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WEB特集 “最後の戦い” 香港、絶望の若者たち/nhk
2019年7月17日 14時44分国際特集
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190717/k10011995071000.html
「これが最後の機会だ」
香港の街頭を埋め尽くす何十万、何百万の人々。拳を振り上げる若者のひとりがこうつぶやきました。
容疑者の身柄を中国本土に引き渡すことができるようにする条例の改正をきっかけに始まった大規模な抗議活動。改正案が事実上、廃案となる見通しとなったあとも、各地でデモが起き、警察との衝突も相次いでいます。
なぜ抗議はやまないのか。若者たちは何を求め、何に突き動かされているのか。その声を追いました。(香港支局長 若槻真知)
それは異様な光景でした。
香港の議会にあたる立法会近くのショッピングモール。集まった大勢の市民がスマートフォンを片手に高層ビルを見上げていました。ある若者がSNSに自殺をほのめかす書き込みを投稿していたのです。
同じ場所で6月、ひとりの男性がビルから飛び降り、みずから命を絶っていました。それから、およそ1か月の間にさらに3人の若者が自殺。
命を絶った若者たちは、政府への抗議の意志を示したメッセージを残していました。
そこに刻まれていたのは若者たちの心を覆う失望感でした。
「政府に声は届かない、完全に絶望している」
「何も変えることができない無力感で、心がうちひしがれている」
これ以上の犠牲をなんとか食い止めようとSNSに投稿した若者を探す人たち。
数時間後、自殺をほのめかしていた若者の無事が確認され、人々は安どの表情を浮かべていました。
絶望の若者たち
この2日前の7月1日。
若者たちが立法会の閉ざされた扉を破壊して、内部に突入。警察が強制排除の動きを見せるまでのおよそ3時間、建物を占拠しました。
立法会の周辺は建物を取り囲むように数千人の若者たちであふれ、中に入った仲間が占拠の成功を知らせるようにライトで合図すると大きな歓声があがりました。
若者たちは突入した人たちを「義士」と呼び、「みんな心の準備はできているか。ここからが戦いだ。一緒に中に入ろう!」と叫ぶ人もいました。
この時、立法会の外で突入の様子を目撃していた男性がいました。
張文龍さん(30)です。
「突入した仲間は皆、死を恐れないほどの覚悟をしていた。『家族のことを頼む』とまで言っていた」
張さんは区議会議員の事務所でスタッフとして働き、香港の政治の移り変わりを見つめてきました。
突入から2日後、張さんは民主派の団体の代表らと共に立法会の前で若者たちの声に耳を傾けるよう訴えました。
「破壊がいい方法だとは思いません。でも、しかたなくこのような方法で自分たちの意思を伝えるしかなかったのです」(張さん)
追い詰められるように議会に突入していった仲間たちを突き動かしていたものは何だったのか。張さんは「絶望だ」と語りました。
若者たちは立法会の柱にある言葉を書き残していました。
「平和的なデモでは意味がないと教えたのはあなただ」
変わり始めた訴え
香港でこの1か月間、毎週のように巻き起こった大規模デモ。
6月9日には主催者の発表で103万人、6月16日には200万人が参加しました。
事態を受け香港政府トップの林鄭月娥行政長官は「社会の混乱を招いたことを心からおわびする」と謝罪。
抗議活動を引き起こした条例の改正案について「市民が感じている矛盾や論争が完全に解消するまで審議は行わない」として事実上、廃案になるという認識を示しましたが、改正案の撤回までは言及しませんでした。
撤回への言及を避けたのは条例改正を支持した中国指導部に配慮したためではないか。若者たちは政府の対応に不満をさらに募らせ、抗議活動を続けました。
それでも決して撤回を口にしない政府。そして若者たちは失望感を深めていったのです。そこには、もう1つの理由がありました。
「真の普通選挙を」
香港では1国2制度のもと、中国本土とは異なる条例や制度を自分たちで作ることができます。これを担うのが70人の立法会議員たちです。
しかし、35議席は職業別の団体に割り当てられて一般の市民に投票権はなく、そのほとんどは親中派で占められています。
残る35議席は直接選挙で選ばれますが、この数年、香港独立の志向があると見なされた民主派の候補者の立候補や議員の当選が取り消されるケースが相次いでいます。
「市民の意見を政治に反映させられないのは、この不平等な選挙制度のせいだ」
若者たちは口々にその不満を訴えます。
