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「"トランプ・ショック"と中東」(時論公論)
2016年11月25日 (金) 出川 展恒 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/257849.html
アメリカ大統領選挙でのトランプ氏の勝利は、中東にも大きな衝撃を与えました。トランプ次期大統領が選挙戦で、イスラム教徒を差別し、敵視するような発言を繰り返したこと。歴史的なイランとの核合意を破棄すると述べたこと。
そして、「アメリカ第一主義」と称して、アメリカの利益に直接結びつかないと見る問題から手を引く姿勢を示したことなどに、懸念や不安が広がっています。
その一方で、今、シリアでは、アサド政権と反政府勢力の戦闘が非常に激しくなっており、深刻な人道危機が起きています。
解説のポイントは3つです
▼悪化するシリア情勢、和平実現のカギはどこにあるのか。
▼過激派組織ISの壊滅作戦の行方は。
そして、
▼今後の中東情勢です。
まず、悪化するシリアの内戦について見て行きます。こちらの地図は、各勢力の支配地域です。
「アサド政権」は青、「反政府勢力」は赤、「IS」は黒、「クルド人勢力」が緑です。この1年、「アサド政権」が支配地域を回復する一方、「反政府勢力」と「IS」が支配地域を減らしました。
そして、今、世界の目は、北部のアレッポに注がれています。首都ダマスカスに次ぐ、シリア第2の都市で、アサド政権と反政府勢力が、激しい攻防を繰り広げています。「アレッポを制する者がシリアを制す」とも言われ、ここを制圧すれば、圧倒的優位に立てるからです。
これまでアレッポの東部地区を反政府勢力側が支配し、アサド政権側が、これを包囲してきました。
今月15日、アサド政権を支援するロシア軍が、地中海に展開する空母を動員して、大規模な空爆を再開しました。
これを機に、アサド政権軍は、アレッポの全域を一気に制圧しようと攻勢を強めています。
反政府勢力が支配する東部地区では、ロシア軍とアサド政権軍による空爆ですべての病院が破壊され、けが人の治療が全くできなくなっています。
食料や医薬品もすでに底をつき、大勢の市民が犠牲になっています。「今世紀最悪の人道危機」と呼ばれる悲惨な状況ですが、アメリカとロシアの対立で国連も為す術がありません。
シリアの内戦を終わらせる和平のとりくみは挫折したままです。1年前、関係国の会合で、「アサド政権」と「反政府勢力」が、国連の仲介で直接協議して、暫定政権をつくることで合意し、今年2月、双方が停戦に入りましたが、4月には戦闘が再燃しました。
9月に再び停戦にこぎ着けましたが、1週間も持たずに崩壊しました。和平協議は再開できない状態が続いています。
関係国がさまざまな利害や思惑で内戦に介入していることが、事態を複雑化させています。とくにアサド大統領の処遇をめぐる対立が解消できません。
▼反政府勢力側は、「大勢の国民を殺害したアサド大統領にもはや正統性はない」として、あくまで大統領の退陣を要求。アメリカ、ヨーロッパ諸国、トルコ、サウジアラビアなどが、これを支持し、支援してきました。
▼これに対し、アサド大統領は退陣を拒否し、ロシアとイランが、アサド政権を強力に支援しています。
長年築いてきたアサド政権との緊密な関係と、シリアでの権益を守りたいと考えているためです。
トランプ氏は、14日、ロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、ウクライナやシリアの問題で対立していた両国の関係改善を目指すことを確認しあいました。
トランプ氏は、シリア内戦への対応では、オバマ政権が要求してきたアサド大統領の退陣よりも、ISの壊滅を優先させるべきだと主張してきました。
このため、トランプ政権になれば、プーチン政権と対IS作戦で協調し、事態は好転するだろうという楽観的な見方も出ています。アサド大統領も、先日、インタビューで、「トランプ次期大統領がテロリストと戦うつもりなら共闘する」と述べています。
