http://www.asyura2.com/16/warb19/msg/839.html
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F22戦闘機24機とB2爆撃機10機で北朝鮮の核粉砕
アメリカ現代政治研究所
真剣に「軍事的対応」を検討し始めたトランプ政権
2017年3月27日(月)
高濱 賛
米軍のF22戦術戦闘機(写真:ロイター/アフロ)
米国では、レックス・ティラーソン米国務長官の日中韓歴訪をどう評価していますか。同長官が歴訪中に「北朝鮮次第で、軍事的対応も辞さず」と発言したことに対し北朝鮮は「いかなる戦争にも対応できる意志と能力がある」(3月20日北朝鮮外務省報道官)と反発しています。
高濱:ティラーソン長官は、就任して以来1回も記者会見をしていません。外交面では、ドナルド・トランプ大統領の過激なツィッター発言*ばかりが目立っていました。
*:トランプ大統領は3月17日にもツイッターで「北朝鮮は悪事を働いている。中国は(北朝鮮問題で)ほとんど協力していない」と中国を批判している。
米国民は、ティラーソン長官について、エクソンモービルの元会長でロシアのウラジミール・プーチン大統領と個人的に親しいことぐらいしか知りません。
同長官は、軍人出身のジェームズ・マティス国防長官にすっかり水をあけられています。マティス国防長官はすでに日韓を訪問して一定のインパクトを与えました。口の悪い外交関係筋の中には、「影の薄い国務長官」(米主要シンクタンク上級研究員)などティラーソン国務長官の陰口を叩く者もいます。
今回のティラーソン国務長官の東アジア歴訪は、汚名を返上する絶好のチャンスでした。
「オバマ前政権の対北朝鮮政策は完全な失敗」
ティラーソン国務長官が日中韓を歴訪した狙いの一つは、「オバマ前政権の対北朝鮮政策は失敗だった」と内外に公言し、「新たなアプローチで臨む」と宣言することでした。そのこころは、「北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返すなら軍事行動も辞さず粉砕する」という決意表明です。
マティス国防長官の後塵を拝した「米外交の司令塔」、ティラーソン国務長官の初めての東アジア歴訪の最大の懸案は何だったか。ギクシャクしている米中関係を正常化することと、瀬戸際外交を続ける北朝鮮への対応を日米ですり合わせることでした。
韓国は朴槿恵大統領(当時)の弾劾で政局は流動的。米国としては、最新鋭ミサイル迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の在韓米軍への配備を急ぐ必要がありますが、韓国の暫定政権と交渉しても進みません。
ティラーソン国務長官は韓国滞在中、韓国政府高官と昼食も夕食も共にしませんでした。夕食は一人で食べたと言っています。「現実」を反映したビジネスライクな対応でした。
ティラーソン訪中の評価は二分
中国の習近平国家主席ら最高指導者との会談の成果について、米国ではどう受け止められていますか。
高濱:トランプ大統領は、「一つの中国」という米中合意の基本原則に疑義を唱えたり、安全保障や経済の面から中国を批判したりしてきました。トランプ大統領と習国家主席との電話対談で関係改善に一応一致したものの、双方ともに疑心暗鬼。それを解消するのがティラーソン国務長官のミッション(任務)でした。そのうえで、対北朝鮮問題について習国家主席からポジティブな反応を引き出しかったわけです。
その結果はどうだったか。米国内での評価は二分しています。
米ロサンゼルス・タイムズのジェシカ・マイヤーズ北京特派員は極めて辛い点数をつけています。
「中国は、『北朝鮮の挑発行為に対して米国は軍事行動も排除しない』としたティラーソン長官の主張を一蹴。トランプ政権の対中関係改善の真意を試そうとした。中国メディアは会談後、『中国外交の勝利』だと宣伝している」
("China pushed back on tougher U.S. approach to North Korea." Jessica Meyers, Los Angeles Times, 3/18/2017)
マイヤーズ記者はさらにこう解説しています。
「ティラーソン国務長官と習国家主席以下の中国指導部は、北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止すべく米中が協力することで一致したものの、米国の強硬姿勢には猛反発、従来通りの対話重視を求めた。そのうえで北朝鮮には一定の影響力を持つ中国が北朝鮮にさらなるプレッシャーをかけることに関しては明言を避けた」
