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(回答先: 北への予防攻撃が頼みの綱だ 早読み 深読み 朝鮮半島 「自前の核武装」は間に合わない 脆い「米国の核の傘」 投稿者 軽毛 日時 2016 年 10 月 14 日 10:49:22)
「地図から韓国が消える」と韓国人が叫ぶ
早読み 深読み 朝鮮半島
「核を持つ北朝鮮」に広がる絶望感
2016年10月13日(木)
鈴置 高史
ヒラリー・クリントン大統領候補の外交ブレーンと言われるシャーマン前国務次官は11日、訪問先の韓国で「北朝鮮の挑発の動き」への警戒感を示した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ、2014年撮影)
(前回から読む)
「我が国が世界地図から消える」――。こう警告する記事が韓国で相次ぐ。北朝鮮の核武装が目前に迫ったからだ。
静かだった10月10日
10月10日、北朝鮮では何事も起きませんでした。
鈴置:この日は労働党創建記念日。北朝鮮が景気づけに6回目の核実験か、長距離弾道ミサイルのテストでも実施するのではないかと米韓日は緊張しました。
●北朝鮮の核実験
回数 実施日 規模
1回目 2006年10月9日 M4.2
2回目 2009年5月25日 M4.7
3回目 2013年2月12日 M5.1
4回目 2016年1月6日 M5.1
5回目 2016年9月9日 M5.3
(注)数字は実験によって起きた地震の規模。米地質研究所の発表による。
9月20日、北が「推力重量80トンの新型ロケットエンジンの燃焼試験に成功した」と誇ったばかりです。10月10日にはそれを3本束ねた長距離弾道ミサイルを試射するのではないか、と関係者は推測したのです。
北朝鮮も核実験場やミサイル発射場で、怪しい動きを見せていました。米国などが衛星で見ていることを意識してのことでしょうけれど。
「衛星」でも撃ち落とす
でも結局は、10月10日には核実験も弾道ミサイルの試射もありませんでした。
鈴置:北朝鮮が挑発に出なかったのは、米韓両海軍が10月10日から15日までの予定で、艦船から陸上を精密に攻撃する訓練を実施したことが効いたのではないかと思います。
ことに今「衛星打ち上げの名目であろうと北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射の構えを見せたら、発射台の上で破壊するか、発射直後に撃ち落とすべきだ」との意見が米国で高まっています。(「米国が北朝鮮を先制攻撃する日、韓国と日本は?」参照)。
表「米国の『先制攻撃論』(2016年9月)」を見れば分かりますが、米国は「先制攻撃」の意思を隠そうともしなくなったのです。
米国の「先制攻撃論」(2016年9月)
5日 北朝鮮、高速道路から3発の弾道ミサイル連射、1000キロ飛び日本のEEZに落下
9日 北朝鮮が5回目の核実験を実施し「戦略ミサイルの核弾頭の生産が可能になった」
10日 稲田朋美防衛相、韓民求国防相に電話会談で、GSOMIA締結を呼び掛ける
12日 韓国国防相報道官「日本とのGSOMIAは必要な雰囲気。ただ、国民の理解必要」
16日 マレン元米統合参謀本部議長「北の核の能力が米国を脅かすものなら先制攻撃しうる」
19日 カーター国防長官、在韓米軍のスローガン「fight tonight」を引用「その準備はできた」
20日 北朝鮮「推力重量80トンの静止衛星運搬用ロケットの新型エンジン燃焼試験に成功」
20日 ハイテン米戦略軍次期司令官「北朝鮮はいずれICBMを持つ。すぐに備えるべきだ」
22日 米大統領報道官、対北攻撃を聞かれ「一般に先制的軍事行動に関し事前に論議しない」
24日 ヴィクター・チャ教授、中央日報に「北朝鮮のICBMの破壊も検討」と寄稿
26日 米韓海軍、日本海で合同訓練。韓国軍「北朝鮮の核・ミサイル施設や平壌が攻撃目標」
北朝鮮は、記念日に撃ち上げたミサイルを米国に叩き落とされたら、面子丸つぶれになると恐れたのかもしれません。
逆にもし、相次ぎ核実験を実施する北朝鮮が、米本土に届くような大型のミサイル発射に成功したら、米国の面子が大いにつぶれたでしょう。
もちろん、10月10日に北が動かなかったといって、米国は油断していません。翌11日、訪韓したシャーマン(Wendy Sherman)前国務次官は「北朝鮮はいずれ挑発の動きを見せるだろう」と述べました。
聯合ニュースの「シャーマン前国務次官『北核問題解決に全オプション動員を』」(10月11日、日本語版)が伝えています。
韓国政府も緊張を解いていません。同日、朴槿恵(パク・クンヘ)大統領は「北朝鮮の挑発はいつでも起こり得る。それに備えねばならない」と語りました。
