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コラム:
トランプ流保護主義に「ドル安」は不可欠
亀岡裕次大和証券 チーフ為替アナリスト
[東京 26日] - 米大統領選挙後のドル高・円安が反転している。これは一時的調整なのか、それともトランプ相場が曲がり角を迎えたのか。ドル円に影響を与える4つの点(米国金利、リスク許容度、米保護主義、日銀政策)から、相場展開を考えてみたい。
まず、ドル安に作用した一因は、米国金利の低下だ。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ期待は、昨年12月の利上げ直後をピークに後退し始めた。2年物などの国債金利は日本も低下したために日米金利差はほとんど縮小しなかったが、10年物などの国債金利は米国の低下が寄与して日米金利差が明らかに縮小した。
一転して1月後半は、米株価の上昇に伴い米金利が反発した。ただ、日米10年金利差は拡大に転じたものの、ドル円はほとんど反発していない。
これは、米国の期待インフレ率が上昇する一方で、実質金利が低下していることが一因か。期待インフレ率上昇の背景には、原油価格の高止まりや米インフレ率の上昇もあるが、完全雇用の米国経済に財政刺激が加わることでインフレ率が高まりやすいとの見方もあるだろう。財政刺激がインフレにつながりやすい一方で景気加速にはつながりにくいとの見方から、実質金利が低下したのではないか。
実質金利は為替相場との連動性が高い。インフレ期待により米国の名目金利が示すほどには実質金利が上昇しないとなると、米金利はドル円の上昇に作用しにくい。
<リスクオンの円安は持続性に欠ける>
クロス円が1月半ばにかけて下落したことから分かるように、ドル円の下落にはドル安だけでなく円高も寄与した。円高は、海外金利とリスク許容度の低下に原因があるとみられる。だが、1月後半は米株価が最高値を更新するなど、リスク許容度の上昇がクロス円の反発(円安)を招いている。
米株高は、米企業決算やトランプ政権の財政・規制緩和策よりも、保護主義政策によるドル安が米成長期待を高めているためではないか。ドル安がリスクオンの円安要因になっている。リスクオンはドル実効為替を下落させやすく、ドル安でリスクオンになり、ドル安がさらに進むという循環も生まれやすい。
ただし、ドル安は、米インフレ期待を高めて金利を上昇させることで株価を割高にし、株高の進行を難しくする。また、ドル安の一方で通貨高が進む国々の中には、景気悪化懸念でリスクオフに傾く国も出てくるだろう。
では、ドル安が米経済成長期待を支え、米株高とリスクオンの円安を招く動きは続くだろうか。鍵を握る要因の1つは経済指標だ。11、12月と連続して大幅に改善した米ミシガン大学消費者信頼感指数が、1月はわずかに悪化した。米企業景況感にも同様の傾向が表れる可能性がある。
為替変動が経済指標に影響を及ぼすまでに、発表に要する期間を含めて2―3カ月のタイムラグを持つケースが多い。1月のドル安の好影響よりも12月にかけてのドル高の悪影響が、今後発表される米経済指標に表れやすいだろう。
また、中国における年初からの自動車減税縮小が同国の経済指標に悪影響を及ぼしやすいだろう。主要国の経済指標が市場予想を下回ることを受けて経済成長期待が後退し、リスクオフの円高に転じる可能性がある。
<米保護主義政策の推進にはドル安が必要>
最近のドル安を生んでいる大きな要因が、トランプ大統領の保護主義政策だ。大統領が掲げた「米国製品を買い、米国人を雇う」という2つの単純なルールを、国民向けの呼び掛けや企業へのけん制だけで実現することは難しい。
大統領は、環太平洋連携協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を表明した。通商交渉により米国の輸入関税引き上げや相手国の輸入関税引き下げを図り、米国の輸入を減らし輸出や国内生産を増やそうとしているが、それは可能なのだろうか。
米国が輸入関税を引き上げるなら、相手国も輸入関税を引き下げるどころか引き上げようとするだろうし、米国に有利となるように通商交渉を進めることは難しい。米国がある国からの輸入関税を引き上げても、米国製品に価格競争力がなければ国内生産で輸入を代替できず、他国からの輸入で代替されるケースも出てくるだろう。あるいは、輸入価格が上昇しても輸入数量が減らずに輸入金額が増えるだけかもしれない。