中国は「相互尊重」「ウィン・ウィン」発言を高く評価
一方、ティラーソン訪中を評価するメディアもあります。米ワシントン・ポストのサイモン・デニヤー北京特派員はこう分析しています。
「ティラーソン国務長官の訪中は中国最高指導部との建設的かつ結果重視志向の関係を築くのが狙いだった。これに対して中国は、トランプ政権が対北朝鮮に対し軍事行動の可能性を示唆しているにもかかわらず、ティラーソン長官を歓迎した。習国家主席は、ティラーソン国務長官に『あなたは、米国の政権交代をスムーズにするために積極的な努力をされてきた。米中関係は協力と友好によってのみ定義づけられるというあなたのコメントを評価したい』と述べた」
「ティラーソン国務長官は、公の場では中国最高指導部が好んで使う『相互尊重』『ウィン・ウィン協力関係』(持ちつ持たれつの共存関係)というフレーズを使った。これは中国にとって驚きだった。ティラーソン国務長官はその一方で、非公開の席上では、対北朝鮮問題や米中貿易不均衡問題に対する中国の対応を厳しく批判したはずだ」
("In China debut, Tillerson appears to hand Beijing a diplomatic victory," Simon Denyer, Washington Post, 3/18/2017)
ティラーソン国務長官は、トランプ大統領の就任でギクシャクした米中関係を正常化し、切迫する北朝鮮情勢での連携を強化するための下地作りには成功。それを受けて4月の米中首脳会談に向けた調整に漕ぎつけたと、デニヤー記者はみるわけです。
国務省を担当する米主要紙のベテラン記者はデニヤー記者の見解に同意して、筆者にこう指摘しました。「ティラーソン国務長官は対中交渉では百戦錬磨のビジネスマンらしいアプローチを見せたように思う。前例を重んじる職業外交官にはできない交渉術だ。相手のメンツを立てつつ、こちらの言いたいことはばしっと言ったようだ。王毅外相や楊潔篪国務委員とは、中国が対北朝鮮石炭輸入禁止などでもっと圧力をかけるべきだと釘を刺したに違いない」
直ちには実施できない「軍事的選択」
ティラーソン国務長官は歴訪中に対北朝鮮問題で「軍事的選択」をちらつかせました。北朝鮮が瀬戸際外交を続ける場合、米国は本当に対北朝鮮で軍事行動に出る可能性があるのでしょうか。
高濱:「軍事的選択」発言の狙いは、北朝鮮の金正恩委員長に揺さぶりをかけることにあります。
金委員長は最高指導者になって5年の間に、核実験3回、ミサイル発射実験は30回以上も実施しています。なぜ、経済難が続く中で、核開発やミサイル開発にそこまでこだわるのか。
米専門家の中には、「若輩で何ら実績のない金委員長にとって、偉大な指導者としての地位を確立する手段はこれしかない」(元米国務省高官)といった指摘があります。また「北朝鮮が金正男氏を暗殺したのは、正男氏の後ろ盾になっていた中国が正男氏を担ぎ出すのではなかろうか、という疑心暗鬼があった」(米シンクタンクの北朝鮮問題専門家)と分析する向きもあります。
北朝鮮の瀬戸際外交は、同国の内政に大きく関わり合いを持っているという認識です。ということは、米国が「軍事的選択」に踏み切る時には、北朝鮮の核・ミサイル施設を攻撃してそれで「終わり」というわけにはいきません。核施設を粉砕し、ミサイル施設を全滅させたあとの北朝鮮がどうなるのか。当然、金正恩体制が崩壊する事態も視野に入れる必要があります。
北朝鮮は在日米軍基地を核の標的にしていると公言しています、したがって米国は当然、日本や韓国の出方も見極めなければならない。日本政府は日米軍事同盟の深化を強調していますが、万一、北朝鮮が報復措置として日本の原発や自衛隊基地を標的にする事態になったらどうなるでしょう。
韓国は5月には革新派が大統領になりそうです。米軍による北朝鮮攻撃に猛反対するでしょう。
ティラーソン国務長官が「軍事的選択」発言をした直後に、北朝鮮は新型ロケットエンジンの燃焼実験に成功したと発表しています。このエンジンを使った長距離弾道ミサイルの発射実験を近く行うことも示唆しています。
金委員長はまったく空気が読めないのか。それとも突っ走るほか選択肢がないのか。
核・ミサイル基地攻撃機は在韓、在日米軍基地から発進
