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「伊方原発運転差止め 高裁決定の意味」(時論公論)
2017年12月13日 (水)
水野 倫之 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/286548.html
愛媛県にある四国電力伊方原発3号機について、広島高等裁判所はきょう、「巨大噴火による影響が小さいとは言えない」と指摘して運転の停止を命じる仮処分を決定。
仮処分は即効力が発生するため、伊方原発は来月検査が終わっても、事実上再稼働できなくなった。
司法が運転可能な原発を止めるのはこれが2回目、しかも今回は高裁の判断で、国のエネルギー政策にも大きな影響が。
運転差し止めの意味について水野倫之委員の解説。
きょうの決定を受けて、四国電力は「極めて残念で到底承服できない。速やかに高裁に異議申し立てを行う」とコメント。
3号機は原子力規制委員会の審査に合格後、去年8月に再稼働し、現在はいったん運転を止めて定期検査中で、来月再稼働する計画だっただけに、四国電力が受けた衝撃は大きい。
今回の焦点は、地震の揺れの想定と火山の噴火の影響。
ただ今回裁判所は決定の中で地震の揺れの想定については問題点は指摘せず、噴火の影響を問題にした。
福島の事故を受けて規制委は噴火についても評価や対策を求め、
原発の運転期間中に火砕流などが敷地に到達する可能性が十分に小さいこと、そして火山灰で非常用電源が機能を失わないことを求めた。
なかでも影響が大きいのは巨大噴火。
日本では過去12万年に少なくとも10回起きたことがわかっており、仮に火砕流が原発を襲えば建屋は破壊され、放射性物質が広範囲に放出される恐れ。
伊方原発の審査では130キロ離れた熊本県の阿蘇カルデラの巨大噴火が検討され、四国電力は、地下に溜まっているマグマの量などから運転期間中に巨大噴火が起きる可能性は十分に低く、噴火しても火砕流は原発に到達しないと説明、規制委も了承して再稼働となった経緯。
これに対して広島高裁は決定の中で、「四国電力が行った火砕流のシミュレーションは、過去に実際に起きた火砕流とは異なる前提で行われており、原発に火砕流が到達していないと判断できないため、原発の立地自体が不適切だ」と指摘。
また火山灰についても「四国電力の想定は少なすぎる」と指摘。
以上のような点を根拠に「新基準に適合するという規制委の判断は不合理で、住民の生命に対する具体的な危険が存在する」として、3号機の運転を認めない決定を出した。
事故後、原発に対する司法の判断は分かれている。
おもなもので、これまでに5か所の原発について、15件判断が示されているが、このうち再稼働を認めない判断は今回を含めて4件。
判断が分かれるのは、福島の事故を受けて原発事故のリスクをどこまで許容するのか、考え方に違いがあるから。
これまでに運転を認めた判断の多くは、「原発に100%の安全はありえず、リスクは残るものの社会通念上無視できるくらい小さければ再稼働は認められる」という考え方にたっている。
これに対して運転を認めない判断は、「重大事故のリスクが少しでもあれば再稼働は認められない」とする考え方に立っており、福島第一原発事故で明らかになった原発の危険性をかなり重く見ている。
福島の甚大な被害を見て、安全性のハードルを上げて、積極的に判断しなければならないと感じている裁判官が、増えているということではないか。
特に今回は高裁の判断で、最高裁判所の判断のようにほかの裁判所が従わなければならないほど強い影響力はないが、一定の重みがあり、今後の原発の再稼働や原子力政策にも大きな影響を及ぼすと見られる。
しかし今回の決定について、原子力規制委員会は、「科学的、技術的な知見、理解を元に判断していくだけで、審査への影響はない」と述べるにとどまる。
規制委が示した基準に適合しているという判断に対して裁判所は不合理だとしているわけで、規制委として、考えを示す必要があるのではないか。
また政府も、菅官房長官が会見で、「独立した規制委が専門的な見地から十分に時間をかけて世界最高水準の新基準に適合すると判断したものであり、政府としてその判断を尊重するという方針に変わりはない」と述べる。
政府はエネルギー基本計画で、2030年の全電源のうち原発の割合を20%から22%にする方針を掲げて30基以上の原発の再稼働を目指しており、この夏から始めた計画の改定議論の中でもこの計画を維持する考え。
しかし今回の決定で稼働中の原発は1基減って4基にとどまることになる。
政府は今後のエネルギー政策への影響をどう考えるのか示してほしい。
住民グループの弁護団によると全国の裁判所に申し立てられた原発運転停止を求める仮処分や訴訟は少なくとも37件に上っているということで、新たな申し立ても増えると見られる。
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