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弾道弾と暗殺で一気に進む「北爆時計」の針 もう、北朝鮮と話し合っても時間の無駄だ  経済対話、日米の「攻守逆転」はあるか
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投稿者 軽毛 日時 2017 年 2 月 24 日 01:11:48: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

弾道弾と暗殺で一気に進む「北爆時計」の針

早読み 深読み 朝鮮半島

もう、北朝鮮と話し合っても時間の無駄だ
2017年2月23日(木)
鈴置 高史

2月12日の中距離弾道ミサイル発射で、北朝鮮はレッドラインを越えた(写真:AP/アフロ)
(前回から読む)

 弾道ミサイル発射と暗殺により、北朝鮮への先制攻撃の可能性がグンと高まった。

日経読者の4割強が「軍事的解決を」

2月に入り、朝鮮半島情勢が目まぐるしく動きました(「北朝鮮を巡る動き」参照)。

●北朝鮮を巡る動き(2017年2月)
2日 マティス国防長官、韓国訪問(3日まで)、「北朝鮮の核の脅威が最優先課題」と表明
3日 マティス国防長官、日本訪問(4日まで)、「日米安保、尖閣に適用」と表明
10日 ワシントンで日米首脳会談
12日 北朝鮮が弾道弾「北極星2号」を発射。パービーチに滞在中(現地時間11日)の安倍首相「断じて容認せず」。トランプ大統領は「100%日本と共にある」
13日 金正男氏、クアラルンプールの空港で暗殺
13日 国連安保理、北朝鮮非難の共同声明
13日 トランプ大統領「北朝鮮はとてつもなく大きな問題だ。極めて強く対応する」
17日 日米韓外相、北朝鮮の弾道ミサイルの試射に関し「最も強い表現で非難」との共同声明
17日 ティラーソン国務長官、王毅外相に「あらゆる手段を通じ北朝鮮の核・ミサイル挑発の抑制を」
18日 中国、北朝鮮産石炭の年内の輸入を中断と発表
20日 マレーシア、金正男暗殺事件に関し北朝鮮に抗議し、大使も召還
22日 マレーシア警察庁長官、金正男殺害事件に北朝鮮大使館員が関係していたと発表。帰国した4人の容疑者の引き渡しも北朝鮮政府に要求
鈴置:2月12日の中距離弾道ミサイル「北極星2号」発射と、翌13日の金正男(キム・ジョンナム)暗殺――。後世の人は「この2つが転換点だったな」と振り返ると思います。

 2つの事件により、北朝鮮の核武装を阻止するには「話し合い」ではもう無理だ。結局「力」が必要なのだ――との認識が世界に広がったからです。

 日経が2月18日から21日まで、電子版読者に聞いた「第310回 クイックVote 北朝鮮、日本はどう対応すべき?」の回答を見ても明らかです。

 設問は「ミサイル発射や核開発を続けている北朝鮮に対して、あなたは日本政府に何をもっとも優先して取り組んでほしいですか」。

 最も多い回答が「ミサイル基地攻撃など軍事オプション」で、43.9%を占めました。2番目が「経済制裁の強化」で28.9%。「6カ国協議の再開など外交努力」(12.5%)、「中国への働きかけ」(9.0%)が続きました。

 1位の「軍事オプション」と2位の「経済制裁」は、いずれも回答者が「北朝鮮の核問題は対話ではなく、力で解決するしかない」と考えていることを示します。足すと何と、72.8%にのぼります。

 「話し合い」を意味する「外交努力」と「中国への働きかけ」の合計の21.5%と比べ、圧倒的に多いのです。「話し合い」が大好きな日本人も変わったものだと思います。

米国の「脅威NO1」は北朝鮮

米国の空気は?