米国は「軍事的選択肢」としてどういった軍事作戦を検討しているのでしょう。
高濱:「ストラティジック・フォーキャスティング社」(Stratfor)*は、米軍が北朝鮮を攻撃する際の具体的な軍事作戦について分析しています。
それによると、北朝鮮の防空網は旧式で、米軍のB2ステルス爆撃機やF22戦術戦闘機の侵入を探知するのは極めて困難だとしています。
*:国際軍事・経済・政治の動向を予測分析する有力民間調査機関として定評がある。
具体的には、米軍が北朝鮮の核施設を攻撃し破壊するには大型貫通爆弾*(Massive Ordnance Penetrator=MOP)や誘導爆弾GBU-32**(Joint Direct Attack Munition=JDAM)を搭載したF22戦術戦闘機24機とB2戦略爆撃機10機もあれば十分だと分析しています。
F22戦術戦闘機は在韓米軍基地や在日米軍基地、空母から発進することになります。
北朝鮮攻撃となれば、在日米軍基地が重要な役割を演ずることになります。北朝鮮が在日米軍基地を標的にすると宣言しているのも頷けるというものです。
*:MOPは1万3600キログラムの「バンカーバスター」精密誘導爆弾(制式名称はGBU-28)。貫通力は30メートル、強固な地下要塞、地下に配備された弾道ミサイル、地下指令所の精密機器破壊用として開発された。
**:JDAMは、無誘導爆弾に精密誘導能力を付加する装置で、無誘導の自由落下爆弾を全天候型の精密誘導爆弾(スマート爆弾)に変身させることができる。イラクやアフガニスタンで使用された。
("What the U.S. Would Use to Strike North Korea," Analysis, Stratfor, 1/4/2017)
トランプが攻撃決定を決める時
トランプ大統領が北朝鮮攻撃を決断するのは、どんな状況になった時でしょうか。
高濱:ティラーソン国務長官は今回の歴訪時に二つのケースを上げています。一つは、北朝鮮が韓国軍あるいは米軍に脅威を与える行動に出た時。二つ目は、「米国が行動しなければならない」という段階にまで北朝鮮が兵器装備計画をレベルアップさせた時です。
北朝鮮に対して米国が軍事行動を取る狙いは、あくまでも核開発阻止です。第二次朝鮮戦争に陥る事態は絶対に回避するのが大前提です。しかし核とミサイルを失った北朝鮮はどうなるのか。北朝鮮を攻撃する時にはそれによって生じるコンセクエンス(必然的な結果)についても考えなければなりません。
確かに、米国内にも軍事行動に出ることを疑問視する向きがあります。事態が悪化した場合は、とりあえず、対北朝鮮経済制裁の強化に踏み切るでしょう。トランプ政権内部は北朝鮮を国際金融から排除する広範囲な制裁措置を検討しています。北朝鮮と取引がある第三国で活動する中国企業などを制裁対象にする案が有力視されています。イランに対して実施した制裁と同じようなものです。
忘れてならないのは、トランプ大統領はオバマ前大統領ではないことです。何をやりだすか、予想不可能なのがトランプ大統領です。本当に怒り出したら何をやりだすか分かりません。大統領を取り巻くスティーブ・バノン首席戦略官ら超側近はタカ派ばかりです。
「そのへんを甘く見て、金委員長が火遊びを続けていると、何が起こるか、わからんぞ」。ホワイトハウス中枢を良く知るワシントンのジャーナリストの一人は、筆者にこう囁きました。
("Adult Supervision: Secretary Tillerson in Asia," Stephan Haggard, PIIE, 3/20/2017)
このコラムについて
アメリカ現代政治研究所
米国の力が相対的に低下している。
2013年9月には、化学兵器を使用したシリアに対する軍事介入の方針を転換。
オバマ大統領は「米国は世界の警察官ではない」と自ら語るようになった 。
2013年10月には、APECへの出席を見送らざるを得なくなった 。
こうした事態を招いた背景には、財政赤字の拡大、財政赤字を巡る与野党間の攻防がある。
米国のこうした変化は、日本にとって重要な影響を及ぼす。
尖閣諸島や歴史認識を巡って対中関係が悪化している。
日本にとって、米国の後ろ盾は欠かせない。
現在は、これまでに増して米国政治の動向を注視する必要がある。
米国に拠点を置いて20年のベテラン・ジャーナリスト、高濱賛氏が米国政治の最新の動きを追う。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/261004/032400039
