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日本の場合、金融機関と顧客の間には融資に関する認識の相違がある
銀行の「貸し渋り」「顧客本位」を金融庁は改善できるか
http://diamond.jp/articles/-/114867
2017年1月20日 安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長] ダイヤモンド・オンライン
今年の夏は、15年に就任した森信親金融庁長官がこの夏も留任して3期目を迎えるかどうかが非常に注目されている。森氏は、もともと検査、監督の両局長時代から金融行政の見直しを進めてきており、とりわけ昨年10月に公表された「金融行政方針」では、「日本型金融排除」と「フィデューシャリー・デューティー」という言葉が目を引いた。
麻生太郎金融相は年初の全国銀行協会の賀詞交換会であいさつし、3メガバンクのトップらを前に「金貸しが金貸さないでどう商売するのか」「国民の金融資産を託された機関投資家には投資先企業との対話を求め、金融事業者には顧客本位の業務運営を求める」と新年から"麻生節"を繰り広げたが、これはまさに上記2つのキーワードを意識したものだ。
これらのキーワードは、連載第75回で取り上げた東京都の小池知事が進めている「国際金融都市・東京」構想と深く関係する概念でもある。なお紙数の関係で、今回は主に日本型金融排除を中心に論考し、フィデューシャリー・デューティーについては簡単に述べるに留めるが、これは極めて大きなテーマであるので、稿を改めて詳述したい。
■2つの深刻な問題をはらむ
「日本型金融排除」とは
日本の場合、金融機関と顧客の間には融資に関する認識の相違がある。
銀行側は、「融資可能な貸出先が少なく、そういう先に対する銀行間の金利競争も激しいので、無理に貸しても採算が取れない」という見解であり、結果的に、麻生大臣に何を言われようとも「融資可能な先には十分に資金を供給している」という言い分になる。
一方の顧客の側の言い分は、「銀行は担保と保証がないと貸してくれない」というものであり、十分な担保や保証がある先や、非常に高い信用力がある先以外に対しての銀行の貸し出し態度は厳しいという認識が根強い。また、よく「晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」と言われるように、銀行は業績不振になると掌を返したような対応を取ることも良く知られている。
実際のところ、昨今のマイナス金利下、銀行は貸し出しを増やさなければならない環境にあるのに、融資が大幅に伸びているのはアパートローンなど、不動産というはっきりとした担保がある業種に対してだけだ。反面、たとえばITやバイオ系ベンチャー企業などは、ビジネスモデルがしっかりしていて、将来の可能性を秘めていても、担保がないため、銀行融資を獲得することは極めて困難だ。
このように、担保や保証がなくても事業を適正に評価すれば融資が可能な先などに融資が行われていないことを金融庁は「日本型金融排除」と呼んでいる。
日本型金融排除は、次の2点において深刻な問題をはらんでいる。
第1に、日本型金融排除がまかり通る環境では、企業再生や産業構造の転換を通した企業の活性化が起きにくい。第2に、銀行も、担保があるか信用力が高い特定の先ばかりを巡ってお互いに競争していたのでは、融資残高が増えないばかりか、金利競争に陥り、収益力の低下を招く。
■求められる銀行の
社会的責任
そこで金融庁が提唱しているのが、地域金融機関に対して「金融仲介機能のベンチマーク」と呼ばれる17テーマ55項目のチェックリストに基づいて銀行が自己評価し、自主的に開示し、金融庁とも建設的な対話を行っていくという、新たな金融監督手法だ。しかも、優れた取り組みは、「ベストプラクティス」として表彰するという。
これまでの金融検査・監督は、個別の資産査定(融資先の格付けのチェックなど)や細かな法令順守状況などが主であり、時として重箱の隅をつつくようなものであった。金融庁としては、そういう形式的なチェックを脱し、銀行など金融機関が社会的責任を果たす投融資を行なう中で将来にわたって健全な経営を持続できるよう対話をするという路線に舵を切ったわけだ。この社会的責任を果たす投融資というのは、連載第74回で詳述したように、「共通価値の創造(CSV)」と呼ばれるもので、昨今の金融の世界ではグローバルスタンダードになりつつあるものだ。
図1は、金融庁が公表した顧客向けサービス業務の利益率分析で、各地域金融機関の貸出残高と利益率をプロットしたものだ。
◆図表1:顧客向けサービス業務の利益率分布
図1を見ると、一般的に、貸出残高が大きい銀行ほどいわゆる「規模の経済」が働いて利益率が高くなる一方で、貸出残高が小さくても高い利益率を確保している銀行も存在することがわかる。金融庁の分析によると、生産年齢人口減少等により、2025年には、6割を超える地域金融機関において、この利益率がマイナスになる。すなわち、経営が持続可能ではなくなるわけだ。
これに対して、銀行が取るべき道は、大きく2つに分けられる。
1つは、貸出残高の規模を大きくすることだ。まずは自助努力として、担保や保証に依存することなく、また、信用力が高い先に薄利の融資をするのではなく、信用力の劣る取引先に対してコンサルティングや事業再生支援を施すことによって、いわば「これまで貸せなかった先に貸す」努力を積み重ねることだ。その時の手段の一つが、エクイティ性の資金を取引先に導入することができる、事業再生ファンドの活用だ。それによって地域企業の活性化が行なわれれば、長い目で見た場合、結局その銀行のためにもなる。
