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機能不全のロシアを封じ込める方法
2016年10月27日(木)
The Economist
ロシアのプーチン大統領(写真:AP/アフロ)
4年前、米共和党の大統領候補だったミット・ロムニー氏は、米国にとって「地政学上の最大の敵」はロシアだと述べた。バラク・オバマ米大統領らはこの時代錯誤的な発言を揶揄し、「1980年代の外交政策に回帰しようとしている。冷戦は20年以上も前に終わっているのに」と冷笑した。
だが、時代は激変した。今やロシアは米国の選挙をハッキング、シリアの大量殺戮を主導、クリミアを併合、そして核兵器の使用を平気で口にするようになった。つまり、ロムニー氏の見方が常識になったのだ。こうした見方に同調しない米国人は、共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏くらいだ。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は毎週のように、世界を不安に陥れる新しい方法を見つけ出している。ロシアは10月8日、核弾頭を搭載できるミサイルを、ポーランドとリトアニアの近傍に搬入した。さらに最近、空母機動部隊を北海から英国海峡へと移動させた。プーチン大統領は、シリアの専制君主、バッシャール・アル・アサド大統領が率いる政府軍を攻撃する米航空機は、すべて撃ち落とすとすごんでいる。ロシアの駐国連大使によれば、米ロ関係は過去40年間で最も緊張した状態にある。
ロシアのテレビニュースは、弾道ミサイルや防空壕の映像を繰り返し流している。「不適切な行動」があれば「核の使用(も辞さない)」。プーチン大統領の下でプロパガンダの責任者を務めるドミトリ・キセレフ氏は「戦争が避けられないなら先制攻撃を仕掛ける」というプーチン大統領の言葉を引き合いに出して警告する。
実際には、ロシアは米国と戦争を始めるつもりはない。発言のほとんどは単なるこけおどしにすぎない。だがこうした発言は、世界の安定と秩序を脅かす。この脅威に対応するための第一歩は、ロシアの好戦的な姿勢は同国の復活を示唆するものではなく、慢性的な弱さの兆候であることを理解することだ。
人口は減少、原油価格は下落
ロシアは社会、経済、政治の各面において深刻な問題に直面している。高齢化が進み、2050年までに人口が10%縮小すると予想されている。コモディティー価格の高騰に伴う予想外の利益を利用して、国家と経済の近代化を急ぐ試みは失敗した。それどころか、プーチン大統領の下で政府はすさまじい規模に膨れ上がった。2005〜15年の間に、ロシアのGDPに占める公的支出と国営企業の比率は35%から70%に拡大した。
プーチン氏が政権を握るまで7%成長を続けていた経済は、今や縮小に転じた。西側による対ロ経済制裁が一因だが、腐敗と石油価格の下落がより大きな影響を及ぼした。
誰が金持ちになるかを決定するのはクレムリンであり、そのことは今も変わっていない。大物実業家のウラジーミル・イェフトゥシェンコフ氏は2014年に3カ月間、拘束された。出所に際し、同氏は傘下の石油会社を政府に明け渡すことになった。
強硬な姿勢は弱さの表われ
プーチン大統領は国内基盤が脆弱であることを、海外での姿勢を強めることで相殺しようとしている。2011〜12年にかけて、選挙不正があったとしてロシアの都市部の中産階級が大規模な抗議行動を起こした。これらの人々は様々な知識を身に着け、ロシアが近代国家に脱皮することを求めている。
石油価格が高騰していた時期、プーチン氏は自身への支持をカネの力で強化し、中産階級に抵抗することができた。だが今やプーチン氏は海外で戦争を行い、プロパガンダによってナショナリズムを煽ることで体制を維持している。
プーチン氏は西欧式の考えが少しでも入り込むことを警戒している。なぜなら、ロシアの政治システムは、人々を抑圧するには適しているが、安定を欠いているからだ。法による支配、自由なメディア、民主主義、開かれた競争など、ロシアの繁栄を支えてくれるはずの制度は、プーチンが支配する腐敗した国家にとっては現実的な脅威となる。
弱体化しても核を持つロシアはソ連より危険
