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対北朝鮮「ミサイル防衛」も「敵基地攻撃」も驚くほど非現実的である 結局、日本がやるべきことは?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51364
2017.04.05 半田 滋 現代ビジネス
自衛隊も反対したPAC3導入
自民党政務調査会は、北朝鮮が進める核実験とミサイル開発を「深刻な脅威」として、弾道ミサイル迎撃のための新規ミサイルの導入と敵基地反撃能力の保有を提言にまとめ、安倍晋三首相に提出した。
自衛隊のミサイル防衛(MD)システムを充実させ、同時に攻撃力も持てとの主張はもっともらしくみえるが、「力には力」で対抗する論理はつねに相手を上回る防御力と反撃力を持つ必要があり、現実的ではない。
日本のMDシステムは、開発した米国が勧める通りに導入した。飛来する弾道ミサイルをイージス護衛艦から発射する艦対空ミサイル「SM3」で迎撃し、討ち漏らしたら地上配備の地対空ミサイル「PAC3」で対処する。
北朝鮮の弾道ミサイル迎撃を想定すると、イージス護衛艦「こんごう型」4隻のうち、2隻を日本海に配備する。搭載するSM3は1隻あたり8発とされ、1発の弾道ミサイルに対し、万全を期すために2発のSM3を発射する場合、対処可能な弾道ミサイルは8発程度となる。
では、北朝鮮は弾道ミサイルを何発持っているだろうか。
2013年5月、米国防総省が発表した「朝鮮民主主義人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する報告」によると、日本まで届く弾道ミサイルは「スカッドC」(九州北部、中国地方)、「スカッドER」(本州全域)、「ノドン」(日本全域)の三種類あり、合計250基以上の発射器を保有するとしている。
一斉に発射されれば、イージス護衛艦ではたちまち対処不能となり、PAC3が「最後の砦」となる。
だが、自衛隊はPAC3を32基を保有するにすぎない。2基1セットで活用するので防御地点は16ヵ所に限定される。防衛省は首都防衛に6基使うため、PAC3で防御できるのは残り13ヵ所。しかも1ヵ所あたりの防御範囲は直径約50キロと狭い。
米軍が沖縄県の在日米軍基地を防衛するため嘉手納基地にPAC3を24基配備しているのと比べ、日本列島全体を32基で守ろうというのは破れ傘、いや骨だけの傘で雨をしのごうというのに等しい。
これが日本のMDの現実である。
軍事的合理性や費用対効果の面から当初、自衛隊の制服組はMD導入に反対した。これに対し、2002年当時の守屋武昌防衛事務次官は「米国はMD開発に10兆円かけた。同盟国として支えるのは当然だ」と主張して導入の旗を振り、「防衛庁の守護神」といわれた山崎拓元防衛庁長官が後押しする形でMD導入は翌03年に閣議決定された。きっかけは対米追従だったのだ。
導入が決まると「MDシステムは相手に弾道ミサイル攻撃を思いとどまらせる拒否的抑止の効果がある」など後付けの理屈が考案されたが、「効果がある」のは意図を汲んでくれる相手でなければならない。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長はそんな人物だろうか。
「やられる前にやれ」の根拠
今回の自民党提言は、地対空ミサイルのイージスアショア(陸上配備型イージスシステム)やTHAAD(高高度地対空ミサイル)の導入を提言しており、「現状は不十分」と認めたのと同じことだ。問題はカネである。
現在のMDシステムは初期配備に1兆円、その後の改修などを含めれば1兆4000億円の防衛費を投じた。イージス護衛艦、地対空ミサイル「パトリオット」という自衛隊保有の武器を改修したにもかかわらず、これほどの出費を強いられた。
一から導入するイージスアショア、THAADが極めて高額の防衛費を必要とするのは自明だろう。