鈴置:ワシントンでも「強硬論」が盛り上がっています。2月13日、カナダのトルドー(Justin Trudeau)首相との会談後の会見で、トランプ(Donald Trump)大統領は以下のように語りました。

 「就任して1カ月近く諜報ブリーフを受けただろうが、米国が直面する最も重大な安全保障上の問題を何と見るか」との質問に答えたものです。

Many, many problems. When I was campaigning, I said it’s not a good situation. Now that I see it -- including with our intelligence briefings -- we have problems that a lot of people have no idea how bad they are, how serious they are, not only internationally, but when you come right here.
Obviously, North Korea is a big, big problem, and we will deal with that very strongly.
 「最も重大な脅威」の筆頭に「北朝鮮」を挙げたうえ「米国は極めて強く出る」と述べたのです。「状況は極めて深刻なのに、それが認識されていない」とも。

 「北朝鮮に強く出る」具体策には言及しませんでしたが、核・ミサイル施設に対する先制攻撃と、これまでにない強力な経済制裁の2本立てであるのは明らかです。

 北朝鮮への先制攻撃――北爆は2016年9月以降、米国の安全保障関係者が堂々と語るようになりました(「『ソウルは火の海になる』のデジャブ」参照)。

 2016年9月5日の長距離弾道弾の試験と、9月9日の5回目の核実験により「米国も射程に入れた北朝鮮の核武装は間近である」「このままではそれを防げない」との危機感が、この時点で米国の政界に定着したのです。

「先制攻撃」を巡る動き(2016年)
9月
5日 北朝鮮、高速道路から3発の弾道ミサイル連射、1000キロ飛び日本のEEZに落下
9日 北朝鮮が5回目の核実験を実施し「戦略ミサイルの核弾頭の生産が可能になった」
10日 稲田朋美防衛相、韓民求国防相に電話会談で、GSOMIA締結を呼び掛ける
12日 韓国国防相報道官「日本とのGSOMIAは必要な雰囲気。ただ、国民の理解必要」
16日 マレン元米統合参謀本部議長「北の核の能力が米国を脅かすものなら先制攻撃し得る」
19日 カーター国防長官、在韓米軍のスローガン「fight tonight」を引用「その準備はできた」
20日 北朝鮮「推力重量80トンの静止衛星運搬用ロケットの新型エンジン燃焼試験に成功」
20日 ハイテン米戦略軍次期司令官「北朝鮮はいずれICBMを持つ。すぐに備えるべきだ」
22日 米大統領報道官、対北攻撃を聞かれ「一般に先制的軍事行動に関し事前に論議しない」
24日 ヴィクター・チャ教授、中央日報に「北朝鮮のICBMの破壊も検討」と寄稿
26日 米韓海軍、日本海で合同訓練。韓国軍「北朝鮮の核・ミサイル施設や平壌が攻撃目標」
10月
1日 米韓海兵隊、白翎島で合同軍事演習
5日 労働新聞「米国の核の脅威に対抗、我々は先制攻撃方式に転換。核はいつでも米国に使える」
6日 国連軍縮委員会で北朝鮮代表「自主権が侵害されない限り先に核は使わない」(朝鮮通信、8日報道)
10日 北朝鮮、労働党創建71周年記念式典を開催
10日 米韓海軍、黄海含む朝鮮半島周辺海域で「陸上精密打撃訓練」(10月15日まで)
11日 シャーマン前米国務次官「北の核には経済制裁に加え全ての選択肢を使うべきだ」
11日 朝鮮中央通信「来年1月の金正恩委員長の誕生日は盛大に祝う」
12日 ラッセル米国務次官補、記者団に「金正恩が核攻撃する能力を持てば直ちに死ぬ」
15日 北朝鮮、中距離弾道弾を平安北道・亀城から発射。米軍は「直後に爆発」と発表
19日 労働新聞「先制攻撃は米国と南朝鮮の特権ではない。南全域は火の海、米本土も修羅場になる」
20日 北朝鮮、亀城から長距離弾道ミサイル発射。米韓は「直後に失敗」と発表
21日、22日 北朝鮮の韓成烈外務次官と米国のガルーチ元国務次官補らがクアラルンプールで接触
中国を標的に金融制裁案

「強力な経済制裁」とは?

