●国際ジャーナリストの田中宇氏によると、トランプの国際政治顧問で、元CIA長官のウールジーは昨年の11月香港の新聞に、トランプは中国がアジアの現秩序=日韓の対米従属体制と米中等距離外交のアセアン=を破壊しない限り、米国は中国の台頭を容認するという趣旨の論文を寄稿したと言う。米国はアフガン戦やイラク戦で、財政的にも米国を破綻寸前してしまったので、2014年、米国のヘーゲル国防長官は今後10年間で約1兆ドル(当時、約102兆円)の軍事費を削減する構想を発表した。米国は先の大戦後、概ね10年に1度の割合で大規模な戦争を行い、軍産複合体を生き延びさせてきたが、ついに限界に達した。 これは、2014年に米国上院で、ボストン大学のコトリコフ教授が将来支出も含めると財政赤字は公式発表の16倍の210兆ドルと証言し、更に2015年、米国のウォーカー元会計検査院長は、米国の債務額は政府公表の18兆ドルではなく、65兆ドルと発言したことでも確かである。 ウールジーによると、トランプは米国のインフラ整備には中国資金が必要と判断し、米国は中国が主導するAIIBに加盟する可能性もあると言う。その理由はGDPと同規模の膨大な財政赤字で、小さな政府を理想とする与党共和党が赤字増大に大反対していることや、米国の民間資金だけでは不足と判断していることだと言う。 米国がAIIBに加盟すると、日本は完全に孤立してしまうが、それでもトランプは「一帯一路」計画にも協力すると示唆し、更にウールジーは、国連の平和維持軍の主導役を中国に譲ることまでも許容していると言う。 一方では、トランプの側近が書いた論文には、対中対決を主張する論文もあり、トランプがロシアと中国の連携を分断しようとしているのも事実だが、トランプは中国と自滅的な戦争をしてまでも、中国の台頭を阻止しようとしているのではなく、あくまでも経済力の回復により、唯一の「覇権国家」からすべり落ちる寸前の米国を復権させようとしていることは確かである。 だから、経済力の回復のためには、何かと金が掛かる「世界の警察官」を辞めると言い、日本を「安保ただ乗り論」や、中国と同様の為替操作で名指し批判して、日本の従米派を震撼させた。 しかし、日本のマスゴミは、大統領に就任すれば公約など変えてしまうと米国=反民主主義国という解説を堂々と流し、米国が日本を守るという神話の世界で生きてきた自公支持派の動揺を防いできた。しかし、トランプは公約をそのまま忠実に実行し始めた。 その背景には、巨大な財政赤字や貿易赤字を抱える米国の現実があり、トランプには公約を実行するしか選択肢が無い。とは言え、トランプも世界の反応を見て多少は修正するだろうが、なりふり構わずに実利を得ようとする基本姿勢を変えることはないだろう。 ●それで、世界的規模で親米国家の動揺が起き、中国と南シナ海の領有権問題を抱えるマレーシアやベトナム、フィリッピンでさえも、親中国政策を選択することを事実上、表明するなど、東アジアでは、劇的な親中国シフトが起きている。 たとえば、マレーシアの首相は昨年11月に訪中し、両国海軍の協力強化で一致し、初めて沿岸哨戒用艦船4隻を中国から購入すると決め、中国も親中国家となったマレーシアへの機密性が高い中国軍潜水艦の初寄港を認めた。また、米国がTPPを離脱したので、中国が主導する「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)に注力するとマレーシアは公式に表明した。 また、ベトナムも軍事的要衝カムラン湾の国際港に、中国軍艦船を初めて寄港させ、今年1月には、親中国派と目されている新しい共産党書記長が久々に中国を訪問し、また親米の日本から導入するはずだった原発計画を中止するなど、中国との信頼関係醸成に力を入れている。 また、フィリピンのドゥテルテ大統領も、昨年7月の「仲裁裁判所」裁定を棚上げして中国接近外交を展開し、トランプ大統領就任後も、米軍が国内に常設基地を建設していると非難している。