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歴代3社長。左から西田氏、田中氏、佐々木氏
東芝「巨額損失」の起源を考える
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170120-00010004-newswitch-ind
ニュースイッチ 1/20(金) 11:40配信
■異端のリーダーから始まった「二律背反のガバナンス」
原子力事業での損失額が7000億円規模に膨らむ見通しも出てきた東芝。半導体メモリー事業の分社を中心に「会社のカタチ」が大きく変わらざるを得ない。財務基盤が痛んだきっかけを考えると、2005年から09年まで社長を務めた西田厚聰氏時代に踏み込んだ米ウエスチングハウス(WH)の巨額買収と、リーマン・ショックによる急速なキャッシュフローの悪化という問題に行きつく。
西田氏の経営哲学は「二律背反の克服」だ。「利益優先かシェア(規模)優先か。かつてはどちらかを選択すれば良かったが、パラダイムが変わり、二律背反という本質的な課題を解決しないと勝ち残れない」(西田氏)というものだ。個性的で強烈なリーダーシップを持つトップとしてメディアも西田氏を賞賛した。
後任社長に原子力畑の佐々木則夫氏を選んだ西田氏は、当時から「後継候補は数人いた」と話していた。交代当時の事業環境が違っていたならば、後任人事や現在の景色は大きく変わったものになっていたかもしれない。
巨大企業の東芝は、組織的に物事が動く側面と、経営トップの個性が方向性を決める二律背反のガバナンス(企業統治)を内包する。西田・佐々木時代は、より「経営トップの個性が方向性を決める」方へ振れた。もちろんそれ自体が悪いことではないが、東芝のような大企業でリーダーシップを発揮させるガバナンスの仕組みが追いついてなかった。
日刊工業新聞では節目節目で東芝の経営にフォーカスしてきた。今回、西田氏が社長を退任する直前の2009年4月に特集した記事から、巨額損失問題の起源を考える。内容・肩書きは当時のもので、追記によって補足した。
《攻めを貫いた「西田経営」が残したもの》
東芝が大きな転換点に差しかかっている。「攻めの経営」を貫いてきた西田厚聰社長が6月末で会長に退く。半導体などへの巨額投資は世界同時不況で裏目に出た。大手電機の中でも財務内容は最も厳しい。次期社長として収益回復と構造改革を託されたのは、原子力事業を躍進させた佐々木則夫副社長。復活へのシナリオを検証する。
昨年末から市場で東芝の自己資本の脆弱(ぜいじゃく)さが話題になっている。09年3月期の当期純損失予想は2800億円で、09年3月期末に自己資本比率は8%台に下がる可能性が高い。「とにかく金をできる限り集めろ」(同社幹部)という大号令がかかり、年度末に向けた運転資金に大きな支障は出なかった。
「東芝さんは本当に資金余力がないんですね」―。昨年から買収交渉が続く原子燃料工業。同社の親会社である住友電気工業と古河電気工業の関係者は、金額提示の低さが合意の阻害要因になっているという。
もはや時価発行増資やCB(転換社債型新株予約権付社債)などのエクイティ・ファイナンスなしでの財務の立て直しは困難というのが共通のコンセンサス。焦点は金額。最低3000億円、08年度の業績着地次第では5000億円という数字も考えられる。
<【追記】約3000億円の公募増資と劣後債1800億円を合わせて5000億円規模の資本増強を実施。10年3月期末の自己資本比率は14・6%(※減額修正前)に回復した。>
一定の増資が成功しても財務基盤は安泰ではない。まず期間収益のV字回復が期待薄なこと。さらに繰り延べ税金資産の取り崩しや年金積み立て不足のリスクもある。監査法人は、繰り延べ税金資産の取り崩しで09年3月期に巨額赤字を計上する日立製作所と同じ新日本監査法人だ。
東芝は1月末に発表した収益改善策で、固定費を08年度比で3000億円削減。2010年3月期には営業損益で最低でも黒字転換を目指している。本来ならNAND型フラッシュメモリーは、収益の戻りが早い事業。減産効果でスポット価格は反転しているが、大口顧客の動きは鈍い。しかも投資が抑制される中で、需要回復期に韓国サムスン電子に競争力で後れをとる可能性もある。
