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http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-40453630
香港の若者の心をつかめない中国政府
2017年06月30日
キャリー・グレイシー中国編集長
多くの同世代の若者と同様、ライ・チュン・インさんは中国への愛情がほとんどない
香港は今週、英国から中国への返還20周年を迎えるが、ライ・チュン・インさん(20)は祝っていない。
チュン・インさんは路上で仰向けになり、空中でサッカーボールを回している。チュン・インさんの華麗なボールさばきと象徴的な香港島の建物群の景色の間に、複数の旅行者が立ち、目の前の芸当に見入っている。
チュン・インさんはカフェでバリスタ(コーヒーを作る職人)であり、フリースタイル・フットボールをする傍ら、路上でボールさばきの芸当を見せて生計を補っている。
チュン・インさんは、「中国への帰属意識ががあまりない」と話す。「香港が大好きで、僕は香港人な気がします。僕の世代は中国に良い印象がないんです」。
チュン・インさんは自分が香港人だという
チュン・インさんが評する香港の若者たちの雰囲気は、今月の調査によっても裏付けられた。調査では、民主化デモの学生たちが香港中心部を占領したいわゆる「雨傘運動」以来、自分を「広い意味で中国人」だと言う人の数はさらに少なくなり、過去3年間で最も少なくなったことが示された。
建物が密集する九龍地域にある21階建て倉庫の屋上で、芸術を学ぶ学生プリンス・ワンさん(20)は無言のメッセージを伝えるスプレーを使ったアートに最後の仕上げを施している。これは、中国への香港返還20周年に対するワンさんの気持ちを表している。
ワンさんは赤の背景に白の花をあしらった見慣れた香港の旗を描くのではなく、悲哀を表す黒で背景をスプレーし描いている。
そのすぐ数時間後、中国の習近平国家主席の訪問前夜に、ワンさんは1997年の香港返還時に中国から香港へ贈られた記念碑によじ登ったため、拘束された。
ワンさんは20歳ですでにベテランのデモ参加者だ。デモの意識が芽生えたのは15歳の時、香港政府が中国の歴史をめぐり愛国教育のカリキュラムを地元の学校に導入しようとしたことに生徒が反対しデモを起こしたのを見てからだ。
ワンさんはその2年後、79日間続いた雨傘運動の中心にいた。民主化を求めて、1週間にもわたるハンガーストライキを行った。今は後に続く世代に政治意識を持たせるため、複数の学校でセミナーを行っている。だがワンさんは、デモで達成できることにもう楽観的な気持ちを持っていない。
ワンさんは、「いまだに雨傘運動の傷を負っています」と語る。「全力を尽くしたけど、負けました。以前は前に進むことを望んでいましたが、今はただ後ろに下がらないようしているだけです」。
AFP
ワンさんは中国から香港へ贈られた返還記念碑に仲間たちとよじ登った
ワンさんは、習氏が香港返還後の世代とつながりを持とうとするなかで直面する難しさを体現している。ワンさんは習氏の意図を疑い、習氏が提示する価値観を嫌悪している。
ワンさんは、「国民に国を愛してほしければ、それは国の振る舞い次第です」と説明する。「国が国民を良く扱ってくれれば、国民も国を必ず愛するようになりますよね。政府のことが大嫌いなのは、政府が悪いことをするからです。理由もなく嫌いなわけではありません」。
断固たる愛国主義
今週の私の数少ない経験からだが、香港にいる20代の人たちで唯一、習主席の訪問と返還20周年を確実に祝っているのは、中国本土の人たちだ。
中国の教育制度で育った人は、1840年代の香港の割譲は中国にとって屈辱的な出来事で、そのため150年後に英国から香港を取り返すのは国にとって誇らしい時だったと小さい時から教わる。
AFP
この習主席の支持者たちのように中国政府に同調する人たちもいる
この香港の話は、習主席の中国本土での政治的メッセージの中で非常に重要であり、習主席が掲げる「中華民族の偉大な復興」の中心を成すものだ。
中国中部の湖南省出身のサニー・タンさん(20)は熱心だ。タンさんは香港大学で経済学を学ぶ学生で、中国の大きな国営銀行で夏のインターンシップをしている。銅鑼湾の人通りの多い繁華街で会った時、タンさんは地味なビジネススーツを着ていた。
チュン・インさんやワンさんと共通しているのは、タンさんも20歳の中国籍で香港に住んでいることだ。
だが2人と違うのは、タンさんは中国本土で学校に行き、そこで教わった歴史を信じ、香港返還20周年を祝っていることだ。
「デモ参加者たちは現実を受け入れるべき」と中国本土出身のタンさん
タンさんは、「香港返還は中国がますます力をつけていることのしるしだと思います」と話す。「私は愛国者で、私たちは自分の国を愛すべきだと思います」。
「香港の若者は早く高度な民主化を達成したいと望んでいます。一夜のうちにやりたいと。でも彼らは現実を理解すべきです」