これこそ、まさに銀行の社会的責任投融資だろう。ただし筆者は、地域金融機関や、それが出資する事業再生ファンド等だけでできる事業再生スキームには限界があるほか、そもそも利益相反性を孕むものと考えており、企業の規模にもよるが、可能な限り、ノウハウの豊富な独立系事業再生ファンドを活用することを考えるべきだと思う。
また、自助努力に限界がある場合には、地域金融機関同士の経営統合で貸出残高を増やすことも検討すべきであり、現にそういう動きが各地で出てきているが、同一地域の金融機関はもともと競合関係にあったため、融和がなかなか難しいだろう。また、利益率が低い銀行同士の合併では効果薄だろう。
もう1つは、貸出残高を増やすのではなく、特定の業務や特定のセグメントに集中して特徴ある銀行になることだ。例えば、地銀の中には、担保や保証に頼ることなく、取引先の将来キャッシュフローに基づいて融資を行う買収ファイナンスに積極的に取り組んでいるところもある。
例えば、PEファンドがスポンサーになって実施するLBO(レバレッジド・バイアウト)やMBO(マネジメント・バイアウト)には銀行融資が必要だ。多くの場合、こうした融資のスプレッドは高い。
加えて、スポンサーとの意思疎通が円滑であればディールの初期段階から参加することでリスクの見極めも容易になる。日本ではまだ銀行優位時代の名残があって、PEファンドの地位は低く見られがちだが、欧米では商業銀行には必ずPEファンドの担当部署があって、いわば「PEファンド詣で」をして初期段階からディールに参加するのが当たり前の時代になってきている。
「顧客本位の業務運営を行うべきとの原則」
フィデューシャリー・デューティー
金融庁は、金融行政方針の中で、フィデューシャリー・デューティーを「顧客本位の業務運営を行うべきとの原則」としている。
中でも、最近特に注目されているのが、金融庁が金融機関に対して、投資信託や保険販売に係る手数料とリスクの開示を強く求めていることだろう。
◆図表2:投資信託の手数料比較
図2は、日米の一定規模以上の投資信託について、その手数料を比較したものだ。それによると、日本の場合、投資信託を購入する顧客が投資1年目に支払う手数料は販売手数料と信託報酬の合計で4.73%、その後も毎年1.53%もの信託報酬を支払うことになる。それと比べ、米国の場合は1年目の合計で0.87%、2年目以降0.28%に留まる。そして収益率(年率)において日本はマイナスに沈んでいる。
仮に日本の手数料体系が米国並みであったとすれば、日本の顧客は、米国並みとはいかないまでも、それなりの投資収益を得られたはずであり、なぜそうなっていないかと言えば、それは金融機関に顧客から高い手数料が支払われているために他ならない。そもそもマイナス金利の時代に、1年目で5%近い手数料を取られた顧客が、その損失をリカバーして投資利益を得るのはなかなか難しいのではないだろうか。
顧客がこのような実態を熟知した上で投資信託を購入しているのであればまだいいのだが、本当にそうなのか。
日本の手数料が高い原因は、銀行や証券会社が、こぞって自分の子会社が設定する商品や、あるいは自社専用ファンドを売りたがるため、1本あたりの投資信託の規模が小さく、人件費等の固定費が回収できないからだ。
すなわち、顧客は銀行や証券会社の人件費や物件費を払うために投資信託購入の勧誘を受け、損失をこうむっているようなものではないのか。投資信託の販売をする銀行や証券会社は、本来は顧客の利益にとってベストの商品を提供する義務を負っている。それがまさにフィデューシャリー・デューティーであるのに、それを考えることなく、自分の子会社が組成する、確たる実績もない投資信託を販売することは利益相反であり、本来許されることではない。
■手数料開示の
先にあるもの
フィデューシャリー・デューティーは、日本においては、今のところ投資信託や保険の手数料開示の点で注目されているに過ぎない。しかし、世界の資産運用業務においては、もっと本質的なところで大変重要な原則だ。連載第75回で詳述した通り、日本の金融機関や運用業者が、世界の投資家に対する受託者責任を十全に果たすことが再び東京をアジアナンバー1の国際金融市場にするための鍵を握っている。この「受託者責任」こそ、フィデューシャリー・デューティーの本来の意味だ。
既に、小池都知事が主宰し、斎藤惇氏(KKRジャパン会長、前・日本取引所グループCEO)が座長を務める「国際金融都市・東京のあり方懇談会」では、座長メモとして、以下3点の論点整理がなされている。
(1)諸外国と比べて遜色のないビジネス面・生活面の環境整備
(税制の見直し、我が国独自の業界慣行・規制等の見直し、行政手続きの英語対応、金融に関する法制度等の相談体制の整備、高度外国人材に配慮した生活環境の整備、投資教育の充実)
(2)新たなプレイヤーの市場への参加促進
(フィンテックの育成、進行の資産運用業者の育成、海外プロモーション体制の構築、金融に関する国際会議の招致)
(3)世界の投資家に優しい市場の構築
(受託者責任の徹底、コーポレートガバナンス・コードの遵守、社債市場の活性化、決済業務の革新)
このように、フィデューシャリー・デューティーは、手数料開示といったレベルに留まるのではなく、より広い意味での利益相反の防止など、国際金融市場として恥ずかしくないレベルの体制を整えていく必要がある。
このように、「日本型金融排除」と「フィデューシャリー・デューティー」が今年の金融界のメインテーマであることは間違いない。金融庁、東京都、そして関係各位が密接に協力し、東京都が最終提言を纏める時期の目標とする秋口までには一定の成果を得て、安倍首相や小池都知事が高らかに「東京版金融ビッグバン」を宣言できるようになってほしいものである。
(ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長 安東泰志)
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