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中国空母が太平洋に──トランプ大統領の誕生と中国海軍の行動の活発化(ニューズウィーク)
http://www.asyura2.com/16/warb19/msg/412.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 12 月 28 日 10:27:15: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

              大連港に停泊する中国初の空母「遼寧」(2012年) REUTERS
 


中国空母が太平洋に──トランプ大統領の誕生と中国海軍の行動の活発化
http://www.newsweekjapan.jp/ohara/2016/12/post-5.php
2016年12月27日(火)15時30分 中国戦略の裏を読む 小原凡司 ニューズウィーク


<空母「遼寧」の太平洋進出など、中国海軍が動きを活発化させている。それは就任間近なアメリカの次期大統領ドナルド・トランプが、これまでの大統領のように「人権」や「民主主義」といった理念を振りかざすのではなく、アメリカの実利のためには実力行使も辞さない手強い相手と見ているからだ」

 2016年12月25日、中国海軍の訓練空母「遼寧」が宮古海峡を抜けて、西太平洋に入った。中国海軍のこの行動は、明らかにトランプ氏をけん制したものだ。中国は、自らの懸念が現実のものになるのを恐れているのである。

【参考記事】トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

 空母「遼寧」は、3隻の駆逐艦及び3隻のフリゲート、1隻の補給艦を伴っていた。「遼寧」は、訓練空母であって実戦に用いる能力がないにもかかわらず、空母戦闘群の編成をとって行動したのだ。ファイティング・ポーズを見せているということである。その相手は、もちろん米海軍だ。

 現在、米海軍では、一般的に空母打撃群という呼称が用いられているが、中国メディアでは空母戦闘群と呼称されることが多い。米海軍でも、2006年までは空母戦闘群という呼称を用いていた。呼称を変えたということは、作戦概念を変えたということである。米海軍の空母の運用構想は、すでに2000年代半ばには変わっていたということでもある。一方の中国は、未だ、空母戦闘群を米海軍との海上戦闘の主役と考えているようだ。

■敵は太平洋から攻めてくる

 中国海軍は、現在でも、台湾東方海域が米海軍との主戦場になると考えている。中国は、海軍の行動範囲の拡大は戦略的縦深性を確保するためだとする。中国が太平洋側に戦略的縦深性を確保したいと考えるのは、沿岸部に集中する主要都市を攻撃から守るためであるが、敵が太平洋から攻めてくると考えているということでもある。太平洋から中国を攻撃する国、それは米国以外にはない。米国が中国に対して軍事攻撃を行う可能性を懸念しているのだ。

【参考記事】一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国

 そして、中国の考え方によれば、米国が中国に対して軍事力を行使する目的は、中国の経済発展を妨害することである。中国は、国際関係は大国間のゲームであると考えているが、それは、中国が他の大国に搾取されるという強迫観念の表れでもある。そのため、中国は米国およびロシア(以前はソ連)に対抗できるよう、軍事力を増強してきた。

【参考記事】中国はなぜ尖閣で不可解な挑発行動をエスカレートさせるのか

 第二段階と第三段階のターゲットが、中国が言う「二つの百年(中国共産党結党100年:2021年、中華人民共和国成立100年:2049年)」と一致していることも、中国の軍備増強が、「偉大な中華民族の復興」に連動していることを示している。

 中国は、既に1980年代前半には、海軍の行動を西太平洋まで拡大することを考えていたのだ。中国海軍発展の第一段階は、約10年遅れで達成され始めた。中国海軍は、水上艦艇の艦隊を、第一列島線を抜けて西太平洋に出し始め、2009年頃から「遠洋航海訓練の常態化」を謳い始めたのだ。その後、2016年になって、長距離爆撃機及び戦闘機が西太平洋まで行動範囲を広げている。

■政治的に伝えたいこと

 今回の、空母の西太平洋での行動も、中国海軍発展の大きな戦略の方向性に沿ったものだと言える。しかし、訓練艦である空母を西太平洋に出すことに実質的な軍事プレゼンス展開の意味はない。それでも、実戦に供することのできない空母にファイティング・ポーズをとらせるのは、政治的に伝えたいことがあるという意味だ。

 中国は、米国が中国の経済発展を妨害するのではないかと懸念していたが、それが現実味を帯びてきたと感じている。トランプ氏が米国の次期大統領になるからだ。トランプ氏は、これまでの米国大統領とは異なり、「自由」、「人権」、「民主主義」、「法の支配」等の理想主義的な原理原則を持ち出さない。

 原理原則や建前を前面に押し出し、上から目線で、これらを守れと強制されることを、中国は受け入れることができない。しかし、建前で来られれば、建前で返せばよい。建前で対立しながら、実際には、中国の思いどおりに行動すれば良いのだ。実力行使さえされなければ、中国は自由に行動できる。南シナ海で起こってきたことは、まさに、建前しか言わず実際には実力行使しないオバマ大統領を、中国が見切っていたことを示している。