考えられないことを考える
大学のキャンパスは自然と、こうした考えを戦わせる戦場になる。中国本土の丘が地平線の遠くまで伸びる香港の海峡を見下ろす学長室で、香港大学のピーター・マティーソン学長は次のように話した。「現職にいるこの3年半は、香港の歴史で最も激動の時期にあります」。
香港大の学生で香港出身者の中には、3年前の雨傘運動での民主化要求から、今日では自決権、さらには独立を要求するまでになった学生もいる。中国からの分離が、自分たちの目標を実現する唯一の方法かもしれないと主張しているのだ。
そのような思想は中国政府が忌み嫌うもので、中国本土では習主席が、大学構内をこれまでにないほど厳しい政治的教化の場としている。しかしマティーソン氏は、中国からの独立が香港にとっていかに非現実的だと言えども、大学構内は考えられないことを考えることが許される場であるべきだと話す。
「独立の要求は、病気ではなく病状だと思います」と同氏は説明する。
AFP
習近平国家主席の香港訪問で非常に厳しい警備が敷かれている
「香港大学の学生で、本当に独立を信じている人の実数はごくわずかですが、彼らは将来を心配しています。だから自決権を求め、別の可能性について心配しているのです。つまり、可能性としてはより大きい、中国とのより広範な統合です」
香港返還の前後数十年にわたり、香港の行政で長いキャリアを積み上げてきたレイチェル・カートランド氏は、長期的な見方をしている。カートランド氏が英国から初めて香港に到着したのは、45年前、大学を出たばかりの22歳の時だった。
多くの政治家の移り変わりを目の当たりにし、そして香港の民主化運動の紆余曲折を受け、カートランド氏は、今頭角を現している若きリーダーたちの中には、価値や才能ある人材がいると期待を抱いている。
「彼らが冷静さを失わずに、できるだけ投獄されないようにいられるなら、そして自分たちのように若くてせっかちな人だけでなくもっと大勢の香港人に対しいかにアピールできるかを考えられるなら、香港の未来はとても明るくなり得ると思います」
「個人的には、私は香港の人たちをとてつもなく信頼しています。香港を今の中国本土のようにするには、相当大変だと思います」
経済的プレッシャー
若い香港人の中には、明るい未来の展望とは、政治よりも経済だという人もいる。アン・ツァンさん(33)は独身で、集合住宅購入に向けて貯金している。
ツァンさんと30歳の弟は共に、両親と暮らしている。香港では全く普通のことだが、不満が募ると、ツァンさんは言う。
「食事も外出もせず、社会生活もなく、ただ家を買って30〜40年の住宅ローンを抱える。基本的に、家の奴隷のように生きるのです」
AFP
香港の不動産価格は、とてつもなく高価だと悪名高い
私はツァンさんと賑やかな通りに立ち、不動産会社の窓に貼ってある売り出し中の集合住宅の広告を見つめている。
世界の他の場所なら居間より少し大きいくらいの場所が、ここでは100万米ドル(約1億円強)以上だ。
香港は現在、ニューヨークに次いで世界で2番めに不平等な都市だ。ツァンさんは政治の抗議活動家ではないが、それでも政治家には住宅危機に取り組んで欲しいと考えている。
「私たちは抵抗する」
「若い人たちは、本当に動揺して苛立っています。自分の将来が分からないのです」と話すのは、地元の作家ジェイソン・イングさんだ。
人々の生活が密集した香港の街をガタゴトと音を立てて進む暑い路面電車の中で、イングさんは習主席が視察するのはこうしたものではないと述べる。
「習主席は、北朝鮮式に厳しく規制された視察を行い、そこで目にするのは香港の一番いい面だけでしょう。痛みや苦しみ、抗議活動を行う人たちなどを目にはしないでしょう」
中国の指導者たちが香港との関係の問題を誤って判断する原因は、普通の人とのつながりの欠如にあると、イングさんは主張する。
「中国政府に関する限り、中国が香港を従わせられない根本原因には、若い人たちの間に、自分たちは中国の一部だとの認識がないことがあります。そう思わせる最善の方法は、若年期に愛国心を植え付けることです。中国政府にとっては、それが究極の解決法です。しかし、あなたを愛するよう人を強制はできません」
返還20周年記念の祝賀の中、もし奇跡が起こって習主席に話すチャンスがあったら、単刀直入に伝える、とイングさんは言う。
「香港を統治したいなら、非常に簡単な答えが一つあります。私たちを放っておくこと。私たちが求めているのはそれだけです。中国の一党支配体制を終わらせることに関心なんてありません。ただ私たちらしい生き方がしたいだけ。だから緩和して欲しい。香港に強いるのは止めて欲しい。強いられたら、私たちは抵抗します」
(英語記事 Beijing's struggle to win Hong Kong's young hearts)
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