タイの軍事政権も、中国製の潜水艦を4隻導入することを決め、タイは中国との友好関係を、潜水艦の寿命が尽きる30年後ぐらいまでは維持する決断をした。中国製の潜水艦を運用する以上は、中国製部品供給が必要なので、外交断絶は不可能だからである。 更に、つい最近まで、米国との同盟関係を誇示していたオーストラリアの首相は、1月28日に行われたトランプ大統領との電話会談でトランプ大統領を難民問題で怒らせ、電話会談が途中で打ち切るという異例の事態を起こした。TPP中止もあり、オーストラリアは、最大の貿易相手国である中国が主導する「東アジア地域包括的経済提携」(RCEP)重視の親中国政策へと転換し、2月20日には北京で両国の閣僚級経済会議が行われるという。また、ニュージーランドもオーストラリアを支持し、追随している。 こうしたアジアの動向から、東南アジアで唯一、米海軍に基地を提供しているシンガポールに中国は厳しい対応を始めた。中国はシンガポール軍の台湾での演習を公然と非難し、香港で演習に使われたシンガポール軍の装甲車を押収したのである。 ●一方、自公政権は来日したマティス米国防長官やトランプと直接会談しても、世界で最も高い「思いやり予算」の値下げ交渉をせずに、現状維持を示唆され、「大成功」と喜んでいる。 米軍艦船の原子力関連の修理まで可能な高度の工業力と、何でも補給できる海外基地は日本にしかない。現在の在日米軍は東アジアから中東まで、地球の半分の地域に展開する米軍部隊と多数の米軍海外基地の補給と修理、訓練の最大拠点である。 (ベトナム戦争の時、日本が戦車などの修理と補給を担当し、沖縄から直接、爆撃機が北ベトナムに飛び、イラク戦争では沖縄の海兵隊がイラクに派遣された) だから、日本が在日米軍を撤退させたら最悪の場合、米国の覇権体制は半分は崩壊するか、あるいは、米軍の艦船は修理に、いちいち米国まで戻らなければならず、軍事費も高騰するので、困るのは日本よりも米国の方である。 (在日米軍基地に工場を建てたりして利用すれば、GDPが5兆円上がるという説がある。本当なら日本の軍事費は倍の10兆円、中国と同じGDP2%である) だから、日本には基地の維持費を負担する理由は全く無い。逆に、日米同盟の立場の自公政権であっても、米国は「東アジア平和条約」に反対しているので、米軍基地があることでリスクも負っている日本が独立国であれば、リスク負担費を要求すべきである。 (米国の歴代大統領は先の大戦後も絶え間なく戦争を続け、ベトナム戦争だけでも、双方で1000万人以上殺しているので、少なくとも戦後、2000万人は殺している世界最大の「テロ国家」であり、日本はその同盟国。やがて、日本の子孫たちは世界中に謝罪し、賠償もしなければならなくなる) しかし、自公政権は「勝手にしろ」と言われても動揺するばかりで、年金資金までも献上して米国にしがみ着くことしか思いつかないし、劇的な親中国シフトを無視して、安倍は時代錯誤の中国包囲政策を掲げて東アジア諸国を行脚している。プレゼントを抱えて来るので、一応は歓迎しているが、本当は反中国の安倍と会うこと自体が迷惑であろう。その証拠に、沿岸警備艇や航空機さえも提供したフィリッピンさえ、反米・親中国にシフトしたように、安倍の援助政策は、ことごとく失敗しているが、マスゴミはアジア外交の失敗を報道しない。 マスゴミで解説する「専門家」も、米国にとっての在日米軍の重要性を指摘して、逆に「思いやり予算」の値下げ交渉をするべきと主張するような専門家は皆無。マスゴミは、トランプの登場で、東アジアでは劇的な親中国政策への転換が起きている現状も知らせない。それで、国民は<米国が守ってくれる>という仮想現実の世界で生きているので、やがて敗戦の時と同じように、「真相はこうだ」という番組を見る破目になるだろう。日本は益々孤立を深めている。
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