関税引き上げという貿易障壁を高める施策は確実に米国のコストを高めるわけで、同時に米国製品を売りやすく(他国が買いやすく)する状況にしなければ、国内生産誘発のメリットよりもコストアップのデメリットが大きくなる。
また、企業が米国内で投資・生産・雇用を拡大しても、海外生産に比べてコストが上昇するだけで、製品の売れ行きが伸びずに在庫が増えるようなら、米国回帰は続かないだろう。結局、米国が保護主義政策を推し進めるためには、ドル安にしてこれまでよりも国内生産と輸出を有利に、輸入を不利にするしかないはずだ。
トランプ大統領が17日付の米紙インタビュー記事で、「われわれの通貨は強すぎる」「価値を引き下げる必要があるかもしれない」と述べていたのは、ドル安にしたいと考えている証しにほかならない。別の米系メディアによれば、ムニューチン次期米財務長官も上院議員宛ての書簡で、「時折、過度に強いドルは経済に短期的に悪影響を与える可能性がある」との考えを示したという。もはや、トランプ政権の通貨戦略は明確だ。
減税やインフラ投資をしても米国景気が減速するようなら、米金利低下のドル安、リスクオフの円高とともに、米保護主義のドル安圧力が強まりやすい。トランプ政権の通貨政策は「ドル高抑制」から「ドル高是正(ドル安志向)」にシフトし、主要な貿易相手国に通貨高圧力をかけるだろう。その筆頭は、対米貿易黒字が巨額な中国であり、人民元安を「為替操作」と批判している。
ただし、直近1年間の米国の2国間貿易赤字の大きさは、中国、日本、ドイツ、メキシコの順であり、日本も対米貿易黒字が大きい。そのうえ、主要通貨の実質実効為替を比較した場合、長期的な平均水準に比べて近年の通貨安が目立つ通貨の1つが円だ。選挙中に「円安誘導」と批判したトランプ大統領は、対日貿易赤字の大きさに不満を表している。日本が通貨高圧力を受けるターゲットとなる可能性は十分にあるだろう。
<日銀政策調整による円高にも注意>
日銀の中曽宏副総裁は20日の講演で、為替スワップ市場における非米系銀行のドル調達プレミアムが拡大している背景に、米国と日欧の金融政策の方向性の違いがあることを指摘した。そして、国際金融システムの不安定化を招くことがないようにするのも中央銀行の責務とし、邦銀の外貨資金繰りの状況を注視すると述べた。量的緩和とマイナス金利を続けている日欧の金融政策が招く問題点の一端を指摘したとも言える。
欧州中銀(ECB)はすでに資産買い入れペースの減額を決定したが、日銀の年間約80兆円ペースの資産買い入れが永続的でない以上、遠くないうちに日銀も減額する可能性がある。日銀が、金利が上昇している超長期国債の買い入れを増額せず、金利が低下している中期国債の買い入れを減額(回数減)したのは、その布石ではないか。
トランプ政権が日本に円高圧力をかける中で、日銀の金融緩和政策を批判することも十分にあり得る。日銀の政策調整(資産買い入れ減額や金利操作目標引き上げ)により円高が進む可能性にも注意すべきだろう。
*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(こちら)
(編集:麻生祐司)
*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。
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焦点:オプションで円高予想が縮小、出遅れのドル/円に先高期待
1月26日、通貨オプション市場で、円高予想がじわりと縮小している。写真はドルと円の紙幣、2013年2月撮影(2017年 ロイター/Shohei Miyano)
1月26日、通貨オプション市場で、円高予想がじわりと縮小している。写真はドルと円の紙幣、2013年2月撮影(2017年 ロイター/Shohei Miyano)
[東京 26日 ロイター] - 通貨オプション市場で、円高予想がじわりと縮小している。米ダウ.DJIが2万ドルを突破するなか、出遅れ気味のドル/円JPY=だが、財政拡張によって一時的にせよ米経済が改善するとの期待は根強い。まだ限定的な動きとはいえ、投機筋などがドル高の再開をにらみ始めているとの見方も出ている。