しかも米政府の提示する価格、納期で購入が義務づけられる対外有償軍事援助(FMS)となるのは確実なため、「いつ、いくらでどう提供するか」は米政府次第となり、武器を媒介にした米国による日本支配が強化されるのは間違いない。トランプ米政権の掲げる「アメリカ・ファースト」を後押しすることにもなろう。
あらたに追加配備したとしても100%の迎撃は困難だ。北朝鮮は3月、中距離弾道ミサイル4発を同時に発射し、うち3発を日本の排他的経済水域に落下させた。
MDシステムは遠方の弾道ミサイルを補足するためレーダー波を絞り込み、限られた範囲しか見えなくなるため、連射には対応できない。3月の4発連射はそうした弱点を北朝鮮が熟知していることを示したといえる。
日本列島には休止中も含め54基の原発がある。使用済み燃料棒が原発建屋の天井近くに保管されている事実は、東日本大震災の福島第一原発の事故で世界中に知れ渡った。通常弾頭であっても命中すれば、放射性物質の拡散により大惨事となるおそれがある。
また核弾頭を搭載したミサイルであれば、落下地点やその周辺一帯が壊滅的打撃を受けるのは確実である。
自民党提言は、迎撃失敗による甚大な被害が生じる可能性にはまったく触れず、MDシステムをもっと強化しろと主張する。
だが、弾道ミサイルとMDシステムは「矛」と「盾」の関係にあり、競い合いには際限がない。MDシステムを強化すれば、日本攻撃を意図する他国は、この「盾」を打ち破る「矛」を必ず開発するはずである。
そうしたジレンマの解消策だろうか、自民党提言は「敵基地反撃能力」との呼び方で敵基地攻撃能力の保有も主張する。あえて反撃としたのは先制攻撃ではないかとの批判を避ける狙いであろう。
いずれにしても弾道ミサイルが落下する前に発射基地を攻撃する能力を持つべきだ、との主張で、有体にいえば「やられる前にやれ」というのだ。
根拠にしたのが1956年鳩山一郎内閣が示した政府見解である。「誘導弾等の攻撃を受けて、これを防御するのに他に手段がないとき、独立国として自衛権を持つ以上、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨ではない」として敵基地攻撃を合憲とした。
1990年代以降、北朝鮮による弾道ミサイルの発射が繰り返されるたび、主に自民党議員が敵基地攻撃能力の保有を求めてきたが、政府は自衛隊が保有できる兵器を「自衛のための必要最小限度のものでなければならない」とし、「自衛隊には敵基地攻撃能力はない」と答弁してきた。
本当に「ない」のだろうか。
基地攻撃は簡単ではない
かつては航続距離が長いと周辺国の脅威になりかねないとの理由から、米国から導入したF4戦闘機から空中給油装置を取り外した。
だが、1980年代に調達したF15以降の戦闘機は空中給油装置を外すことなく、飛びながら燃料供給できる空中給油機も導入、航続距離の問題は解消した。
戦闘機を指揮する管制機能を持つ空中警戒管制機(AWACS)については、1976年に函館空港へソ連の戦闘機が強行着陸した事件をきっかけに、まずE2C早期警戒機を買い入れた。次にE2Cでは能力不足として、高性能のAWACS導入を実現した。
敵基地攻撃は、戦闘機が空中給油を受けながら長距離を飛行し、AWACSの管制を受ける。敵基地が近づくと電子戦機が妨害電波を出して地上レーダーや迎撃機をかく乱させるなど複数の航空機を組み合わせる必要がある。
航空自衛隊で保有していないのは、電子戦機だけだったが、2008年から2人乗りのF15DJ戦闘機を改修して電子妨害装置を搭載する開発に取り組み、成功した。
最後は敵基地への爆弾投下である。航空自衛隊は2005年から日本の演習場ではできない実弾の投下訓練をグアムで開始した。当初は通常の爆弾だったが、2012年から衛星利用測位システム(GPS)衛星を利用した精密誘導装置付き爆弾(JDAM)に切り替え、精度を増した。
より正確な爆撃のため、2014年にはイラク戦争で米軍が使ったのと同じタイプのレーザー光線で誘導するレーザーJDAMを導入。この年の日米豪共同訓練で、F2戦闘機が投下し、目標に命中させている。