原子力事業を中心に社会インフラは安定収益が見込めるのは確か。原子力ではカザフスタンの国営企業と提携するなど原料からアフターサービスまでの一貫体制を築きつつある。米ウエスチング・ハウス(WH)買収の投資回収期間も当初の17年から13年に短縮。しかし原子力が収益に本格的に貢献するのは、早くて2012年以降だろう。
<【追記】佐々木体制で当初、原子力事業を2015年度に売上高1兆円、39基の新設受注を目標に掲げていたが、東日本大震災の発生で状況が一変。その後、売上高目標を8000億円に切引き下げ、時期も先延ばしにした。>
自力成長を待つ余裕はない。そこで考えられるのが、優良事業や子会社の売却で現金を得るという選択肢。東芝テックや東芝エレベータなどは保有株の放出でそれぞれ300億―500億円程度の現金が入るとみられる。ただ現時点で「(これらの)売却の予定はない」(東芝首脳)という。
もう一つ注目されるのが原子力事業のハンドリング。WHに対しては現在、子会社を通じ67%の株式を保有している。WHの資本を触媒に東芝連合の形成に動けば、短期・長期でメリットを享受する戦略も可能だ。今回、蒸気発生器などを調達するIHIの社外監査役に、西田社長の腹心である能仲久嗣副社長を送り込むことを決めた。まさに両社の連携強化は、佐々木次期社長の手腕が生きる場面だ。
<【追記】WHの経営陣とうまくコントロールできない場面も多く、IHIとの関係も深まっていない。WHの株は大株主の米ショーグループが売却した分を東芝が引き取り、現在は87%に高まっている。>
■半導体の収益変動と再編に翻弄される
「日本の半導体産業の生き残りも考える。日本は企業数が多い」―。1月29日、収益改善策の発表と同時に飛び出した西田社長の半導体再編への意欲。システムLSIとディスクリート(個別半導体)事業は他社との再編を念頭に分社も辞さない考えを表明した。
原子力を中心とした社会インフラと半導体は成長の両輪のはずだった。ところが今や赤字を垂れ流す半導体事業のテコ入れは最大の懸案事項。すでに事業売却に動いている富士通、赤字子会社を抱えるNECなどの首脳からも、再編に対し以前よりも柔軟な発言が聞こえるようになった。
半導体の売上高で世界3位の東芝。ここ数年、日本の半導体産業をリードしてきたが「現時点で東芝に再編の主導権があるとは到底思えない」と国内半導体大手幹部は指摘する。
まず候補に挙がっているのはNECエレクトロニクスとのシステムLSIの事業統合。先端プロセスを共同開発しており理想的な組み合わせに思える。ただ、今のところ東芝はシステムLSI事業を連結対象から外す考えはなさそうだ。当然、他社との激しい競争は続き、また東芝の財務体質の抜本的な改善にもつながらない。
持ち分法適用会社にしたとしても、09年3月期に巨額赤字を計上するルネサステクノロジの二の舞になる可能性は高い。ルネサスは結局、親会社の日立製作所と三菱電機が増資を引き受ける。赤字事業を本体から切り離す際は、応分のリストラ原資を新会社に持たせる必要があるが、東芝は1000億円以上の損失を一気に拠出する資金力はないと見られる。
<【追記】NECエレクトロニクスはこの直後に、ルネサステクノロジと電撃経営統合し現ルネサスエレクトロニクスが誕生した。そのルネサスも経営危機に陥り、官民ファンドの産業革新機構が救済することになる。東芝はシステムLSIの再編に乗り遅れ、ファブレス化を徐々に進めていった。>
「まずは各社が独力で業績を改善させてからではないと再編どころではない」(NEC幹部)というのが現実だ。西田社長が半導体や原子力など中核事業に集中投資した金額は1兆5000億円超。逆に東芝セラミックや東芝EMI、大型液晶パネルなど撤退・売却した事業は約5000億円に達する。
事業ポートフォリオの入れ替えを積極的に進め「見きり千両」と称された。しかし最近は富士通からハードディスク駆動装置(HDD)事業、パナソニックとの中・小型液晶の共同出資会社を100%子会社することを決めたが、両事業とも収益は厳しい。「東芝が進むべき方向の『選択と集中』からかけ離れている」(証券アナリスト)。