しかし、私はそれほど単純ではないと思います。まず、アサド大統領は、「反政府勢力はすべてテロリストだ」と主張しており、国際社会の認識とは相容れません。
次に、ISの壊滅は、軍事作戦だけでは不可能です。ISはシリア内戦の混乱に乗じて支配を拡げましたから、内戦を終わらせない限り、壊滅はできません。
ところが、トランプ政権が、シリアの内戦終結と和平の構築という難題にどこまで真剣に取り組むのかは、大きな疑問です。「アメリカ第一主義」ということで、和平の努力がアメリカの直接的な利益にならないと見れば、さっさと手を引くのではないか。
そもそも、プーチン政権と協調し、アサド政権を残すということで、和平が実現するのか。はたして反政府勢力や多くの国民がそれを受け入れるか。疑問は尽きません。
次に、ISとの戦いの行方です。トランプ氏が混迷する中東で、どんな政策目標を立てるのかはまだはっきりしませんが、外交・安全保障政策の要となる大統領補佐官に、タカ派で知られるフリン元国防情報局長官を起用し、ISなどイスラム過激派組織との戦いを最優先にする考えを明らかにしました。
これに加えて、ロシアと協調し、アサド政権の存続も容認する。これが、うっすらと見えて来たトランプ政権の方針です。
最優先に取り組むとする対IS作戦は、今、極めて重要な局面を迎えています。先月以来、イラク北部のモスルと、シリア北部のラッカ、ISにとって最も重要な2つの都市の奪還作戦が、本格的に進められています。
モスルには、イラク政府軍とクルド人の部隊が進撃し、イラク政府軍は、今月初め、モスル市内に入りました。
これに対し、IS側は、「自爆攻撃」と大勢の市民をいわゆる「人間の盾」にして徹底抗戦しています。
また、24日も、イラク中部のヒッラで起きましたが、国内各地で大規模な爆弾テロを繰り返し、イラク政府に揺さぶりをかけています。
一方、ラッカでは、シリア国内のクルド人部隊とアサド政権軍が、それぞれ別々に奪還作戦を行っていますが、いずれもラッカの市内には到達していません。
モスルでも、ラッカでも、市民の犠牲者が急増しており、奪還するには1年以上かかるという見方も出ています。
対IS作戦も、シリアの和平も、現地の複雑な情勢を良く理解したうえで、周到な戦略を立て、国際社会が一致協力して取り組まなければなりません。
もうひとつ、トランプ政権になることで、私が最も恐れているのは、「イランの核合意」が崩壊することです。
トランプ氏は、選挙戦で、「イランの核合意を破棄する」、あるいは、「見直して再交渉する」と公約してきました。
イランと、欧米など主要6か国が、去年7月、長い外交交渉の末、ようやく達したこの合意は、制裁解除と引き換えに、イランによる核兵器開発の可能性を摘み取る内容でした。
もしも、合意が反故にされ、崩壊すれば、イランは、核開発計画を再開し、加速してゆくでしょう。
そうなった場合、イランの核開発を国家存亡の脅威とみるイスラエルが、軍事攻撃に踏み切る可能性が高まると思います。
また、イランと対立するサウジアラビアなども、核を持とうとするでしょう。この地域にエネルギーを依存する日本も含め、世界に重大な危機が広がります。
イランは、シリアのアサド政権と緊密な関係にあり、シリアの和平にもマイナスとなるでしょう。
見てきましたように、中東の今後は極めて憂慮すべき状況です。トランプ次期大統領がどのような政権をつくり、中東政策を立てるのかを注視し、国際社会が足並みを揃えて、紛争の解決に取り組んでゆけるよう、国連を中心に新しい体制を築いてゆく必要があると思います。
・モスル奪還作戦〜ISは地下トンネルを網の目のように張り巡らイラク軍との決戦に備え、周到に準備/Nクロ現
http://www.asyura2.com/16/warb19/msg/148.html
投稿者 仁王像 日時 2016 年 11 月 08 日 21:39:24: jdZgmZ21Prm8E kG2JpJGc
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