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アサド政権、勝利と敗北を分けた選択
アレッポの反体制派には徹底攻撃、パルミラはISに譲る
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シリア政府軍が奪取した反体制派の拠点アレッポ。内戦でこの町はどんな役割を果たしてきたのか。WSJのジェイソン・ベリーニ記者が解説(英語音声、英語字幕あり)Photo: AFP/Getty
By YAROSLAV TROFIMOV
2016 年 12 月 16 日 11:23 JST
――筆者のヤロスラフ・トロフィモフはWSJ中東担当コラムニスト
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シリアのアサド政権とその同盟諸国はここ幾日かの間に大きな勝利を挙げる一方で、屈辱的な敗北も喫した。
シリアの北部アレッポと中部パルミラでの極めて重要な戦闘がもたらしたこの両極端な結末は、アサド政権とその後ろ盾になっているロシアやイランが何を優先しているのかを如実に表している。過激なスンニ派で構成される「イスラム国」(IS)ではなく、反体制を掲げる穏健なスンニ派との戦いを優先しているということだ。
そもそもアレッポにISはいなかった。シリア政府軍は今週、反体制派が掌握する町の大部分を制圧し、半年におよんだ残忍な包囲攻撃に終止符を打った。一方、歴史的都市パルミラでは政府軍はほとんど戦闘を行わずにISの攻撃に屈した。
政権側が瞬く間にパルミラを失ったことに、この内戦のもう一つ重要な特徴が表れている。それは、アサド大統領とその支持勢力が引き続き脆弱(ぜいじゃく)であるということだ。5年余り続く内戦で政権側に余裕がなくなっている。パルミラがたどった運命は、政権側の勝利がなかなか持続できないことと、実際に一夜にして崩壊する可能性があることを再び示した。
これら全てが意味するのは、アレッポでの勝利に政権側が沸いているにもかかわらず、アサド大統領はいまだにシリア全土の統治の回復に少しも近づいていないということだ。アラブ諸国の政府関係者は、政権側が内戦で圧勝するのは以前と変わらず不可能なままだとみている。この内戦ではすでにシリアの人口の過半数が家に戻れない状況になっているほか、約40万人が死亡している。
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アレッポをパトロールするシリア政府軍の部隊(14日) PHOTO: GEORGE OURFALIAN/AGENCE FRANCE-PRESSE/GETTY IMAGES
アラブ連盟の事務局長を務めるエジプトのアハメド・アブルゲイト元外相はアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで、「これは最終段階では全くない。彼(アサド大統領)は勝利しない。彼の政権は譲歩しなければならない」と述べた。
「戦車対戦車や、大砲対大砲といった軍事行為の章は終わるかもしれない。だが政権側が対立勢力と適切な和解を見いだすために交渉の門戸を開かない限り、ゲリラ戦が全域に広がることになるだろう。これは終わらない。正気な人なら誰でも、アサド大統領は退陣しなければならないという結論に至るだろう」
シリアのあらゆる反体制派はこれに同意する。
最も穏健な反体制派の一つで、シリア東部を拠点にクルド人部隊とともにISと戦っているタヤール・アルガドの幹部、モンゼル・アクビク氏は「アサドは今は勝っている」としたうえで、「だが彼はどうやって再び国を統治するのか。抵抗は続くだろう」と述べた。
筆者の過去のコラム
トランプ氏に希望見いだすシリア反体制派
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ドナルド・トランプ次期米大統領はシリア内戦に関して、対IS抗戦という共通の目的のもと、米国はロシアだけでなくアサド政権とさえ手を組むべきだと示唆したことがある。だが、アサド政権もロシアもISに対して特に積極的に抗戦してきたわけではない。ISに対する彼らの抗戦で唯一耳目を集めた作戦は、今年3月に古都パルミラの奪還を図った際のものだ。その10カ月前にISはパルミラを占拠し、破壊行為に出ていた。
政権側によるパルミラの奪還と解放はロシアで盛大に祝福された。サンクトペテルブルクのマリインスキー管弦楽団はパルミラに飛び、ローマ時代の円形劇場でコンサートを開いた。その様子はテレビでも放送された。
しかし先週末、ISはパルミラを容易に奪還した。防空システムを含む大量の重火器や弾薬を奪い取ると、T4空軍基地の封鎖を狙ってさらに西へ進んだ。米国は14日、ロシアとアサド政権にパルミラからISを追放するよう求め、さもなければパルミラに空爆を始める可能性があると表明した。
パルミラの陥落は、何よりもリソース配分の問題だった。内戦が始まるまでシリア最大の都市だったアレッポは、アサド政権にとってはるかに価値のある戦利品だ。同政権は中部と西部にある人口密集地の奪還に集中している。とはいえ、パルミラはこれまで、政権側とロシア軍の軍事能力を示す最も重要な象徴の一つだった。
シリア軍は戦闘で兵士を失っているほか、徴兵の対象になる国民も減少している。また、ロシアとイランの双方にとってシリアでの軍事作戦にかかる費用は上昇している。そうした中でのパルミラ陥落に、シリア政権と同盟諸国の根本的な弱さが表れていると、アラブの複数の政府関係者は語る。この弱さは、反体制派に対する戦争の激化を防ぎ得るという淡い望みにつながるという。
パルミラの円形劇場で演奏したサンクトペテルブルクのマリインスキー管弦楽団(5月5日) ENLARGE
パルミラの円形劇場で演奏したサンクトペテルブルクのマリインスキー管弦楽団(5月5日) PHOTO: SERGEI CHIRIKOV/EUROPEAN PRESSPHOTO AGENCY
「ロシアとイランの――そしてアサド政権自体の――戦争を継続させる能力には経済的理由で限りがある。内戦に終止符を打つ助けとなる要因はそれしかない」。レバノンの元首相で、現在は国民議会でスンニ派による「未来運動」を率いるフアド・シニオラ氏はこう述べた。
だがアサド政権に批判的な向きは、パルミラの一件ではより腹黒い動機があった可能性があるとみている。
アレッポでの政府軍の残忍な行為に世界中が注目している時に、ひげ面のIS戦闘員が有名なパルミラに突然現れたことは、大局的に見るとアサド氏が「まだましな悪」であることを思い出させる都合のいい出来事だったというわけだ。
「ダーイシュは常にシリア政府の利益になってきた」。ISのアラビア語の略称を使ってそう話すのは、サウジアラビアなどペルシャ湾の6カ国で構成する湾岸協力会議(GCC)のアブドルアジーズ・アル・ウェイシグ事務局長補だ。「彼らはダーイシュを利用して内戦の姿を変えようとしている。つまり、独裁政権に対する国民の戦いを、テロに対する戦いに変えようとしているのだ」
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