佐々木次期社長はどこまで事業の入れ替えに踏み込むのか。半導体部門は、依然として社内での発言力は大きい。6月末以降、西田社長は執行役を外れ、取締役会の議長として経営を監督する立場になる。だが、当分は重し役として佐々木氏と二人三脚で改革の道筋を指示していかざるをえないだろう。
<【追記】中小型液晶事業は、ソニー、日立製作所と統合し、これも産業革新機構の支援のもと“日の丸液晶会社”ジャパンディスプレイが誕生した。東芝はその後も、スイスのスマートメーター会社ランディス・ギアの買収でも、産業革新機構と共同投資するなど同機構との深い関係を指摘する声も多い。>
「社長業は疲れるよ」―。昨年暮れも押し迫ったころ、ポツリともらした西田社長の本音。すでに自身は社長交代を決断、次期候補の佐々木副社長にも打診していた。でも外では強気の西田節は相変わらず。
■佐々木体制にも引き継がれた“トップダウン”
05年6月に社長就任後、4年間、全力で駆け抜けてきた自負がある。就任前、5兆円台で停滞していた売上高を一気に7兆円後半まで引き上げた。そして昨年、2011年3月期に売上高10兆円を目指す中期経営計画を策定。ライバルである日立製作所を射程に入れたまではよかった。
「ここまで半導体が悪いとは…」。この1年、西田社長から何度となくこの発言が繰り返された。03年以降、半導体が東芝の営業利益の5割以上稼ぐ年もしばしば。昨年、NAND型フラッシュメモリーの2工場同時着工を表明したのは、新世代光ディスク「HD―DVD」からの撤退という悪材料をかすませた。商機を見込んだ決断だった。
「リスクとならないことが最大のリスク」―。この言葉が“西田経営”の極意を端的に表している。社長時代に半導体の設備投資に1兆円以上を注ぎ込み、二つの新工場では総額1兆7000億円の投資を計画していた。業績悪化は世界同時不況の影響としても、財務の悪化はリスクをとっての結果だ。
<【追記】NAND型フラッシュメモリーは値崩れを起こさないよう生産調整するなどで立て直し新工場も稼働。首位サムスンに肉薄するほど今は収益の柱になっている。>
半導体の不振と対照的に存在感を高めてきたのが社会インフラ事業。社長の座を射止めた佐々木副社長は、WH買収で実務を取り仕切った。買収当時、WHの税引き前利益は1800万ポンド(当時レートで約38億円)。のれん代を含めても企業の評価額は2000億円程度で、東芝が買収に注ぎ込んだ5000億円に「信じられない」(国内原子力メーカー幹部)という声も多かった。
「縮小均衡では事業の発展性がない。この機を逃せば逆に買収されると思った」。西田社長にWH買収を強く進言したのが、佐々木氏だった。原子力畑一筋の経歴を不安視する向きもある。しかし「西田さん以上に懐の深さがある」(東芝関係者)。
<【追記】上記の佐々木評と、佐々木氏の社長時代の幹部人事や管理などは随分と異なるものだった。>
早くから西田社長の才能に気づき社長候補として育ててきた西室泰三元社長(現東京証券取引所会長)はかつて「西田君は頭が良すぎる」とよく口にしていた。自分の目で確かめないと気が済まない性格で決断もトップダウン。
西田社長は3月18日の交代会見で「業績悪化の責任は感じているが今回の交代とは関係ない」と引責を否定した「喫緊の課題は収益改善」(佐々木氏)―。佐々木体制は、いろいろな重荷を背負ってスタートする。
<【追記】佐々木氏の後任には西田氏が指名した調達部門の田中久雄氏が就任。妥協の産物の人事で、その後、西田氏と佐々木氏の対立が先鋭化していく。現在、歴代の3社長は「不正会計」問題で違法性が問われている。
経営の転機は西田社長の登場だった。西田氏のキャラクターは東芝にとってかなりの「異端」「異物」だったといえる。今回の問題は、「二律背反」という言葉にヒントがある。
これは何も東芝に限った話ではない。この10年のスパンで考えると、日本の電機業界を翻弄した韓国サムスン電子の存在を抜きに語れない。そのサムスンのCEOが、現在、窮地に立たされている。時代は流れ、歴史は違った形で繰り返される。
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