ロシアの力が弱まっているため、オバマ大統領は任期の大半を通じて、同国に注意を向ける必要はさほどないと考えてきた。だが弱体化し、不安定で、予測し難い国が核を保有している現在の状況は、極めて危険だ。
ある意味では、かつてのソ連よりも危険である。スターリン後のソ連の指導者と異なり、プーチン大統領は独裁的な権力を握っている。政治局による制約を受けることもなく、第二次世界大戦の悲惨な経験がブレーキになることもない。プーチン大統領は今後何年にもわたり、権力の座に居続ける可能性があるが、年齢を重ねて人格が円熟することなど、ありそうもない。
経済制裁のジレンマ
プーチン大統領に関するオバマ大統領の発言は、徐々に正鵠を射るようになってきた――先日の記者会見でもかなり強硬な発言をしていた。だがプーチン大統領は、米国に挑み、打ち負かせると考えている。
西側諸国による緩やかな経済制裁は、一般のロシア人の生活に打撃を与えるが、その一方で、人々が団結して立ち向かうための敵を作り出す。さらに経済が打撃を受けていることの責任を転嫁し、非難の矛先を向ける対象を、プーチン大統領に与えることになる。この打撃は、同大統領が進めた政策が招いたものであるにもかかわらずだ。
忍耐強くプーチン大統領に対峙
西側諸国は何をなすべきか。時間は西側諸国の味方だ。衰退しつつある国は、自らの矛盾によって自己崩壊する時まで、封じ込めておかなければならない。たとえその国を非難したくてもだ。
計算違いとブレーキのかからない暴走が最大の危険であるため、米国はプーチン大統領との直接対話を続けなければならない――たとえ今日のように、意気消沈させられる結果に終わるとしてもだ。成果は、状況を打開する突破口が開かれることや、停戦(シリアのような悲惨な状況に陥っている国では歓迎すべき出来事だが)によって測られるのではない。ロシアがへまをする機会を減らすこと自体が成果なのだ。
最悪の事態は、核に関わる計算違いが起きることだ。したがって、旧ソ連時代のように核兵器の問題を他の問題から切り離すために、対話には(1)核兵器の管理と(2)軍対軍の関係の改善が含まれる必要がある。これは容易なことではない。なぜなら、権力基盤が揺らぐにつれ、ロシアは核兵器を揺るぎない優位性の源と見なすからだ。
同盟国を守れ
もう1つの紛争分野がロシアの近隣諸国である。ウクライナでの動きはプーチン大統領の政治手法を象徴している。国を不安定にすることで、ロシアを中心とする軌道から外れるのを食い止めるのがプーチン流だ。
米国の次期大統領は、トランプ氏の主張とは対照的な姿勢を示すべきだ。つまり、次のように宣言する必要がある――もしロシアがNATO加盟国(例えばラトビアやエストニア)に対してウクライナにしたのと同様の行動をとった場合、それを同盟国全体に対する攻撃として受け止める。
さらに、西側諸国は次のことも明確にしなければならない――仮にロシアがNATOに加盟していない国々、例えばジョージアやウクライナに大規模な武力侵攻を行った場合、これらの国に武器を供与する権利を留保する。
何よりもまず、西側諸国は冷静さを保つ必要がある。ロシアが米国の大統領選挙に介入した――これは秩序ある報復で対応するに値する出来事だ。だが西側諸国はそうした「アクティブな行為」を我慢することができる。
ロシアは魅力的なイデオロギーやビジョンを世界に提供するフリなどしていない。ロシアが意図しているのは、西側諸国もロシアと同じように腐敗しており、政治システムは同じように硬直的だとの考えをプロパガンダを通じて吹き込むことだ。そうすることで、自由主義が持つ普遍的な価値に対する不信感を植え付け、崩壊させることをロシアは目論んでいる。
世界を作り出す能力に対する信頼を喪失させることによって西側諸国を分断することをロシアは目論んでいる。そのようなロシアの意図に対し、西側諸国は結束し、断固たる姿勢を保ち続けなければならない。
© 2016 The Economist Newspaper Limited.
Oct 22-28, 2016 | From the print edition
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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