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モスル奪還に成功してもISISとの戦いは終わらない
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/10/isis-86.php
2016年10月27日(木)11時00分 ジョシュア・キーティング ニューズウィーク
<ISISの「終末」は近づいているが、領土を失っても地下に潜り、世界各地でのテロを活発化させるだろう>(写真:モスル奪還に向かう意気盛んなイラク治安部隊)
14年夏、テロ組織ISIS(自称イスラム国)はトルコとの国境に近いシリア北部の町ダビクを制圧した。ダビクは軍事的な要衝ではないが、ISISにとってはプロパガンダに利用できる象徴的な価値があった。
ISISが好む終末論によると、預言者ムハンマドはイスラム教徒がダビクでローマ人(キリスト教徒)を倒せば最後の審判の日が訪れ、東ローマ帝国の首都コンスタンティノープル(現イスタンブール)は陥落すると言い残したという。
そのため、ISISはこの町を戦闘員の勧誘に積極的に利用してきた。現代の「十字軍」であるアメリカとその他のキリスト教国によるISIS掃討作戦が始まると、近々ダビクが激しい決戦の場になるという見方も強まっていた。
【参考記事】モスル奪還作戦、逃げるISISを待ち受けるのは残虐なシーア派民兵
しかし先週、事態は急展開。トルコに支援されたシリア反体制派の武装勢力がISISと交戦、あっさりダビクを奪還した。終末が近づいたのはISISのほうだった。
そして今、イラク第2の都市モスルをISISから奪還する作戦が本格化している。14年にモスルが陥落したときは、ISISの強大さに世界は衝撃を受けたものだ(何しろオバマ米大統領にテロ組織アルカイダの「2軍」呼ばわりされたこともあった)。イラク政府軍をはじめとする勢力にモスルまで奪われることになれば、ISISはイラクでの行き場を失うだろう。
モスル奪還作戦の部隊はイラク軍兵約3万人に加え、クルド人民兵、スンニ派民兵、シーア派民兵4000人と、かなりの大所帯だ。米軍は空爆のみならず、特殊作戦部隊による地上部隊の支援も行っている。
■従来型テロ組織に変容?
オバマ政権は、11月8日の米大統領選本選までにモスルを奪還しようと意欲を見せているが、作戦が長引く可能性もある。モスルでの戦闘は、今のISISの強さを測る試金石となるが、確実なのはISISが永遠に抵抗を続けることはできないということだ。
ISISのイラクでの最後の日々は、同組織が台頭した頃のように破壊的で激しい戦闘を伴いそうだ。ISISは過去の戦闘では、劣勢に立たされるとその地域から潮が引くようにいなくなり、別の場所で組織を再編するだけだった。だが、モスルでは長期戦に向けて備えを固めていると思われる。
戦闘員がモスル市内の道路に爆弾や偽装爆弾を仕掛けているとの報道もある。国連はモスルで戦闘が始まれば、避難民の数は100万人を超える恐れがあると危機感を強めている。
【参考記事】ISIS「人間の盾」より恐ろしい?イラク軍によるモスル住民への報復
懸念すべき問題はほかにもある。これまで「打倒ISIS」の旗印の下、イラクで民族的・宗教的に対立するさまざまな勢力は一つに団結してきた。だが、中央政府の威光が隅々まで届かないこの国からISISが撤退すれば、再び各勢力が角突き合わせる事態にもなりかねない。
さらに肝に銘じておく必要があるのは、たとえモスルで大敗してもISISが絶滅するわけではないことだ。ISISは領土支配に対する執着を捨てて、従来型のテロ組織のような地下ネットワークの構築に向けた準備を進めている。今後は中東やその他の地域でのテロ攻撃を活発化させる可能性も十分ある。
昨年11月、オバマがISISを「封じ込めに成功した」と発表したその翌日、欧州史上最悪規模のテロがパリで発生した。モスル奪還後、次期米大統領は同じ間違いを犯してはならない。
© 2016, Slate
[2016年11月 1日号掲載]
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