鈴置:「対北朝鮮制裁に違反した対象と取引する組織や個人にも制裁を適用する」セカンダリー・ボイコットがその中軸です。

 北朝鮮と取引を続けることで、金正恩(キム・ジョンウン)政権の核・ミサイル開発資金の獲得を幇助する中国企業が念頭にあります。

 すでに2016年9月に米上院の有力議員が、当時のオバマ(Barack Obama)大統領にそれを求める書簡を送っています。東亜日報が「米上院議員19人、『セカンダリー・ボイコット』要求」(9月20日、日本語版)で報じています。

 今回の「北極星2号」の発射を受け、米上院の有力議員が再び動きました。米議会の運営するRFA(フリー・アジア=自由アジア放送)の「米上院議員6人、『対北追加金融制裁』書簡」(2月15日、韓国語版)は、2月15日に彼らがトランプ政権に求めた新たな金融制裁案の中身を以下のように報じました。

北朝鮮のすべての銀行を例外なく特別指定制裁対象(SDN)リストに載せ、国際金融システムから完全に遮断する。
スウィフト(SWIFT)を含む国際銀行間通信サービスに関し、北朝鮮の銀行との関係を断つよう、欧州連合とベルギー政府に要請する。
財務省が追加財源と人員を投入し北朝鮮のマネーロンダリング組織と、これを支援する中国の関係者を探し出し、資産凍結はもちろん民事・刑事上の責任を問う。
中国銀行を含む中国の13行に関し、北朝鮮の核開発を支援してきた丹東ファイナンシャングループの法令違反との関連をできるだけ早く調査に乗り出す。
 後ろ2つは、中国の大手銀行も国際的な金融取引から締め出すぞ、との脅しです。これが実行に移されたら中国経済はパニックに陥ります。

トランプの顔色見た中国

「対北」を超えて「対中制裁」に乗り出す感じですね。

鈴置:国連がいくら北朝鮮への経済制裁を定めても、中国がさぼったため効果が上がらなかったからです。

 2月17日、ボンで行われた米中外相会談でもティラーソン(Rex Tillerson)国務長官が王毅外相に対し、北朝鮮にあらゆる手段を使うよう促しました。

 さすがに中国も「まずい」と考えたのでしょう、米国に「誠意」を見せました。翌2月18日、中国政府は突然、2月19日から同年末まで北朝鮮からの石炭輸入を中断する、と発表しました。

 北朝鮮の外貨稼ぎの主力は石炭輸出です。北朝鮮産の石炭輸入には上限が設けられていたのですが、中国が守っていないとの疑いがもたれていました。今後、中国が本当に石炭輸入を中断するかも分かりませんが。

北は核の先制攻撃も宣言

北朝鮮に核武装を放棄させるため、米国はまずは経済制裁の強化で、それが効かねば先制攻撃、との方針でしょうか。

鈴置:そうとは限りません。経済制裁の強化を国連が決めても、中国がちゃんと協力しないかもしれません。仮に中国が応じても、北朝鮮経済を痛めつけるには時間がかかります。

 経済制裁の強化に国際社会が動き始めた後でも、北朝鮮がICBM(大陸間弾道弾)を試射すれば、あるいはその素振りを見せれば、米国がすぐさま先制攻撃する可能性があると思います。

 2017年1月1日、金正恩委員長は新年の辞で「ICBM試射の準備が最終段階にある」と表明しています。

 そのうえ「米国とその追随勢力の核の威嚇と恐喝が続く限り、年次的というベールをかぶせた戦争演習騒動を中止しない限り、核武力が中核の自衛的国防力と先制攻撃能力を強化する」と宣言しました。

 3月から始まる米韓合同軍事演習を中断しない限り、核・ミサイル実験を続けるとも表明したのです。

 2016年10月5日の労働新聞は「米国の核の脅威に対抗、我々は先制攻撃方式に転換した。核はいつでも米国に使える」と書きました。北朝鮮は核による先制攻撃までも宣言済みです。

 北朝鮮の核武装を阻止するために残された時間はほとんどありません。2月12日の「北極星2号」の発射以降、安全保障の世界では「これ以上手をこまねいていてはいけない」との認識が共有されました。

日米の戦略的環境が一変

北朝鮮はこれまで弾道ミサイルを何度も撃っています。長距離弾道弾でもない「北極星2号」に、それほど大きな意味があるのですか?

