
ラストベルトは高年白人の元製造業労働者が多く、「ここに雇用を」と考えているのがトランプ氏だが、「そこには無理があるのではないか」という声すらある。
■ロボットは働く場所を選ばない
米国に工場立地を戻せるか
「米国は自動車など一部を除いて製造業を完全に捨ててきた一面があります。技術は製造現場ありき、工場がないと向上しません。すでに根っこを失った米国が製造業を取り戻すのは困難なのではないでしょうか」
こう語るのは日本の部品メーカーで海外営業を担当してきた日本人社員だ。
他方、近年メキシコの自動車生産が増加しているがその背景には「人が育ってきている」という側面もある。「人材育成」の課題は無視できず、「高年白人の雇用」に主眼を置くトランプ政権が、どこまで本腰入れて育成に取り組むのかはまだ見えてこない。
かつて中国は「世界の工場」として一世を風靡した時代があり、世界の企業は大挙してここに進出した。ところが昨今は状況が一転し、中国から日本に工場を戻す動きが続いている。設備投資や人材確保に時間と資金を要する工場だが、国内回帰に振れた理由は何なのだろうか。
産業の立地に詳しい、一般財団法人日本立地センター主任研究員の久保亨氏は、中国からの日本回帰について次のように語る。
「賃金の上昇などコスト以上に、日本企業は『日本で生産するメリット』を見出したと言えるでしょう。中国の場合は政治や制度上の問題は否めません。工場経営は適材適所であり、さまざまな点を総合的に判断しながら、立地したり戻ったりを繰り返す流動性の高いものだと言えます」
その一方で、工場立地は政策で簡単にコントロールすることは困難だ。日本の地方都市では、工場の海外移転で空洞化した土地に、自治体がインセンティブをつけて工場誘致しても、更地のままの土地はなかなか減らない。ましてや「トランプの一声」で「右向け右」をさせるにも限界があるというものだ。
仮に、米国に製造業を戻すにしても経営者がメリットを感じなければ回帰はできない。その判断の拠り所となるのがサプライチェーンの構築であり、技術者の確保だ。移民反対の立場を取れば技術者の移動も不可能となる。ましてや、部品のグローバル調達が常識となる中で「経済の相互依存」に背を向けようとする現政権は、早晩、その矛盾にぶち当たるだろう。
ところで、筆者は先日、東京ビッグサイトで開催された自動車部品の展示会を訪れた。目の前で忙しく動いているのは、黄色いアームの「バリ取りロボット」だった。金型を使って鋳造をした際に、金属が型からはみ出して発生する「バリ」を、機械が上手に削っていく。日本のお家芸だった金型製作が日本から海外に出て久しいが、その金型は技術者による手作業から離れつつある。
工場の自動化は日進月歩だ。「ハングリーな労働者」を売りにしてきた中国ですら、工場経営者はロボット投入に意欲的だ。ロボットなら24時間365日稼働し、何万個、何十万個の数をもこなす。工場経営者がコスト削減を求めて生産地をさまよう時代は終わり、「立地を選ばずどこでもものが作れる」――そんな時代の到来すら予感させるものだ。
他方、このロボットを米製造業が自国に投入すれば、それこそ雇用が失われる。自動化と雇用は相容れる関係になりそうもない。
■雇用を最優先した
「地産地消」という発想
製造業の拠点を取り戻すのは米国にとって容易でないが、「そこへの取り組みは意義がある」という声がある。
トヨタ自動車出身でものつくり大学の名誉教授である田中正知氏は「トランプ氏の発言は物議を醸すが」と前置きした上で、次のように語っている。
「製造業と雇用を取り戻す、それは『地産地消』という発想であり、中国で安く作ってアメリカ市場で売るというこのモデルは終焉するでしょう。トランプ氏が発するのは、資本は動いてもいいが雇用は動いてはダメだというメッセージです。単に金儲けすればいいという発想は卒業し、これからは『雇用を守れ』ということです」
産業の空洞化が進んだ日本にとっても同じことがいえる。日本の地方都市では就職の受け皿がなく、若年層の都市部への流出が深刻だ。運よく都市部で就職先を見つけても、生活に十分な所得が確保できるケースは稀だ。
埼玉県で金型工場を経営する佐々木久雄氏は「せめて日本人が利用するものは日本で作り、雇用を戻すべき。国民生活が向上しなければ経済回復は難しいでしょう」と訴える。
また、前出の久保氏は、日米に共通する格差問題を懸念し、次のように指摘する。「日本の自動車メーカーを支える非正規雇用者は、平均年収が300万円程度であり、これでは新車は買えません。自分が作っている製品を買えないようでは、経済はうまく回りません」
米自動車メーカーのフォード創業者のヘンリー・.フォード氏(1863〜1947年)の思想として知られる“フォーディズム”は、「従業員には高賃金」「顧客には低価格」、そして社会には「製品を通じた貢献」を説くものだった。当時、フォード氏は「自社の従業員が買える車」を理念にしていたと言われている。
しかしその後、米自動車業界では「労働者がコストに変わった」と前出の田中氏はいう。アルフレッド・スローン氏(1875〜1966年)がGMの社長になると、財務の実態に基づいた意思決定を重視するようになったのである。「労働者がコスト」だという米国型のマネジメントは、日本の工場経営にも大きく影響した。
「どれだけ実態を把握しているのか」というトランプ批判もあるが、製造業を中国など新興国から米国へ、また「儲け一辺倒」から「雇用重視」にシフトさせようというその動きは注目したい。地産地消という概念を打ち出したことは、実は経済合理性があるのかもしれない。
(ジャーナリスト 姫田小夏)
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