<保護主義警戒がドル圧迫>
「前日は、米株・金利上昇ならドル買いというセオリーが通じない非常に難しい相場だった」と、国内金融機関のディーラーは振り返る。
25日の海外市場は株高・米金利上昇・ドル高がセットだった昨年までの「トランプ相場」の第1ステージとは様相が異なる動きとなった。ダウが史上初めて2万ドルを突破、10年米長期金利も節目の2.5%に乗せたにもかかわらず、ドル/円は上値重く、113円台に沈んだままだった。
米株式市場は財政出動・規制緩和、債券市場はインフレ期待・米連邦準備理事会(FRB)利上げの思惑がそれぞれ出て上昇したが、為替市場ではトランプ大統領がメキシコとの国境に壁を建設する大統領令に署名するなか、保護主義への懸念が強まったという。「米国サイドからのドル高けん制発言が重しとなっている」と、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト、門田真一郎氏は指摘する。
もっとも、通貨オプションの動向に目を移せば、スポット市場とはやや異なる様相が見て取れる。長めの期間を軸に、円高予想がじわりと後退してきているのだ。
ドル/円のリスク・リバーサル(RR)1年物は、円高予想を映すドル・プット・オーバーの傾きが0.57%付近に縮小。まだ円高予想のサイドに傾いているものの、その傾きは2016年1月以来の小ささとなった。
あおぞら銀行の市場商品部部長、諸我晃氏は、これからインフラ投資や減税といった政策が示されれば、インフレ期待が高まって長期的な米利上げへの思惑が強まり得るとして「ドルはファンダメンタル的に買い戻されるとの読みが背景にあるのだろう」と見ている。
<ヘッジ解消の影響も>
米商品先物取引委員会(CFTC)が20日発表したIMM通貨先物の非商業(投機)部門の取組(1月17日までの1週間)によると、円の売り越しは7万7830枚(前の週は7万9839枚)と依然、高水準だ。
ただ、スポットのドル/円が年明け後、118円台から一時112円台に下落した間に、RRのドル・プット・オーバーの傾き拡大は限定的にとどまった。
この動きについて、みずほ銀行の国際為替部次長、田中誠一氏は「円ショートのうち、オプションで円高リスクをヘッジしていた投機色の強いポジションが減ったことで、ヘッジの解消が進んだ可能性もある」と指摘する。
「トランプ相場」の第1ステージの円安局面では、円高方向へのリスクに備えるためのオプションでヘッジする動きがあったが、実際に円高に進んだため、ヘッジの必要がなくなった。円高が進めば利益が出るオプションの解消は、RRではドル・プット・オーバーの拡大を抑制する方向に働く。
投機筋による円ショートの積み残し分は、リスクに対してニュートラルになっている可能性があり、目先のイベントでは「投機主導の過度な反応が出るリスクは和らいでいると見ていいのではないか」と田中氏はみる。
<米経済の改善期待>
より短い期間では「トランプ大統領の不規則発言への警戒は怠れない」(別の国内金融機関)との声も根強い。
1カ月物のRRはドル・プット・オーバーが16年11月以来の小ささとなる0.31%付近に、1週間物RRも16年11月以来の小ささとなる0.45%付近に、それぞれ縮小し、昨年末から続いたもみ合いから抜け出しつつあるが、トランプ相場を通じて縮小基調が続いてきた1年物に比べれば、まだ方向感が出ているとまではいえない。
それでもじわりと1カ月物や1週間物でもドル・プット・オーバーが縮んでいるのは、来週以降に米国で米連邦公開市場委員会(FOMC)やISM製造業指数、米雇用統計など、重要イベントが続くことが背景にありそうだ。
米経済指標はこのところ、良好な数字が続いている上、FRB高官らからはタカ派寄りの発言が目立つ。「この期間をカバーする1週間物のオプションでは、ドル買いサイドのポジションをつくる動きが出てもおかしくない」(あおぞら銀行の諸我氏)とみられている。
(平田紀之 編集:伊賀大記)
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