鈴置:日本や米国にとって戦略的な環境がガラリと変わりました。2月13日、北朝鮮は前日に発射に成功した「北極星2号」は固体燃料式エンジンである、と発表しました。それを否定するに足る材料はありません。

 液体燃料式なら発射の際に燃料を注入するのに時間がかかるので、ミサイルが地上にあるうちに攻撃する手があります。

 一方、固体式だと北朝鮮が発射を決意した瞬間に撃てるので、米国や日本は奇襲攻撃されやすくなります。

 日米にとってさらなる問題もあります。軍事ジャーナリストの惠谷治氏は、今回の発射で使った自走式発射台に注目しています。

 地中に設けるサイロ式の発射台なら場所は容易に特定でき、先制攻撃しやすい。しかし、北朝鮮はあちこちに動かせる自走式発射台の導入で、ミサイルの所在を隠蔽できます。すると奇襲攻撃しやすくなるうえ、先制攻撃されても反撃が可能になります。

 となると、日米は先制攻撃に逡巡することになります。反撃のため飛んでくるミサイルに核弾頭が載っているかもしれないからです。

MDで阻止できなくなる

北朝鮮は自走式発射台を持っていなかったのですか?

鈴置:持っていました。ただ、いずれも中国製で数は限られると見られていました。惠谷治氏によると、自走式発射台の製作には結構、難しい技術が要るため、中国から買っていたのです。

 ところが今回の発射で使ったのは北朝鮮製だった模様です。国産化により自走式の発射台を大幅に増やせると、惠谷治氏は懸念しています。

 同時により多くのミサイルを発射できるようになるので、日本や米国がいくらミサイル防衛網(MD)を充実させても、完全に阻止できなくなる――撃ち漏らすミサイルが出てくる可能性が高まるのです。

 要は日米にとって、北朝鮮の核・ミサイルシステムを早急に除去しないと安全を確保できない段階に至ったのです。

「離米従中」という逃げ道

日米だけではなく、韓国にとっても北朝鮮の核の脅威はぐんと増したのですね。

鈴置:必ずしもそうとは言えません。韓国の次期政権が米国を離れ、中国側に走れば――中国の核の傘に入ってしまえば、北朝鮮の核の脅威は相当に減ります。

 大統領レースで現在、支持率トップを走る「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)議員は、在韓米軍基地へのTHAAD(=サード、地上配備型ミサイル防衛システム)の配備を見直すと宣言しています。

 配備は米国が強く進める半面、中国が強力に反対しています。配備を拒否すれば米韓同盟は風前の灯となります。韓国の「離米従中」は現実のものになっています。

 文在寅議員は「大統領に就任したら当然、米国よりも先に北朝鮮に行く」とも語っています。北朝鮮との関係を一気に改善すると表明したのです。(「『キューバ革命』に突き進む韓国」参照)

 韓国には、どれだけ頼りになるか分からない米国よりも、恐ろしい中国や北朝鮮と仲良くした方が国の安全を確保できる、との発想もあるのです。

 ちなみに、南北朝鮮が関係を改善し一緒になって北の核で日本を脅す、というあらすじの小説『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』が1990年代の韓国でベストセラーになっています。

何をやらかすか分からない国

確かに、北朝鮮は何をしでかすか分からない国ですからね。

鈴置:そこなのです。今回の金正男暗殺事件で、世界の人々は「金正恩委員長は異様な人間である」との思いを強くしました。これも北朝鮮への先制攻撃論を加速しました。

 普通、仮想敵が核ミサイルを持っても、こちら側が持っていれば直ちに戦争が始まるわけではありません。「相手だって核戦争で自らの国民が犠牲になるのは躊躇するだろう」との判断から、話し合いにより戦争を避けようと双方が考えるからです。

