九電、信頼回復道半ば 「やらせ」7年、拭えぬ不安 玄海3号機16日に通常運転復帰 2018年05月15日 06時00分 https://www.nishinippon.co.jp/nnp/photo/show/289586/ 九州電力に対し玄海原発3、4号機の再稼働中止を要請する反原発団体。コンプライアンスカードの不携帯についても注文を付けた=3月、福岡市中央区 写真を見る 16日に通常運転に復帰予定の九州電力玄海原発3号機(佐賀県玄海町)。2011年の東京電力福島第1原発事故後の「再稼働第1号」に向けて先頭を走っていたが、事故から4カ月後の11年7月に「やらせメール問題」が発覚、再稼働への道は紆余(うよ)曲折をたどった。あれから約7年。九電は住民や自治体とのコミュニケーションを見直してきた。失墜した信頼は取り戻せたのか−。 玄海原発から約6キロに位置する佐賀県唐津市の集会所。「暖房と冷房、どちらが電気代が高い?」。九電の女性社員が出すクイズに、お年寄り11人が答える。和やかな雰囲気の中、社員たちは電気料金の仕組みや電力の安定供給の重要性を説明した。 やらせ問題を受け九電は12年7月、地域との交流を担う部署を新設。原発を含む電力事業全般について「フェイス・トゥ・フェイス(対面)のコミュニケーション」(瓜生道明社長)を通じた情報発信を強化した。九電によると、講座や説明会への参加者は年間約15万6千人(14〜16年度の平均)。7月には、玄海原発から30キロ圏の住民や自治体との関係強化を狙い50人態勢の「玄海原子力総合事務所」も設ける。 ** 九電に対する住民の受け止めは一様ではない。玄海町の町民会館で談笑していた70代と80代の女性は「きれいな施設や道路ができたのは九電と原発のおかげ」とうなずく。町内で民宿を営む男性(59)は「九電の社員は地域によく顔を出している。住民との距離は近いんじゃないか」と話す。 一方、原発から5キロ圏内に住む唐津市の漁業男性(70)は首をかしげる。九電の案内で玄海原発を視察し、安全性の説明を受けたこともある。だが福島事故で揺らいだ「安全」への不安は拭えなかった。「九電の言うことを信用していいのか…」と漏らす。 やらせメール問題の発端が当時の知事の発言にあったとされた佐賀県も、九電との距離には神経質だ。山口祥義知事は折に触れ、九電に「うそをつかない」ことを求める。九電が玄海3、4号機の安全対策を説明した資料で「万が一の事故の際も、放射性物質の放出量は、福島事故時の約2千分の1」と記載したことに対しても「安全神話につながる」と苦言を呈した。 ** 「いったん地に落ちた信頼を取り戻すのは難しい。丁寧な説明を続けていくしかない」と瓜生社長。問題は社内への浸透だ。 最近も情報発信の在り方について課題が露呈した。3月に発生した玄海3号機の蒸気漏れで、佐賀県への連絡は約2時間後、ホームページでの公開は約4時間半後だった。3日後に出た点検結果についても、原子力規制委員会には午前中に報告したにもかかわらず、公表は午後9時。「迅速な伝達を」との注文が自治体や市民団体から相次いだ。 昨年7月には、玄海原発の再稼働に反対する市民団体が九電本店を訪れた際、応対した社員5人全員が行動指針を記載した「コンプライアンスカード」を携帯していなかった。九電はカードの携帯を全社員に義務づけており、瓜生社長は「組織改善」の具体策として挙げていた。 「やらせ問題以降、社内の雰囲気はかなり変わったが、部署によって温度差もある」とある社員。信頼回復に向けた九電の取り組みは、まだ道半ばに見える。 【ワードBOX】やらせメール問題 九州電力玄海原発2、3号機の再稼働に向け、国が2011年6月に流した佐賀県民向けの説明番組を巡り、再稼働への賛成意見を投稿するよう九電が社内や関連会社などに呼び掛けていた問題。同年7月に発覚し、地元の玄海町長は再稼働への同意を撤回した。12年、当時の真部利応社長と松尾新吾会長は事実上の引責辞任。九電の第三者委員会は、九電幹部と面談した県知事の発言が発端になったと結論づけた。 =2018/05/15付 西日本新聞朝刊= https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/416309/ 玄海原発地元同意権 終わった話ではない 5:00 http://www.saga-s.co.jp/articles/gallery/217994?ph=1 拡大する 九州電力玄海原発3号機(手前)と4号機=東松浦郡玄海町 . 九州電力玄海原発3号機(東松浦郡玄海町)は16日、原子力規制委員会の最終検査を終え、営業運転に移行した。7年ぶりの再稼働で蒸気漏れが発生し、4号機もトラブルが起きているものの、電力会社として原発の稼働が「常態」となった。ただ、万が一の事故時の避難対応など課題は残る。再稼働に関する自治体の事前了解を得る地元同意の範囲も国の明確な基準はなく、周辺自治体の声が十分に反映されているとは言い難い。福島第1原発事故の教訓を踏まえた論議を続ける必要がある。 地元同意の範囲は、玄海原発の場合、福島事故の前と同じ立地自治体の玄海町と佐賀県に限られた。先行して再稼働した九電管内の川内原発(鹿児島県)も同様だった。そんな中、今年3月末、東海第2原発(茨城県)で日本原子力発電は地元東海村に加え周辺5市に事実上の事前了解の範囲を広げる新たな安全協定を結んでいる。新規制基準合格に伴う稼働と、原則40年とされている運転期限を延長する際、関係自治体の了解が必要となる。全国初で、電力会社にとってはハードルとなりそうだ。 全国的に地元同意の範囲拡大を求める声が上がったのは、福島事故で被害が広範囲に及んだことが大きい。政府は避難計画の策定義務を原発10キロ圏から30キロ圏に広げた。しかし、事前了解の「同意権」は旧来のままで、再稼働の手続きが進められているのが実情だ。 安全協定は電力会社と自治体間の「紳士協定」であり、法的根拠がない。国は電力会社と自治体が協議して決めることとして範囲を定義せず、県や九電は国が定めるよう求め、それぞれがボールを投げ合う形となっている。 原発が立地する当該県の知事が周辺自治体の首長らから意見を聞く取り組みはあるものの、必ずしもくみ取られるわけではない。玄海3、4号機の再稼働手続きでも、30キロ圏に入る伊万里市や長崎県の3市は「住民の理解が得られていない」などとして反対を主張していたが、同意権のある玄海町長と佐賀県知事は昨年3〜4月にそれぞれ同意を表明した。 玄海原発は1号機の廃炉が決まり、2号機の存廃が焦点となる。運転開始から37年を経ており、再び動かすとなれば事前了解の対象となろう。延長運転の申請期限は2020年3月で、九電は3、4号機が再稼働した後、具体的な検討に入ると説明してきた。新社長のもとでの判断となる。 4月の伊万里市長選で初当選した深浦弘信氏は前市長に続き地元同意権の拡大を求めていく姿勢を示し、唐津市議会も研究課題に挙げている。自治体側だけでなく、国も電力会社もきちんと向き合って議論を深め、リスクを背負う住民の声を十分に反映できる仕組みに変えていきたい。(辻村圭介) http://www.saga-s.co.jp/articles/-/217994
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