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金正恩が「核放棄」の意思を明確に。どこまで信用できるのか
国際
2018.03.09
by 北野幸伯『ロシア政治経済ジャーナル』
平昌五輪をきっかけに、急速に改善に向かっているとも見られる朝鮮半島情勢。「金正恩氏が非核化の意思を明確にした」との報道も。しかし、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんは「北が核放棄に応じるとは考えられない」と厳しい見方を示し、その理由についても詳述しています。
南北首脳会談へ 金正恩の本音は???
皆さんご存知と思いますが、金正恩は3月5日、訪朝した韓国の鄭義溶国家安保室長ら特使団と平壌で会談しました。何が決まったのでしょうか? 毎日新聞3月6日から。
韓国大統領府は6日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が4月末に、南北軍事境界線にある板門店(パンムンジョム)で首脳会談を開催することで合意したと発表した。
大ニュースですね。4月末に、文さんと金さんが、板門店で会談すると。
首脳間のホットライン設置でも一致した。
(同上)
これからは、文さんと金さん、ホットラインで直接話せるようになる。
北朝鮮側は韓国が派遣した特使団に対し、米国との非核化をめぐる協議と米朝関係正常化のための対話に応じる用意があると表明するとともに、
(同上)
アメリカと「非核化」に関する対話をする用意がある。
さらに、北朝鮮は「朝鮮半島非核化の意思を明確にした」といい、北朝鮮に対する軍事的脅威が解消されて体制の安全が保証されれば核保有の理由がない、と明らかにした。核兵器だけでなく通常兵器で韓国を攻撃しないことも確約した。
(同上)
これも仰天です。「朝鮮半島非核化の意思を明確にした」そうです。つまり、あれだけ大金と情熱を注ぎこんで開発を進めてきた核兵器を放棄する意志があると。もちろん、放棄の条件がある。
軍事的脅威が解消されて体制の安全が保証されれば核保有の理由がない
(同上)
対話が続いている間は核実験や弾道ミサイル発射を凍結する意思を示した。また、米韓が4月からの合同軍事演習を例年と同じ規模で実施することを「理解する」と表明した。
(同上)
北朝鮮は、挑発を止める。そして、米韓合同軍事演習の実施を容認する。金正恩の本音は、なんなのでしょうか?
金正恩の本音は?
金正恩の提案、実は「プーチン案」と同じです。それは、
・北朝鮮は、核兵器を放棄する
・アメリカは、北朝鮮の体制を保証する
・中国、ロシア、国連は、この合意が実施されることを監視し、保証する
このプーチン案は、現実化されれば、すべての国に恩恵をもたらします。なぜ?
・日本、アメリカ、韓国は、北の核の脅威がなくなり幸せ
・北は、金王朝存続を認められて幸せ
・中国、ロシアは、「緩衝国家=北朝鮮」が存続して幸せ
では、なぜ「すべての国にとってよい」プーチン案は採用されないのでしょうか?
03年、リビアのカダフィは、「核開発放棄」を宣言しました。それで欧米とリビアの関係は、劇的に良くなった。しかし、米英仏は2011年、リビアを攻撃。結局カダフィは、殺されました。こういう経緯があるので、金正恩は、アメリカを信用できない。
一方でアメリカも、「北は支援を受けながら、核開発を続けてきた。だまされた!」と憤っている。結局、アメリカと北朝鮮の相互不信が強すぎて、なかなか進展しないのです。
私は、金正恩が、「命綱」の核兵器を放棄することはありえないだろうと思います。では、なぜ金は「非核化の準備がある」とか「アメリカと対話したい」と言うのでしょうか?
考えられるのは、「時間稼ぎ」です。思い出してみましょう。金は1月1日、「米本土を核攻撃できるICBMは完成している。実戦配備を命じた」と声明を出しました。これ、アメリカ国防総省や情報機関は、「北は、まだ米本土を核攻撃できないが、年内に可能になる可能性がある」としている。それが本当なら、金は「開発のための時間稼ぎ」が必要になります。
もう一つの可能性は、「制裁でかなり苦しくなってきている」。北朝鮮は、国連安保理の決議をバンバン破って、核実験、ICBM実験を続けてきた。「緩衝国家」を維持したい中国、ロシアは、北を守っていますが、世界を敵にすることもできないので、制裁は徐々に強化されてきている。苦しくなったので、「対話して制裁を緩和させよう」としている?
もう一つの可能性は、「プーチンがアドバイス」した? 思い出してみましょう。2013年8月、オバマは、「化学兵器使用」を理由にシリア・アサドを攻撃しようとしました。この時、プーチンが仲介に入り、「化学兵器を放棄するから、戦争はするな」と説得した。結果、アメリカのシリア・アサド攻撃はなくなり、アサドは生き残っている。それどころか、反アサド派、ISをほぼ駆逐し、シリアの大半を支配するに至っている。
プーチン・ロシアが、そんな例を出して、「俺たちが守ってやるから、安心しろ」とアドバイスしたのかもしれません。あくまで想像ですが。
「対話ムード」をぶち壊したいアメリカ
この件、アメリカはどうなのでしょうか? まず、トランプさんは、こんなことを言っています。
トランプ米大統領は6日、ホワイトハウスで記者団に対して、北朝鮮が韓国との首脳会談の実施で合意し、朝鮮半島の非核化に向けた米朝協議の用意があると表明したことについて、「非常に前向きだ」と評価し、「(事態が改善すれば)世界や北朝鮮、朝鮮半島にとって素晴らしいことだ」と述べた。
(毎日新聞3月7日)
「素晴らしいこと」だそうです。しかし、一方で「米韓合同軍事演習」の再開が発表されました。
合同軍事演習「平昌パラ後に再開」 米高官、5月中旬めど
3/7(水)7:32配信
【AFP=時事】(更新)米政府高官は6日、平昌冬季五輪・パラリンピック後に延期された米韓合同軍事演習について、米国は再開する方針だと明言した。
ただしこの件については、金正恩も「理解する」としています。「軍事演習が実施されても、ミサイルはぶっ放さない」ということですね。さらに、アメリカは6日、「独自追加制裁」を発表しました。理由がすごい。
米政府、金正男氏暗殺で「VXガス使用を命令」と北朝鮮に追加制裁
BBC NEWS 3/7(水)11:42配信
北朝鮮の最高指導者・金正恩氏の異母兄、金正男氏が昨年2月にマレーシア・クアラルンプールで殺害された事件について、米政府は6日、北朝鮮が猛毒のVXガスによる殺害を命じたものと結論し、追加制裁を導入すると発表した。
金正恩が、兄の金正男をVXガスで殺したので、追加制裁する。まさに3月6日に発表されたことに意味がありますね。「韓国は、悪魔のような男と取引しているのだ」と、世界に示したいのでしょう。アメリカ、本音では「対話に反対」なようです。
北朝鮮核問題の現状を見ると、
・中国、ロシア、韓国、北朝鮮は対話派
・アメリカ、表向きは対話を歓迎しつつ、本音では反対
・日本、圧力派
となっています。今後どうなっていくかわかりませんが、日本は、トーンをアメリカに合わせていく必要があるでしょう。「圧力!」「圧力!」と繰り返すだけでなく、「本当に非核化につながる対話ならば、歓迎する」と言うべきです。そうでなければ、「日本だけ好戦的」になってしまいます。
image by: Flickr
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