 しかし「自分の邪魔になる異母兄は、外国に刺客を送っても殺す」指導者には、合理的な対話は期待できません。

 北朝鮮政府は今回の暗殺への関与を認めていませんが、世界はそれを前提に動き始めました。犯行現場となったマレーシアの警察が、主犯グループは北朝鮮籍の人々で構成されたと判断しているからです。

 2月22日、マレーシアの警察庁長官は、金正男殺害事件に北朝鮮大使館員が関係していたと発表しました。犯行後に帰国した4人の北朝鮮籍の容疑者の引き渡しも北朝鮮政府に要求しました。

 冒頭に紹介した日経の世論調査で、43.9%もの人が北朝鮮への軍事攻撃を日本政府に望んだのも、この暗殺事件が影響していると思います。北朝鮮は対話では解決できない相手だと、ついに日本人も考えたのです。

政権交代シナリオに重み

米国人も、ですか?

鈴置:米国人も同じです。東亜日報のイ・スンホン・ワシントン特派員は「米メディア『本当に狂っている』『金正恩は何をするか分からない』」(2月16日、韓国語版)で、以下のように書きました。

「これは本当に狂った(insane)話です」。「金正恩は今後、何をしでかすか分かりません」。CNN、FOXニュースは2月14日(現地時間)、金正男殺害事件を報じた際、こう評した。
米国でも金正恩の暴走がどこまで続くか、予測不能との空気が強まっている。米本土を狙ったICBMの試験が迫っているとの憂慮も深まった。
ワシントンの外交界と主なシンクタンクにも、この事件によりトランプ政権がいっそう強硬策に出るとの見方が多い。
CNAS(新アメリカ安全保障センター)のパトリック・クローニン(Patrick Cronin)上級顧問は「戦争状態でもないのに真昼間に暗殺を敢行する北朝鮮が、国際社会の正常な一員となることはほぼなくなった」としたうえで「先制攻撃、政権交代シナリオがこれまで以上に重みを持って議論されることになろう」と語った。
難民を恐れる中国

話を聞いていると、米国による北朝鮮への攻撃が今にも始まる気がしてきました。

鈴置:専門家は軍事的にはいつでも可能だし、早ければ早い方がいいと判断しています。ただ、政治的な問題が残っています。

 北爆によって北朝鮮の核を除去し金正恩政権を倒した後、朝鮮半島の勢力圏をどう確定するか――までは米中間で合意ができていないように思われます。

そもそも「北爆」を中国は嫌がりませんか?

鈴置:それにより、大量の難民が中国になだれ込むことは大いに警戒していると思います。一方、米国にしても、北朝鮮の「液状化」に伴う朝鮮半島の混乱に巻き込まれたくはないでしょう。

 そこで米中が「北爆後の液状化」を避けるため、何らかの協力体制を模索する可能性が高いと思います。北朝鮮を国連、実質的には米中が共同管理するアイデアもあるのです。

 21世紀に入ったころから米国は中国に対し「事後処理を話し合おう」と何度も呼び掛けたようです。しかし、中国側が応じなかったとされます。

 ただ、状況が切羽詰まって米国が「北爆」のハラを固めれば、中国も協議に応じるしかありません。もう、応じているかもしれません。

激変する朝鮮半島の構図

そこで米中の取引が始まるのですね。

鈴置:米国との交渉の過程で、中国は自らの脅威となっている在韓米軍の撤収、あるいは米韓同盟の廃棄を求めると思います。「事後処理での協力」との交換条件に持ち出せば、米国も飲むかもしれません。

 米国にとっても在韓米軍は財政的な重荷になっています。朝鮮半島北部から「何をするか分からない政権」が消えれば米軍、ことに地上軍を韓国に置いておく必要性は減ります。

 もちろん、米中の談合が成立する前に時間切れとなり「北爆」が始まる可能性もあります。いずれにせよ、今後予想される「半島の激変」に日本は身構えるべきです。

(次回に続く)

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■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ

北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。

もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。

目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。

◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録

『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』 に続く待望のシリーズ第9弾。10月25日発行。

このコラムについて

早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/021200092


 


