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サウジの首都リアドにあるキングダムセンター(iStock)
落日のオバマ氏に新たな難題、サウジのイエメン空爆の“暴走”
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7934
2016年10月11日 佐々木伸 (星槎大学客員教授) WEDGE REPORT
内戦状態のイエメンの首都サヌアで8日、葬儀場が空爆を受け、少なくとも100人以上が死亡した。空爆したのは内戦に介入しているサウジアラビア主導の連合軍機と見られ、サウジへの莫大な武器供与を承認してきたオバマ大統領は政権末期で新たな難題を抱え込むことになった。
■意図的な攻撃か
空爆があったのはサヌア最大の葬儀場「グランド・ホール」。この日はイエメンの支配権を掌握した反体制フーシ派のロワイシャン内相の父親の葬儀が行われ、多数が参列していた。そこへ午後3時半頃、2発のミサイルが着弾、遅れてさらに1発が撃ち込まれた。
死者の人数はさらに増える見込みで、負傷者も約600人近くに上っている。サウジが2015年3月にイエメン空爆を開始して以降、最悪の被害規模となった。ロワイシャン内相は無事だったが、サヌア市長らが犠牲になった。昨年9月にも南西部で結婚披露宴会場が攻撃され、130人以上が死亡している。
フーシ派はサウジアラビアの攻撃と非難、国連や人道団体からも同様の非難の声が上がった。これに対してサウジは国営テレビを通じて攻撃を否定し、米側の専門家と原因を調査すると発表した。米国家全保障会議(NSC)は「サウジへの協力はなんでも認めることではない」と強くけん制した。
サヌアでは、サウジと敵対するフーシ派の幹部の身内の葬儀だっただけに、誤爆ではなく、サウジが民間施設を意図的に狙った攻撃、との反発が広がり、フーシ派はサウジ領内の空軍基地を報復攻撃した。10日になって今度はイエメン沖の紅海を航行中の米駆逐艦メイソンが2発のミサイル攻撃を受けた。
国防総省によると、ミサイルは命中しなかったが、メイソンは報復行動を取ったという。ミサイルはイエメンのフーシ派支配地区から発射されたとしている。先週にも同じ紅海に面したモカ沖で外国船舶がロケット弾攻撃を受けて損傷しており、フーシ派による船舶攻撃が激化するとの恐れも強い。
今回の事態で対応に苦慮しているのはオバマ政権だ。オバマ政権は公式には同盟国であるサウジの軍事介入に賛同し、武器支援も行ってきた。その理由の1つは、サウジがイランの核合意をまとめた米国に不信感を抱いており、これ以上の関係悪化を回避する必要があったことだ。
シーア派の盟主として同じ宗派のフーシ派を支援するイランの影響力拡大を阻止したい思惑もある。しかしサウジの軍事介入はフーシ派に一定の打撃を与えたものの、壊滅に追い込むことができないことが一段と鮮明になりつつある。このためオバマ政権はサウジへ空爆の自制を促し、国連主導の和平協議を側面支援してきた。
というのも、サウジの空爆でイエメンの内戦が激化し、混乱が広がれば、イエメンに拠点を置く「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)や過激派組織「イスラム国」(IS)のイエメン分派がそのスキに乗じて勢力を拡大する懸念があるからだ。
■レームダック政権に見切り
オバマ政権はAQAPとIS分派を無人機と地上のスパイ網で常時監視し、特定できた時点で攻撃を繰り返している。無人機はサウジ国内の秘密基地とアフリカの角のジブチを基地としているが、政権は特にAQAPが対米テロの能力を依然有しているとしてその動きに神経をとがらしている。
AQAPはアルカイダの中で現在も最強の組織。これまでにも米国行きの航空機に爆発物を仕掛けるなど米国への攻撃をあきらめていない。昨年、パリで起きた週間新聞社シャルリエブドの襲撃では犯行声明を出した。これに対して米国は6月、最高指導者のナシル・ウハイシを無人機攻撃で殺害するなど攻撃の手を緩めていない。
内戦の混乱に乗じて勢力拡大を図っているのはIS分派も同様だ。8月末、フーシ派から追われたイエメン政府側のアデンの軍事訓練施設に自爆車を突っ込ませ、70人以上を殺害した。その後も散発的に自爆テロを引き起こすなど活動を活発化させている。
米国はこうした過激派を封じ込めるためにも内戦の鎮静化を望んでいるが、サウジはオバマ政権の説得に耳を貸そうとしていない。むしろ残りの任期が4ヶ月を切ったオバマ氏のレームダック政権にはとっくに見切りをつけ、次期政権との関係を重視しているフシがある。オバマ政権はこうしたサウジの“暴走”に苦り切っている。
しかし米国にとってサウジの比重は大きく低下。新政権になっても「ペルシャ湾の死活的な権益を守る」(カーター・ドクトリン)とされたかつての戦略的価値はサウジにはない。米議会でこのほど、米中枢同時テロ9・11関連で、サウジに損害賠償を請求できる法案が成立したのもこうした背景がある。
地位が低下した理由は米国内でシェール革命が起き、サウジの石油を当てにしなくても自前でエネルギーをまかなえるようになったからだ。宿敵イランの影に脅えるサウジの暴走気味のイエメン空爆はそうした戦略的価値の低下に対する焦りを象徴するものとも言えそうだ。
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