サウジが恐れるのは「石油の枯渇」ではない
石油「新三国志」
サルマン国王が46年ぶり訪日、戦略的パートナーシップを締結
2017年3月27日(月)
橋爪 吉博
サウジアラビアのサルマン国王(左)は2017年3月に来日し、安倍晋三首相と会談した(写真:ロイター/アフロ)
石油大国・サウジアラビアのサルマン国王が、3月12〜15日の間、マレーシア・インドネシア・ブルネイ・中国の東アジア歴訪の一環として、訪日した。サウジ国王としては46年振り、サルマン国王自身は3年振り3回目である。羽田空港に空輸されたエレベーター方式のタラップ、1000名を超える随行者、400台に及ぶハイヤー借り上げ、都心ホテル・百貨店の特需などが大きな話題となった。
13日の安倍総理との首脳会談では、サウジの経済改革「ビジョン2030」実現への協力、両国関係の「戦略的パートナーシップ」への引き上げが確認された。さらに14日には両国首脳が立ち会いの下、多数の経済協力プロジェクトに関する覚書が署名された。
外務省と経済産業省が公表した「日・サウジ・ビジョン2030(Saudi-Japan Vision 2030)」
第2回の石油「新三国志」は、石油大国・サウジの国内経済改革の概要とその背景を紹介するとともに、国際石油市場の変容とサウジの石油政策を踏まえた、新しい時代の日本・サウジ関係を考えてみたい。
経済改革「ビジョン2030」
2015年1月にサウジアラビア王国第7代国王に即位したサルマン国王は、同年4月、第7男のムハンマド国防相を副皇太子(当時29歳)に抜擢、経済関係閣僚を統括する経済開発諮問会議の議長に任命し、国内の経済・財政・社会改革に着手した。2015年4月25日には、2030年を見据えた国家のあり方・方向性を示した「サウジアラビア・ビジョン2030」を閣議決定した。同ビジョンは、米コンサルタント会社マッキンゼーの報告書「石油後のサウジアラビア」をベースに、経済開発諮問会議が検討し取りまとめたものである。
ビジョンは、まず、サウジが目指す国家の理念・目標として、アラブ世界・イスラム世界の中心、投資立国、アジア・欧州・アフリカ3大陸のハブ、の3点の実現を掲げている。次に、改革の内容として、活力ある社会、繁栄する社会、野心的な国家、の3つの分野における改革項目が数値目標とともに明示された。
ビジョン2030の主要項目
ビジョンの基本的な考え方は、経済・財政における石油依存からの脱却である。ムハンマド副皇太子は、ビジョン発表の記者会見で、「石油収入への依存は石油中毒で有害である」とし、「サウジの収入の源泉を原油から投資に変える」、「2030年には原油なしでも生き残る」と述べた。
ビジョン上で明記されているわけではないが、ビジョン実現のための手段、財源として想定されているのは、国営石油会社サウジ・アラムコの株式新規公開(IPO)である。ムハンマド副皇太子によれば、アラムコ株式の5%未満の内外株式市場への上場を通じて、1000億円規模の資金を調達するとともに、残りの資金は、本格的な政府ファンド(SWF)に改組される「公共投資基金」(PIF)に移管されるとしている。
なお、公共投資基金は、2016年10月、孫正義氏率いるソフトバンクと1000億ドル規模の投資基金設立で合意した。孫氏は、投資立国サウジアラビアの大きな一翼を担うわけであり、今回の訪日時にも、サルマン国王と単独会談を行っている。
また、アラムコ上場に当たっては、東京証券取引所も上場取引所として名乗りを上げており、日本政府も後押ししている。さらに、政府は、石油天然ガス・鉱物資源機構(JOGMEC)法を改正し、アラムコ上場を視野に入れ、海外の国営石油会社への出資も可能となるようにした。
体制整備と国家変革計画(NTP)
ビジョン実現のための体制整備として、2016年5月7日には、大規模な省庁再編と内閣改造が行われた。その際、石油・鉱物資源省はエネルギー・工業・鉱物資源省に改組され、石油だけでなく工業政策全般も所管することとなり、大臣も20年来OPEC(石油輸出国機構)の顔として活躍したナイミ氏から、副皇太子に近いといわれる保健相兼アラムコCEOのファリハ氏に交代した。
そして、6月6日には、ビジョン2030の内容を各省庁別に具体的な5カ年計画として、経済開発諮問会議で取りまとめた「国家変革計画」(National Transformation Plan)が閣議決定された。
