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ISが支配したモスル近郊の町を攻略し、鹵獲したISの旗を掲げるイラク軍兵士たち(GettyImages)
悪夢のシナリオが現実に、ISとアルカイダが合体も
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9106
2017年3月13日 佐々木伸 (星槎大学客員教授) WEDGE Infinity
トランプ政権は過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を進める一方で、ISのライバルである国際テロ組織アルカイダへの攻撃を激化させている。特にイエメンでは過去最大の空爆回数に及んでいるが、追い詰められたISとアルカイダが合体という悪夢のシナリオが現実味を帯びてきた。
■急襲作戦失敗の批判封じ込め
米軍の今回のイエメンでの空爆は3月2日から始まった。目標はイエメン南部アビヤン、シャブワ、バイダ3県のアルカイダ系分派「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)の拠点で、無人機と爆撃機による攻撃がほぼ1週間連続で続いている。
米軍のイエメンでの空爆がこれまでで最多だったのは2012年の41回。今回はわずか1週間で40回以上を超えており、過去最大になるのは確実だ。AQAPの戦闘員ら多数を殺害しているが、民間人の死傷者も急増している。
イエメンでは反体制派のフーシ派がハディ政権を権力から追放、首都サヌアを掌握した。ハディ政権を支援するサウジがこの内戦に軍事介入、現在もフーシ派への爆撃を続けている。ハディ大統領は同国南部のアデンに政権の拠点を移してフーシ派と対決しているが、こうした混乱の中で、AQAPが南部を中心に地歩を拡大、要衝の港町ムカラを占領した。
AQAPの勢力拡大を懸念した米国とサウジアラビアはアラブ首長国連邦(UAE)の特殊部隊をイエメンに呼び込み、昨年5月、米特殊部隊とUAE部隊がムカラからAQAP戦闘員を撃退した。しかしAQAPは地元の部族勢力との関係を強化して再び勢いを増しているというのが現状だ。
こうした中、トランプ政権下で初の急襲作戦が1月29日真夜中、中部山岳地帯のAQAPの拠点に対して実施された。50分の戦闘で海軍特殊部隊シールズ6の上等兵曹1人が死亡、3人が負傷し、民間人約30人も巻き添えで死亡した。
しかし作戦はうまくはいかなかった。狙っていた幹部らを拘束、殺害できず、またAQAPに対する今後の作戦に役立つパソコンや携帯電話など情報関連機器の押収も十分にできなかったからだ。
このため米国内では、米兵の命を賭けてまで作戦を行う価値があったのかとの批判が噴出、与党共和党のマケイン上院軍事委員長は「作戦は失敗だった」と断言している。特にトランプ大統領が作戦を承認したのは側近らと夕食をとっていた時で、深く検討を加えた上での承認だったのかどうかも問題にされている。
確かにAQAPはこれまでに3回、米国行きの旅客機を爆破しようとするなど今も対米テロの機会を狙っている。特に組織の爆弾作りの名人といわれるイブラヒム・アシリが最近、金属探知機に探知されないよう人の体内に潜ませる新型爆弾を開発したといわれ、米国の懸念は高まっていた。
しかしトランプ政権がここまで今、イエメンの空爆を激化させているのは1月の急襲作戦の失敗を挽回し、作戦への批判を封じ込めることが最大の理由との見方が強い。
■ナンバー2のビンラディンの息子も殺害
トランプ政権のアルカイダに対する攻撃が激化しているのはイエメンだけではない。シリアでも空爆を強めている。シリアでは昨年、内戦の激戦地、北部のアレッポから反体制派が退去した際、アルカイダ系の「シリア征服戦線」(旧ヌスラ戦線)も北西部のイドリブ県に移った。
ところが「シリア征服戦線」はかつて共存していた反体制派への攻撃に転換、イドリブ県のほとんどを掌握。他の過激派を取り込んで「ハヤト・タフリル・シャム」という過激派連合を作り上げた。
反体制派は非アルカイダ系の「アハラム・シャム」と合流するなど生き残りを図っているが、アサド政府軍に追い詰められている上、アルカイダ一派にも狙われるというピンチに立たされた格好だ。
米国はアルカイダの勢力拡大を深刻に受け止め、アルカイダへの攻撃を激化させ、2月末には無人機による空爆で、アルカイダ本家の指導者アイマン・ザワヒリに次ぐナンバー2のアブ・カイル・マスリを殺害した。マスリはアルカイダの創設者で、9・11の首謀者ビンラディンの義理の息子だ。
マスリは米国によるアフガニスタン戦争で、アフガンから脱出し、イランにかくまわれていたが、2015年にシリアに潜入。「シリア征服戦線」の指導者モハメド・ジョラニに次ぐ副指導者として活動していた。
■生き残りを優先
米国は現在、シリアとイラクではISに対する壊滅作戦も推進、ISの幹部が彼らの首都であるシリア・ラッカから逃げ出していると伝えられている。しかし最高指導者バグダディの消息はようとして分かっていない。
ベイルートの過激派ウオッチャーは「今後ISがさらに追い詰められた時、悪夢のシナリオが現実味を帯びてくる。それはISが米国に対抗するためアルカイダと合体することだ」と指摘する。ISの組織が瓦解する中、路線の違いを棚上げにして生き残りを優先するという選択肢は十分あり得るものだろう。
とりわけ、イエメンのAQAPの幹部らにはISとの合体論者も多いといわれている。ISのイラクの拠点モスルやラッカに滅びの足音が迫る中、逃げ出したISの戦闘員がイエメンに流れ込み、AQAPに合流することになれば、世界の最貧国に過激派の一大聖域が生まれることになるだろう。
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