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シリア北部アレッポのアルムアサラート地区で、空爆の被害を受けた地域から避難する一家(2016年9月23日撮影)。(c)AFP/THAER MOHAMMED〔AFPBB News〕
シリアで再び、東アレッポで大虐殺が進行中 共犯者「アサド政権&ロシア」の嘘に惑わされるな
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47971
2016.9.26 黒井 文太郎 JBpress
シリア北部の大都市アレッポで、今まさに大虐殺が進行中だ。包囲された町に暮らす25万人の人が、凄まじい空爆で殺戮されている。
シリアでは、米露が協議して仲介した一時停戦が9月12日からスタートしていた(アサド政権による空爆は一部で継続されていた)。だがその後、同17日にシリア東部で有志連合がアサド政権軍を誤爆する事件が発生すると、同19日にアサド政権は停戦終了を一方的に宣言。すぐさま各地での無差別空爆を再開した。
この空爆には、アサド政権の同盟軍であるロシア軍も参加している。空爆はきわめて大規模なもので、アサド政権とロシア軍が一時停戦を新たな作戦の準備に利用していたことが窺える。
■支援物資の運搬車列が攻撃されて大炎上
この一時停戦は、各地で包囲されて孤立している住民に、国連機関や援助機関が救援物資を届けることを第一の目的としていた。とくに問題となっていたのが、アサド政権に完全に包囲されている東アレッポである。そこでは25万人もの住民がアサド政権による兵糧攻めで危機的な状況に陥っていた。
ところが、停戦中もアサド政権は救援物資の通過を認めず、多くのトラックがトルコ国境で足止めを食っていた。それでもなんとか、物資の搬入が合意され、作業が開始されようとしたその矢先、大事件が発生する。アレッポ西方の赤新月社の施設に停車中の車列が攻撃されて大炎上、スタッフ12人が殺害された。国連機関や赤新月社の人道支援物資を運ぶ車列が攻撃されるという異常行動だった。
この攻撃に対し、現地をモニターしているアメリカは、攻撃がロシア軍によるものであると非難。同22日には、ダンフォード統合参謀本部議長が米上院公聴会で「同時刻に現場の上空にロシア軍の戦闘爆撃機(Su-24)が2機飛行していた。そのロシア軍機がやったということだ」と証言した。意図的に偽情報を証言した場合、当然ながらダンフォード議長は厳しく責任を追及されることは必至である、彼はそれなりに情報に自信を持っているのだろう。
他方、ロシア側は真っ向から否定した。ロシア国防省の報道官は同20日、「空爆の証拠はない。シャーム・ファタハ戦線(イスラム系反体制派)の砲撃だ」と主張。さらに翌21日には「当時、有志連合の無人偵察攻撃機『プレデター』が上空を飛んでいた」と発表し、有志連合による空爆を示唆した(無人機の展開についてアメリカは否定)。
米露の主張が食い違っているが、現場で攻撃を受けた側からは、戦闘機とヘリからの空爆だったという目撃証言が出ている。当時、上空を飛行していた戦闘機は前述したとおり、ロシア軍の戦闘爆撃機であり、ヘリはアサド政権のものだろう。
(参考:‘Why did they wait to kill us?': How the attack on the aid convoy near Aleppo unfolded/「ワシントンポスト」電子版/9月24日)
決定的だったのは、被弾現場からはロシア製の「OFAB 250-270爆弾」と「S-5空対地ロケット弾」の破片・部品が見つかったことだ。これはロシア軍かアサド政権しか使っていないもので、少なくともどちらかによる空爆であったことを裏づけている。
前述のようにロシア軍戦闘爆撃機とアサド政権のヘリの共同作戦だった可能性もきわめて高い。シリアではロシア軍とアサド政権は完全に共同作戦を実施しており(指揮権はむしろロシア軍側にある)、この攻撃も、ロシア軍かアサド政権かを問うのはまったく意味がない。ロシア=アサド軍による軍事行動ということである。
■国益のために積極的に「嘘をつく」ロシア
このように、米露の主張が食い違うということはよくあることだ。いわば情報戦である。
ただし、情報戦というと、米露が同じように偽情報を拡散しているようなイメージを持つ人もいるかもしれないが、現実はそうではない。
アメリカ側では、前述したように国の責任ある立場の人間が「事実ではないと知っていながら偽情報を主張」した場合、議会やメディアから厳しく個人の責任が追及される。たとえば、仮に車列攻撃が有志連合側によるものが後に明らかになった場合には、ダンフォード議長は進退問題にまで追い込まれる可能性がある。
したがって、誤情報はあり得るものの、意図的な偽情報の流布は大きく制限される(この点に関して、反米陰謀論の界隈からは、イラク戦争の元になった大量破壊兵器疑惑を米当局の意図的な捏造と誤認している例が散見されるが、事実は情報活動の不備による誤認識である)。