同計画の具体的数値目標としては、財政関連では、非石油歳入の3倍増、公務員給与の削減(64億ドル)、水道・電気料金の引き上げ(30億ドル)、有害品への新規課税等、社会経済関係では、民間部門の雇用創出(45万人)、非石油輸出の倍増等、エネルギー関係では、原油生産能力の維持(1250万BD)、国内石油精製能力の増強(290万⇒330万BD)、天然ガス生産能力の増強(120億⇒178億立法フィート)、等が盛り込まれた。
その後、改革の実質的責任者であるムハンマド副皇太子は、7月には米国とフランス、8月には中国、9月には日本を関係閣僚とともに歴訪し、ビジョンの実現に向けて、各国の協力を取り付けるとともに、父サルマン国王訪問の地ならしを行った。
改革の必要性と背景
一般に、「脱石油」を目指した経済改革は、原油価格の低迷を背景に、石油枯渇後の国家維持を目的とするものと説明されることが多い。しかし、この説明は、間違いでないが、極めて不十分な説明である。
すなわち、今回の原油価格低迷はサウジが主導したOPECのシェア戦略によるものであったし、筆者が知る限り、サウジの王族・テクノクラート・インテリでサウジの石油が枯渇すると考える人は一人もいないからである。
また、サウジの経済・財政改革の必要性は、何も今に始まった話ではなく、常に議論されてきた。特に1980年代半ばの原油価格暴落や1990年代終わりのアジア危機後の原油価格低迷の際には議論されたが、原油価格の回復とともに尻すぼみになってきたと言える。
しかし、今回は、国王自らが息子である王位継承権第2位の副皇太子を責任者として、改革に取り組むこととなった。かつて例を見ない展開である。その背景には、人口増加等サウジ社会の変容(歳出要因)、サウド王室内の危機感の高まり(政治要因)、国際石油市場の構造変化による原油価格政策の見直し(歳入要因)、の3つの要因があると、筆者は考えている。
サウジ社会の変容
まず、サウジの歳出側の事情として、人口増加等の国内社会構造の変化を考えてみたい。
一般に、湾岸産油国は、原油1バレル当たり10ドル以下といわれる安価な生産コストによる豊かな石油収入、「レント」(地代・賃料・剰余利益)を背景に、少数の自国民に対して厚い給付や福祉により、国内安定を図ろうとする「レンティア国家」として、成立していると説明される。さらに、踏み込んで、国民と統治者との間で、厚い給付と引き換えに民主主義や人権の制限を受忍するという一種の社会契約が成立しているとする説明もある。
ところが、サウジでは、1996年の1600万人から2016年の3200万人へと人口の増加が著しい。しかも、周辺の首長国とは異なり、出稼ぎ外国人より自国民比率が高い(サウジ:約7割、UAE・カタール:約2割)ことから、従来の給付水準の維持が難しくなってきている。また、勤労意欲の欠如や職種の選り好みといった問題点はあるものの、失業率も高く、若年層を中心に社会的不満が高まっている。ビジョンにも言及されているように、失業率は11.6%と、先進国での一桁半ばの倍近くで高止まっており、若年層の失業率は約3割に達しているとも言われている。
そのため、ビジョンでは、教育・医療・住宅・食料・公共料金等の補助金や公務員給与の削減など歳出の合理化とともに、若年層・女性の就業促進や失業率低下を正面から取り上げ、さらには、給付に変わる国民に対する福利として、娯楽産業や文化事業の振興を掲げている。
サウジ王室内の危機感
こうした国内社会構造の変化を背景とする政府歳出の拡大と社会的不満の高まりに対して、王室の安定を最優先とする王族においても危機感が高まっていたことは間違いない。特に、サウジ若年層の不満が、アルカイダや「イスラム国」(IS)などの過激派や宗派的に対立するイスラム・シーア派の活動と結びつくことは、王国の政治的・社会的安定に極めて有害である。
加えて、王族内においても、4000人に上ると言われる王族人口の拡大とともに、世代交代の問題が起こっている。サウジの王位は、初代のアブドルアジズ大王の遺言に基づき、国家基本法で大王の直系子孫が継承することとなっており、1932年の建国以来、37人と言われる大王の息子たちが年長者から順に兄から弟に受け継いで来た。そうなると、年を経るに従って、高齢で王位に就くことになる。前代のアブドラ国王の在位は80歳から90歳、サルマン国王も79歳で即位した。そのため、王位をどの時点で、第二世代(子)から第三世代(孫)に移すかが、大きな課題となっている。
