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「関ケ原」化してきた国際軍事情勢[日経新聞]
編集委員 高坂哲郎
2016/9/22 3:30
このところ国際軍事情勢の「2極化」が鮮明になってきた。米国を中心とする民主主義諸国陣営と、中国・ロシアの「強権体制連合」の両者が、世界各地でそれぞれの勢力圏を固めようと盛んに動く姿は、戦国時代、群雄割拠だった日本が東軍と西軍に分かれて激突した「関ケ原の合戦」前夜と重なってみえてくる。
■米陸軍副参謀長「どちらを選ぶか決めろ」
「オーストラリアはどちらを選ぶか決めた方がいいと思う。米国との同盟という路線と、中国との経済関係強化という路線の間でバランスを取るのはとても難しいことだ」――。米陸軍のトム・ハンソン副参謀長はこのほど豪テレビでこう語り、米国との関係を中国よりも重視することを明確にするよう豪州に迫った。彼が外交官でなく軍人ということを割り引いても、他国に対する相当にストレートな物言いである。
南シナ海で合同演習に臨む中国海軍フリゲート艦(左)とロシア海軍の水上艦=AP
中国は、7月に南シナ海における広範囲の主権の主張が仲裁裁判所に退けられて以降も、造成した人工島の軍事基地を足場に同海を支配しようとする構えを捨てず、9月12日からはロシア海軍と大規模な海軍演習を実施している。
米軍は戦略爆撃機をグアムや韓国に前進配備して中国をけん制。ベトナムはこのほど南シナ海の中国の軍事基地を射程に収める移動式のロケット発射装置を自国領の島に展開した。フィリピンの沿岸警備隊を強化するため日本が供与する10隻の巡視船の最初の1隻が8月18日、マニラに到着した。
米陸軍副参謀長の豪州への発言を聞くと、関ケ原合戦に先立って東軍総大将の徳川家康が小山での軍議で客将たちに東軍、西軍どちらにつくか決めるよう促した史実が思い出される。
ロシア軍は8月16日、イランの基地から発進させた戦略爆撃機でシリア領内の反政府勢力を空爆した。ロシアとイランの軍事協力は以前から続いているが、イランがロシア軍に基地を提供するという踏み込んだ動きをみせたのは初めてで、世界の軍事関係者を驚かせた。一方、米海軍の哨戒艇が8月24日、ペルシャ湾北部で異常接近したイラン革命防衛隊の高速艇に威嚇射撃した。関ケ原の決戦前には、近江や丹後で東軍と西軍との局地戦が起きている。
7月のクーデター未遂事件後、米欧との関係が悪化していたトルコのエルドアン大統領は8月9日、ロシアのプーチン大統領と会談し、露土関係改善で一致した。冷戦時代、北大西洋条約機構(NATO)の一員として、長らく「ソ連の柔らかい下腹」ににらみを利かせてきたトルコの「離反」は、豊臣子飼いだった加藤清正や福島正則が、石田三成との確執から徳川方についた展開を思い起こさせる。
加藤や福島は関ケ原後、老獪(ろうかい)な徳川家康にさんざん利用された挙句に使い捨てにされた。造反者やスパイは結局のところ協力した相手にも尊敬されないことが多い。フィリピンのドゥテルテ大統領も最近、対中接近の構えをみせている。トルコやフィリピンの今後が案じられる。
欧州では、冷戦時代を通じて東西どちらの陣営にも属さず、武装中立政策をとってきたスウェーデンとフィンランドが、今夏実施のNATOの軍事演習に参加。フィンランドはNATOとの防衛協力協定締結にも動いているという。軍事的に復調してきたロシア軍を前にもはや中立の継続は無理だとして、自らの旗幟(きし)を鮮明にし始めた北欧2か国の姿は、関ケ原を前に東西どちらにつくかの決断を迫られた大名たちの姿と重なる。
フィンランドは中立政策を軌道修正しNATOに接近している。写真は6月、フィンランド南岸での合同演習に参加したオランダ海軍部隊=AP
国際軍事情勢の「関ケ原」化、あるいは2極化が鮮明になってきたことの理由としては、(1)中国が経済成長を背景に軍拡を続け、ロシアも軍事面で復調し、力づくでの国際秩序変更に挑み始めた(2)それに危機感を覚えた米英などの軍・情報機関が本気で巻き返しに動き出した(3)サイバー攻撃などの増加で「平時の戦時化」が進む中で、両陣営がそれぞれ味方の「囲い込み」のピッチを速め始めた――の3点が挙げられよう。
関ケ原合戦をめぐっては、西軍は兵力面では東軍を上回り、部隊配置もよかったものの、指導者の資質と結束力で東軍に劣り「戦う前から負けていた」という評価がある。もしも「開戦劈頭(へきとう)、徳川家康の本陣を狙うべし」と主張した薩摩の老練な武将、島津義弘の策を採用する軍事センスと剛胆、懐の深さが石田三成にあれば、のちの「敵前突破」で見せた機動力とすさまじい戦闘力を有した島津軍と、西軍基幹の宇喜多秀家軍が家康本陣に襲いかかれたかもしれない。そうなれば、小早川秀秋軍に始まる一連の裏切りの連鎖を防げていた可能性もある。
■2極化状態は長期にわたる「平時の戦争」
米国を中心とする民主主義陣営と、中国・ロシアの強権体制陣営のどちらがこの先、勝者になるかはわからない。もとより現在の2極化状態は、半日で決した本物の関ケ原合戦と違い、「平時の戦争」として長期間続きそうだ。両陣営とも、安直に本当の戦争に訴えれば失うものが多すぎるからだ。
確かなのは、およそ戦争や競争では、指導者に恵まれた陣営が有利にことを運ぶということだ。その点、日本を含む民主主義陣営を引っ張る立場にある米国の大統領選などの様子をみて不安になるのは筆者だけであろうか。ここはストレートに言おう。米国にはしっかりしてもらわないと本当に困るのである。
高坂哲郎(こうさか・てつろう)
国際部、政治部、証券部、ウィーン支局を経て2011年編集委員。05年、防衛省防衛研究所特別課程修了。12年より東北大学大学院非常勤講師を兼務。専門分野は安全保障、危機管理など。著書に「世界の軍事情勢と日本の危機」(日本経済新聞出版社)。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO07430410Q6A920C1000000/
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