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和平にはシリアを分割するしかない
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8316
2016年12月2日 WEDGE Infinity
米外交問題評議会上級フェローのレイ・タキーが、10月31日付フィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説において、かつてのような統一シリアは望むべくもなく、せいぜい可能なのは、何らかの連邦制度の下で、いくつかの地域が共存することである、と述べています。
■ケリー国務長官の外交の最大の誤り
シリアに関する米国の戦略は、まず米ロが合意し、次いで地域の主要対立国であるイランとサウジが和解し、和平案をシリア内戦の対立グループに飲ませるというものである。しかしイランとサウジは地域の冷戦を戦っていて和解しそうになく、シリア内戦の対立グループは、あまりに手を広げ過激であるので、相違を乗り越えるのは不可能である。シリアの誰もが勝つために戦っている。
ケリー国務長官の外交の最大の誤りは、ロシアまたはイランの支持を得てシリアを再建できると考えていることである。たとえ合意ができても交戦グループは戦闘を止めそうにない。米国と英仏などの西側の主要同盟国にとって考えられる唯一の選択肢は、権限分割の諸原則を作り、大規模な兵力を展開してその順守を確保することである。分割案は、シリアの民族、宗教の違いを考慮し、国を分割しようとするものである。
アラウィ派や他の宗教グループには、公国ともいうべきものが認められる。スンニ派はISの影響力を排除したのち自身の勢力圏を持つ。
これらのグループは弱い連邦制のもとで共存することが期待される。このような体制は外部勢力による長期にわたる占領があって初めて定着するだろう。すなわち西側諸国が20世紀初めに行ったような実力を行使するということである。このような事情からシリアの内戦の早期終結は望めない。すべての当事国に戦い続ける理由があり、戦争を終わらせる力を持っている米国はその力を使うのを躊躇している。その間政治家は成功の見込みのない中途半端な提案をし続けるだろう。そしてシリアは炎上し続ける。
出典:Ray Takeyh,‘Partition presents the best hope for peace in Syria’(Financiak Times, October 31, 2016)
https://www.ft.com/content/06e2af00-9d19-11e6-8324-be63473ce146
シリアの和平については、これまでいくつもの構想が発表され、国連のデミストゥラ・シリア特使などが努力しましたが、具体化に至っていません。和平の前提である停戦については、人道上の見地などから、何度か実現されましたが、米ロの思惑の違いなどがあって、いずれも短命に終わっています。
タキーは和平が成立するとすれば、権限の分割しかないと言っています。統一シリアの復活はありえないということです。その通りでしょう。アサドが再びシリア全土を統治することも、反政府グループがアサド政権を倒してシリア全体を支配することも考えられません。
権限の分割は、シリアの民族、宗教の違いに基づいて行われ、各グループがそれぞれの支配地域をもち、それが弱い連邦制の下で共存するという構想です。内戦の戦闘グループがこのような権限の分割に合意するか、グループごとの支配地域の線引きをどのようにするかなど、難題が山積していますが、統一シリアの復活がないとすれば、権限の分割が唯一の選択肢ということになるのでしょう。
ただ、このような体制をいかに維持するかについて、タキーは、それは外部勢力による長期の占領があって初めて可能であると言っていますが、西側諸国が20世紀初めに行ったような実力行使というのは、植民地政策です。
はたしてそのようなことは可能でしょうか。平和維持軍的な役割であれば可能とも思われますが、タキーは「占領」とか「実力行使」といった表現を使っており、平和維持軍とは異なる軍事力による監視と、必要な場合の行使を考えています。米ロがそのような役割を共有できるのか、そもそも米国がそのような軍事力の行使に賛同するか、疑問です。
タキーはシリア内戦をかつてのレバノン内戦と比較しています。レバノンでもキリスト教徒、スンニ派、シーア派の間の微妙なバランスが崩れ、1970年代半ばに内戦に突入しました。レバノン内戦が1991年に終結したのは、冷戦の終結でロシアが西側との関係改善を求め、中東で建設的役割を果たそうとしたこと、イランでラフサンジャーニがサウジとの関係改善を図ったこと、などの要因が重なったためと言っていますが、現在シリアをめぐって類似の国際政治環境の変化は望むべくもありません。
タキー自身、自分の構想の実現が困難であることは十分承知しているようです。それが証拠に、論説の結末で、シリア内戦の早期終結は望めず、シリアは炎上し続ける、と言っています。
結局、シリアの和平は解のない方程式を解くようなもので、少なくとも当分の間は答えは出ないということになります。
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