このところメディアでも「我が国は地図から消える」という見出しの記事が相次いでいます。韓国は「北の核」にひしひしと危機感を強めているのです。
米国は「底なしのお人好し」か
「地図から消える」とは過激ですね。
鈴置:日本の新聞と比べ、韓国紙の表現は相当に大げさです。その分は割り引かなくてはいけません。でも、記事を読むと韓国人の焦燥感がよく分かります。
まずは「地図から消え去ったことがある国が肝に銘じること」(2016年9月2日、韓国語版)です。朝鮮日報の姜天錫(カン・チョンソク)論説顧問が書きました。
米韓が合意したTHAAD(=サード、地上配備型ミサイル迎撃システム)の在韓米軍への配備に対し野党や、与党の一部国会議員、住民が反対し、前へ進まないことに懸念を表明した論説です。ポイントを訳します。
THAAD配備の発表以降、韓国で繰り広げられてきたことは「この国が100年前に地図から消えた国だという国だという事実が記憶されているのだろうか」と疑わせる。
政府は習慣的に決定・発表し、野党は慣性により反対し、専門家は空論で一部メディアに迎合し、地域住民は利害に動かされハチマキを絞める。
現在の韓米関係において「血盟」という単語にあまりに多くの意味を与えれば錯覚を呼ぶ。韓国の地政学的な価値を過大評価し「どんなことがあろうと米国は韓国から離れない」といった、米国を底なしのお人好しと見なすことは危険そのものである。
THAADの主目的は在韓米軍と米軍の装備を北朝鮮の先制攻撃から守ることだ。韓国防衛のためにやって来た自国の兵士を保護する装備の導入に韓国が反対すれば、米国内にどんな世論が巻き起こるか、火を見るよりも明らかである。
「桂―タフト協定」再び
確かに、在韓米軍基地にTHAADを配備させないと言うのなら、米国は韓国を見捨てたくなるでしょうね。
鈴置:誰もがそう思います。でも、配備に中国が猛反対しているので韓国人は賛成しにくい、あるいは反対するのです。
朴槿恵大統領だって2016年1月に北朝鮮が4回目の核実験をするまでは、中国の顔色を見てTHAAD配備に明確な態度を打ち出せなかったのです。
「米国に見捨てられる」ことは分かりました。では、なぜそれが「地図から消える」ことになるのでしょうか。
鈴置:姜天錫論説顧問は米国に見捨てられると、韓国が米中のパワーゲームの取引材料にされて自らの手で国の針路を決められなくなる――つまり、主体的な国家を維持できなくなると憂えました。
韓国人にとってそれは想像ではなく「過去にも体験したこと」なのです。1910年、朝鮮は日本に併合されました。フィリピンを植民地として確保しておきたい米国と、日本との取引の結果でした。
1905年の桂―タフト協定(Taft-Katsura Agreement)がその証文です。この論説も、以下のように書き出されています。
強大国に取り囲まれた国が独立と尊厳を守るのは簡単ではない。朝鮮半島は1910年から1945年の36年の間、世界地図で「Japan」と表記された。
16世紀頃、中部ヨーロッパで大国だったポーランドも国境を接する強大国のプロイセン、オーストリア、ロシアにより何度も国土を分割され、1795年に地図から消えた。
1918年、第1次世界大戦が終わると同時に123年ぶりに国を取り戻したが、1939年にドイツとソ連が東西両側から攻撃するや、再び地図から消えた。
ポーランド滅亡の原因は守旧と革命勢力の間の国論分裂と、国際情勢に対する誤った判断だった。
周辺の強大国はお互いに争いながらも、ポーランド分割問題に関しては、いつ争ったことがあるかといった風情で容易に合意に達した。
物理的にも「消える」
「地図から消える」は韓国人にとって単なる例え話ではないのですね。
鈴置:9月9日の北朝鮮の5回目の核実験の後「地図から消える」との悲鳴はより高くなりました。同じ「消える」でも、核攻撃によって物理的に「消える」ことも含むようになったのです。
核実験の翌日に保守運動の指導者、趙甲済(チョ・カプチェ)氏が自身が主宰するネットメディアに書いた「大韓民国は地図上から消え、賢い韓国人は絶滅した」(9月10日、韓国語)は悲痛です。要点を訳します。
100年後、歴史の本はこう記録するかもしれない。
大韓民国は北朝鮮の核攻撃を受け、地図上から消え去った。韓国人は「金正恩(キム・ジョンウン)がまさか(核ミサイルを)撃つはずがない」「米国が黙っているだろうか」と無責任な姿勢で一貫し、核に備えた防空壕も掘らず、核ミサイルへの防衛網も造らなかったため絶滅した。
もちろん見出しの「賢い韓国人」は強烈な反語です。希望的観測にしがみ付き、北の核への対応を怠る韓国人への警告です。