そこで、サルマン国王は、即位後、第二世代の異母弟ムクリン皇太子を廃位し、同腹の兄ナイフ元皇太子の息子で、行政手腕に定評のある、第三世代のムハンマド・ビン・ナイフ副皇太子を皇太子に昇格させ、さらに、自分の7男ムハンマド・ビン・サルマンを副皇太子とした(ビン・サルマンはサルマンの息子という意味)。サルマン国王は、改革を成功させて自分の息子ムハンマド副皇太子に王位を継がせたいと考えていると見る向きも多い。確かにそうした意向もあるかも知れない。
しかし、失敗した場合のリスクも大きい。副皇太子の交代だけで済めばまだ良い、最悪の場合は、サウジ王制の危機に直結する。
先代のアブドラ国王も、2011年春の「アラブの春」の湾岸産油国への波及を武力で抑え込んだ決断力のある国王であったが、出自の関係で、王族内の存立基盤は必ずしも十分ではなかった。
しかし、サルマン国王は王族内の最大派閥であるスデイリ・セブン(スデイリ家のハッサ妃を母とする7王子、第五代のファハド国王が長兄、それらの息子たちも政府や軍の幹部として活躍中の者が多い)の1人であり、王族内での存立基盤はかなり強固である。しかも、リヤド州知事時代(1954〜2011年)から、国民的人気も高く、王子から国民投票で国王を選ぶとすれば、サルマン知事であると言われていた。
大きな抵抗が予想される国内改革を進めるためには、国王の権力基盤が強くなければ不可能である。
サウジの原油価格政策
こうした状況の下、経済改革の必要性を決定的にしたのは、サウジの歳入側の要因、2014年夏以降の原油価格の低下であった。
しかし、2014年夏以降の原油価格低下は、シェールオイルを中心とする米国の石油増産、世界的な景気低迷による石油需要増加の減速に加え、OPECのシェア戦略発動による増産が主な原因である。このうち、2014年11月のOPEC総会において、市場の大方の予想に反して行われた、OPECのシェア戦略は、サウジ主導の決定であった。石油収入の確保が必要なサウジが、なぜ、原油価格低下を招くシェア戦略を採用したのであろうか。
シェア戦略とは、OPECが需給緩和に対応して、原油価格維持のために減産しても、シェールオイルが増産され、OPECの市場シェアが減り続けることから、逆にOPECは増産を行うことで、シェールオイルに対抗するというものである。すなわち、価格維持のための需給調整を放棄することで、1バレル当たり50〜100ドルと生産コストが高いシェールオイルを減産に追い込む「価格戦争」を仕掛けた。
原油価格の長期的推移(出所:石油連盟)
サウジの主導でOPECがシェア戦略を発動したのは、今回が初めてではない。1980年代半ばにも、30ドル水準にあった原油価格が2度にわたり10ドル割れを経験したことがあった。この時は、原油高価格を背景に、北海やアラスカ、メキシコ等新規油田の増産と先進消費国における省エネ・燃料転換等による需要減少による需給緩和があり、OPEC内でサウジが減産に耐えられなくなって、シェア戦略を取った。こうしてみると、2014年以降の原油価格低迷は、サウジの「確信犯」と言えるものである。
間違いなく、シェア戦略の発動は、シェールオイル増産に対抗するものである。ただ、サウジの伝統的石油政策から考えると、それだけにとどまらない意図もあるように思われる。
サウジのシェア戦略
伝統的に、サウジ当局者が「シェア」を意識する際には、3つの局面がある。
第一に、OPEC内における自国のシェア確保である。80年代前半には、サウジは「スイングプロデューサー」として、単独でOPEC全体の減産を引き受けた。こうした事態を回避することである。今回は、イランの経済制裁解除による増産分の減産をサウジ単独ではなく加盟各国で分担するということであろう。
第二に、石油市場におけるOPEC原油のシェア確保である。今回のシェールオイルへの対抗は、これに当たる。
第三に、エネルギー市場における石油シェアの確保である。80年代においては、省エネと石油代替エネルギーへの対抗が課題となった。今回はこれに加えて、パリ協定発効など地球温暖化対策の推進への対抗も考えられる。化石燃料関連投資を回避する「ダイインベストメント」という考え方まで出てきた。国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギー展望」(2016年11月)によれば、電気自動車の普及が進めば、2030年代には石油需要のピークを迎えるとする見方もある。