経済対話、日米の「攻守逆転」はあるか

キーパーソンに聞く

元経産省米州課長、細川昌彦氏(中部大学特任教授)に聞く
2017年2月22日(水)
熊野 信一郎
日米首脳会談で合意した日米新経済対話は早ければ4月にも始動する。麻生太郎副総理・財務相とペンス副大統領がトップを務めるこの対話の注目点や今後のシナリオを、かつて経済産業省米州課長として日米交渉の最前線に立った経験を持ち、日経ビジネスオンラインの特集サイト「トランプウオッチ」のレギュラーコメンテーターでもある細川昌彦氏(中部大学特任教授)に聞いた。

(聞き手は熊野 信一郎)

細川昌彦(ほそかわ・まさひこ)
中部大学特任教授、元・経済産業省米州課長。1955年1月生まれ。77年東京大学法学部卒業、通商産業省入省。「東京国際映画祭」の企画立案、山形県警出向、貿易局安全保障貿易管理課長などを経て98年通商政策局米州課長。日米の通商交渉を最前線で担当した。2002年ハーバード・ビジネス・スクールAMP修了。2003年中部経済産業局長として「グレーター・ナゴヤ」構想を提唱。2004年日本貿易振興機構ニューヨーク・センター所長。2006年経済産業省退職。現在は中部大学で教鞭をとる傍ら、自治体や企業のアドバイザーを務める。著書に『メガ・リージョンの攻防』(東洋経済新報社)
安倍首相や麻生副総理・財務相が方向性や開始タイミングに言及するなど、日米新経済対話についての関心も高まってきました。どういったポイントに注目すべきでしょうか。

細川:先だっての日米首脳会談での大きな成果の1つは、この経済対話に米国のナンバー2であるペンス副大統領を引っ張り出せたことにあるといえます。

 こうした枠組みでは、日本では外務省が窓口となり、総理にリポートするのが通例でした。それが今回、麻生副総理がトップを務め、対話の相手として副大統領が選ばれたことは極めて大きな意味を持ってきます。

 過去、米国は超大国との対話の責任者として副大統領を任命したことはあります。しかし日本が相手で、しかも経済分野だけで副大統領を据えることは異例です。

 そのため、米国サイドの事務方も抵抗したと聞いています。麻生さんがペンスさんと会って直接説得したことに加え、首脳会談でも安倍首相が「こちらは副総理を出す」と切り出し、このような形に持ち込んだ。

 米国サイドの体制が整っていない段階だからこそ、ペンス氏を引っ張り出せたともいえるでしょう。事務方による「積み上げ型」の交渉では、とても考えられなかった成果です。

いい体制でスタートを切れると。

細川:麻生副総理が財務大臣であることも大きな意味を持ってきます。従来、こうした二国間の対話では、外務省が多くの省庁を巻き込みながら、取りまとめ役になろうとします。その一方で、財務省は自分たちの世界だけ、言い換えれば「財務金融マフィア」の世界だけで話を進めたいと考えます。これはいずれも役所の伝統的な行動原理です。

 今回は、マクロ経済政策も話し合われることになるため、財務相を兼ねる麻生副大臣がトップとなることで、対話・交渉しやすくなる構図が生まれるでしょう。その意味では、日本に「麻生副首相・財務相」がいることは、非常に幸運でした。

「包括」と「個別」のせめぎ合い

理想的な対話の「形」をどう生かすべきでしょうか。

細川:現在は先だっての首脳会談で方向性を共有した段階に過ぎません。経済対話のアジェンダは3分野(@財政・金融などマクロ経済政策の連携、Aインフラ、エネルギー、サイバー、宇宙での協力、B二国間の貿易枠組みの協議)とされていますが、これは主に日本政府が持ち出し、説明しているものです。米国側のキープレーヤーが揃っていないために、中身まできっちりすり合わせしたものではありません。

