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それでも東芝が原子力部門を切れない「特別な事情」 背後に経産省とアメリカの影が見える
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50783
2017.01.24 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
■銀行も「お手上げ」状態
まるで年中行事のように、年度末決算が近付くと経営危機が露呈するパターンが定着した感のある、あの東芝が、今年も(定石ならばあり得ない)自らの首を絞めかねない誤ったリストラクチャリングを強行する構えだ。
報道によると、その柱は、毎年、巨額の損失を出して東芝を破たんの危機に追い込んできた原子力部門を存続するため、最後の”虎の子”の半導体メモリー部門を分社化、外部からの資本の受け皿にするというものだ。
経営の足を引っ張る不採算部門を整理し、健全な採算部門を残す通常のリストラクチャリングとは正反対で、”自殺行為”に他ならない。
東芝のあまりの迷走ぶりに、表面的には追加融資を真摯に検討するフリをしている主力銀行各行も、筆者には、「政府系金融機関(日本政策投資銀行)の東芝への資本注入策が不調に終わることを望んでいる」と明かす。
そうなれば、主力行が破たんの引き金を引いたとの批判を受けることなく、不良債権化が確実とみられる東芝への追加融資を回避できるからである。
それにしても、東芝はなぜ、定石通りの再建策を採れないのか。今週は、背後に横たわっていると囁かれている東芝の深い闇を探ってみよう。
言わずもがなだが、東芝は、歴史ある三井グループの名門企業の一つだ。
創業者は、江戸時代後期から明治にかけて活躍した発明家の田中久重である。久重は幼少時から次々にからくり人形の新しい仕掛けを考案して「からくり儀右衛門」と呼ばれた人物で、精巧な和時計を完成させたり、佐賀藩主・鍋島直正の命を受けて日本最初の蒸気機関車や蒸気船の模型を制作した業績などで知られている。
久重は維新後、東京に移住。電信機を製造して明治政府に納めるようになる。1875年(明治8年)には、銀座に「田中製造所」を創設。同製造所は「芝浦製作所」、「東京芝浦電気」と変遷、今日の「東芝」の礎になった。
東芝が三井グループ入りしたきっかけは、田中製造所時代の1893年(明治26年)に、三井財閥から経営支援を受けたこと。このため、当時の田中製作所は、標章に三井銀行のマークを使用していたという。
■止められない赤字
東芝では、現在の経営危機に繋がる粉飾決算が2015年春に露見、本決算の発表を2カ月以上も延期せざるを得ない前代未聞の事態に陥った。
この年の7月に、歴代の3社長が辞任したものの、事態は一向に収まらず、同年9月には2014年度第3四半期までの6年9ヵ月の間に、税引き前利益で2248億円に及ぶ利益の水増しがあったと過去の決算を大きく修正する不祥事になったのだ。
ところが、それでも事態は収束しなかった。
同年11月になって、東芝が頑なに連結ベースでの減損処理を拒んできた経緯のある米原子力事業子会社ウエスチングハウス(WH)に関し、WH単体では米監査法人に減損処理を迫られて2012、3の2会計年度に合計1600億円の損失処理を実施しながら、その事実をひた隠しにして、上場企業としてのアカウンタビリティ(説明責任)を怠った事実が新たに発覚したからである。
連続したゴタゴタによって負の遺産のほとんどを整理したはずだったのに、2016年3月期も、前年に続いて、決算対策と業績の下方修正に追われる惨憺たる決算が繰り替えされた。
元凶はまたしても、WHを中心にした原子力事業の減損損失の計上だ。損失処理の原資を確保するために期末を待たずに、稼ぎ頭だった東芝メディカルシステムズをキヤノンに売却したため、連結売上高がわずか3カ月前に公表していた見通しに比べて約5000億円も少ない5兆7000億円弱に落ち込んだ。
そして、WHを中心に原子力事業の減損損失を処理した結果、連結ベースの営業収支が7100億円近い赤字、最終損益が4600億円の赤字に膨らんだ。
さらに「3度目の正直」も果たせそうにないというのが、現在進行中の東芝の2017年3月期の状況だ。東芝は昨年夏、この期の最終損益見通しを上方修正して1450億円程度の黒字としていたが、昨年末には状況が一変した。またしても、WH関連の原子力事業で巨額の損失が懸念されるとの報道が相次いだのだ。
■黒字にできる道はあった
このコラムを執筆している1月22日の段階で、東芝はこの損失規模を「数千億円規模」とボカしているが、新聞・テレビはすでに「取引先金融機関に、最大7000億円に達すると説明した」と一斉に報じている。
実際のところ、筆者の取材に対して、「1450億円の利益が出ると聞いていたら、5000億円の損失が発生したと言われた」「さらに、その損失が7000億円に膨らみ、資本増強が不可欠になったので協力してほしいという依頼があったので、それは銀行の役割ではないとお断りした」と明かす関係者もいる。
この関係者は、冒頭で触れたように、「東芝に対する最後の資本の出し手の役割を期待されている日本政策投資銀行には、むしろ出資を拒否してほしい」という。なぜなら、「そうなれば、銀行各行も、『不良債権化が確実だ』という理由で、追加融資を断り易い」からだ。
だが、2015年3月期の粉飾決算の露呈以降も、東芝は、WHを中心とする原子力部門で巨額の減損損失が発生していることをひた隠しにしてきた。
そのうえ、同部門を引き続き抱え込むために、収益部門として原子力よりもはるかに有望な医療機器部門(東芝メディカルシステムズ)や白物家電部門を売却してキャッシュを手当てしてきたことは、そういう部門が原子力部門と違って売却し易かったとはいえ、不採算部門を抱えた企業の再建策としてあまりにも短絡的だ。
もし、原子力部門をきちんと処分していれば、2017年3月期に、今回のような巨額の損失は発生しなかっただろう。それどころか、メディカルシステムズなどが、しっかりと収益に寄与して、東芝の連結決算は相応の黒字を確保できたはずである。
ところが、不思議なことに、東芝はまたしても、残った部門の中で相対的に収益力が高い半導体メモリー部門の分社化を検討していることを報道されて、「検討していることは事実」としぶしぶ認める一方で、原子力部門は抱え込み続ける構えを見せている。
同社は、半導体メモリー部門を分社化して、増資をし易くする方針で、提携先の米ウェスタンデジタル(WD)のほか、キャノンや英米の複数の投資ファンドが、この増資の引き受けを検討しているという。
だが、そんなことをすれば、東芝に帰属する半導体メモリー部門の利益が減ってしまい、同社の収益力がさらに劣化することが避けられない。
■元凶は経済産業省か
そして、東芝の経営判断以上に大きく首を傾げざるを得ないのが、政府系金融機関の政投銀が、これといった国民的な議論がまったくない段階で、不自然なほど機動的に東芝への資本注入(=国策支援)の検討を開始したことだろう。
この背後で大きな役割を果たしているとされているのが、昔も今も、原発事業の振興役・旗振り役を務める経済産業省である。同省は、原子力の名門会社であるWHを東芝が手放したり、中国企業に売却するようなことがあれば、日本は米国から同盟国としての信頼を失いかねないと主張し、東芝支援を求めているという。
しかし、日本では福島第一原発事故以来、米国ではスリーマイル島事故以来、原子力産業は斜陽産業だ。外国企業の子会社になって久しいWHに、米政府がそれほど執着しているとは思えない。せいぜい経済産業省が天下り先としての東芝への関与を強めたいぐらいのことだろう。
東芝の経営を再建するためには、もっと経済合理性に則った対応が必要なはずである。
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