それに対し、ロシア側ではプーチン政権が議会もメディアも完全に支配しており、国の責任者が「嘘をつく」ことに対して障害が存在しない。それをロシア国内で指摘する人がいたら、むしろその人物は解雇されたり、もしくは不審死を遂げたりすることになる。
しかもプーチン大統領は国益追求の戦略として、「内外に嘘をつく」戦術を積極的に採用している。
たとえば、かつてクリミア半島を占領した際にも、ロシア軍部隊を大規模に展開させながら、その事実を最後まで堂々と否定してみせた。ウクライナ東部でも同様で、さらに親露派武装勢力によるマレーシア機撃墜の際も、親露派による犯行であることを否定。それどころか対空ミサイルによる撃墜まで否定し、露政権支配下のメディアを使って「ウクライナ軍の戦闘機によるミサイルで撃墜された」とのトンデモ説まで流布した。
シリアへの軍事介入の際にも、一貫して「シリアでの軍事作戦はしない」と明言しつつ、その裏では着々と戦闘機部隊をシリアに展開させ、プーチン大統領自身が「軍事作戦は行わない」と明言した2日後にシリアでの空爆作戦を大々的に開始した。事前に軍事作戦は決定されており、国際社会を欺きながらその準備が整えられていたことは明らかだ。
しかも、その空爆もあたかもISへの攻撃に限定するかのような物言いだったが、実際にはISへの攻撃はほんの一部に留まり、アサド政権と対峙する反体制派を一般住民もろとも殺戮する無差別空爆に終始した。病院、学校、市場などを集中的に攻撃し、女性や子供も多数殺害したが、その間も「民間施設など攻撃していない。テロリストを攻撃しているだけ」と強弁し続けた。
■米露の情報のどちらが信憑性が高いかは明白
なによりアサド政権を裏で支えるロシアは、アサド政権が嘘を重ねていることを間違いなく知っているはずだが、それを容認しているどころか、共犯の関係にある。
たとえば、アサド政権は毒ガス、クラスター焼夷弾、樽爆弾などを大量に使用して一般住民を殺戮するという明らかな戦争犯罪を続けている。それは現地の人々が撮影した大量の動画で確認されているにもかかわらず、アサド政権はそれすらも一貫して「まったく行っていない」と否定している(ちなみに、ロシア軍もシリアでクラスター型テルミット焼夷弾を使用していることが証拠画像で確認されている)。
このようなこれまでの所業からみても、いまやロシアやアサド政権の主張にはまったく信用度がない。ロシアとアサド政権は、シリアにおいては疑いなく「民間人の大量殺戮」という戦争犯罪を実行している共犯者であり、彼らの言動は「犯罪集団が自らの犯罪を隠蔽するための嘘の主張」と断定できる。要するに、犯罪者が自己防衛のために嘘をついているというわけだ。
対するアメリカ側は、前述した誤爆の件を早々に認めたように、少なくとも客観的に確認されることに対して嘘をつくことは制限される。このような過去実績から、米露の発信情報のどちらが信憑性が高いかは明白である。
ロシアやアサド政権の主張はほぼすべて欺瞞と詭弁といっていいが、そうした過去実績を無視し、あたかも米露の両陣営が同レベルで偽情報工作を競っているかのような言説を散見するが、誤りである。
さらに、こうした事情を知らないと、あたかも「両陣営の両論を等しく扱い、公平にその間をとるのが中立的」かのように思うかもしれない。だが、いずれも「現状を認識する」という最も重要な作業の妨げになるだろう。情報を扱う場合には、それらの情報の信用度を検討することは大前提となる。
■医療インフラを狙う非道な攻撃
シリアでは、ロシア軍とアサド政権は同盟軍としてすべて連携して軍事作戦を行っている。人道支援物資の車列に対する攻撃は、アサド政権が停戦終了を一方的に宣言した数時間後に発生した。そして同時に、ロシア軍とアサド政権による猛烈な空爆がシリア各地で再開した。前述したように、停戦を利用した計画的な作戦ということである。
そして今まさに、未曾有の人道危機が生まれている。9月21日夜から、アサド政権とロシア軍が、包囲下の東アレッポで、過去最大規模の無差別空爆を開始したのだ。
とくに懸念されるのが、アサド政権とロシア軍が、現地の人々の命綱となっている民間の医療インフラをターゲットとしていることだ。
すでに民間救援ボランティア組織「シリア民間防衛隊」(通称「ホワイトヘルメット」)が東アレッポで運営している4カ所のセンターのうち3カ所も攻撃された。ロシア軍とアサド政権は明らかに民間救急グループを攻撃している。医療・救急に対する攻撃は、過去の人類の歴史においても「禁じ手」とされてきたもので、これはもちろん明らかな戦時国際法・国際人道法に違反する戦争犯罪である。
アサド政権とロシア軍は停戦を利用して作戦準備を整え、東アレッポを完全に破壊する作戦を実行に移したといえる。東アレッポでは25万人もの人々が包囲と空爆の中で今、死に直面している。ただし、アサド政権とロシア軍のこうした非道な攻撃に晒されているのは、東アレッポだけではない。
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