 今後、米国の通商チームが出来あがってきた段階で、具体的なボールが投げられてくるはずです。トランプ政権の目的は「対話」ではありません。トランプ氏の発言にあるように、「交渉」です。具体的な成果、個別の利益を追求することが目的であり、USTR(米通商代表部)はその個別利益追求の代弁者になります。

 日本としては、利害対立しやすい個別テーマではなく、対話をなるべく「包括的」なものにしていきたい。個別テーマで争うことよりも、日米の経済全体を俯瞰する目を持つことが、双方のメリットになると理解してもらえるよう、早い段階で積極的に働きかけていく必要があります。

どのような分野でボールが飛んでくると予想されるでしょうか。

細川:やはり先ほどの3テーマのうち、Bの二国間の貿易枠組みでしょう。TPPからの撤退を決めた米国が、TPP交渉で譲歩した内容を再び持ち出してくる可能性が高いからです。

 特にその可能性が濃厚なのが、コメ、牛肉、豚肉などの農畜産物です。共和党にとって、農業・畜産業界は大切な票田です。2018年の中間選挙を考えれば、TPP離脱による機会損失を取り戻そうという動きが出てくるのは当然でしょう。

 さらに過去の日本への要求のパターンから考えれば、規制緩和でも動きがあるかもしれません。例えば、新たにシェアリングエコノミーなどにも関心があるとの声も聞こえてきます。

シェアリングエコノミーとは、意外です。

細川:カリフォルニアを中心としたIT、ソフトウエア関連の主な企業はトランプ氏の移民政策に反対する姿勢を見せています。だからこそシェアリングエコノミーでの規制緩和はIT産業を取り込むことにつながるということかもしれません。規制緩和に慎重な姿勢に対して、日本の世論の中にも批判的な意見が存在することもあるのでしょう。

自動車分野、攻めに回れるか

日本はどのようなスタンスで「対話」に臨むべきでしょうか。

細川:1990年代、クリントン政権と合意した日米包括経済協議では、最初は日本主導で「包括的」な議論を進めようとしても、いざ始まると個別テーマでの交渉が先鋭化し、日本は「守り」の色合いが濃くなってきました。

 ポイントは「攻め」と「守り」の「双方向性」をどれだけ確保できるかです。攻められたことに対応するだけでは、相手の思うつぼです。それでも過去、日本では世論やメディアも含めて発想が「守り一辺倒」になり、米国からの要求ばかりに注目が集まりがちでした。

 いかに攻守を逆転させるかがカギを握ります。農産物では「守り」の要素が多いでしょうが、日本として攻めのカードに使えるのが自動車です。自動車分野でも日本市場について各種の要求が予想されますが、米国の真意は自国の市場と関税を守ることにあります。

 例えばTPPでは、米国向け完成車に課せられる2.5%の関税が、25年かけて撤廃されることで合意していました。仮に米国が農産物でTPP以上の要求をしてくれば、それをより短期間で撤廃することを日本から要求できるかどうか。また米国の規制のあり方にも、注文を付けることが欠かせません。

米国以外の国をどう巻き込むかもポイントになりそうです。

細川:日本にとってのキープレーヤーとなるのが豪州です。牛肉分野などでは、(日本との貿易において)豪州は米国よりも優遇されることになります。豪州は対中国という点でも重要な存在になります。その豪州を引き合いに出し、米国抜きでのTPPの協議を進めるなど、揺さぶりをかけることも必要です。逆に言えば、そうした手段抜きに米国と一対一で対峙しては、ゲームにならないわけです。

 さらに、中国をどう念頭に置くかというのも欠かせない視点になります。サイバーや知的財産権、国有財産など、先だっての合意事項の中には、「中国」という単語を明示的には使ってないにしても、明らかに中国を念頭に置いた表現が見られます。

 鉄鋼の過剰能力問題など、日米で取り組まなければならない共通の課題は多くあります。米国にとって最大の課題である対中政策において、日本との協力が有効な手段であるという認識をいかに米国に持たせられるかがが、対話の最大のテーマとなるでしょう。


このコラムについて

キーパーソンに聞く
日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/238739/022000237/


 
 

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