 一方のトランプ氏は、建前を言わず、中国との二国間で、個々の問題について取引を行おうとすると考えらえる。特に、トランプ氏が焦点を当てるのが、経済問題である。米中間の貿易不均衡の解消を求めると考えらえるのだ。

 ここまでの話なら、中国は受け入れられるだろう。二国間で個々の問題について取引することは、中国が他国に持ちかけてきたことでもある。しかし問題は、トランプ氏が、中国との経済問題の取引をする際に、別の取引材料を持ち出してきたことだ。

■取引材料は「一つの中国」

 トランプ氏は、「米国は世界の警察官ではない」とする一方で、軍事力の大幅な増強も主張している。トランプ次期大統領が率いる米国は、国際秩序や理想主義的な理念に基づいてではなく、米国の利益を判断基準として、軍事力を行使するかどうかを決定するということである。

 トランプ氏の発言は、米国の経済的利益を獲得するために、外交・安全保障の問題を取引材料として用いるものだ。12月11日のテレビ番組でトランプ氏は、「一つの中国」を順守するかどうかは、中国の為替政策や南シナ海問題、貿易政策などの対立する分野において「中国側が我々と取引をするかどうかにかかっている」と述べ、台湾問題を中国とのバーゲニング・チップとして利用していく考えを示した。

 中国指導部にとって、まさに悪夢である。それでも、中国は慎重にトランプ氏の真意を探っていたように見える。12月2日、トランプ氏は台湾の蔡英文総統と電話協議を行ったが、この時も、中国はトランプ氏を名指しで批判することを避けた。米国の大統領或いは次期大統領が台湾の総統と協議したのは1979年の断交以来初めてだと報じられるような衝撃の大きな事案であったにもかかわらず、である。因みに、中国は、蔡英文総統は名指しで批判している。

 慎重に見極める態度を継続する一方で、危機感を持った中国は、トランプ氏に対して強いけん制の姿勢を見せる必要性を感じたと考えられる。中国が、軍事力を用いてトランプ氏をけん制したのが、今回の空母戦闘群による西太平洋での訓練だけではないからだ。

■無人潜水機を奪う暴挙

 トランプ氏と蔡英文総統の電話会談が行われた後の12月8日、中国の爆撃機が、中国が南シナ海に設定した「九段線」に沿って飛行した。2015年3月以来のことである。南シナ海全域に対して空爆する能力を中国が有していることを示し、米国及び南シナ海で行動する米海軍に対して中国の軍事力を誇示しようとしたのだ。

 そして、12月15日には、中国海軍救難艦が、フィリピンの西方約90キロメートルの海域で、米海軍海洋調査船が運用していた無人潜水機を奪うという暴挙に出た。米海軍と中国海軍の、南シナ海における水面下の攻防は、2000年代後半から活発化している。中国海軍の戦略原潜が海南島に配備されて以降、米海軍は、南シナ海における対潜戦を強化しているのだ。

 中国海軍は、南シナ海における米海軍の水中の情報収集を排除したいと考えて行動してきたし、どのような情報をどのような手段で採っているのかも知りたかったはずだ。それでも、公海において米海軍調査船の呼びかけを無視して米海軍の装備品を奪うなどという行為はなされなかった。やはり、特異な事象であると言える。

 中国は、東シナ海及び南シナ海において、これまでより一段と強い対米けん制行動に出ている。「台湾問題や南シナ海問題を取引材料にするな」という意味だ。中国の対米けん制の行動が強硬であるということは、それだけ、中国が「米国による中国発展の妨害」を恐れているということである。

 トランプ氏のディールによっては、米中間の軍事的緊張も高まることになるだろう。もし、小規模であっても、米中が実際に軍事衝突を起こすことがあるとすれば、そのきっかけは台湾かもしれない。トランプ氏あるいは米国の支持を得たと考えた蔡英文総統が、台湾独立の方向に動き始めたら、中国は軍事力を行使せざるを得なくなる。米国は、軍事力を用いて、これを押さえようとするだろう。しかし、今回は、中国が簡単に引き下がるとは考えにくい。1996年の台湾海峡危機がトラウマになっているからだ。

 トランプ氏は理想主義を掲げない分、何を要求しているのか分かりやすい。一方で、ディールをしている米中両国以外の国々は、その取引の内容を知ることが難しくなるだろう。何が取引に使われ、米中それぞれがどのような条件で取引を成立させるのか、日本を始めとする周辺諸国は、慎重に見極めてこれに対応していかなければ、十分な準備もないまま、米中軍事衝突に対応しなければならなくなるかもしれない。



 

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