一連の抗議活動は当初、容疑者引き渡しの条例の改正で中国に批判的な人たちが中国本土に引き渡されるのではないかという不信感から始まりました。
その訴えは、今では「改正案の撤回」や「行政長官の辞任」だけでなく、市民の意見を反映する政治を目指した政治制度の改革、「真の普通選挙」にも広がりつつあります。
最後の戦い
抗議活動の中心にいる10代後半から20代の若者は、1997年の香港返還のころに生まれ、その後の社会の変化を肌で感じてきました。それは中国の影響力がますます強まっていく社会でした。
「これが最後の機会だ」
抗議活動に参加する若者たちがよく口にする言葉です。
1国2制度のもとで香港に高度な自治が約束されているのは、返還から50年がたつ2047年までです。このまま「中国化」が進めば、その後の香港の姿はどうなってしまうのか。50年の約束すら守られないのであれば、自分たちが知る香港は完全に失われてしまうかもしれない。
5年前の2014年、香港では選挙制度改革を求めて大規模な抗議活動「雨傘運動」が起きました。この時の運動は当局の強制排除により、収束していきました。
今回こそは変革の灯を消すわけにはいかない。
未来への不安とこの流れを止められないことへの焦燥感が若者たちを追い詰めています。
“水になれ”
雨傘運動ではカリスマ的なリーダーが活動を率いていました。
しかし、今回はそうした存在は見当たりません。むしろ若者が全員で大きなうねりをつくろうとしているようにみえます。
その若者たちをつなげているのがSNSです。SNSで誰ともなく抗議の趣旨や方向を議論して参加を呼びかけ、その動きが大規模な抗議活動へと発展していきます。若者たちはこの戦術を「水になれ(= Be Water)」と呼んでいます。
この言葉は香港が誇るトップスター、ブルース・リーが戦いの極意をたとえて語ったと言われています。
水のように自在に形を変え、ある時は流れるようにある時は氷のように固く。抗議の声は香港全域に浸透し、時に大規模な抗議活動として噴出します。若者たちがみずから考え行動する流れが、水のごとく自然に大きなうねりをつくりだしているかのようです。
レノンの壁
抗議活動の様子を撮影し、SNSに投稿する男性がいました。
大学院生のアレックス・ラウさん(26)。
みずからの役割を「後方支援」と説明します。
投稿を見た人たちが、次の行動を決められるように最新の情報を提供し続けます。誰かが投稿した抗議のチラシをみずから印刷し、町なかで配ることもあります。
「誰かの指示を待って行動するのではなく、香港をよくしたいという気持ちでみんなで方法を考えるのです。そして賛同するなら、自発的に参加する。リーダーの指示はいりません」(ラウさん)
抗議の意志を示す方法として香港で今、急速に広がっている活動があります。
「レノンの壁(レノンウォール)」。
地下鉄の駅や高架下の壁にそれぞれの考えや思いを書き込んだメモ用紙を貼っていく取り組みです。
「レノンの壁」は1980年代の共産主義体制下のチェコスロバキアで、若者たちがジョン・レノンの死をしのんでメッセージを記したという壁で、自由を求める声であふれたことから圧政への無言の抵抗の象徴とされています。
およそ40年の時を超えて、香港の街角に現れた「壁」。
香港各地で50か所をこえるとみられ、なかには50メートル続く地下道の壁いっぱいにメッセージが貼られている場所もあります。
7月の暑い夏の日。大学4年生の黄雅文さん(21)は友人たちとメッセージボードを持って夕暮れの街角に立っていました。
立法会に若者たちが突入した7月1日に現場でその様子を見ていたという黄さん。彼らとは同じ気持ちだったと話す一方、ほかに方法はないかと考え続け、この取り組みに行き着きました。
「私は自分のやり方で運動したいと思っています。メッセージはそれを書いたり読んだりすることで、誰かとつながっていることを実感できます。政府には失望していますが、私たちの運動はまだ終わっていない」
しかし、こうした若者の声を誰もが受け入れているわけではありません。
メッセージを目障りだと感じる市民と若者たちの間でしばしば衝突が起き、メモ用紙が燃やされたところもあります。
抗議活動が長引くなか、市民のなかには社会の混乱へのいらだちも生まれ始めています。それでも未来を生きようとする若者たちのデモ行進は収束する気配はありません。
若者、そして市民の声をどう受け止め、香港の将来像をどう描くのか。人々の対立をこれ以上、深めないためにも、香港政府の対応が、今こそ問われています。
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