現在、自衛隊が保有する航空機や爆弾を組み合わせれば、米軍に近い敵基地攻撃能力を持つことになる。自民党提言は巡航ミサイルの保有も挙げており、攻撃態勢はさらに充実することになる。
だが、北朝鮮の基地攻撃は簡単ではない。
日本が壊滅するおそれがあるならば
攻撃対象となる弾道ミサイル基地は、日本海に面した東岸の舞水端里(ムスダンニ)、黄海に面した西岸の東倉里(トンチャンニ)である。どちらも中国国境に近く、航空機で攻撃に向かえば公表されていない中国の防空識別圏に接近、もしくは入り込むおそれがある。
とくに2000年以降に建設された東倉里の基地は、中国国境の鴨緑江河口から約80キロと近く、東倉里を狙った攻撃が中国を刺激するのは確実となる場所に置かれている。
また2014年以降の短・中距離弾道ミサイルが発射された地点は、東岸の元山(ウォンサン)付近、西岸の粛川(スクチョン)付近、平壌(ピョンヤン)の南方約100キロ、南部の開城(ケソン)付近、西岸の海州(ヘジュ)の西方約100キロ、西岸の南浦(ナンポ)付近と散らばり、攻撃された場合を想定して目標を絞らせない実戦的な運用が始まっている。
2015年以降は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発が進み、16年5月新浦(シンポ)沖からSLBMの発射に成功、攻撃能力の多様化と残存性の向上を図っている。
航空自衛隊の元将官は「北朝鮮の基地は7割が地下化されており、偵察衛星でも完全には補足できない。山に横穴を空けて移動式の弾道ミサイル発射器を隠した場所もある。地上部隊の派遣を抜きにすべてのミサイル基地を破壊するのは困難だろう」と話す。
自衛隊が装備体系を攻撃型に変えたとしても実効性に疑問符が付くというのだ。攻撃目標を探す間に弾道ミサイルは日本列島に飛来することだろう。
そもそも56年の鳩山見解は「他に手段がない」場合に限って敵基地攻撃を合憲と認めている。外務省は日米安全保障条約第5条を「米国による対日防衛義務」と解釈しており、米軍の打撃力に頼るという選択肢がある以上、敵基地攻撃の出番はない。とはいえ、米国に北朝鮮攻撃を求めろ、というのが本稿の狙いではない。
ここで北朝鮮の言い分にも耳を傾けてみよう。
「イラク、リビア事態は、米国の核先制攻撃の脅威を恒常的に受けている国が強力な戦争抑止力を持たなければ、米国の国家テロの犠牲、被害者になるという深刻な教訓を与えている」(2013年12月2日『労働新聞』)
北朝鮮の核・ミサイル開発はイラクやリビアの二の舞にならないための「強力な抑止力」というのだ。そして求めるのは米朝間の平和協定締結であることは以下の演説からわかる。
「米国の敵視政策の清算は、わが共和国に対する自主権尊重に基づいて米朝間の平和協定を締結し、各種の反共和国制裁と軍事的挑発を終えるところからまず始めるべきである」(2013年7月2日第20回東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)閣僚会合、北朝鮮の朴宜春(パク・ウィチュン)外相の演説)
日本がとるべき道は、北朝鮮への先制攻撃も視野にいれるトランプ政権に対し、外交的アプローチの強化を求めることではないだろうか。
トランプ政権は、北朝鮮が非核化措置をとらない限り、対話に応じないとするオバマ前政権の「戦略的忍耐」は失敗に終わった、と判断した。であるならば、安倍政権に求められるのは、以下のように米国を説得することだろう。
「北朝鮮との対話に乗り出し、交渉の過程で核放棄とミサイル開発の中止を求め、見返りに平和協定を結んで北朝鮮に『米国は攻撃しない』という保障を与えるべきだ」と。
米国、北朝鮮どちらの国が軍事オプションを選択したとしても、全面戦争に発展しかねない。そうなれば北朝鮮の弾道ミサイルが飛来し、日本が壊滅してしまうおそれがあることはみてきた通りであるからだ。
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