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政府軍による空爆でがれきと化したアレッポ東部シャー地区の建物(2016年9月27日撮影)。(c)AFP/KARAM AL-MASRI〔AFPBB News〕
シリアについては、我々は皆スターリン主義者だ 移ろいやすい国民感情、極右の台頭を促しかねないリスク
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48033
2016.10.4 Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年9月27日付)
「1人の人間の死は悲劇だが、100万人の死は統計である」。ヨシフ・スターリンによるこの言葉は、非情さの典型だと見なされることが多い。西側の民主主義国で守られている人道と自由を尊ぶ価値観の対極だというのだ。
だが、シリアの内戦について言えば、西側諸国はスターリンの格言を地で行っている。世界のそのほかの国々も同様だ。
筆者はこの4年間、シリアの恐ろしい統計を満載したコラムを何本も書いてきた。1年目には死者が5万人に達したと紹介し、その翌年には10万人に、さらにその翌年に20万人に増えたと記した。今では40万人を突破しているかもしれない。しかし、この間ずっと変わらなかったのは、シリアについてのコラムを読む人が非常に少なかったことだ。
それでも時折、一個人の悲劇の記述や写真に、多数の西側の人々が一斉に同情を寄せることがある。昨年の今ごろには、アラン・クルディ君の亡きがらの写真に多くの人が悲痛な叫び声を上げた。Tシャツと半ズボン姿で、靴も履いたままトルコの砂浜に打ち上げられた3歳の男の子の写真には、見る者の心を激しく、抑えられないほど揺さぶる何かがあった。
しかし、こうした嘆きの声の急増にも、不可解で気まぐれな側面があった。実はこのとき、シリアの戦争を発生当初から報道し続けていた筆者の友人がこんな言葉を漏らしていた。「僕は、死んでしまったシリアの子供たちの写真をもう何年もツイッターで発信している。でも、たいていは誰も注目してくれない」
多くの人が海でおぼれる事件に対する西側の反応にも、同様なパターンの気まぐれさが見受けられる。2013年10月、難民に認定してもらおうと船で地中海にこぎ出した300人あまりの人々がランペドゥーザ島の近くでおぼれ死んだときには、国際的な非難の声が上がり、まずイタリアが、そして欧州連合(EU)も救助にもっと力を入れるよう促された。
ところが、この9月半ばにも、地中海を越えて欧州に入ろうとしていた100人超の人々がエジプト沖でおぼれてしまったが、西側のメディアはこの悲劇をほとんど取り上げなかった。地中海での死者の数は今年、近年の最高記録を更新しそうな勢いだが、ほとんどの一般市民はこの問題に関心を持つのをやめてしまったようだ。
西側諸国の政治家は、一般市民の心情の予測不可能な変化――無関心かと思えば、嘆きの声が突然強まることが時折ある――を考慮に入れた対シリア政策をなんとか練り上げるべく努力しなければならない。有権者の同情は何カ月も続くとの想定で政策を打ち出した首脳らは、大体においてひどい目に遭っている。
昨年夏には、多くのドイツ人が「ここ(ドイツ)は難民を歓迎します」というプラカードを掲げたことから、アンゲラ・メルケル首相がこれを文字通りに受け止め、100万人を超える難民に扉を開いた。ところが、9月実施された地方選挙では反移民の右派政党が躍進し、メルケル氏は自身の難民政策について国民に謝罪した。昨年の憐憫の情は今年、後悔の念に道を譲ってしまった。
一方、米国のバラク・オバマ大統領は、シリア問題については冷淡すぎるという批判と同情的すぎるという批判の両方にさらされている。米国のリベラル派には、流血の惨事を止めるために介入しなかったことはオバマ氏の評判の汚点となってずっと残るだろう、と考える人が多い。だが右派からは、米国のシリア難民受け入れを増やしたがっているとして激しく攻撃されている。
今日では、シリアで援助物資を運ぶトラックの車列をロシアが爆撃したことに怒りの声が強まっており、これが西側の議論の転換点になるようにも思われる。だが、過去の経験に照らせば、シリアへの関心は急激に高まってもあっという間に困惑と無関心に戻ってしまうのが通例だ。国民感情の盛り上がりは政策の指針としてはあてにならないことを、オバマ氏は承知している。
オバマ氏自身、どちらにすべきか明らかに決めかねている。国連で先日行った演説の中では、あのシリアの男の子と一緒に暮らしたいという手紙をホワイトハウスに送った6歳の米国人の少年を称えた。そのシリアの男の子とは、今年のシリアの「ショックな写真」の被写体になった5歳のオムラン・ダクニシュ君。爆撃されたアレッポのガレキの下から血まみれの状態で救出され、救急車の中で呆然としているところを写真に撮られたあの子である。「私たちは皆、アレックスから学ぶことができる」とオバマ氏は述べた。
だが、ほかの場所では運命論者のような発言をしている。ジャーナリストのジェフリー・ゴールドバーグ氏には「この世界は物騒で、複雑で、混乱しているひどいところだ。おまけに苦難と悲劇にあふれている」と語っていた。
米国がシリアの流血を止められると思える唯一の方法は、地上部隊の投入を含む大規模な軍事介入だろう。しかし、アフガニスタンとイラクに続く介入を、米国民が支持してくれると考えられる理由は見当たらない。飛行禁止区域の設定やシリア空軍への攻撃など、「軽度の介入」を支持する国民は確かに存在する。だが、その種の限定的な介入では、何かしないわけにはいかないという至極もっともな気持ちには応えられるとしても、人道的な面で事態を改善することにはあまり貢献しないかもしれない。シリアには、すでに多数の爆弾が落とされている。
それ以上に急を要するのは、難民への避難所の提供だ。ドイツから米国、英国、ハンガリー、そしてポーランドに至るさまざまな国で、移民と難民――特にイスラム教国からの人々――に対する恐怖感は、ポピュリスト(大衆迎合主義)や極右の政治家にうまく利用されてしまっている。
英国がEU離脱に向かい、ドナルド・トランプ氏がホワイトハウスのあるじの座に危険なほど近づき、メルケル氏の政治生命にも疑問符が付いている今、難民への門戸を広げる政策が西側諸国で極右勢力の台頭を促しかねないリスクを無視するのは愚行というものだ。
従って西側の政治家は、自由を尊ぶ政治を国内で維持するために、外国で行われている、自由を尊ぶ価値観に反する行為を黙認しなければならないのかもしれない――。何と冷たい結論だろうか。
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