石油時代の終焉
1970年代から80年代前半に「ミスターOPEC」と呼ばれたヤマニ元石油相は、「石器時代が終わったのは石がなくなったからではない」と常に述べていた。石器時代が終わったのは、新しい技術が導入されたからであり、石油の時代が終わるのも、石油が枯渇するからではなく、新技術で石油が代替され、消費者から見向きもされなくなるからである、という意味である。
サウジが恐れる「石油時代の終焉」とは、枯渇ではなく、技術開発による石油代替である。しかも、アッラーの神からの恩恵である石油資源を最後の一滴まで有効活用しようと考えている。
そのために必要なことは、原油価格を上げ過ぎないことと、常に石油安定供給を確保し、消費国の信頼を得ることであろう。サウジアラビアの石油政策が穏健で安定志向であるのは、こうした考え方によるものである。
確かに、昨年末、サウジはOPECと非OPEC主要産油国との協調減産を実現させ、価格水準の底上げを図った。しかし、その意図は、100ドル水準に回復することではなく、50ドル台の水準で安定させようとするものであったと考えられ、現状もそのように推移している。
サウジは、原油価格の低迷で、2015年、16年と2年続けて1000億ドルを超える財政赤字を計上し、昨年10月には史上最高額となる175億ドルに上るドル建て国債を発行した。国際通貨基金(IMF)によれば、サウジの財政収支を均衡させるために必要な原油価格は95ドルと試算され、財政赤字を外貨準備でファイナンスするとしても5年間で底をつくとした。しかし、シェール革命と世界経済の減速による国際石油需給の構造変化の中では、サウジが大幅に減産を受け入れない限り、原油価格の回復は望めない。しかも、電気自動車の普及や水素インフラの整備が今日的課題となってきている中、サウジにとっては、中長期的に、原油価格は上げたくても、上げられない状況になっているのである。
「戦略的パートナーシップ」としての日サ関係
サウジが、2014年11月のOPEC総会でのシェア戦略発動を決めたころ、アブドラ前国王は病床にあり、既にサルマン現国王が皇太子として実権を掌握していたと言われている。また、サウジがマッキンゼーと改革案の検討を開始したのも、2014年中頃と見られる。筆者は、サウジの経済改革の実施とシェア戦略の発動は、セットであったと想像する。
すなわち、サウジの経済改革は、経済・財政の「脱石油依存」を目指すものではあるが、原油価格の現状維持を前提とするものであり、逆説的ではあるが、中長期にわたる石油の安定供給を保証するものであると考えるべきである。
経済改革の実施には、既に、既得権を有する宗教界や官僚が抵抗しているという。王族の一部からも批判的な声が聞こえてくる。
確かに、改革実施のリスクは大きい。しかし、現時点での改革を怠ることのリスクは、それよりはるかに大きい。
国際石油市場の安定を国益と考えるサウジの国内的安定を支援・協力してゆくことは、サウジに原油輸入の34%を依存する我が国にとっても、大きな国益である。
今回、「戦略的パートナーシップ」に引き上げられた日サ両国関係は、明らかに相互補完関係、ギブアンドテイクの関係にある。技術協力や直接投資等を通じた相互依存関係の深化は、長期にわたる石油安定供給の確保にも、極めて有益であろう。
このコラムについて
石油「新三国志」
2016年末、今後のエネルギー業界を揺るがす出来事が重なった。1つはサウジアラビアが主導するOPEC(石油輸出国機構)とロシアなど非加盟国が15年ぶりに協調減産で合意したこと。もう1つは米国内のエネルギー産業の活性化を目論むドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任したことだ。サウジとロシア中心の産油国連合による需給調整は原油価格の下値を支えるが、トランプ政権の規制緩和などにより米シェール業者の価格競争力は高まり原油価格の上値は抑制されるだろう。将来の原油需要のピークアウトが予想される中、米・露・サウジの三大産油国が主導し、負担を分担する新たな国際石油市場のスキームが誕生しつつある。その石油「新三国志」を、石油業界に35年携わってきた著者が解説していく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700114/032400004
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