なお、日本人が韓国の今の苦境を対岸の火事と見れば「賢い日本人」となるでしょう。北朝鮮の核ミサイルの脅威に晒されるという点で、日本の置かれた状況は韓国と本質的に同じなのです。
しかし多くの日本人も「まさか北朝鮮が日本に核ミサイルを撃つだろうか」「米国が何とかするだろう」と考えています。
200年間で66カ国が消滅
「賢い日本人」ですか……。
鈴置:話を韓国に戻すと、保守派の国際政治学者、李春根(イ・チュングン)博士も、5回目の核実験の翌9月10日に「韓国が地図から消える」と警告しました。
東亜日報のホ・ムンミョン論説委員に語りました。この記者も、韓国の安全が危機的な状況にあると必死で訴える保守の論客です。
インタビュー記事「中国をも見下す金正恩…韓国は核武装しか答えがない」(9月12日、韓国語版)から引用します。
読者に強く訴えたかったのでしょう、ホ・ムンミョン論説委員は「国が消える」との李春根博士の発言を記事の結論部分で紹介しています。その小見出しは「200年間に66カ国が消えた」です。
ナポレオン戦争が終わった1816年から2000年までに207カ国が存在したが、約3分の1に当たる66カ国がなくなった。
この中で50カ国が隣の国の武力攻撃で滅びた。国際社会で生きて行くということはこのように危険なことなのだ。どの国もが安全保障、すなわち生存を国家第1の目標に置くのもそのためだ。
小さくて弱い国は猛獣の攻撃を避けるため、ハリネズミのように「針」を持たねばならない。
北朝鮮は遅かれ早かれ核兵器のシステムを完全に備える。その時、韓国の運命は風前の灯となる。
それを避け得る「究極的な方法」が「核武装」であるという事実は、過去70年間にわたって核戦略理論家が合意した最終的な結論だ。
鈍感過ぎる日本人
韓国は米国と同盟を結んでいます。米国の「核の傘」によって保護されているのではありませんか?
鈴置:韓国人は米国を信用していません。「2度も米国に捨てられた」と考えているからです。1度目は先ほど述べた桂―タフト協定。2回目は1950年1月のアチソン(Dean Acheson)声明です。
アチソン国務長官が演説で米国の防衛線を説明した際、韓国をその内側には置きませんでした。これを聞いた北朝鮮の金日成首相(当時)は「南進しても米国は介入しない」と判断、半年後に朝鮮戦争を始めたのです。
でも「裏切られた」過去の2回とも、韓国は米国と同盟を結んでいませんでした。
鈴置:確かに昔と異なって、今は米韓同盟があります。ただ、いくら同盟があっても「核の傘」が本当に適用されるのか、韓国人は疑うのです。
李春根博士はインタビューで「北朝鮮によるロサンゼルスへの核攻撃のリスクを甘受してまで米国が韓国を守るのか」と疑問を呈しました。これは多くの韓国人が抱く懸念です。
そのうえで「米国の核の傘への不安からフランスは独自に核武装した」と指摘しました。国際的な標準から言えば、日本人が鈍感過ぎるのでしょう。
北の核はボディーブロー
平和ボケですね。
鈴置:日本人ほどではないけれど、韓国人も平和ボケに陥っているところがあります。「北の核」がボディーブローのように韓国の安全と独立を侵していくことに、まだピンと来ていないのです。そこで、保守の論客らが必死になって危機を訴えているわけです。
(次回に続く)=10月14日掲載予定
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『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』
米国と中国を相手に華麗な二股外交を展開し、両大国を後ろ盾に、日本と北朝鮮を叩く――。朴槿恵政権が目論んだ戦略は破綻した。
「北の核」と「南シナ海」をどうするか。米中が本腰を入れ、手持ちの駒でせめぎ合う。その狭間で右往左往する韓国は「離米従中」路線を暴走してきた末に「核武装」「米軍撤退」論で迷走を始めた。その先に待つのは「捨て駒」にされる運命だ。
日本も他人事ではない。「オバマ後」の米国がアジアから遠ざかれば、極東の覇権を狙う中国と、きな臭い半島と、直接に対峙することになる。岐路に立つ日本が自ら道を開くには、必死に手筋を読み、打つべき手を打つしかない。
『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』に続く待望のシリーズ第8弾。6月13日発行。
このコラムについて
早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/101100072/
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